Baby&Doll絵:サチさま 文:フロ








ノックをしてから入室したのだ、一応は。
悠理の返事を待たずにドアを開けた清四郎は、眼前の光景に目を細めた。
ベッドの前に立ち扉を振りかえる形で、悠理は凝固している。
最初に目に入ったのは、細く白い体。
裸だったわけではない。
薄いやわらかな布をまとってはいる。そのレースに縁取られた短いベビードールは、しかし いっそない方がまだマシなほど。
体のラインはおろか、白い肌のきめまで透けて見える。ベビードールと揃いの薄いパンティまで。

こくりと、喉が鳴る。
失敬、ときびすを返すべきだとは頭ではわかっていたが、体は反対の行動を取る。
悠理の元に引き寄せられるかのように、清四郎は室内に足を踏み入れた。

「う・・・うひゃぁぁぁっ」
悠理は一瞬の自失状態がすぎると奇声を上げてぴょんと跳ね、ベッドに飛び込んだ。
「なんなんだなんなんだ?!」
首まで布団を被り、悠理はわめいた。
清四郎はベッドのそばに近寄り、ニヤリと笑う。
「ほぉ、それがウワサのスケスケヒラヒラですか」
「なに嬉しそうな顔してんだよっ!あ、あっち行け~!」
悠理は口元まで布団を引き上げた。頭から湯気を出しそうなほど真っ赤になっている。
「おや、また発熱しているようですよ」
清四郎は悠理の額に手を伸ばした。
悠理は清四郎の指先が触れると、ビクンと震える。
「あのパジャマも似合っていましたが、ベビードールもなかなか・・・」
前髪をかき上げて額に触れると、悠理はますます赤面して、今度は布団で目まで隠してしまった。
「い、いつまでもあのパジャマを着てるわけにもいかないから、着替えたんだけど・・・寝間着は あんなのしかないんだもん!」
百合子夫人の用意させたヒラヒラレースのベビードール。
悠理は嫌がって、清四郎と揃いで買ったパジャマをさっきまで着ていた。昨夜からずっと。
悠理に引き止められるまま、日曜日の今日、清四郎も剣菱邸で過ごしてしまったが、夜も更けたことだし、 二晩泊まるわけにもいかないと辞去のあいさつに来たつもりだった。
「そうですよね。僕だってそろそろ着替えたい。結局、一日パジャマで過ごしてしまったんですから」
清四郎も替わりの服を豊作に借りようとしたのだが、嬉々として百合子が用意したのは、 とんでもないビラビラフリルの王子様ルックだった。

「そうだ!」
悠理は目元まで引き上げていた布団を首まで下げた。
「あたいの、見たよな?」
「まぁ、ちらりとは」
「じゃ、おまえもヒラヒラ着て見せてくれるんだよな?」
きらりん。
悠理の目がイタズラ心に輝く。
一瞬、眉を下げた清四郎だったが、口元に笑みを浮かべたまま、頷いた。
「約束ですからね。いいですよ」
「けけけ、楽しみ~♪」
目を細める悠理の額に乗せた手で、清四郎は何度も髪を撫でる。
そのまま清四郎がベッドに乗り上げるように顔を近づけても、悠理は嬉しそうな笑みを浮かべて目を閉じた。
何度もキスを落とした白い額。
しかし清四郎はこのとき、額ではなくほのかに色づく唇に、そっと唇で触れた。
「・・・・。」
唇を離すと、悠理は目を見開いて清四郎を見上げていた。
きょとん。
その赤ん坊のような顔に、清四郎は笑みを向ける。
「悠理、目を閉じて」
言葉と同時に、もう一度清四郎は悠理に口付けた。
「・・・・ん・・・う」
悠理は少し身じろいだが、それは抵抗というものではなかった。
閉じられた目。閉じられた唇。
素直に清四郎の言葉に従う悠理の染まった頬。
もう、触れるだけの口付けでは、済みそうになかった。
清四郎は唇をなぞり、舌を割りいれる。
吐息を吸い取り、逃れようとする舌を追う。
「ん・・・ん」
生まれて初めての深い口付けに、悠理は苦しげに震えた。
布団から出した手が、清四郎のパジャマの襟をつかむ。
名残惜しげに唇が離れても、悠理は閉じた瞼を開けなかった。
体を覆っていた掛け布団がめくれずり落ちても、悠理は気づいていない。
目の前には、薄い布に覆われた白い体。
女らしさのないと思っていた華奢で細い体は、人形のように美しい。
小ぶりな乳房の真ん中で唇と同じ色の先端が、透明な布を押し上げ男の目を誘った。

