ひらり、ひらりと揺れるのは黒い羽飾り。 清四郎はなぜだかほっとする自分に気づいた。 しばらく彼女の服装が地味になっていたのだと、今更気づいた。 今日の姿はまるで彼女が彼のものだった、その頃に戻ったようだった。 そうだ。確かにあの頃、彼女は彼のものだったのだ。 恋人ではなく。崇拝者ですらなく。 ただの友人であったが、確かにあの頃の彼女は、彼のものだった。 そうだ。あれは彼女の戦闘服だ。 光沢のある芥子色の服地。パンツスーツの襟元にはフェイクファーの襟飾り。 同じ布地で出来たシルクハットには真っ黒に染めたダチョウの羽の飾りが揺れる。 イヤリングも黒い羽の形をしている。 けど服装がどんなにあの頃と同じでも、決定的な違いがあることにもまた、彼は気づいていた。 どんなに焦がれても、彼女は彼のものにはならない・・・ アゲハ蝶「悠理。元通りになったみたいだね。」 ふいに声がかかったので、視線を悠理からはずして清四郎は隣を見た。そこには大人の男になった金髪の友人がいた。 「美童も来てたんですか。」 「ん。アクアヴィット家からも家具を納品してるんだ。」 今日は剣菱商事と取引のある企業の主催する、創立記念パーティーだった。 そういやスウェーデンから北欧家具も買い付けてるんだったな、この会社は、と清四郎は商品カタログを頭の中で刳った。 美童の母上の実家とも取引があったのか。偶然とは恐ろしいものである。 「今日の清四郎のスーツは憂いの色ってところかな?」 美童が清四郎の濃紺のスーツを指して苦笑する。青い色。憂いの色。 「なんのことですか?」 グラスに口をつけながらちろっと美童を睨む清四郎に美童は応えず、ただ目線を悠理へと戻した。 「まさかあの悠理が男遊びをするようになるなんて思わなかったよ。驚いた。」 旧友のその容赦ないセリフに、清四郎は心臓が鷲掴みにされた気がした。どうせその話だろうと覚悟していたので少しは衝撃が軽いはずだったのに、このざまである。 「清四郎が傍にいてなにやってたのさ?」 青い目が清四郎を追及する。清四郎はそれを避けて視線をグラスへと落とした。 「別に僕が干渉することじゃないでしょ?彼女も大人なんだし。相手をもう少し選んではほしかったですけど。」 高校生の頃からつけなれてしまったポーカーフェイスの仮面をかぶる。 だって彼には何も言う資格はないのだから。あの夜、彼女の手を振り払ったのは彼だったのだから。 雨の夜だった。 仕事の失敗で彼女は弱っていた。 その手を取ることは簡単だった。 だが彼はそうしてしまったら元の関係に戻れなくなることに気づいていた。 そして、彼女の歩みを妨げてしまうだろう自分に気づいていた。 盲目的なまでに愛しすぎていた。 包み込んでくるみこんで愛することが出来るほど、大人でもなかった。 だから、その手を振り払った。 彼には彼女に愛される資格はないのだから。 それを持っているのは他の男なのだから。 「そう。たとえばあの彼のような。」 という清四郎の言葉に促されて美童は悠理の傍にいる男を見た。 いかにも真面目な雰囲気がにじみ出ている男。その目は熱っぽく悠理を見つめていた。 「彼はいい男ですよ。あの醜聞を聞いてなお、悠理を誠実に崇拝し続けている。仕事も出来ますしね。申し分ない男です。」 彼は黒竜と言った。今日パーティーを開いているこの会社で、剣菱における清四郎と同じように若くして役員として働く男。 「バカだな。あんな男と遊ぶわけないじゃん。」 美童は一目で見て取った。悠理があの男をそのように利用するはずはない、と。 「誠実すぎる。あいつは結婚相手にはなりえても、遊び相手にはならないよ。」 清四郎はふっと嘆息した。 「だから彼のような人を選んでほしかったんですよ。」 