Vacation

        BY のりりん様

 

人の何倍も楽しんだ高校生活に終わりを告げ、有閑の6人がやってきたのは南の地。

剣菱が新しくオープンしたリゾートホテルにやって来た。

『卒業旅行』と言う名の旅で。

ここに決まった理由は 言わずと知れた有閑倶楽部のじゃんけん大会。

勿論勝者は 悠理。

真っ白な砂浜の近くにあるこのホテルには 万作ランドと同様に全天候型の大きなプールがある。

これも実は 悠理の意見。

折角リゾートに来たお客様たちが天気の所為で楽しむことも出来ずに帰ることのないように との発案で作られたものである。

到着した6人は 思わずその景色に見蕩れていた。

絵に書いたように綺麗な青と白の世界に。

ただ 出迎えの挨拶もそこそこに満面の笑みで外へと飛び出そうとする悠理を目の端に捕らえながら。

だが、彼らにとってそれはいつものこと。

あっという間にその首根っこは、後ろからがっしりと掴まれてしまった。

もちろん、清四郎の手に。

これも仲間達には見慣れた風景。

「そんなに慌てなくてもプールは逃げませんから。まずは着替えを済ませてからです。」

そう言って彼女を捕まえた手を彼は引き寄せた。

引き寄せられた方の相手は少々膨れっ面ではあるものの。

それでも抵抗をすることもなく、それどころか彼女の細い指は彼の懐にがしっと縋りついた。

「んじゃ、早く行こっ!!なっ せいしろー!!な、なっ!!」

それは 傍から見れば綺麗な彼女が彼におねだりをしているようにしか見えない。

しかし仲間達にはお預けを食らっているペットのように見えなくもないのだが・・・

だが確かに彼らの周りには 2人だけの甘い空気が降っていた。

「はいはい、分かりました。それでは急いで部屋で支度をしましょう。」

そう言って、彼女の髪をクシャリと清四郎が撫ぜた。

すると 悠理の顔もパッと笑顔に変わっていく。

そして2人は平然とした顔でキーをもって歩き出した。

まるで初めから2人きりで来ていたかのように。

いつものことだと思いながらも、呆気にとられて見ている4人。

全く あの2人は・・・。

顔を見合わせながらも笑顔を浮かべ彼女達に負けないようにと彼らもそれぞれ部屋へと入っていった。

 

開けられたドームの上は 真っ青な空。

きらきら光る日差しの中 大きな水しぶきをあげて彼女がプールへと飛び込んだ。

「ひゃほー!!」

眩しいくらいの水着姿には反して子供のような顔で誰よりも楽しそうに泳いでいく。

「プハーッ!!」

まるで人魚のように水になじんでいく悠理が大きく手を振った。

「清四郎っ!!早く、早く!!魅録も!競争するぞ!!」

誰も頷いてなどいないのに、もう彼女の中ではそう決まっているようだ。

やれやれ という顔で見合わせた2人は

「仕方ありませんね。」

「あ〜言い出したら聞かないからな。」

そう言って2人も飛び込んでいった。

とても綺麗なフォームで。

「負けないでよ、魅録。」

パラソルのした声をかけた可憐に魅録はにこやかに手をあげて。

「負けたやつが今日の夕飯おごんのな!」

なんとも楽しそうな眼でそう話す悠理に2人の男達は

「良いのか んなこと言って。俺が水泳得意なの知ってるだろ?!」

「へんっ、こないだ負けたのはたまたまだよ、たまたま!今度はぜーったい負けないからな。」

「それでは僕も手加減無しと行きましょうか?!」

清四郎の挑発的な言葉に、誰もが想像したとおりの言葉が返ってきた。

「あったりまえだーっ!!手加減なんているもんか。」

「いいか せいしろ!勝負だ!!」

人差し指を立てて真っ直ぐにその先を黒い瞳へとむける。

そんな悠理にも清四郎はなんとも楽しそうな顔で笑っている。

彼が本気で泳ぐと思っているのは きっと彼女一人だ と誰もが気付いていても。

そんな光景にプールサイドからは笑い声が聞こえた。

「全く、変わんないわね〜。」

「きっと一生変わんないよ、あんなところはね。」

「あれも悠理のいいところですわ。」

仲間達の声など聞こえるはずもないくらい彼女は一生懸命言い続けている。

「いいか おまえら、本気の勝負だかんな!!」

そんな彼女の声に美童が立ち上がった。

彼の綺麗な髪が風に揺れた。

「さて、審判でもしてくるとしようかな。」

 

