「もう、あいつらもいいかげんにして欲しいわ。また復縁するのはもう勝手にしてチョーダイってカンジだけど、なんでこんな日に披露宴なんかするわけ〜?だいたい普通、三回目の結婚で盛大な披露宴なんかする?」
「ま、剣菱家だから。僕は二度目は出席できなかったから、嬉しいけどな」
「ってゆーか、あんた清四郎と悠理が離婚したのも知らなかったんでしょ?ま、知らなくても全然オッケーだったけど。どうせまた元の鞘なんだし」
久しぶりに日本駐在となった美童は、可憐の言葉に苦笑した。
肩で切り揃えた髪が往時とは違うが、会えばいつでも学生時代にもどることのできる友人の一人。
「僕は可憐が離婚したのも、知らなかったけどな」
その言葉に、可憐はもう薄くなった左手の薬指の痕に目を落とした。
「・・・あまり大っぴらに宣伝するようなことじゃないもの」
大恋愛の末の結婚。望んだ通りの玉の輿。しかし、結婚生活は数年ももたなかった。
離婚の傷はまだ胸に疼いている。愛しあった記憶と、憎みあった記憶。
それでも、可憐は体が軽くなった自分を感じていた。
軌道に乗り始めた仕事はおもしろい。
罵倒しながらも、あいかわらずの友人達の姿にもなぐさめられる。
「どこかのバカップルの離婚と一緒にしないでよ。あいつら、政略結婚だとか愛のない結婚だとかふざけたことほざいてるけど、嫌になるくらいラブラブなんだから」
あいかわらずのプレイボーイぶりで独身貴族生活を謳歌している美童にも。
「これで、倶楽部で独身はあたしとあんただけになっちゃったわね」
可憐は微笑んで友人を見返った。
いまの自分を幸せだと、感じられた。
「あんたも、いつまでフラフラしている気?」
美童は肩を竦めた。
そんな仕草も、大人になった彼には似合う。
「僕も機会があれば落ち着きたいと思ってはいるんだよ」
「嘘ばっか」
可憐は破顔した。
「”世界の恋人”でしょ。モテることが生きがいのくせに」
「その認識、愛することが生きがい、と変更して欲しいな」
美童も笑った。
初めて顔を合わした15の頃のような無邪気な笑顔だった。
「あんたのは、ちゃんとした恋愛じゃないわよ。ゲームね、ゲーム」
「言ってくれるね」
可憐の毒舌にも、美童の笑みは曇らない。
「僕はこれまで付き合った女性みんなを愛してるけど・・・ほんとうに心を晒せる女性は、多くはないよ」
「そりゃ、そうでしょうよ」
可憐はクスクス笑う。
ナルシストで、根性なしで。
だけど、優しくてするどい美童。
傷ついた心を、彼は見逃さない。今このとき、この友人と共に居られることを、可憐は内心感謝していた。
いつまでたっても初々しい魅録と野梨子や、再再婚のバカップルにあてられるよりも。
「それで、可憐」
「ん?」
「僕と恋愛しない?」
「・・・・はぁ?」
可憐は突然の美童の言葉に目を見開いた。
「可憐とだったら、ちゃんと恋愛できると思う」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
呆れて声も出なかった。
「愛してるよ、可憐」
可憐の手から傘が転がり落ちた。
その傘で目の前の男をぶん殴らなかっただけ、感謝して欲しい。