「本当にそれでいいわけ?清四郎。」 本当に? 「僕はただの友人だ。彼女には女としての幸福も手に入れてほしいと願ってるんですよ。」 その清四郎の微笑みに、美童はため息をついた。 この嘘つき野郎め、と思いながら。だから少し意地悪をする。 「じゃあ、悠理には自分と似た男を選んでほしいわけだ。」 清四郎が弾かれたように顔を上げた。美童は美しい顔ににやり、とした笑みを浮かべていた。 清四郎はそれでからかわれたと気づいて少し口を尖らせた。 「彼のどこが僕に似てるって言うんですか。」 「社会的地位。年齢。頭が良さそうなところ。自信家なところ。悠理に惚れてるところ。」 美童はすらすら答える。 「最後は違うでしょう?」 「そう?」 清四郎はふたたび美童から目をそらした。 美童は苦笑をかみ殺しながら視線を会場へと向けた。そして見つけた。 「あれ?魅録と野梨子じゃない?どうしてここにけい・・・」 「今日の彼は和貴泉魅録です。僕たちとは関わりのない人です。」 美童の言葉にかぶせるようにして言う清四郎に、彼はその理由を納得した。 国際刑事警察機構(インターポール)日本支部の刑事である松竹梅魅録ではなく、華族の血を引く和貴泉家ゆかりの御曹司。 髪もそれらしく黒く染め直している。一瞬別人かと思った。 いつもはとてもそうは見えないが、訪問着を着た野梨子と並んでいると本当にそれらしいのだから不思議である。 「潜入捜査、ね。」 母方の実家の名前を使うほどこのパーティーへの潜入が重大事だったってことか? 「悠理も知ってるの?」 「もちろん、悠理がこのパーティーの重要な賓客だというのは知れ渡ってますから。話しかけるなと事前に連絡が入りました。まあ、マル対(捜査対象)までは知りませんけれどね。」 大企業のパーティー。この会社は剣菱と長年のライバル関係にある兼六とも取引がある。 きな臭い人種はいくらでも紛れ込んでいる。いちいち誰がマル対かなんて確かめることもない。 魅録が取り扱うような国際犯罪に関わるようなテロリストが紛れ込んでいても全く不思議はないのだ。 「お前ら二人ともトラブルメーカーだろ。知らずにマル対と接触しちゃうんじゃないか?」 美童が呆れたように言う。 「それは充分考えられますね。」 清四郎も苦笑した。 「ひどいな。悠理さん。僕が贈った贈り物をちっとも身につけてくれない。」 目の前で跪かんばかりの勢いで言う男に少し悠理は同情めいた目をむける。本心ではまったく同情などしていないのだが。 この黒竜という男は今日も清四郎のパートナーとしてやってきて精力的に営業をしている可憐の金づるにされていた。詳しく言うなら、彼女に抱きこまれて、ジュエリーAKIで注文した様々な宝飾品を悠理に貢いでいるのである。 「すみません。どれもこれもあたしには立派過ぎるんですもの。ありがたいとは思ってます。」 そして悠理は思った。あの日、あの時、誰よりも先に彼女の誕生日を祝ってくれた男のことを。 あの花束が彼からのものだったら、どんなに嬉しかっただろう? あの日、あそこにいたのが、魅録でなかったら、彼はどういう態度をとったのだろう? 少しは嫉妬してくれただろうか? そんなはず、ないか。と自嘲する。 きっと罵倒されていただろう。 きっと愛想をつかされていただろう。 そして、自分はその罵詈雑言を聞きたくなくて、彼の唇を塞いでしまっていただろう。 女の自分をまた見せ付けて、彼にぶつけて。 友人の座をかなぐり捨てて二度と彼に会えなくなるような真似をしでかしていただろう。 だから、生まれ変わったあの日まで、清四郎が待っていてくれて本当によかった。 「あなたに立派過ぎるものなんかあるんですか?剣菱のクイーン。」 