「せいしろ・・・あたい・・・」
悠理は熱い吐息とともに睫毛を震わせた。
瞳が開かれる前に。
清四郎は大きな手のひらで、悠理の眼を覆う。
子供のように無垢な彼女に、いま男の欲望を見られたくはなかった。
ただ、告げたかった。
胸を締め付け身を焼くような。
もう友情では説明がつかない、この想いを。

「・・・ドキドキして苦しくて・・・胸が痛くなるのに、そばにいたい?」
そう問いかけると、悠理は小さく頷いた。
「僕もです、悠理。おまえに触れたくてたまらない」

そう囁くと、手のひらの下に熱い感触。
そっと手を離すと、潤んだ瞳が清四郎を見つめていた。
悠理の唇が震える。

「好きだよ、清四郎」

清四郎から告げるつもりだったのに、悠理に先を越された。
無垢な、だけど意志の強い悠理の瞳。
いつでも彼は上手を行っているつもりで、彼女には驚嘆させられるのだ。
悔しくて、もう一度唇を奪った。

もう、隠すことはできなかった。想いも、欲望も。



*****




口付けは、深く深く。
激しい欲望が男から理性を奪い取る。
清四郎は甘い唇から名残惜しげに身を離し、そのまま白い首筋を唇で辿った。
細い首から、鎖骨へ。丸い肩のラインへ。
くすぐったそうに身を竦める悠理が愛しくてたまらず、レースの 肩紐を歯で解いた。
ふわりと薄い布が揺れる。
まだ布に覆われたままの、つんと尖った胸の先の果実を口に含んだ。
「あ・・・あぅ」
悠理の体がびくんと揺れた。
薄い布が清四郎の唾液で濡れ、紅い先端にまとわりつく。
「・・・嫌か?悠理」

自分の中の抑えられない男が、悠理をもとめている。
それでも、清四郎は悠理に問いかけた。
彼女が無垢であることは、わかっていた。
体だけでなく、心も。

悠理は潤んだ瞳で清四郎を見つめた。
「清四郎・・・あたい・・・」
その目の中に浮かぶ、怯え、戸惑い。

「おまえを、僕のものにする」

わかっていながら、清四郎は悠理にそう告げた。

”一緒にいたい”と清四郎を引き止めたのは彼女。
そして、もう清四郎は限界だった。
昨夜の少年のような姿の彼女をさえ、触れずにはいられなかった。
それなのに、今の彼女はなまじ全裸よりも男の欲望を煽る薄い下着姿。
男の理性を麻痺させるのに十分なほど淫らに美しい。
侵しがたいほど清らかであるのに、潤んだ瞳が彼を誘う。

陶器のような白い肌を布の上から撫でた。
柔らかなふたつのふくらみを、何度も揉みしだく。
堅くなりはじめた先端を指先でくじる。
ほどけた肩紐を口で引き、露になった白い肌に紅い所有印を刻んだ。
短いレースの裾から伸びるしなやかな足に手を這わせ、撫で上げる。
布の下、脚の付け根にまで手は滑りあがった。
ベビードールと同色のパンティもサイドはリボンで結ばれている。
明らかに母親の趣味に違いないのに、愛猫の顔がプリントされてある 下着に、清四郎は思わず笑みを洩らした。
「まさか、悠理の下着にはみんなタマフクマークが付いているんですか?」
からかいながら、指先をサイドの結わえに絡める。
「あっ・・や・・・」
スルリとリボンを解くと、はじめて悠理が抵抗らしきそぶりを見せた。
彼女の上に乗り上げている清四郎の胸に両手を突っ張る。
らしくなく力のないその行為は、彼には誘っているも同然だった。
紐がほどけてもまだ小さな布に覆われたままの下腹部に清四郎は指を這わせる。
脚の付け根をなぞるように、徐々に中心へと。
「い、いや」
布の上から狭間に小さな突起を探り出し、指先で弄んだ。
悠理が真っ赤に顔を染めて上体を起こす。
その悠理に、清四郎は自然笑みが浮かぶ。
「・・・濡れてますよ」
布に滲んだ湿りを指先でぬぐい、彼女に見せつけた。

