エロティカ・セブン




続続おまけ編



ソファで文庫本を開いている清四郎の前に、悠理が立った。
清四郎は本から顔を上げる。
「帰りましょうか」
教師に小言をたまわっていたのだろう。放課後になってもなかなかやって来ない彼女が部室に来るのを、 彼は待っていた。
一応、本日より付き合い出したふたり。やはり真っ当(主観)な高校生カップルとしては、 一緒に登下校、というのがスタンダードな付き合い方だろう。
「いーよ、もうちょっと本読んでて」
悠理は少し照れた顔で笑った。
ちょうど読んでいるところがいいところだったので、ありがたく清四郎は読書を続けることにした。
悠理はテーブルの上に置いてあるお菓子やフルーツ籠(ファンよりの献上品)を物色している。
部室には仲間たちの姿はない。
なにやらいらぬ気を利かしたのか、今日は皆早々に帰ってしまった。
うららかな春の午後。穏やかな時間が過ぎる。
会話を交わさなくても、同じことをしていなくても、お互いの存在を感じていた。
あたたかな想いと共に。

しかし、清四郎がふたたび本から顔を上げたのは、わずか五分後だった。
「どうしたんですか?悠理」
悠理は先程から清四郎の前を行ったりきたり、ウロウロ往復している。
退屈して帰りたくなったのか、と問うてみたが、煎餅をくわえたまま悠理は首を振った。
「んーとな、ええっとぉ・・・」
悠理はソファを指差した。
「そこ、座っていい?」
「もちろんですよ」
「えへ」
悠理は清四郎の隣にポスンと収まった。
ぴと、とくっつかれ、清四郎も悪い気はしない。
肩を抱き寄せようと腕を上げたが、清四郎のその腕は空振りした。
隣にいた悠理がころんと寝転がったのだ。
頭を乗せたのは、清四郎の膝の上。
「一度してみたかったんだ、膝枕♪」
「・・・いいですけどね」
清四郎は苦笑する。なんとなく逆のような気もするが、清四郎の膝に頬擦りしている 悠理がひどく可愛かったので、髪を撫でてやった。
悠理は嬉しそうに目を細め、ゴロゴロ(幻聴)喉を鳴らした。

しかし、それもしばらくの間。
「・・・硬い」
悠理の眉がコイル巻になった。
「おまえの膝って、硬いし高い〜、首がこる〜」
「あたりまえでしょう」
「ちぇ」
悠理はあきらめてむっくり身を起こす。
そして、今度はソファの上に足を振り上げた。
「!」
何をする気かと驚く清四郎に、悠理は笑みを見せる。
いたずらっ子の表情。
ぴょんと跳ねた悠理は、すんなり伸びた足を大きく広げ、両足ではさんで座った。
清四郎の膝の上に。

真正面から向き合って。悠理は清四郎の首に両手を絡めた。
「へへへ♪」
コツンと額がぶつかる。
「チューはだめでも、これくらいはいいだろ?」
悠理は額をくっつけたまま、鼻の頭をすりつけた。
「ゆ、悠理」
清四郎も笑みが零れる。
思わず、清四郎は細い腰に手を回していた。
椅子の下に本が落ちてもかまわなかった。
頬と頬を合わせる。
クスクス笑いながら、じゃれあう。
悠理が清四郎の耳元に口を寄せた。

「チューしたいよ・・・清四郎と」

清四郎はついに白旗を上げた。
悠理からの攻めに、清四郎がひどく弱いことはもう証明済み。

「・・・参ったな。なんで学校でキスがだめだって言ったか、わからないんですか?」
「あたいがして欲しがってるから、意地悪してんだろ?」
「バカ」
悠理のやわらかい内股の感触。
きらきら輝く瞳は無邪気な少年のようなのに、ひどく官能的だ。
誘うように艶めく、至近距離の唇。
悠理の腰に回した腕に清四郎は力を込めた。
「ん・・・」
ついばむように、唇を触れあわせる。
舌先で突つき、歯で上唇を軽く噛む。
「くふふ」
悠理はくすぐったそうに首をすくめた。
右手で腰を引き寄せ、左手は悠理の髪に埋める。
そして、薄く開いた悠理の口から吐息を奪った。

覚えたばかりの、恋人のキス。
清四郎にとっても、それはまだ新鮮だ。

熱くなる体に、とろけそうな心。
口付けが深く激しくなるにつれ、抱きしめた悠理の体も柔らかくなる。
「あふ・・・」
唇を解放したとき、悠理はわずかにのけぞり声を漏らした。
快感の声。上気した頬。潤んだ瞳。
たまらず、清四郎は噛み付くように目の前の白い喉に唇を這わせた。