ほんの数瞬考えにふけった悠理に、不意に話しかけてきた男がいた。 彼女は振り返りその男が誰か、記憶の中の招待客一覧を捲った。 「あたしはクイーンなんて柄じゃありません。兼六さんでしたっけ?」 「なんと、あなたがたは初対面ですか。長年の確執はそうとうなものですね。」 黒竜が話を遮られた不快をほのかに表情に浮かべながらも言った。 「ええ。だからこそ今度のうちのグループの催しには是非ご招待申し上げたいと思ってるんですがね。」 男はにっこりと人好きのする笑みを二人に向けた。 「いま、悠理たちに近づいた男。あれは兼六の末息子です。」 「兼六ってあの剣菱のライバルの代官じじい、だっけ?」 江戸時代の昔から、裕福な庄屋である剣菱とことごとく対立した悪徳代官、兼六。 高校生の頃には有閑倶楽部に魅録の愛犬男山まで巻き込んで大立ち回りを演じたことがある。 「そう。その通り。あの会長の妾腹の子供です。」 年のころは悠理たちより3つ上。清四郎とさして変わらぬ身長。そして堂々とした体躯。 プラチナカラーのスーツを着て優雅な仕草を繰り出している。 「へえ。あのじいさんの子供にしてはずいぶん男前じゃない。お妾さんがよっぽど美人だったんだね。」 だがあの優雅で隙のない所作に隠れているものは・・・と美童は目を細めた。 「あいつのあのスーツ。脇にホルスター吊っても目立たないデザインだね。」 さすがスウェーデン大使の長男としてあちこちの国のVIPを見てきた男である。SPなんかも顔なじみだ。 彼に漂う軍人臭を敏感に感じ取ったのだった。 「なるほど。美童はそう見ますか。」 清四郎は友人の目の鋭さに感心する。 「でも今日はホルスターは吊ってないよ。さすがに賓客相手でもボディーチェックがあるしな。」 と、急に魅録が話しかけてきた。 「あれ?いいんですか?話しかけても」 「正体に気づかれてるからな。話しかけなきゃ逆に変に思われる。」 魅録は少しぶすくれたような表情を浮かべていた。彼の愛妻・野梨子は他に知人がいたようで、清四郎が見知らぬご夫人と話していた。 だから俺自ら潜入するのはやばいって部長に言ったんだよ。和貴泉の娘が元警視総監の妻だってのは知れ渡ってることなんだから。と魅録は口の中で呟く。 ちなみに警視庁に数々の伝説を作った松竹梅時宗氏は無事に定年で総監職を辞していた。今は愛妻と一緒に世界を旅してはうざがられている。 「彼と話したんですか。」 「一目で“松竹梅さんでしたね”だとよ。初対面なんだがな、一応。」 「なるほど。彼がマル対でしたか。」 魅録は応えない。ただグラスのシャンパンをぐいっと呷った。 「兼六聖吾(けんろく・しょうご)。兼六会長秘蔵の末息子。大学はフランスへ留学。だがその間、外人部隊に入っていたという説もあります。」 清四郎は彼のプロフィールを一気に言った。 美童が目をまん丸にする。 「ふうん。本当に軍人だったんだ。」 「噂ですよ。」 清四郎はちらと聖吾に目をやる。 魅録が嘆息しながら言った。 「しかしあいつ相当、剣呑な人種だぞ。コロンでごまかしてても硝煙の臭いは隠し切れてなかったぜ。」 「そんなんが悠理に近づいてて大丈夫なの?」 美童が気遣わしげに言った。 「大丈夫でしょう。少なくとも今日は。」 「今日は?」 「今度兼六の新社屋の落成式に招待されてます。」 魅録がちらりと清四郎を見た。 「行くのか?」 「重役連中からもおじさんや豊作さんからも反対されてますけど、悠理は行く気になってます。」 「清四郎は止めないの?」 美童も追求する。 「いくら長年の確執があると言っても、今はそれだけで渡っていける世の中じゃないんです。兼六とも部分的には手を握っていかなければなりません。いい機会だと思ってますよ。」 