金曜日。
「このパジャマかわいーよな?」
ウインドウをのぞきこんでいた悠理が言った。
夕方のショッピングモール。
本屋に寄っていた清四郎を待つ間、悠理はその店でなにやら物色していたらしい。
「お待たせ」
本屋の用事は悠理の参考書購入のためだったが、清四郎は待たせたことを謝る。
なにしろここに来る前、返された試験結果を手にさんざん悠理に清四郎は小言を進呈していた。
自業自得とはいえふくれていた悠理が、ようやく機嫌を直したのだ。
これから数日一緒なのだから、お互いの精神衛生のためには、にこやかに過ごしたい。
悠理のしめすディスプレイされた商品を、清四郎も見る。
「パジャマっていうよりも、リラックスウェアですな」
「可愛いだろ?」
「ああ、たしかにこのピカソというかシュールリアリズムというか、奇天烈な模様はおまえ好みかも」
「それ、否定してんの?」
「いや、結構いいですよ。赤白は派手だが、こっちのモノトーンのやつなんて、シックで」
「おまえんちでのお泊りセット用に買おうかなー」
今日から冬休み。期末試験で言語道断な低空飛行だった悠理には、特別課題が出されてしまった。
補講こそまぬがれたものの、菊正宗家での勉強合宿が休みの前半部分に挿入されることになった。
もっとも、試験前の徹夜合宿とはわけが違う。
すぐにクリスマス、お正月、とイベントが続くので、早々に課題を片付けてしまおうと実施する合宿だ。
「買ってこよーっと」
悠理はるんるん店内に消えた。
ああいうところは、あいつも女の子みたいですな、と清四郎は微笑する。
いつもの帰り道、たいしてウインドウショッピングに興味のない野梨子でも、可憐や悠理が一緒のときは
きゃあきゃあ店を渡り歩き、清四郎が待たされることもしばしば。
今日は野梨子は清四郎が悠理イジメに小一時間かけているのにあきれて、先に帰ってしまっていた。
野梨子がいなくて幸いだ。クリスマス商戦に活気づくモール、女たちに付き合わされてはかなわない。
すぐに、悠理は店から出てきた。
「だめだった・・・」
「どうしたんですか?売り切れ?」
「ううん。あれは男女ペアで売ってるんだって。バラ売りはしないんだって」
「なんだ、両方買えばいいじゃないですか」
「着ないの買ったら、もったいないじゃん」
超のつく大金持ちのくせに、妙に悠理は庶民的だ。
「豊作さんにプレゼントすれば?もうすぐクリスマスだし」
「兄ちゃん?母ちゃんが兄ちゃんにはフリルのやつ用意してたけどなー」
悠理は嫌な事を思い出したのか、顔をしかめる。
「あ、わかった。おまえがパジャマを欲しがったのは、フリル嫌さにでしょう」
図星をつかれ、悠理は赤面した。
「だって、おまえ想像してみろよ!母ちゃんってば、こうベビードールっての?ピンクのヒラヒラスケスケの、
リボンだらけの着せようとすんだぜぇ〜!」
「スケスケ・・・ですか」
思わず素直に想像しかけた清四郎だったが、悠理がパチンと手を打ったので妄想は中断した。
「そうだ!おまえにやるよ、男物」
「は?」
「あの白黒のやつ、絶対おまえに似合うって!」
悠理は名案とばかりに、くるりともう一度店に向かおうとした。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだよ?おまえも、結構いいって言ってたじゃん」
「いや、でもですね、そうすると、おまえと僕とでペアルックになるんですよ?」
わずかに顔を赤らめた清四郎に、悠理は首を傾げる。
「今だって、似たようなもんじゃん」
「って、制服じゃあたりまえです!」
「???パジャマが揃いだとなんか問題があんの?」
悠理が女の子みたいだ、と思った先程の認識を清四郎は脳内で訂正した。
「・・・例えばですね、可憐と魅録が同じパジャマを着てたら、おまえどう思います?」
「え?こういうやつ?」
指さしたウインドウには、クリスマスのラブラブカップルを模したディスプレイ。
清四郎は厳かに肯いた。
悠理は少し考えてから答える。
「いいなーって思う。あたいも一緒に揃いの着たいなーって」
その返答に、清四郎はため息をついた。
やはり、乙女心皆無。
「・・・普通、ただの友人の男女がペアのパジャマを着ないもんなんですがね・・・」
悠理相手に世間の常識うんぬんを言ってもむなしい。
疲れ顔の清四郎の横顔を、悠理は人差し指でツンと突いた。
にんまり笑う。
「あたいとおまえは、ただの友人じゃないじゃん」
「えっ」
悠理の言葉に、清四郎の丈夫なはずの心臓がなぜだか跳ねた。
「なんつーの、悪友?腐れ縁?どっちにしろ普通だったら、友達やってないぜ〜。共通点ぜんぜんないもん。そりゃ付き合いは
長いけど、おまえと野梨子のことずっと嫌いだったもん。それが今じゃ、毎日つるんでんだからな。こーゆーの、なんて言うの
かな?気が合わないのに友達なんてさ」
笑う悠理につられ、清四郎は苦笑した。
「僕に言わせれば・・・ペットと主人ですな」
むうっと頬をふくらませた悠理の頭をポンと叩く。
「よし。こうしよう。両方買って、別々に包んでもらいましょう。代金は折半。女物は僕がおまえにプレゼントするって
いうのは?」
「うん!プレゼント交換だな。クリスマスだし」
悠理の満面の笑顔。
寒い冬に、あたたかなぬくもり。
あのネルのパジャマは、見るからにあったかそうだ。
自然、清四郎の顔にも笑みが浮かぶ。
「ただし、僕の家では着ないでくださいよ。家族がヘンに思うから」
「??いいけど。でもベビードールほどヘンじゃないと思うけどなぁ?」
「ま、まさか、お泊りセットはスケスケの?」
「ちがわい!」
その悠理の返答に、安心したような、ちょっと残念なような。男心も複雑だ。
なんともいえない表情で微笑する清四郎の背中を、悠理は押した。
「さ、買いに行こうぜ♪」
まるで傍から見れば、ごく普通の微笑ましいカップルだったろう。
長身の端正な青年と、ボーイッシュながら超のつく美少女は、仲良く店内に向かった。
お互いへのプレゼント、お揃いのパジャマを買うために。
NEXT
種ともこのかわゆい歌「日曜日はパジャマのままで」をそのまんま書きたくなって書き出したのですが・・・ですが・・・
ラブラブで書き出したつもりが、またもや双方無自覚カプ。
自覚させるとねー、どうしてもバカップル化しちゃうんですよ。
それも微笑ましいのんじゃなく、石投げられそうな凶悪傍迷惑ラブラブビーム乱射カップルに。(汗)
ですので、今回はとにかくお歌にあわせたほのぼの路線を目指します。
さて、どうなることやら。
更新はシリアス書いて心がささくれ立ったときに、癒し及びリハビリで書きますので、不定期です。
まぁ、このところずっとシリアスネタで悶々してますので、こちらの進行の方が早いかも。(苦笑)