〜寝室編〜
客室に敷かれた、一組だけの布団。
男は障子を閉めるなり背後から女を抱きしめ、裾を割って肌を弄った。
それなのに、熱くなった体を抑えつけ、余裕の笑み。
「そんな声を立てれば、親父達に聞えてしまいますよ」
悠理の唇に、清四郎は人差し指を押し付けた。
「・・・声なん・・か・・・」
出してないやい、という悠理の言葉は、激しい息遣いに消える。
左手の人差し指はそのまま悠理の唇をたどり、歯列を割って侵入した。
「ん・・・ん」
悠理は思わず節ばった清四郎の指に舌を絡めた。
甘美なキャンディであるかのようにしゃぶる。
放すまいとする悠理の唇から、強引に抜き差しされる指。
右手は左手と同じように、女の中心で蠢いていた。
両足は閉じられないよう、清四郎の腰で割られている。
すでに濡れそぼった最奥から快楽を掻き出すような動きをする指に、自由に
ならない体が跳ねた。
風呂上がりの火照った体。
着崩れた浴衣を羽織った清四郎の半ばあらわになった胸からは、悠理と同じ
石鹸の香り。そして、欲望を煽るかすかな体臭。
悠理は羞恥に身が火照るのを感じていた。
先ほどまで、一緒に風呂に入っていたのだから、
いまさら全裸で向かい合うことは恥ずかしくはない。
羞恥を感じるのは、久々に見る清四郎の浴衣姿。彼の母親の手製で、悠理自身も
同じ物を身にまとい――――もとい、体の下にすでに敷いているだけの状態だったが。
ここは、いつものふたりの部屋ではなく、清四郎の実家である菊正宗家なのだと、あらためて
気づかされた。
家を出て婿養子となった清四郎の部屋はすでに姉に占拠されてしまっているため、
急に訪問したこの夜、客間がふたりのために用意された。
見慣れた天井。
学生時代に何度も仲間たちと泊まった和室だ。
だけど、ここで清四郎に抱かれたことはなかった。
ずっと、ただの友人に過ぎなかったから。
*****
何度もいじられ吸われ擦られた胸の先は、果実のように色づき堅く尖っている。
舌先で転がして楽しんでいた清四郎は、悠理の下肢に伸ばしていた手の
動きを早めた。
挿し込んでいる指を増やし、掻き回す。
彼の指と舌と、欲望それ自身しか侵入したことのない場所は、もう潤み息づき男を待ちわびていた。
「あ・・・あぅん」
指を抜かれて、悠理は身震いする。
すでに力の入らない膝を大きく広げられた。
求める場所に、堅さを持ちはじめた熱い塊が触れる。
「・・・・・・・」
だけど、清四郎はそれ以上動かなかった。
じっと見られている視線を感じた。
「な、なに?」
焦らされているようで、気分が悪い。
きつく閉じていた目を悠理は開いた。
愉快そうに見下ろす清四郎の黒い目とぶつかる。
「おまえをこの家で抱くのは、初めてだったな、と」
清四郎はクスクス笑いながら、ゆっくりと腰を進めた。
悠理は圧迫感に少し息をつめ、清四郎がすべてを収めると快感の息を吐いた。
ふたりが初めて肉体的に結ばれたのは、結婚初夜。
セックスレス、仮面夫婦で過ごすのだと思っていた悠理からすれば、だまし討ちのようなものだった。
最初は痛くてたまらなくて。
嘘つき、と清四郎をなじった。
だって、ふたりはそのときですら、ただの友人に過ぎなかったのだ。
悠理の腰を抱え上げ深く交わった清四郎は、腰を動かした。
最奥に突き入れ回し、悠理の感じるところを探る。
「あ、あ、あ・・・」
ピンポイントに達してこすられ、悠理は悲鳴を上げた。
清四郎は我が意を得たりとほくそ笑む。
悠理の体内に差入れられた清四郎の熱く堅い屹立。
もう十分すぎるほどの圧迫感があるけれど、
まだ完全に育ちきっていない内に悠理の中に入れるのは最近の清四郎の癖だ。
中でもう一段階、大きくなる感覚に、悠理は喘いだ。
清四郎が動きを止めた。
また、意地悪な笑みを浮かべている。
こんな清四郎が悠理は嫌いだった。
自分の体が清四郎をもとめ、あさましく締め付け吸い尽くそうと蠢くのを感じさせられる。
「い、いや・・・」
「おまえの体はそう言っていませんよ?」
清四郎は悠理の首筋を唇で辿った。
弱い所をくすぐり、小さな胸のふくらみを手で揉みしだく。
すでに弄られ噛まれ充血しきった胸の先端は、濡れて光っていた。
清四郎はふたたび唇で咥え、ひっぱる。
「ひゃぁん」
たまらず、体が跳ねた。
「こらこら、そう締め付けるんじゃない」
清四郎は悠理の乳首を甘く噛み、もう一方を親指の先でこすり潰した。
「もう、胸だけでもイケそうですな」
意地悪で冷徹な男の声。
動かない男の腰をはさみ、悠理の足が意志に反して揺れる。
「っあーーーーー・・・」
胸を弄られるたびに、細い悲鳴が洩れ、腰が震えた。
*****
普通、別れた男女はセックスなんかしない。
普通じゃないふたりだけど。
恋をして結ばれたわけではなかったから?
