4.「二階は姉貴と僕だけだし、どうせあいつは夜はいつもヘッドホンで外国語放送聞いてるから」 清四郎は自作らしい部屋の鍵をカチリと掛ける。 電灯を消しても、カーテンの隙間から入る外灯と月明かりで、部屋の中は薄明かり。 清四郎はネイビーブルーのシャツを脱いだ。 水着姿や道着姿で何度も目にした19歳の清四郎の着やせする体とは違い、 まだ筋肉に覆われていない薄い胸があらわになった。 それでも、成長期の骨格は、後の姿を彷彿とさせる。 悠理は浮き出た鎖骨に、指で触れた。 「くすぐったいですよ」 清四郎は首をすくめた。 「よく言うよ、さっきはさんざん人のこと、くすぐったくせに」 悠理はすでに、少年の手で生まれたままの姿にさせられていた。 あれよあれよという間に服を脱がされ、のしかかられていた。 あまりのくすぐったさに涙が出るほど、全身に触れられた。 初体験の悠理は、感じるというよりも、こそばゆさと面映ゆさが勝る。 清四郎の懸命な表情と不器用な手に、笑ってしまった。 鼻息の荒い14歳に負けてなるかと、清四郎を蹴飛ばし「おまえも脱げ!」と命令したのは悠理だ。 悠理だって、最初は緊張していた。 だけど、清四郎の方がもっと緊張しているようだ。それが、悠理を落ち着かせた。 なんでもそつなくこなす清四郎が、緊張した顔で悠理の前に裸で座っているのだ。 まさか、こんな展開になるとは夢にも思っていなかった。 清四郎の部屋で、清四郎のベッドの上で、清四郎と裸で向かい合っているなんて。 あまりにも、現実感がない。 くすくす笑うと、清四郎はムッと頬を赤らめた。 「僕が子供だから、無理だと思ってるんですか?」 「そーゆーんじゃ、なくて」 ――――嘘みたいだから、こうしているのが。 そう言おうとした唇は、清四郎に奪われた。 座ったまま、唇をむさぼりあう。 悠理の頭を抱きかかえていた手が、背中をたどって下りる。 そのまま、ゆっくりと横たえられた。 「悠理、こんなに好きなんて、嘘みたいだ・・・」 ふたり、同じことを考えていたようだ。 恋する目でうっとりと見つめられ、悠理の顔から火が吹く。 「おまえって・・・気持ち悪いくらい、素直だな。清四郎のくせに」 「また、それですか」 清四郎は眉を寄せた。 「そんなに未来の僕は、ひねくれてるんですか?悠理に対して」 言いながら、悠理の両頬を手で包み、じっと見つめてくる。 黒い瞳は、あの意地悪なひねくれ者と、同じ色。 ますます顔が赤らんできた。 「悠理の顔、林檎みたいになってますよ」 清四郎はそう言って、悠理の頬に唇をよせた。かぷりと柔らかい頬に歯を立てる。 「わぁ、かじるな」 「だって、おいしそうだから」 清四郎が、子供の顔をして笑った。だけど、目には見間違いようのない情欲の火が揺らめいている。 頬から首筋、そして胸まで清四郎は唇でたどった。 「ここは、サクランボみたいだ」 「うひゃっ」 胸の先を咥えられ、悠理は焦った。 悠理が照れてパニクれば、先ほどとは反対に、少年は余裕を取り戻してゆく。 未経験は同じはず。いくら清四郎とはいっても、こんな小僧っ子に負けてなるかと、悠理は必死だった。 「ええい、うりゃ!」 気合とともに、悠理は腹筋に力を入れ、清四郎を突き飛ばした。 そのまま、体勢を入れ替える。 「うわっ」 清四郎は目を白黒させている。 さすがに素肌の上に馬乗りになることはためらわれて、上半身だけ清四郎の上に乗り上げた。 「へへ♪あたいは年上だぞ。中坊にいいようにされてたまるもんか」 「……」 清四郎はしばし唖然としていたが、突然、ものすごく嬉しそうな顔になった。 「悠理って…」 輝く笑顔に、悠理は驚く。 「な、なに?なんかおかしい?」 「悠理も、僕を好きなんだって、わかったから」 満面の笑みでそう言われ、悠理はまた頭が沸騰した。 「な、な、な、な、なんでっ、あたいが、清四郎を好き?!」 悠理自身にわからないことを、確信しているらしい清四郎の笑顔。 まあ、普通、好きでもない男の服を脱がしたり、ベッドに押し倒したりはしないだろう。自分も裸で。 所詮自覚レベルがその程度の悠理には、主導権を取ることなど無理な話。 悠理の抵抗(?)も、ここまでだった。 清四郎はニヤリと笑った。 「いい眺め」 清四郎の目の前には、白い二つのふくらみ。 寝転がるとあるかなきかになる悠理の胸も、この体勢ではさすがに存在を主張している。 清四郎は下からやわらかなふくらみを揉みしだいた。 「あっ」 焦った声を出す悠理にかまわず、舌で舐め上げる。 