3.清四郎編<後> 嫌だと言ってもやめないと、彼女には告げたけれど。 本当は悠理が音を上げ、”やめろ”と言い出すのを、清四郎は待っていた。 だから、ことさらに彼女への愛撫は卑猥に。 初めての女がしり込みするに違いない大胆な行為を心がけた。 「ん・・・んん」 自分から男を押し倒してのけた悠理が赤面しているのは、そのためだと思っていた。 奥歯をかみ締めた、泣きだしそうな顔も。 手のひらと指先で翻弄していた悠理の体を持ち上げる。男の胴に回った素足を割ったまま、体勢を簡単に入れ替えた。 ベッドのスプリングに悠理の上体が沈む。 「乗られるよりも、乗るほうが好みなんでね」 清四郎はニヤリと笑った。 大きく割った足の間に体重をかけ、下着越しに腰を合わせる。 まだ服を着けたままの男の欲望が猛っていることを、悠理の女の部分にわかるように。 「!!」 無意識でなのだろう。悠理が体をずり上げようとする。 「やめて欲しいですか?コレをおまえの中に入れるんですよ」 腰をつかんだ手でその動きを抑え、清四郎はからかう。 悠理はぶんぶん首を左右に振った。 「お、おう、わかってるわい!」 まるで、喧嘩腰の口調。 強情な悠理は、唇を尖らせて清四郎を睨みつけている。 だけど、瞳は潤んでいる。 「悠理?」 一瞬、悠理が泣いているように見え、清四郎は戸惑った。 悠理の強張った赤ら顔が、わずかに緩む。 「あたいを、女だって認めてくれてるってことだよな?・・・ありがと。清四郎」 それは、泣き顔などではなく、はにかんだ笑みだった。 意地悪から苛めてやろうと思っていた清四郎は、素直に礼を言われ、胸を衝かれた。 「悠理・・・」 あろうことか、悠理の笑みは、儚げに見えて。 華奢な体が震えているのさえ、健気に思えて。 可愛くて可愛くてたまらず。 腕の中の悠理へ、清四郎は引き寄せられるように顔を寄せた。 一瞬、目を見開いた悠理は、清四郎の意図に気づいて、ぎゅっと目をつぶった。 唇もへの字に思いきり引き結ぶ。 その悠理の唇に、口付ける寸前。 清四郎は動きを止めた。 「悠理、キスは?」 「ん?」 「キスは、教えてもらいましたか?」 魅録はともかく、美童にそこらあたりまではレッスンを受けていてもおかしくはない。 それなのに、あまりにも悠理の態度は初心者のそれで。 悠理はそろりと片目を開けた。 しかし、吐息の触れるほど至近距離にある清四郎の顔に驚いて、もう一度目をきつくつぶってしまった。 「・・・ううん。なにせ魅録は近づいただけで催涙弾攻撃だろ。美童はキスにはムードがどーとか、ファーストキスは 一生の思い出だとか、なんかごちゃごちゃ言ってたし」 目をつぶったままの悠理のこの答えに。清四郎は気勢をそがれた。 「・・・ふむ。初エッチは誰でもよくて、キスは大事なんですか」 悠理はパッチリ目を開けた。 「あたいが言ったんじゃないぞ、美童だ。それに・・・」 悠理はまた睫毛をわずかに伏せた。 真っ赤な頬。震える唇。 こくりと、悠理の白い喉が動く。 「・・・誰でもよくないもん。おまえが、いい」 魅録と美童に拒絶されてから仕方なく 来たくせに――――と思いながら。 それでも、抵抗できず、清四郎は悠理の意思の前に屈した。 ゆっくりと篭絡される理性と計画。 ”嫌だ”と悠理が白旗を掲げればすぐにやめ、説教をしてやろうと思っていたはずなのに。 白旗を揚げたのは、清四郎の方だった。 唇を落としたのは、熟した林檎のような赤い頬。そして、白い首筋へ。 誘うように艶めく紅い唇には触れない。 せめて、唇だけは清いままで。 悠理のすべてを奪うつもりはなかった。 彼女が望むように、体だけ。体の快楽だけ、共有できればいい。 熱くなる体の奥で、チクリと痛むなにかが胸を締め付けた。 それは、悠理を大切にしたいと思う、理性の残照。 彼女を愛しいと思う、友情の感傷。 それでも、男の体は彼女を貪欲に求める。 理性も感傷も、激しい欲情に流されてゆく。 いつしか、清四郎は行為に没頭していた。 心のどこかで疼く痛みに目をつぶる。 自分の唇の動きに合わせ、桃色に染まってゆく肌の感触を楽しんだ。 思いのほか感じやすい肌を指と唇で責める。 喘ぐ息が、すすり泣きに変るまで。 もう、”やめるか?”とは清四郎は問わなかった。 彼自身が、もう止められない。 ・ ・ ・ ・ 「いいい、痛ぇっっ!!!」 さすがにその瞬間、悠理は悲鳴を上げた。 「言ったでしょう、痛いって・・・」 「うーっうーっ」 悠理はうなって、ガブリと清四郎の肩に歯を立てた。 