清四郎は悠理との共通見解を述べた。 「ええ。あたしとしてはぜひご招待に応じたいと思ってます。」 悠理はにっこりと営業スマイルを浮かべた。 確執のあった兼六の息子。複雑な生い立ち。きな臭い噂。 警戒しないことはない。警戒するにこしたことはない。 「その際は、ぜひとも麗しいドレス姿を拝見できることを祈ってますよ。」 聖吾はうっすらと微笑んだ。ヨーロッパではさぞや女性たちを虜にしてきたのだろう微笑で。 「じゃあ、そのドレスを是非ともプレゼントさせてください。」 と黒竜がこれ幸いと悠理の手を握らんばかりの勢いで言った。 「それとあなたの忠実な元婚約者殿も出席していただきたいものです。」 悠理は冷や水を被せられた気がした。 剣菱の副会長の元婚約者。それが誰を指すか、この業界で知らぬものはない。 「彼はただの友人で、うちの社員にしか過ぎませんよ。」 笑顔が張り付いていないだろうか?自然に笑えているだろうか? 「そうですね。そしてあなたの忠実なナイトだ。3人もナイトをお持ちとは羨ましい。」 「3人?」 と悠理はちらりと視線を清四郎がいたあたりへ向けた。 そこにいつの間にか美童と、あろうことか魅録まで合流しているのをみて軽く目を見開いた。 魅録の奴、話しかけるなって言ってたくせに。何か、あったか。 とりあえず目の前の男の意図が見えない。悠理はこの地位につくための勉強の中で警戒という単語を覚えた。悠理自身、自分が大人になったと思うゆえんである。 シャンパンのグラスを目の高さに掲げると、にっこり微笑んだ。 「彼らはナイトなんかじゃありませんよ。大事な友人なんです。あたしたちの友情に乾杯していただけます?」 すると、目の前の男はその返答が気に入ったように口端を上げた。 「女王陛下に乾杯。」 とグラスを掲げながら。 「なあんか、あの男、腹に一物ありそうだよね。」 魅録の捜査のマル対だってだけじゃなく、きな臭いと思った美童の勘が警告を告げる。 唇を尖らせる彼の顔は高校生の頃の顔と同じようで、清四郎は眉を上げた。 「ま、彼の狙いが何かはわかりませんけどね。」 「外腹の末っ子だろ?兼六裏切って悠理の婿に納まろうとしてるってのは?」 美童が清四郎の袖を引く。 「まあ、それもありえるかもしれませんね。」 「その程度だったらかわいいもんだぜ。」 と魅録が苦笑した。 「で?実際、清四郎は悠理に恋人が出来ちゃっても平気なわけ?」 強引に引き戻された話に清四郎は一瞬絶句する。 しかしすぐに美童に笑いかけた。 「何を勘繰ってるんですか。僕は悠理の友人として彼女の幸せを願っているだけだと言ったでしょう?」 魅録はあえて何も言わず、新しいグラスを口に近づける。 美童はそれを聞いてふふん、と鼻で笑った。 「そういうこと言うんならもっとうまく嘘つけよ。」 「は?」 「さっきのお前の目。『悠理が欲しい』って叫んでたよ。」 清四郎は思わずシャンパンに映りこむ自分の瞳をじっと見つめた。 「何を邪推してるんですか・・・」 その清四郎の言葉に覇気がないのに気づかない美童でも魅録でもない。 「自分に嘘つくなんて器用な真似もできないくせに偉そうなこと言うんじゃないよ。」 今日の美童は容赦がない。やはり今は落ち着いたとはいえ悠理のあの醜聞である。彼も心配していたのだろう。 そしてそれを止めることができなかった清四郎を責めているのだ。 確かに、あの件は清四郎の心をめちゃくちゃにかき乱した。 否応なく気づかされたのだ。 彼女に愛されたいと思っている自分。 彼女を自分の腕の中に閉じ込めておきたいと願っている自分。 まだ捨て切れていなかった、恋心。 あの日、彼女の誕生日を迎えたあの瞬間。 あそこにいたのが魅録じゃなかったら僕はどうしていただろう? 