「わわわ」 逃げようとする体を捉え、清四郎は悠理の腰を自分の上に乗り上げさせた。 密着する、秘所。少年の男が、悠理の太股に当たった。 ベッドに両手をついて見下ろした顔は、見慣れた、だけど見慣れない男の表情をしていた。 熱い吐息。欲望に潤んだ目。染まった頬。 悠理の胸の奥で、なにかがスパークした。 愛おしさに、両の腕で清四郎の頭を抱きしめる。 悠理の胸に顔を埋めた少年は、小さくうめいた。 「うぁ・・・」 抱き合ったまま、ごろごろベッドの中で転がった。 腕も胸も腹も下肢さえ密着して、溶けてしまいそうだった。 何度もくちづけを交わし、唾液も交ざる。 触れた体の間がぬるぬると濡れた。 「ゆ、悠理、ごめん・・・」 清四郎は耳まで赤く染める。 「・・・?」 悠理にはわからない。少年が若い精を暴発させてしまったことを。 脱ぎ捨てていた自分のシャツで、清四郎は悠理の体の汚れをぬぐった。 濡れた腹や太腿をぬぐうと、清四郎は布の後を追うように、舌を這わせた。 「あ、やだ」 ベッドに横たえられ、立てた膝を割られる。 内股まで這いよって来た唇を止めようと、悠理は清四郎の頭をつかんだ。 不満そうに清四郎は顔を上げる。 「だめだよ、ここも濡れてる」 「ち、ちがっ」 焦る悠理にかまわず、少年は意地悪な笑みを浮かべた。 そのまま、悠理の足の間にふたたび顔を埋める。 「やああああっ」 自分でさえもよく知らない場所を、清四郎の舌がまさぐる。 湿った音が立ち、悠理の全身ががびくびくと痙攣した。 舐め上げ、吸い、侵入する。 舌で犯された部分が、熱く蕩けた。 思わず浮いた腰を、清四郎の手が支える。 「悠理…すごく、感じてる?」 「……」 悠理はひくつく体を抑えることもできず、なにも答えられない。 「僕も、また…」 清四郎はつかんでいた悠理の双球を揉み割り、上体をずりあげ自分と密着させた。 熱く堅い塊が、蕩ける場所に押し付けられる。 「!」 ぐ、と力を入れられ、眩んでいた悠理の意識が引き戻された。 「い、痛っ」 「僕もキツ…」 悠理の体に乗り上げ、清四郎はきつく眉をよせた。 苦しさに、悠理は少年の細い首に手を回す。 ぎゅ、と目を閉じた瞬間、体を奥の奥まで貫かれた。 上げそうになった悲鳴は、目の前の肩にかぶりついて堪えた。 完全にぴったり重なり、隙間のなくなった体。 「すごい…」 上気した頬、潤んだ瞳。 悠理を抱きしめたまま、清四郎はうっとりつぶやいた。 「すごく、いい…」 「あ、あたいは、むちゃくちゃ痛いぞっ」 悠理は目尻に涙を浮かべて抗議する。 「ご、ごめん」 清四郎が身じろいだ途端、悠理はのけぞった。 「う、動くなぁっ」 ずっくんずっくん、痛みがはめ込まれた部分から頭のてっぺんまで走り抜ける。 「そういうわけにも」 清四郎は荒い息をつきながら、ゆっくり腰を動かしはじめた。 抜き差しされて、悠理は焦った声を上げる。 「ややや、やっぱり、おまえ、カワイクないっ」 悠理を貫き犯す凶器は、とても子供のものとは思えなかった。 玉の汗を浮かべて、男は眉を寄せる。 「悠理は、やっぱり、我慢できないほど、可愛い」 シレっと言われて、悠理はグッと息が詰まった。 「どうすれば、悠理ももっと良くなるかな?」 ぐったりベッドに体を投げ出している悠理の背中を撫でながら、清四郎はつぶやいた。 「…それよりも、いい加減に抜けぇ…」 悠理は半ベソで清四郎の胸を押しやる。 「まだ、痛い?」 「痺れてる感じ」 押し入れられ割られた場所は、その後何度もこすられ、ほぐされ、濡らされた。 清四郎が探究心に目を輝かせているのが、なんとも悔しい。 悠理はギブアップ寸前だというのに。 また、清四郎が腰をすりつけて揺すった。 「あ、あう」 力の入らない体が、勝手に跳ねる。 充血し立ち上がったままの胸の果実を甘く噛まれ、頭を左右に振った。 つながったままの箇所をほぐすように、清四郎の指がうごめく。 掘り探られた敏感な部分。突き上げられながらいじられ、悠理はとうとう泣き声を上げた。 「も、もう十分だよぉ」 息を乱し、悠理の涙を吸いあげながら、清四郎は悠理を攻め続けた。 無我夢中の子供の顔の中に、悠理の良く知る、男の顔をのぞかせて。 恋とか、愛とか、悠理はそういうことを意識したことがない。 清四郎を好きなのかどうかなんて、ほんとうに悠理にはわからなかった。 ただ。 感極まって吐息をもらした少年の、いくぶん細い肩を、悠理は抱きしめる。 こんな清四郎を知っているのは、悠理だけ。 自分だけの宝物だと、胸に刻んだ。 だれにも渡したくないと、思いながら。 |