「用意 スタート!!」

その声に一斉に飛び込んでいく。

結果は 皆の予想通り。

ビリになった彼女は悔しさから今だ泳ぎ続けている。

プールサイドで飲み物を口にしてそれを見ている5人は穏やかな顔でそれを見ていた。

「全く、いつまで泳ぐ気かしら。」

「気が済むまで上がってきませんわよ。」

「きっとね。」

そう話す皆の目の前、水面をただがむしゃらに進んでいた彼女が止まった。

不自然な格好で。

見る見るうちに沈んでいきそうになる。

 

オボレテル

 

そう思った瞬間 水しぶきが上がった。

3つ。

ひとつはもちろん清四郎、もう一つはそれに続いた魅録、そしてもう一つは・・・

ゲホゲホッと咳をしながら 足を押さえる悠理を抱きかかえたライフセーバーのもの。

見事な速さで 救助にあたったんだ。

逞しく日焼けし、それを仕事とする彼に助けられた彼女。

それは、喜ばしいことのはず。

なのに、友人達の顔は引きつっていた。

彼女を追いかけて上がってきた黒髪の彼を見て。

ピンクの髪の友人は今だプールの中からそれを見ている。

「いってー!つ、つった つった!!足が!!!」

それは分かっている。

しかし痛がる彼女には申し訳ないが、今はそんなことをいっている場合ではない。

黒い瞳がなんともいえない色でその光景を見ているのだから。

白い肌に水着一枚纏っただけの彼女が他の男に抱き上げられているんだ。

それも 目の前で。

自分以外の男と肌と肌が触れているのだ。

それで平気でいられようか。

その男が、職務をこなしているだけだとしても。

清四郎は男の前に立つと流暢な言葉で礼を言った。

顔を見ることはないまま。

返事も聞かぬうちに、半ば強制的に彼の手から悠理を奪い返した。

手当ては と話し掛ける男には、こちらで出来るから と答えた。

それも背を向けたまま。

全く、なんて気分が悪いんだろう。

頭では分かっている。

彼はきちんと職務をこなし、悠理を助けてくれたのだと。

しかし、あの肌と他の男の肌が触れたと思うとおかしくなってしまいそうだ。

この気持ちの意味までも嫌と言うほどわかっている。

 

嫉妬 やきもち ジェラシー

 

だが、いくら分かっていても簡単に押さえ込めることは出来ない。

いろんな感情が頭の中で渦巻き一層それは増していく。

清四郎は悠理を抱きなおした。

ぎゅっと。

肌と肌がより触れ合うように。

彼女の体温まで独り占めできるように。

彼女はその腕の中で不思議そうな顔をしている。

痛みを懸命に彼に訴えながら。

「あ、足が い、痛いよ〜。せーしろ!!」

「分かってますっ!すぐ部屋に付きますからっ!!」

「せ、せーしろ?!」

そんな彼は仲間の前も軽く頭を下げただけで通り過ぎていく。

「このまま部屋へ戻って手当てしますから。」

そんな言葉だけを残して。

こちらに顔も向けないものの、彼の全身にかかれてあるような言葉に、まず 彼の幼馴染が噴出した。

続いて、全員が。

あの彼をこんなにさせる悠理に驚きながらも。

結局その日の夕食は、悠理のおごりではなくそれぞれのカップルで済ませた。

誰もその理由には触れないまま。

 

思いもよらないことで始まった6人一緒のVacation。

どんな思い出が増えていくことやら・・・

 

 



 

END

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背景:季節素材の雲水亭