年下の男の子




4.





「二階は姉貴と僕だけだし、どうせあいつは夜はいつもヘッドホンで外国語放送聞いてるから」
清四郎は自作らしい部屋の鍵をカチリと掛ける。
電灯を消しても、カーテンの隙間から入る外灯と月明かりで、部屋の中は薄明かり。
清四郎はネイビーブルーのシャツを脱いだ。
水着姿や道着姿で何度も目にした19歳の清四郎の着やせする体とは違い、 まだ筋肉に覆われていない薄い胸があらわになった。
それでも、成長期の骨格は、後の姿を彷彿とさせる。
悠理は浮き出た鎖骨に、指で触れた。
「くすぐったいですよ」
清四郎は首をすくめた。
「よく言うよ、さっきはさんざん人のこと、くすぐったくせに」
悠理はすでに、少年の手で生まれたままの姿にさせられていた。



*****




あれよあれよという間に服を脱がされ、のしかかられていた。
あまりのくすぐったさに涙が出るほど、全身に触れられた。
初体験の悠理は、感じるというよりも、こそばゆさと面映ゆさが勝る。
清四郎の懸命な表情と不器用な手に、笑ってしまった。
鼻息の荒い14歳に負けてなるかと、清四郎を蹴飛ばし「おまえも脱げ!」と命令したのは悠理だ。

悠理だって、最初は緊張していた。
だけど、清四郎の方がもっと緊張しているようだ。それが、悠理を落ち着かせた。
なんでもそつなくこなす清四郎が、緊張した顔で悠理の前に裸で座っているのだ。

まさか、こんな展開になるとは夢にも思っていなかった。
清四郎の部屋で、清四郎のベッドの上で、清四郎と裸で向かい合っているなんて。
あまりにも、現実感がない。

くすくす笑うと、清四郎はムッと頬を赤らめた。
「僕が子供だから、無理だと思ってるんですか?」
「そーゆーんじゃ、なくて」

――――嘘みたいだから、こうしているのが。

そう言おうとした唇は、清四郎に奪われた。
座ったまま、唇をむさぼりあう。
悠理の頭を抱きかかえていた手が、背中をたどって下りる。
そのまま、ゆっくりと横たえられた。

「悠理、こんなに好きなんて、嘘みたいだ・・・」
ふたり、同じことを考えていたようだ。

恋する目でうっとりと見つめられ、悠理の顔から火が吹く。
「おまえって・・・気持ち悪いくらい、素直だな。清四郎のくせに」
「また、それですか」
清四郎は眉を寄せた。
「そんなに未来の僕は、ひねくれてるんですか?悠理に対して」
言いながら、悠理の両頬を手で包み、じっと見つめてくる。
黒い瞳は、あの意地悪なひねくれ者と、同じ色。
ますます顔が赤らんできた。
「悠理の顔、林檎みたいになってますよ」
清四郎はそう言って、悠理の頬に唇をよせた。かぷりと柔らかい頬に歯を立てる。
「わぁ、かじるな」
「だって、おいしそうだから」
清四郎が、子供の顔をして笑った。だけど、目には見間違いようのない情欲の火が揺らめいている。
頬から首筋、そして胸まで清四郎は唇でたどった。
「ここは、サクランボみたいだ」
「うひゃっ」
胸の先を咥えられ、悠理は焦った。

悠理が照れてパニクれば、先ほどとは反対に、少年は余裕を取り戻してゆく。
未経験は同じはず。いくら清四郎とはいっても、こんな小僧っ子に負けてなるかと、悠理は必死だった。

「ええい、うりゃ!」
気合とともに、悠理は腹筋に力を入れ、清四郎を突き飛ばした。
そのまま、体勢を入れ替える。
「うわっ」
清四郎は目を白黒させている。
さすがに素肌の上に馬乗りになることはためらわれて、上半身だけ清四郎の上に乗り上げた。
「へへ♪あたいは年上だぞ。中坊にいいようにされてたまるもんか」
「……」
清四郎はしばし唖然としていたが、突然、ものすごく嬉しそうな顔になった。
「悠理って…」
輝く笑顔に、悠理は驚く。
「な、なに?なんかおかしい?」
「悠理も、僕を好きなんだって、わかったから」
満面の笑みでそう言われ、悠理はまた頭が沸騰した。
「な、な、な、な、なんでっ、あたいが、清四郎を好き?!」
悠理自身にわからないことを、確信しているらしい清四郎の笑顔。
まあ、普通、好きでもない男の服を脱がしたり、ベッドに押し倒したりはしないだろう。自分も裸で。

所詮自覚レベルがその程度の悠理には、主導権を取ることなど無理な話。
悠理の抵抗(?)も、ここまでだった。

清四郎はニヤリと笑った。
「いい眺め」
清四郎の目の前には、白い二つのふくらみ。
寝転がるとあるかなきかになる悠理の胸も、この体勢ではさすがに存在を主張している。
清四郎は下からやわらかなふくらみを揉みしだいた。
「あっ」
焦った声を出す悠理にかまわず、舌で舐め上げる。
「わわわ」
逃げようとする体を捉え、清四郎は悠理の腰を自分の上に乗り上げさせた。
密着する、秘所。少年の男が、悠理の太股に当たった。