「痛いっっ!!!」 次に叫んだのは清四郎の方だった。 彼もいまひとつ勝手がわからない。実のところ、夢中ではじめてしまったものの、 彼も処女を抱くのは初めてだったのだ。 恋愛感情など薬にも欲しくない清四郎が、処女を抱くことなどあるはずもなく。 悠理の誘惑に屈したのは、魅録と美童への対抗心か。 なにより、清四郎が拒否すれば、悠理はどこか他の男のもとへ行くだろう。 それは許せなかった。耐えられなかった。 それが、ひとつの感情ゆえだとは、このとき清四郎は気づかなかった。 「悠理、悠理、生きてますか?」 「・・・ううう・・・ったりめーだろぉ」 「すみませんね。このままでは僕としてはかなり不本意なので、責任を取らせてください」 「せ、責任?」 「おまえが天国気分を味わえるまで、挑戦しましょう!」 「って、あ・・・あぅ」 「・・・わかりましたか?悠理。さっきのが、そうですよ」 「・・・ふにゃ」 「そう、それです」 「ふにゃにゃ・・・ん」 「ああ、だめだ、そんなことをすれば、また僕も・・・」 「・・・もうさすがに、これ以上は無理だ、悠理」 「あたい、でも・・・でも、おまえだってまだ・・・」 「だからって、生でするわけにも。ないのは体力じゃなく、アレの持ち合わせが切れたんだ。 僕も一人の相手と3回以上やったことはないですからね。悠理はさすがの体力ですな」 「あ・・・」 「・・・なんでしたら、口でしてくれます?やり方を教えてやる」 「あ・・・や・・・んん・・あぐ」 「そーいや、あたい持ってたんだ」 「え?」 「ほら」 「って、しかも半ダースパックですか?なんで制服のポケットにそんなものを」 「おまえだって、生徒手帳にはさんでたくせに」 「まぁ、男を押し倒して迫るおまえが、持ってなかったらマズイか。 でも、なんでスェーデン製なんだ?」 「美童にもらった」 「・・・やっぱり、イロイロ教授されたようですな」 「え・・・あっ・・そんな、いきなり・・・」 「なにを教わったんだ?これか?それともこれか?」 「そ、そんな・・・なにもしてないの、知ってるくせにぃ」 「本当に初めてだったのか?それにしては、数回でもうこんなに・・・悪い女だ。お仕置です」 「あーーーっ!」 「せいしろ・・・の、嘘つき」 「なにが?」 「乗られるより乗るほうがいいって言ってたくせに・・・こんな・・・」 「この眺めもなかなかですよ。ほら、もっと動いて」 「あ、あううん」 「手を貸しましょうか」 「ひ・・・やぁっ」 「そう、その調子だ。いいぞ、悠理・・・」 「ひっく、ひっく・・・もうやだぁ」 「やっと、降参ですか」 「この体勢が、やだっつってんの!」 「感じすぎるんですか?ったく、つくづくドーブツ・・・」 「なんだとー!」 「コラ、いきなり・・・」 「だって、おまえの顔見れないもん。ぎゅーってして。ちゃんと、ぎゅーって」 「・・・ふむ。僕もぎゅーってされてる気分です・・・」 ほとんど気絶するように悠理が寝入ってしまい。 乞われるまま、ぎゅっと彼女を抱きしめ、清四郎は途方に暮れていた。 涙の跡の残る悠理の頬は、蒼ざめている。 悠理の体を思いやることなく、激しく責めてしまった。 どこかで、怒りがあったのだろうか。 性欲を処理するために、自分を利用した悠理に。 体だけのそんな行為さえも、魅録と美童の後にされたことに。 それなのに。 ”ぎゅーって、して” 悠理は蕩けそうなほど甘い声でねだった。 自分を犯す男を抱きしめ、涙さえ流して。 「・・・あんな顔は、反則ですよ・・・」 清四郎は意識のない悠理の体を抱きしめた。 また、体に熱が戻る。 深く絡まった体の下肢を探り、まだ潤んでいるそこに、ゆっくりと自分を入れる。 ピタリと体を合わせ。ひとつに溶け合うように重ね合わせた。 柔らかく彼を受け止めた悠理は、小さく喘ぐ。 「せいしろ・・・清四郎・・・」 寝言にすぎないその言葉が、睦言のように胸に響いた。 悠理の髪に指を絡め。触れることを自ら禁じた唇のかわりに、頭のてっぺんに 清四郎は口付けた。 ほとんど動かないのに、目も眩むほどの絶頂感。 そして、穏やかな意識の混濁。 清四郎はゆっくりと眠りの世界へ落ちていった。 夢も、見なかった。 瞼の裏に、朝の光。 清四郎は心地良いまどろみの中にいた。 右肩に重み。指先に柔らかな髪の感触。 悠理の髪の中に手を差し入れたまま、眠ってしまったようだ。 目覚めても、なかなか目を開ける気にはならなかった。 激しい疲労感と充足感。 