2006

『明けましておめでとうございます。本年もよろしゅうご贔屓に。』

『頼むだ!』

 

――――と、いつもの正月であれば、皆で揃って参る神社に、清四郎と悠理はふたりきり。

万作百合子は夫妻揃って、ホワイトハウスの新年パーティに。

有閑倶楽部の仲間たちは、剣菱特別仕様車で共に出発したのだが、車中で悠理が餅を喉に詰め、あげくゲロを吐くというトラブルに見舞われたため、はぐれてしまった。

いや、正しくは、仲間たちには呆れて見捨てられたのだ。

清四郎が悠理の口を押さえて、ラブホテルに連れ込んだために。

 

清四郎の名誉のために明記しておくと、彼だとて知らなかったのだ。そのホテルがそーいうトコロであることを。

室内では、ゲロを吐く悠理を介抱し、乱れた振袖を慣れない男の手で見よう見真似に着付けてやっただけ。

――――まぁ、哀しい男のサガ。脳内ではあんなこんな妄想を逞しくさせたが。

 

「・・・悠理に、ねぇ」

清四郎は、そっとため息をついた。

自分の妄想に、清四郎は少なからずショックを受けていた。

 

野生児でお馬鹿で、今年の干支そのものなドーブツ悠理に”あんなこんな”。

 

ラブホテルというシチュエーションのなせるわざ?ついつい妄想に耽ってしまった己が信じられない。

 

「なに?」

清四郎の呟きに、悠理は小首を傾げて見上げてくる。つぶらな瞳。

・・・・可愛い。

己のその感情に、清四郎は戸惑いを隠せない。

しかし、ふたりはいまだしっかりと手を繋いだままだった。

 

清四郎が、小さなこの手を離せないのだ。

 

 

 

 

 

神社の前で周囲を見回したが、あの装甲車も友人達の姿もなかった。

「とりあえず、お参りはしますか?」

「うん」

ふたりで、小さな鳥居をくぐった、瞬間。

「あ、痛っ」

「おや」

悠理がぴょんと跳ね、一歩後退した。

そういえば、悠理は草履なしの、足袋姿。玉砂利が足の裏に痛かったようだ。

「なにか履き物が要りますね」

この神社は街中で、商店街も近い。

元旦なので、ほとんどの店は閉店だが、コンビニとその隣の雑貨屋が目に入った。

「ちょっと待ってて下さい」

清四郎は悠理を待たせ、店に向かった。

 

すぐに戻る。

「思ったより、いいものが手に入りました」

清四郎は悠理に袋を渡す。

「おお!足袋とビーチサンダル?まぁ、裸足よかいいよな♪」

ビーチサンダルは赤い鼻緒。

「健康サンダルよりはそれっぽいでしょう」

そうか?

とも思いつつ、清四郎は悠理をひょいと横抱きに抱き上げた。

「うひゃっ?!」

「そこのベンチで履きましょう」

暴れようとする悠理を、強く抱きかかえる。

清四郎がぎゅうぎゅうに帯を締めて着付けた着物は、悠理の動きを拘束している。

結果、石のベンチまで悠理を無事搬送できた。

 

「び、びっくりすんなぁ・・・」

悠理は顔を真っ赤に染めて、焦り顔。

その顔さえ、可愛くて。

清四郎は悠理の足元に膝を付いた。

「ほら、ずっと足袋で歩いてたんだから、傷ついたんじゃないですか?見せてください」

ちょこんとベンチに座っている悠理の足を取って、汚れた足袋を脱がせにかかった。

「い、いいよ、自分で履き替える!」

「こら、着物で膝を立てるんじゃない!」

悠理がもがいたせいで、裾が割れ、すんなりした足が目の前に晒される。

清四郎は慌てて悠理の着物の裾を引っ張った。

「着物のときくらい、じっとしてなさい。軟膏も買って来ましたから、塗ってあげますよ」

清四郎はコンビニの袋からオ@ナイン軟膏を取り出し、蓋を開けた。

「ほら、やっぱり、少し切ってますよ」

悠理の白い素足を左の掌に乗せ、右手でクリームを塗る。

「うひゃっ、こ、こそばゆいって・・・」

悠理の抗議にかまわず、足の裏と指の間に、クリームを伸ばした。

「あ、あふ・・・」

すべすべした足。ほんのり色づいた指先。

清四郎の手の中にすっぽり収まるその足に、口付けたい衝動に駆られた。

 