腰を抱きしめながら、片手でスカートの下の足を探る。
清四郎の膝に押し付けられたタイツと下着越しに、悠理に触れる。
清楚な名門校の制服がめくれあがる。
禁欲的な黒いストッキングの下に着けているのは、スポーティな白のショーツ。
見なくても、わかっていた。
朝、清四郎が着せたのだ。快感に意識を飛ばしていた悠理のかわりに。
悠理の内部から自分を引きぬき、力の抜けた足を取って。

快感の記憶に、ぞくりと体が震えた。

このまま、下着を引き裂いて、悠理の中に自分を埋めたい。
細い腰を持ち上げ、奥の奥まで刺し貫き。
座位で突き上げると最初は苦しがるだろうが、すぐに柔軟な体は彼を受け入れるだろう。
熱くとろける内部は、舐めるように彼自身を締め付け絞り上げる。
自分で腰を浮かせ快感を追うやりかたは、もう昨夜教え込んだ。
濡れた内部を掻き回し、ぐしゃぐしゃになるまで、悠理を泣かせたい。



********




「清四郎?」
コツンと額をぶつけられ、清四郎は我に返った。
すっかり、妄想に浸ってしまっていた。
午後の光の降り注ぐ生徒会室。
膝の上に悠理を乗せて抱き合って。
遠からず、妄想を現実に変えてしまいそうな自分が恐い。
部室の鍵は掛かっていない。
仲間たちは来ないだろうが、万一ということもある。
思わず、隣の仮眠室の扉に目をやった。
有無を言わせずこのまま悠理を抱き上げ、そこに篭ることを考慮する。
30秒ほど悩んで、苦渋の思いで却下した。
なにしろ、したくともアレの持ち合わせがなかった。
セーフティセックス。
清四郎の常備分は昨夜使い切ったし、美童から悠理がもらった餞別も残りひとつ。
おそらく剣菱邸に置いてきているだろう。
「あっても、一つじゃねぇ・・・」
「なにが?」
きょとんと問いかける悠理に首を振った。
こんな無邪気な顔をして、制服のポケットに半ダースも避妊具を用意していた彼女のこと。
悠理は体力にまかせてポロポロ子供を生みそうだ。予防するに越したことはない。
たとえちゃっかり持って来ていても、いざ始めてしまえば、ひとつじゃ足りないのはこれはもう経験上間違いない。
「やはり、薬ですかねぇ」
清四郎はピルの処方の記憶を辿る。自宅に帰れば、なんとかなりそうだ。
「く、薬?」
清四郎の呟きに、悠理の眉が寄った。
少し怯えた表情。
その顔に、思いもしなかった嗜虐心が掻きたてられる。

薬、といえば先日ヤバイ物を手に入れた。
清四郎も彼の主観としては健全な高校生。なにも進んで法を侵し危険を楽しむつもりはないが、 好奇心が旺盛すぎるのが玉にキズ。(あくまで主観)
いつの間にやら、裏で取引すれば結構な値の付くコレクションが自宅の秘密の引き出しに揃っている。 もちろんこれは、家族はもとより、魅録とその父には極秘だが。

「あ、あたい、変な薬ヤダぞ!」
悠理が怯えた表情で彼の膝から飛び降りた。
「ぶ」
清四郎は吹き出す。
「ナニ考えてんですか!?ったく、余計な知識だけはありますね」
言いながら清四郎は顔を赤く染めた。
余計な妄想に浸りそうだった自分は棚に上げる。
アレやコレやらを試してみたい気がしないでもないが、いまのところ、清四郎自身にも悠理にも薬は不要。
そんなものはなくとも、十分――――
――――なので、ピルだけは必要だろう。
そうすれば、直接に彼女に触れられる。思いのままに。
「大丈夫ですよ。僕は陰性でしたから」
「ふぇ?」
定期的にしているエイズ検査の結果を思わず告げてしまったが、悠理にはなんのことやらわからなかったようだ。

清四郎は床に落ちた本を拾って埃を払った。
そうと決まれば、早急に自宅に帰って、なにやらイロイロしなければならない。
「悠理、そろそろ帰りましょうか」
「ん。・・・一緒に?」
「ええ。今日は僕の家に来ませんか。歩いて帰りましょう」
悠理の表情がパァッと輝いた。
「一緒におまえんちに?野梨子みたいに?!」
ものすごく嬉しそうな悠理に、清四郎は苦笑する。
「野梨子は隣の家ですよ。おまえは、僕の家に・・・・・僕の部屋に」
それから、僕のベッドに――――とは、言わなかったが。
「わーいっ♪」
悠理は声を上げて清四郎に飛びついた。背伸びをして清四郎の首に腕を回す。
「あたいさ、幼稚舎んときから車だろ。ずっと羨ましかったんだ」
「剣菱邸からは歩ける距離じゃないですからね」
「違うよ。わかるだろ?」
悠理は小首を傾げて清四郎の目を覗き込む。
少し切なげな瞳。
「・・・バカですね」
清四郎は悠理の唇に軽くキスを落とす。
「ふにゃ」
ゴロニャン、と擦り寄ろうとする悠理から、清四郎はすばやく身を離した。
「さ、帰りましょう」
これ以上すると虎の子の一個を使い切ってしまいたくなる。
悠理の唇は、甘く柔らか過ぎる。
身を寄せていると、このまま抱き上げて連れて行きたくなる。
ソファの上に。仮眠室に。