喧嘩別れしたわけじゃなかったから?
元どおりの、ふたりにもどるのは簡単なはずなのに。
そうあったはずの、友人。腐れ縁の凸凹コンビ。
だけど、放してもらえない。離れられない。
翻弄される体。
置いてけぼりの心。
悔しくて、悔しくて。
悠理は男のまだ肩に引っかかっていた浴衣をつかんだ。
「?!」
ぐっ、と脱がせると、清四郎がおもしろそうに口の端を上げた。
露になる、逞しい体。
それでもその頑健さと力を知る者からすれば、細身過ぎるほどのしなやかな筋肉。
清四郎はようやく腰を動かしはじめた。
汗が肌を伝う。
「悠理・・・悠理」
下ろした前髪の下の目が、欲望に潤んでいる。
わずかにしかめられた眉。
いつも取り澄ました彼の顔に浮かぶ、乱れた淫靡な表情。
そして名を呼ぶかかすれた声。
突き入れる動きが激しさを増し、悠理の体がガクガク揺さ振られる。
すがりつくよすがを求めて伸ばした手は、清四郎の指に絡めとられる。
「悠理・・・!」
無意識なのかも知れない。彼は、必ず達しそうになると彼女の名を繰り返し呼ぶ。
悠理しか知らない、その声音。
最奥に突き入れられたとき、目の前が真っ白になって、清四郎の顔が見えなくなった。
悔しくて、悔しくて。
一瞬、無防備な表情をする彼の顔を見ていたかったのに。
悠理しか知らない、その顔。
胸を締め付けるのは、快感だけではない。
その感情をなんと呼ぶのかは、知らない。
*****
清四郎は悠理の中で緩んだ自分をまだ抜き出しはしなかった。
一度で放してくれるほど、優しい男ではない。
体力が常人離れしているのは、お互い様だ。
ゆっくりと、清四郎は律動を再開した。
擦られた部分から、濡れた音が立つ。
知らず、男の動きに合わせて腰が浮くのを、悠理はもう抑えることが
できなかった。
意識が眩む。
本能のままに体が求める。
たったひとりの男を。
恋をして結ばれたんじゃないから、どうやって別れられるかわからない。
腐れ縁を切る気もない。
一度の離婚で、放してくれるほど、甘い男ではないのだ。
まだ――――離れられない。
2005.2.4
ええ、風呂場編より先に書いてました。正真正銘、高熱中。脳内エロエロ祭り開催中です。(いつもか?)
清四郎くん視点より、悠理ちゃん視点の方が、甘さ控えめのようです、この馬鹿夫婦。
離婚はいつも彼女の精神的欲求不満が原因ですから。でもなにが不満かイマイチ自覚していないようです。
”一生ヤッテロ”とこのシリーズに関しては思っていましたが、この話を書いてちょっと気が変わりました。
ほんとにいまわの際まで無自覚だったら、可哀想よねー。
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