無垢で幼い彼女を犯すことに禁忌を感じないわけではなかった。
だけど、もう体は子供ではない。十分に女だ。男を受け入れる準備はできている。
それを、彼女自身にもわからせたかった。
心だけでなく体でも清四郎を求めていることを。
彼が、そうであるように。

「やだっ」
悠理は身をこわばらせ、首を振った。
開かせた足の間に体を乗り上げ、清四郎は悠理の打ち振られた髪に手をやった。
「悠理、悠理、当然のことなんですよ」
柔らかい髪を撫で、優しく髪を梳く。
「僕もおまえと一緒にいたい。触れたい。ひとつになりたい。僕だけのものにしたい」
悠理は涙の滲んだ瞳で清四郎を見つめた。
彼の隠さない欲望を宿した目を。

「たぶん、おまえを愛しているから」

悠理の目尻から涙が零れ落ちた。
「た、たぶんって、なんだよ・・・」
「僕だって、こんな気持ちは初めてなんだ。よくわからないんです」

昨日まではただの友人だった。
悠理に女を感じていたといえば、嘘になる。
独占欲と愛おしさは感じていたけれど。

清四郎は悠理の頬を零れる涙を唇でぬぐいとった。
真っ赤な頬は熱を持って熱い。
中断していた愛撫を指が自然に再開した。
小さな布の狭間から、女の泉に指を差し込む。
まだ蕾のそこに、ぬめりに助けられ指はするりと根元まで入った。
「んっ」
けれど、悠理は息を詰めた。
熱く熟れた内部が蠢き、締め付ける。
「痛っ」
馴染ませようと指を動かすと、悠理が悲鳴を上げた。
彼女を傷つけずにすむことは不可能だ。
清四郎は指を増やすことを諦め、中から指を引き抜いた。
「我慢しろよ」
膝裏に手をあて、清四郎は悠理の足を持ち上げ割った。
短いレースの裾が腹までめくりあがった。
まだ絡んでいた小さな布を剥ぎとる。
そこに、もう限界まで猛っている自分の男を押し付けた。
「あああああっ」
ぐ、とねじ込むと、悠理の背が反り返った。
先端を入れたところで、きつい抵抗を感じたが、一気に押し込む。
「痛ぁっ・・・や、やだぁっ」
涙声の悲鳴。
自分をすべて埋め込むと、清四郎は愛しい女の浮いた背を抱きしめた。
悠理の両手が伸ばされる。
すがるものを求めるように。
首に絡んだその腕とむき出しの肩に、何度も口付けた。

「せいしろ・・・」
荒い息の下で名を呼ばれ、清四郎は眩んだ。
ドクンドクンと悠理の内部が熱く脈動する。
本能のまま、彼女を揺さぶり快感を追いたくても、清四郎にはできなかった。
痛みに噛み締められた唇。
涙の滲んだ瞳。
嗜虐的な性欲よりも、彼女の痛みを早く癒してやりたいと思う 愛おしさが上回った。
震える体をなだめようと撫でる。
「ゆうり・・・」
初めて感じる激しい快感に、清四郎は戸惑っていた。
ただ、埋め込んでいるだけで欲望を追ってはいない。
それなのに。
腕の中に捕らえているのこの女が、悠理なのだと思うと、それだけで 頭の芯が痺れる。
生まれて初めて味わう衝撃。
女を抱いたことが初めてなわけではない。
だけど、心をかけた相手とひとつになるのは初めてだった。
知らなかった。これがこんな陶酔をもたらす行為だということを。

彼女の痛みを和らげようと、繋がった場所に指を這わせた。
唇をあわせ、舌をからめる。呼吸を追う。
指でなだめ、敏感な部分をこすり、泣き声を上げさせた。
その声も息も、吸い取る。
繋がった下肢だけでなく、悠理とすべてを重ねたくて。
まだ着ていた自らのシャツを脱いで、裸の胸も合わせた。
もう、ベビードールは腹部で丸まってしまっている。
露になった白い胸に噛みつき、舐め上げむさぼった。
「あっあああ・・・ああ・・んんっ」
感電したように、悠理は震えた。
その動きは、繋がった部分から清四郎にも伝わる。
ふたたび、彼女の体が潤み開かれるのを待ち。
ようやく、清四郎は快楽を追う律動を開始した。
奥の奥まで。
狭い内部を擦り、突き上げる。
細い腰を持ち上げ、より深く交わる。
音が立つほど抜き差しすると、悠理の体が跳ねた。
「ーーーーっ!」
甲高い悲鳴は、痛みではなくもう嬌声だった。
激しい行為に、汗が散る。
ふたりの体液が交じり合う。
このまま悠理に締め付けられ、彼女の中に自分を解き放ちたい誘惑にかられた。