清四郎は悠理から身を離し、仮眠室からもスプリングのきいたソファからも目を背けた。
「悠理、帰り支度を」
「うん」
悠理は清四郎に背を向け、テーブルの上に放り出してあった自分の鞄を手にとった。
そのまま身を乗り出して果物籠に手を伸ばす。
「オヤツはもらって帰ろ♪」
突き出された悠理のヒップ。ルンルン揺れるスカートの裾。
清四郎は笑みを浮かべた。
スキップするように悠理は歩く。
通いなれた道も、楽しいだろう。途中には公園や悠理の好きそうな食べ物屋もある。
仲間たちと歩いたときも、悠理はタッタカあちらこちらへ走り回っていた。
まるで子犬のように。
「引き綱が要りますねぇ・・・」
なにげなく呟いた自分の言葉に、清四郎はドキリとさせられた。

首輪に引き綱。
皮ベルトと白銀の鎖。
悠理の健康的で伸びやかな肢体に絡む、淫靡な拘束具。

縛り付けて体を開かせ、犯しても。
その目に浮かぶのは、哀願の涙ではないだろう。
すすり泣きながら快感に潤む瞳。
その奥に仄見える肉食獣の危険な光。
幼い体と心に相反する、貪欲な本能。
翻弄されるのは、清四郎の方だ。
昨夜もそうだったのだから。

「どったの、清四郎?」
またもや妄想の彼方に旅立ちかけていた清四郎は、悠理の声で我に返った。
「い、いや・・・」
赤面して首を振る。
心の中で高等数学の定理と複雑な化学式と六法全書の8ページ分くらいを諳んじ、平常心を取り戻す。
そうして清四郎はようやく悠理に顔を向けることができた。

しかし、努力は無駄だった。
「ゆ、悠理、なにを・・・!」
悠理を見るなり、清四郎はぎょっとして叫んだ。
「へ?なにって、オヤツ」
悠理は何を清四郎が驚いているのかわからない。

はむっ。
悠理は剥いていた大好物のバナナを口に咥えた。
はむはむ。

小さな口一杯に咥えられた、反り返った太い果実。
まだ熟しきらず固さをもったそれを、悠理は嬉々として咥えている。
清四郎は眩暈を起こした。
そういえば、それは彼女の好物なのだ。
わかっている。わかっている――――が。

思いきりバナナを頬張った悠理は、犬というより、猿のようで。
いつも通りの悠理のその姿に、萎えるならばまだ正常。
しかし、このとき、清四郎の精神状態はかなりの異常をきたしていた。
突然罹った恋の病。
それはもう自覚していた。

ぷつん。

理性の切れる音が聞えた気がした。



********




清四郎は恋人を抱え上げた。
いきなり膝裏と腰を持ち上げ、テーブルの上に悠理を押し倒す。
「んんんっ?!」
バナナを咥えたままの悠理は目を白黒。
広いテーブルの上に縫い付けるように寝かせ、清四郎は自分も身を乗り上げた。
ふたりの重みでギシリと机がきしむ。しかし、このテーブルは丈夫な北欧製だ。
清四郎は悠理の頬に唇を落とし、耳裏まで舌でたどった。
「悠理、美童からの餞別は?」
囁くように問いかけると、悠理はびっくり目のまま、首を振った。
「んがんんんっ」
「置いてきたのか?」
耳たぶを噛み舌先を侵入させると、悠理はびくりと体を震わせた。
「はぐ・・・」
悠理はまだバナナを含んだままだ。
仰向けに横たえ両手を一まとめに頭上で縫い付けているため、 自分でバナナを吐き出そうとしてもできないのか。
それとも、いやしん坊の悠理はこの期に及んで、大好物を完食する気なのか。
「ないと困りますね・・・」
清四郎は悠理のスカートの下に手を差入れる。
ストッキングと下着を一気に引き降ろすと、さすがに悠理は顔を引きつらせて身を捩った。
両足に絡み付く黒い拘束具を脱がせながら、清四郎は悠理の耳を執拗に責める。
「おまえの中に入れたいのに・・・」
甘く噛んでいた耳たぶを引っ張り、低く囁く。
「僕の代わりに、好物のバナナを入れてやろうか?」
悠理が怯えた表情で、首を打ち振った。