彼女があの、僕の見知らぬ笑みを、見知らぬ男に向けていたらどうしただろう? あの花束で男をひっぱたいていた? いや。それどころか相手を殴り殺していたかもしれない。 そして彼女を強引に僕のものにしていたかもしれない。 強引にキスをして。 強引にその体を奪って。 彼女が僕に本当に望むものはそんなことじゃないのに。 その場にいたのが魅録で本当によかった。 友人としての自分を、守ることが出来たから。 彼女の、笑顔を見ることができたから。 「僕は彼女の友人の座にいられればそれだけで満足なんですよ。」 今となってはそれも叶わぬことなのかもしれないが。 また、彼の肩で羽を休めて欲しいなどというのは。 彼の肩に甘い重さを感じていた、あの瞬間だけ、彼女は彼のものだった。 だから、それが叶わないのであれば。 「悠理が心から愛する相手を見つけたら、僕はその相手を全力で守ります。それが僕の役割なんです。」 もともとその覚悟だった。 彼女を光り輝かせることが出来る男を彼女が愛するのであれば、清四郎は何としてでも彼女とその相手を守り抜くのだ。 清四郎が彼女の歩みを押しとどめてしまいそうになるのを蹴散らす男を。 だが、それが彼女の意に沿わぬ相手であれば、全力で排除する。 あの男、悠理の障害となるようであれば、殺してでも彼女の前から排除してやる。 悠理のためなら僕は何でもしてみせる。 「清四郎。言ってることとやってることが一致してないぞ。」 「さすが魅録。気づきましたか。」 そりゃあ、すぐ傍でそんなに殺気とばされて気づかないわきゃないだろうが、と魅録は冷や汗を流した。 「で?あの男はそんなに可愛いタマなの?」 美童が魅録に訊ねる。 魅録はふっと口端を上げた。 「正直、悠理たちを巻き込みたくはなかったな。」 有閑倶楽部として数々の事件に関わってきた自分たちをしてそこまで言うのだから、そういう相手なのか、と美童は納得した。 「でしょうね。ほら、今またこっちを振り向きましたよ、彼。」 「そりゃあ、お前さんの殺気に嫌でも気づいたんだろうさ。」 かなり距離は離れているが、な。と魅録はちらり、と視線を兼六聖吾に向けた。相手のほうでは清四郎に気を取られているようだ。 この距離で清四郎の静かな殺気を察知するとは噂どおりで。 面白い、と清四郎はにやり、と笑った。 「僕と悠理は戦友だ。あなたたちも含め、ね。これは一生変わりませんよ。」 これが、答え。 彼が彼女の傍にいる、最後の資格。 恋人にも夫にもなる資格はもちえていない。 愛して欲しい、などと身の程知らずもいいところだ。 だが、この座だけは誰にも譲る気はない。 清四郎はグラスを、先ほど悠理がしていたのと同じように目の高さに掲げて見せた。 「僕たちのこれからに、乾杯。」 隣では、いざとなれば頼もしい援軍となるであろう旧友たちが、目配せをし合っていた。 久しぶりに見た、清四郎の悪魔の笑みだ。 俺にお前さんを逮捕させないでくれよ、と魅録は肩をすくめた。 「相手にとって不足はない、ってとこだね。」 美童が苦笑する。 「いろんな意味で強敵ってわけだ。」 魅録が目を細める。 そして清四郎のグラスに、グラスを合わせた。 僕たちは全力で戦う戦友。 そして互いに羽を休める場所。 悠理と僕たちと、互いに支えあう友人。 そうだ。このかけがえのない座だけは、他の誰にも譲る気はない。 僕は悠理と出会えた。 そしてこの座に座ることが出来た。 それだけで、いい。 愛してほしいなんて、身の程知らずな願いは、いらない。 清四郎はぐいっとシャンパンを飲み干した。
もっぷ様作、本編序章。
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