「・・・くっ」
だけど、犯し奪い尽したくても。彼女を慈しむ気持ちも、本物だった。
「や・・・いや、いやーーーっ!」
悠理の内部がきつく収縮する。髪が打ち振られ、涙が溢れた。
それは彼を拒否する言葉ではなく。ただ、初めての感覚に対する怖れ。
びくびく痙攣する体を清四郎は抱きしめた。
初めての絶頂。
達した女の体が弛緩する前に、彼自身も限界を迎える。
清四郎はからみつく内部から、無理に自分を引き抜いた。
彼女の中に、放つわけにはいかない。
最後の理性。
くったりと力の抜けた悠理の体の上に清四郎は身を投げ出し、解放のときを迎えた。






*****







清四郎が目を覚ましたとき――――自分の最後の理性を呪った。
壁の時計に目をやる。まだ、10時半。午前ではなく、午後の。
壁の模様は、見慣れた派手な柄。悠理の部屋のそれではなく、客間の。
清四郎は自嘲した。
「・・・なんて夢だ・・・」
横たわっていたソファから身を起こす。
悠理の部屋で映画を観ながらピザを食べアルコールを飲んでしまったので、少し休息を とってから帰宅しようと、横になり眠ってしまったようだ。
借りた車に乗って帰らなければ、そろそろ姉の機嫌が悪くなる。
清四郎は自分の黒いパジャマの胸元をつかんだ。
ひどい寝汗をかいていた。

どうせ夢なら、彼女の中に出してしまえば良かった。
欲望も想いもすべて。

そんなことを思ってしまった自分をまた嘲笑う。
ひどい夢。
あんな夢を見てしまった理由は明白だ。

この日曜、ずっと彼女と共に過ごした。
愛しいという気持ちには気づいたけれど、それにはまだ欲望がともなっていないと思っていた。
欲望を持ってはいけないと思っていた。
無邪気に彼の胸にすり寄ってくる彼女の髪を撫で。
額に口付け、腕に抱きしめ。
それでも、まだ耐えられると思っていた。

その結果が、あの夢だ。

清四郎は反動をつけて立ち上がった。
帰らなければならない。
このままここに居て、自分を律しきれなくなることが恐かった。

「・・・そういえば」
自嘲ではない笑みが、初めて浮かんだ。
客間のドアを開け、悠理の部屋へ向かう。
「まだ、言ってませんでしたね」
自分の想いを、現実の彼女に。
もう、腹をくくらなければならない。
もう、認めざるを得ない。
先を越されるわけにはいかなかった。
夢の中のように。

悠理の部屋の扉をノックする。
息を吸い込み、返事を待たないまま押し開いた。


部屋に足を踏み入れた清四郎の足が止まった。
そこに彼が見たのは――――



*****







1.ベビードール姿で硬直する悠理。
2.眠ってしまっている彼女。


→上記二択を選んだ場合、冒頭に戻る。


3.ニコニコ笑顔の百合子とヒラヒラレースの王子服。「ごゆっくり♪」と去って行く夫人。
4.ベビードール姿で王子服を抱えた悠理が、「約束だじょ」と照れた顔。



*****




「・・・悠理、聞いて欲しいことがある」
清四郎は彼女を真っ直ぐ見つめた。
もう、認めるしかない。
告白するしかない。

――――おまえを好きだと。愛していると。

”たぶん”抜きで。






2005.3.5 end?


・・・・ごめんなさい、夢オチです。「日曜日はパジャマのままで」を完結させた後、サチ様に冒頭の イラストをいただいてしまいましたーーー!そんでもって鼻息荒くルンルンエロを書き出したのですが ・・・ですが、デコチュウが精一杯のあのほのぼの話でイタシテしまうのも、なんかためらわれて しまいまして。(イマサラ?)
あの話の悠理ちゃん、私の書くものの中ではもっとも乙女でちょいロリ入ってますので、 下手すれば犯罪チックになってしまうんですよ。ですので、ものすご~く脳内妄想から表現抑えた上、 夢オチにしてしまいました。ま、でもその後正夢になっちゃうんじゃないっすか?(笑)

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