はっきりいって、一人の女とこれほど回数を重ねたことはなかった。 清四郎の体力に付き合える女がいなかったというのも理由のひとつだが。 年齢相応に興味も経験もあったが、自分が性的欲求の強い人間だと思ったことはなかった。 (体の相性がいいってことなんでしょうねぇ) 清四郎の方も、何度も飽かずに求めてしまったから。 悠理のふわふわの髪の香りと感触を味わいながら、清四郎は胸のうちで苦笑した。 長年の付き合いの悠理と、まさかこうなってしまうなんて、思いもしなかった。 悠理を女として見た事がなかったのだから当然だ。 しかし、とふと思う。 こうして知ってしまった彼女の感触。 これから、いつものように少年のように駆け回る彼女を目にしたとき、この髪に触れたとき、 昨夜の彼女を思い出さずにいられるだろうか。 いまの悠理は、明らかに普通ではない。 まぎれもなく、発情期。 だとすれば、この季節が過ぎれば、ケロリといつもの悠理にもどってしまうのだろうか。 ”おまえだと、後くされないから”とのたまった悠理のこと、これまでのままの 関係が続くと思っているはず。 清四郎の胸の奥で、なんとも言いがたい不快感が蠢いた。 そして、よもやもしや、惑星直列並みの確率とはいえ、悠理がいつか恋に落ちたら。 この体を独占する男が現れたら。 腕の中で悠理が身じろぐ。 肩の重みが消えた。悠理が目覚めたようだ。 髪に入れていた手がパタンとシーツに落ちるが、清四郎は指一本動かす気にならなかった。 「清四郎・・・?」 小さく小さく、悠理が名を呼んだ。 狸寝入りを決めこむつもりはなかったものの、返事をするのも億劫だ。 心地いい倦怠感は、不快な独占欲に駆逐されてしまった。 下手に悠理の顔を見れば、また襲い掛かってしまいそうだ。 いまだけは、彼のものである彼女を確認したくて。 返事をしない清四郎を眠っていると思っているのだろう。悠理の視線を感じた。 つつつ、と指先が清四郎の裸の胸を辿る感触。 少し安堵する。悠理はまだ彼の可愛いケモノのままだ。 喉の渇きを覚える。 彼女への、止まらない餓え。 しかし、悠理の指は官能を避け。 清四郎の胸から顔に移った。 輪郭を辿るように、何度も往復する指。 クスクス抑えた小さな笑い声が漏れている。 指先がわずかに薄い髭に引っかかるのがおもしろいのか、指は口元をなぞった。 もうそろそろ狸寝入りも限界だ。 まだ彼女が彼のものなら、もう一度朝の光の中で、思うさまむさぼるつもりだった。 明るいところで彼女に大胆な行為をしかける妄想に、体が疼いた。 ぷちゅ。 ふいに唇に感じた柔らかな感触。驚いて、清四郎は目を見開いた。 いきなりパッチリ目を開けた清四郎に、悠理は度肝を抜かれたようだった。 至近距離の顔が、硬直している。 「悠理・・・?」 思わず、清四郎は自分の唇に手をあてる。あの感触は、まぎれもなくキス。 清四郎は一度も悠理に口付けていない。意図的に。 「せっ、せいしろ、起きて・・・っ」 悠理は動揺してドモった。 すごい勢いで赤く染まる顔。 「ええ、さっきから目覚めてましたけど」 そう清四郎が告げると、悠理の顔面がくしゃりと崩れた。 笑おうとして、失敗したような顔。 もともと端正な美貌を持つ悠理だが、その性格が災いして時にとことん顔面雪崩。 清四郎はあっけに取られた。 照れているだけにしては、あまりにも激しい悠理の表情の変化だった。 悠理はバフンと枕に顔を押しつけた。 息をつめているのか、肩がふるふる震えている。 裸の背中がひくひく痙攣する。 「悠理、どうしたんだ?」 清四郎は身を起こした。 隣で突っ伏している悠理の頭に手を乗せる。 ビクリと跳ねた細い体は、まだ何かに耐えるように震えていた。 「笑ってるのか?」 それは、爆笑の寸前にも見えるが。 不審を感じ、清四郎は悠理の肩を無理やり持ち上げた。 「・・・やっ」 強引に顔を上げさせられ、悠理は抵抗の声を上げる。 だけどその声は、ひどい涙声だった。顔と同じく。 悠理は泣いていた。ぐしゃぐしゃに顔を歪めて。 |
ペットのオイタに怒った飼い主による、しつけと称するビシバシエッチ♪が、野望だったのになぁ。7回分ネチネチやっちゃおうと
思ってたのですが、話が進まないので断念。(←あたりまえ)しかたがないので、お馬鹿部屋のごとくア行活用のセリフだけシーンに。(爆)
調教シーンは各自の脳内でお楽しみください。
はい、次回<悠理編>で、ひとまず最終回予定。実は悠理ちゃんは・・・ええ、そーゆー話だったんです。(笑)