S/O/S





**後日談その3**




それから数年後。
朝から剣菱邸に揃ってあらわれた親友と幼なじみに、清四郎は驚いた。
「どうしたんですか、魅録、野梨子。今日は1限目から魅録と一緒だって、悠理ははりきってもう登校 しましたよ?試験も近いからノートを見せてもらうって」
聖プレジデント大学に進んだ学生結婚のふたりは、学部は別。清四郎は今日は午後からの登校予定だ。
もっとも、すでに剣菱の経営に携わっている清四郎は、学業以上に実業に追われる毎日を送っている。

「いや・・・あの、清四郎に相談があって」
魅録のピンクの頭がうなだれている。目が真っ赤だ。
「僕に?一体、どうしたんです」
野梨子も、眉をよせて険しい表情だ。
「あの、あの・・・」
清四郎の前で二人はひきつった表情で、なかなか話し出さない。

こういうことに鈍い清四郎でも、ちらちらと視線を交わす二人の様子に、さすがに悟った。
「そうですか、ひょっとして、あなたがた」
清四郎が剣菱家の住人となって以来、野梨子のボディガードを勤めてきたのは、魅録だった。
不器用者同士、じれったくも初々しい恋の進展を、仲間たちは微笑ましく見守ってきた。
兄弟のいない野梨子にとっては、清四郎は兄同然。
二人揃ってあらわれたところを見ると、今日は交際の報告に来たのだろう。

「そうですか、そうですか、ついに」
清四郎がにこやかに見つめると、案の定、二人は真っ赤に顔を染めた。
「いや、あのっ」
だが、魅録は意を決したように、清四郎に顔を向けた。
「なんですか、魅録。野梨子と付き合うのに、僕の承諾なんて必要ありませんよ」
清四郎は優しく、幼なじみの泣き出しそうな顔と、魅録の緊張した顔を見比べた。

「違うんですの、清四郎、私たち・・・!」
『魅録』がかすれた声で叫んだ。

「は?」

「私たち、入れ替わってしまいましたの!」

ピンク頭の元暴走族ヘッドが、上品で女らしいシナを作り、よよと泣き崩れる様を、清四郎は呆然と 見つめていた。

”清四郎がなんとかしてくれる”
それは、悠理にだけ植え付けられた経験則ではない。
困り抜いた野梨子がやはり頼るのは、幼なじみの彼だった。

「交際どころか、ヤッっちゃったんですか!」

たとえ自分のことは棚上げし、清四郎が非難じみた声を上げたとしても。

はからずして、彼らはもっとも適切な人物に助けを求めたことになる。
しばらく剣菱邸にかくまわれた二人は、清四郎の全面的な協力により、元に戻ることができた。
ただし、清四郎の得意の薬と催眠術を駆使してさえ、彼らが元の体に戻るのには、先のふたりとは違い、 数日間を要した。
そしてその間、折悪しく試験前だったため、登校せざるを得なかった『野梨子』が 清四郎と寄り添う姿が、学園内にいらぬ憶測を生んだ。
それも、『野梨子』にも清四郎にもあまり関係のない講義に二人揃って顔を出し、 なにやらいわくありげに他の人間を避けているのだから、仕方がない。

なにしろ、悠理にはバレないよう女らしさを教えることも、講義を代わりに受けて試験勉強の助けを することも不可能。
ピンク頭の『魅録』=野梨子にいたっては、外出禁止だ。

噂を聞いた美童と可憐が、剣菱邸に乗り込んで来るのは、即日だった。

聖プレジデント学園名物の有閑倶楽部が、騒動を巻き起こし、巻き込まれるのは いつものこと。
これまでも、これからも。









おしまい*2004.11.22


蛇足の後日談です。超常現象は悠理だけの特質で良かったんですけど。
そーいや、hachiさんのリクには野梨子もあったなーっと、ふいに思い出しまして。(笑)
結局、剣菱家が子宝に恵まれたのかどうか?と、入れ替りはしばしばおこなわれているのか?は、内緒です。
BBSにてもっぷさんに指摘されたように、『おとぎの国』以前に、14歳の清四郎ちゃんってば、 避妊してませんからねー。さしもの清四郎くんも、”男のたしなみ”は、中2では 不完全だったようで。清四郎少年、奥手設定ですし、一応。(笑)
清四郎の中では5年前ですが、悠理に時差はほとんどなし。
子供ができてたとしても、どちらにしろ清四郎の種に間違いはないんですが、 ちょっと彼氏、フクザツな心境になるんではないかしら。

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