悠理の手を拘束していた手を離し、清四郎は彼女の両足を持ち上げる。 スカートが捲りあがり、秘められた場所が露になった。
自由になった手で、悠理はやっと口からバナナを取った。
「へ、変態ぃぃっ」
涙声でわめく彼女にかまわず、清四郎は悠理の両足の間に顔を埋める。
「あ、イヤ!」
大きくM字に足を開かせ、清四郎は昨夜何度も味わった場所に舌を這わせた。
内股から中心まで。ぞろりと舐め上げ、敏感な場所を探る。
まだ、昨夜初めて男を受け入れたばかりの場所は、痛々しく紅く腫れていた。
まるで、熟し過ぎた果実のように。
「やぁーーーっ」
癒すように舌で探ると、悠理が甲高い悲鳴を上げた。
ピチャ、と音をさせて潤みきった場所から清四郎は顔を上げた。
「悠理、ここは学校ですよ。声を抑えて」
「そ、そんなの・・・」
無理、と悠理が言う前に、清四郎はふたたび顔を戻す。
「こんなところ、誰かに見られたいですか?」
舌先を尖らせ、熟した狭間に差入れた。
「んんーっ、んんん・・・」
ビクビク腰が震えた。必死で声を殺そうとする悠理が愛しくて、清四郎は笑う。
「もう一度、バナナを咥えたらどうです?それとも・・・」
舌先で犯した場所に、そっと指を差し入れた。
悠理が好きだと言った指だ。長くて器用な、人差し指。節ばった中指もすぐに後を追う。
濡れた狭い泉。
親指で小さなしこりを刺激しながらゆっくりと埋めていった。
悠理の熱い内壁はゆるゆる蠢き締め付ける。
その感触に、清四郎の体も抑えようもなく昂ぶった。
「ひ・・・ひっく・・・ひいん・・・」
悠理はあまりの刺激にすすり泣く。
「苦しい?おまえの中は僕の指を舐めまわしていますよ?気持ちいいってね」
「や・・・意地悪ぅ・・・」
指は執拗に責める。からみつく内部から、ぬめりを掻き出すように抜き差しする。
「僕が欲しい?」
悠理は泣きながら頷いた。
「じゃあ、僕を咥えなさい。バナナの代わりにね。そうしたら・・・入れてやる」



********




悠理は大きく口を開けた。
ひらりと見える舌が淫靡に紅い。
「あぐ・・・はむ」
反り返った太いそれを喉の奥まで咥え込む。
「もぐもぐ」
一気に食べきった一本目に続き、二本目。
それも驚愕のスピードで口内に消える。
「らに?おまえも食べたい?」
悠理は三本目を剥いて、清四郎の目の前に差し出した。
まだ口をもぐもぐさせながら。

「・・・・・・・・・・・・・いえ」
白昼夢から覚めた清四郎は、目前のバナナを睨み付けた。
恋敵を睨むがごとく。

瞬時に妄想を現実にした場合のリスクを計算する。
部室に人が入ってくる確率は低いが、問題はやはり、アレ。
いくら悠理に口でしてもらっても、やはり入れたい。
咥えさせ拭っても、生で入れるのはまずかろう。
彼女の中にすべてを放ちたい。
なんとしても、それは譲れない。

清四郎は大きくため息をついた。
「悠理、帰りましょう」
家まで我慢。耐えろ、耐えるのだ。
清四郎は己の理性の強さを呪った。

「うん」
悠理は鞄を肩に担ぎ、清四郎の腕を取った。
にっこり笑顔。
きゅ、と握られた手と手。
清四郎の手はじっとりと汗に濡れていたが。
悠理はちゃっかり清四郎のために剥いたはずの三本目を口に咥えている。
清四郎は片眉を上げ、悠理の口からバナナを奪った。
「あん」
「食いながら帰るのはやめてください!」
「なんでだよぉ」
「・・・あとで、思いっきり食わせてやるから」
太くて固い、とっておきを。

清四郎の思惑など露ほども気づかず、悠理は瞳を輝かせた。
嬉しそうに尻尾を振って(幻)清四郎の腕に頬ずり。

「清四郎、だーい好きっ♪」
「−−−−−−ハイ。」

ぎこちなく頷き、清四郎は恋人に笑みを見せた。
らしくない、前傾姿勢で。

突然襲い掛かった春一番。
彼にとってもそれは、まぎれもなく――――制御不能の、発情期。










2005.3.26





ふたりきりの部屋に続く――――って、もういいって?私もそう思います。なんか寸止め感はありますが。
完全に清四郎くん、色ボケ。妄想爆裂。今年の正月に書いた「迎春」と同じパターンですね。一年の計はやはり 正月にあったのか・・・。今年一年、このノリばっかになったらどないしよう〜〜(号泣)
でも、カケラも切なくなく、ひたすらイチャイチャしてるこのふたりって、書くの楽しいっす・・・。

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