「遅くに悪いな、名輪。3次会終わったら終電も終わっちゃってて」
「とんでもございません、お嬢様」
「家に帰る前に、清四郎んちに寄ってくれる？」
「いつも、すみませんね。よろしくお願いします」
「いえいえ。菊正宗様のお宅ですね」
＊＊＊＊＊「はぁぁ、しかし、これで可憐もついに念願の玉の輿に乗ったんだよなぁ」
「いや、まったく。なんとかの一念ですな」
「幸せそうだったよなぁ」
「ええ。それに、たいして騒動も起こらなかったし、良いお式でした」
「スピーチの最中に、二人も男が泣き出しちまったのは驚いたけど」
「あれは可憐にあこがれてただけでしょう。あんなのは、騒動のうちに入りませんよ」
「スプリンクラーの故障で、キャンドルサービスびしょ濡れだったじゃないか」
「あれはあれで、雨のようで風情がありました。これまでに比べれば、全然マシでしたよ」
「まぁな。魅録がロスで式を挙げたときは、FBIが乗り込んできたもんなぁ」
「あのときは、大変でしたね。花嫁が銃を発砲したときは、どうなるかと思いましたよ」
「時宗のおっちゃん、泡吹くし」
「悠理もだいぶ大暴れしてましたよね」
「人のこと言えないだろ。清四郎が蹴りいれたSWAT、手首が折れてたって、あとで魅録に聞いたぞ」
「銃を向けられたので、不可抗力です」
「野梨子のときも、大変だったよなぁ」
「出席者に死人が出ましたからね。殺人事件に発展して、新郎が逮捕されたときは、野梨子が可哀相で」
「でも、みんなで解決できたじゃん。おまえ、あいかわらず毒の種類とかよく知ってるよな」
「悠理が犯人を追いかけて捕まえたときの飛び蹴りも、あいかわらず見事でしたよ。振り袖だったのは、ちょっと、ナンでしたが」
「美童のときも」
「ああ・・・サイアクでしたな」
「どれが？美童のつきあってた女が現れて手首切ったこと？キヌさんの幽霊が日本人形と一緒に出たこと？美童が窓からダイブして骨折したこと？結局、成田離婚ならぬ、式場離婚になったこと？」
「入籍前だったので、戸籍はきれいなままだそうですよ。最悪だったのは、あのあと美童が菊正宗病院に入院したことです。幽霊が怖いから同室で寝てくれとせがまれて、二週間も僕まで病室泊りでしたよ」
「う〜ん、いろいろ思い出すと、たしかに可憐はラッキーだったよなぁ」
「そうでしょう。・・・でも、たしかに、こうして考えると、僕らのときも用心が必要ですな」
「へ？」
「悠理はトラブルメーカーですからね。結婚式場でヤクザが銃撃戦を繰り広げたり、中国マフィアが誘拐騒動起こしたり、国際テロ組織が爆破予告をしてきたり、ワールドワイドな万作おじさんの友人の暗殺や国家転覆の陰謀の舞台にされたり、地震洪水噴火の天変地異も覚悟しなければならないかもしれませんな」
「おいおい、いくらあたいでも、天災は・・・」
「ああそう、剣菱は仏前でしょう。悠理の霊媒体質なら、なにかに憑依される心配もしなければ」
「うわぁ、そ、それはカンベン！」
「たいていのことなら、乗り切る自信はありますが、僕は霊感はさっぱりですからね。お祓いと本職の霊媒師は前もって手配しとく方がいいですな」
「ほんとマジ頼むよ、清四郎〜。あたい幽霊騒動だけは、二度と嫌だぁ」
「僕も花嫁がどこかの霊に憑依されて正気を失うなんて、嫌ですよ。白無垢で飛び蹴りかましてくれる方が数倍マシってもんです」
「白無垢って重そうだよな。飛び蹴りしにくそう」
「心配はソコですか？」
「いや、幽霊。しかし、おまえも次から次へとよく不吉な予想ができるよな」
「・・・・一番最悪な予想は、式の最中に男が飛びこんでくることですがね」
「殺人犯？」
「いえ、ダスティン・ホフマン。『卒業』って映画ですが、知りませんよね？」
「？」
「ずいぶん前に、そんな夢を見たんですよ。おまえが男と手に手を取って逃げる夢。僕を置いてね」
「なんだよ、それ〜！あり得ね〜！」
「僕も、そう思います。思います・・・が」
「な、なんだよ、その目は・・・。あ、あたいよか、おまえの方がありそうじゃん。外面いいから、モテるし・・・美童んときみたく、女が飛びこんでくるかも」
「あり得ませんよ」
「女じゃなく、男かも。おまえ、男には、もっとモテるし」
「・・・・・・・・。」
「あ、その沈黙は肯定だな。心当たりがあるんだな！」
「ど、どちらにしろ、招かれざる客は、排除です。そんなストーカーは、女にしろ男にしろ、悠理の飛び蹴りの餌食にして良し！」
「だから、白無垢は重そうだよなぁ」
「僕はドレス姿のおまえも見たいですねぇ・・・」
「・・・う〜ん、あれも、飛び蹴りには不向きかも」
「――――ところでさ。いま気がついたけど」
「はい？」
「さっきから話してるのは、あたいとおまえの、結婚式だよな？」
「はい」
「・・・・・・・・・・・・。」
「なんですか、その沈黙」
「・・・だって」
「はい？」
「よもや、まさか、ひょっとして。めちゃくちゃ回りくどいけど・・・」
「ええ、プロポーズしてるんですよ」
＊＊＊＊＊「すみません、名輪さん。僕の家には寄らなくていいです。このまま、剣菱邸へ」
「はい、承知致しました。・・・・おめでとうございます、清四郎様」
おしまい♪ （2004.9.19）