ベッドに両手をついて見下ろした顔は、見慣れた、だけど見慣れない男の表情をしていた。
熱い吐息。欲望に潤んだ目。染まった頬。
悠理の胸の奥で、なにかがスパークした。
愛おしさに、両の腕で清四郎の頭を抱きしめる。
悠理の胸に顔を埋めた少年は、小さくうめいた。
「うぁ・・・」
抱き合ったまま、ごろごろベッドの中で転がった。
腕も胸も腹も下肢さえ密着して、溶けてしまいそうだった。
何度もくちづけを交わし、唾液も交ざる。
触れた体の間がぬるぬると濡れた。

「ゆ、悠理、ごめん・・・」
清四郎は耳まで赤く染める。
「・・・?」
悠理にはわからない。少年が若い精を暴発させてしまったことを。

脱ぎ捨てていた自分のシャツで、清四郎は悠理の体の汚れをぬぐった。
濡れた腹や太腿をぬぐうと、清四郎は布の後を追うように、舌を這わせた。
「あ、やだ」
ベッドに横たえられ、立てた膝を割られる。
内股まで這いよって来た唇を止めようと、悠理は清四郎の頭をつかんだ。
不満そうに清四郎は顔を上げる。
「だめだよ、ここも濡れてる」
「ち、ちがっ」
焦る悠理にかまわず、少年は意地悪な笑みを浮かべた。
そのまま、悠理の足の間にふたたび顔を埋める。
「やああああっ」

自分でさえもよく知らない場所を、清四郎の舌がまさぐる。
湿った音が立ち、悠理の全身ががびくびくと痙攣した。
舐め上げ、吸い、侵入する。
舌で犯された部分が、熱く蕩けた。
思わず浮いた腰を、清四郎の手が支える。
「悠理…すごく、感じてる?」
「……」
悠理はひくつく体を抑えることもできず、なにも答えられない。
「僕も、また…」
清四郎はつかんでいた悠理の双球を揉み割り、上体をずりあげ自分と密着させた。
熱く堅い塊が、蕩ける場所に押し付けられる。
「!」
ぐ、と力を入れられ、眩んでいた悠理の意識が引き戻された。

「い、痛っ」
「僕もキツ…」
悠理の体に乗り上げ、清四郎はきつく眉をよせた。
苦しさに、悠理は少年の細い首に手を回す。
ぎゅ、と目を閉じた瞬間、体を奥の奥まで貫かれた。
上げそうになった悲鳴は、目の前の肩にかぶりついて堪えた。

完全にぴったり重なり、隙間のなくなった体。
「すごい…」
上気した頬、潤んだ瞳。
悠理を抱きしめたまま、清四郎はうっとりつぶやいた。
「すごく、いい…」
「あ、あたいは、むちゃくちゃ痛いぞっ」
悠理は目尻に涙を浮かべて抗議する。
「ご、ごめん」
清四郎が身じろいだ途端、悠理はのけぞった。
「う、動くなぁっ」
ずっくんずっくん、痛みがはめ込まれた部分から頭のてっぺんまで走り抜ける。
「そういうわけにも」
清四郎は荒い息をつきながら、ゆっくり腰を動かしはじめた。
抜き差しされて、悠理は焦った声を上げる。
「ややや、やっぱり、おまえ、カワイクないっ」
悠理を貫き犯す凶器は、とても子供のものとは思えなかった。
玉の汗を浮かべて、男は眉を寄せる。
「悠理は、やっぱり、我慢できないほど、可愛い」
シレっと言われて、悠理はグッと息が詰まった。



*****




「どうすれば、悠理ももっと良くなるかな?」
ぐったりベッドに体を投げ出している悠理の背中を撫でながら、清四郎はつぶやいた。
「…それよりも、いい加減に抜けぇ…」
悠理は半ベソで清四郎の胸を押しやる。
「まだ、痛い?」
「痺れてる感じ」
押し入れられ割られた場所は、その後何度もこすられ、ほぐされ、濡らされた。
清四郎が探究心に目を輝かせているのが、なんとも悔しい。
悠理はギブアップ寸前だというのに。

また、清四郎が腰をすりつけて揺すった。
「あ、あう」
力の入らない体が、勝手に跳ねる。
充血し立ち上がったままの胸の果実を甘く噛まれ、頭を左右に振った。
つながったままの箇所をほぐすように、清四郎の指がうごめく。
掘り探られた敏感な部分。突き上げられながらいじられ、悠理はとうとう泣き声を上げた。
「も、もう十分だよぉ」
息を乱し、悠理の涙を吸いあげながら、清四郎は悠理を攻め続けた。
無我夢中の子供の顔の中に、悠理の良く知る、男の顔をのぞかせて。

恋とか、愛とか、悠理はそういうことを意識したことがない。
清四郎を好きなのかどうかなんて、ほんとうに悠理にはわからなかった。
ただ。
感極まって吐息をもらした少年の、いくぶん細い肩を、悠理は抱きしめる。
こんな清四郎を知っているのは、悠理だけ。
自分だけの宝物だと、胸に刻んだ。
だれにも渡したくないと、思いながら。






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