「せ、清四郎・・・」

悠理の声に、ありえない艶が混じる。

まぎれもなく、気のせいだが。

 

「こんなとこで・・・恥ずかしいよ」

そう言われて、周囲を見回した。

小さな神社だが、今日ばかりは初詣客が途切れない。

鳥居のすぐ横のベンチで腰掛けている悠理と、その足元にうずくまっている清四郎。

確かに、少々人目につく場所だ。

「もっと、人気のないとこ・・・ない?」

ありえないはずなのだが。

それでも、清四郎の理性は悠理のその声音に篭絡された。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ」

 

清四郎は機械的に答え、ふたたび悠理を横抱きに抱えあげた。

そのまま、ダッシュで神社の裏手に回る。

誰も訪れそうにない、木立の中へ。

 

ベンチを探すが、さすがになく、替わりに切り株を発見した。

悠理を抱いたまま、その切り株に自分が座る。

清四郎の膝の上で、悠理はびっくり目。

「悠理・・・・いやですか?」

「え?な、なにが?」

 

妄想の中では、もう本日数回は犯したとはいえ。

本来の悠理は、しっかり処女のはず。

男が女を抱いて林に連れ込み、考えることはひとーつ!なんてこと、彼女が察するはずはない。

 

清四郎は腕の中の悠理に顔を近づけた。

唖然としたまま避けようとしない悠理の無邪気な唇に、そっと唇で触れる。

ついばむような、軽いキス。

だけど、悠理は茫然自失。

「僕と、こうしてふたりきりになることが、です」

質問にはしっかり答え、凝固している悠理を抱えなおし、ふたたび唇を奪った。

今度は、激しく、深く。

「んんん・・・!」

悠理は思い出したようにもがいたけれど、清四郎は彼女をもう離せなかった。

 

都会の神社。数メートル先には、初詣客が行き交う。

こんなところで、なにができるわけでもないが。

清四郎は、彼女の着物の裾から、伸びやかな脚を撫で上げた。

「あ、あふ・・」

唇を解放すると、悠理は吐息。

気のせいではなく甘いそれに、手は止まる筈もなく。

イタズラな指先は、清四郎の理性を踏み越え、悠理の脚の奥にまで侵入した。

秘められた、花園へ。

 

 

「清四郎・・・!」

焦った叫び声に、埋葬された理性が蘇る。

「ゆ、悠理・・・ゴメン」

「恥ずかしいよってば!」

真っ赤なふくれっ面と同時に、周囲の状況が目に飛び込んだ。

 

まだ、神社脇のベンチ。清四郎は悠理の足元に屈み、彼女の素足を手に握り締めていた。

「あ・・・?」

清四郎はじっとりと汗ばんだ手から、悠理の足を放す。

悠理を連れ込んだはずの林は、視界の隅に映るのみ。切り株の存在はようとして知れず。

どうも、悠理の足にクリームを塗りつつ、白昼夢に浸っていたらしい。

 

悠理は足袋の袋を開けて、自分でよっこらしょ、と片方履き終える。

かがんでいた清四郎には、しっかり立てた膝から奥が見えてしまったが。

悠理の秘密の花園――――タマフクパンツ。

 

清四郎の理性はまたもや、土深く埋もれ、卒塔婆が立った。

「恥ずかしいなら・・・もっと人目につかないところに行きましょうか?」

「ん?」

もう片方の足袋を片手に、悠理は男の欲望など気づきもせず、きょとんと小首を傾げる。

・・・・やはり、可愛い。

 

清四郎はもうはっきりと自覚せざるを得なかった。

 

新春。迎春。謹賀新年。

新しい年が明けた。

 

ふたりの長い友情にも、新しい夜明けが来ても良い頃だ。

迎える春は、ふたり一緒に。

ついでに、夜明けもふたり一緒に。

 

欲望と感情にかられ、清四郎は自覚したばかりの思いを彼女に告げるべく、悠理の足元にうずくまったまま、彼女の足をつかんだ。

まだ履き終わっていない、素足を。

白く小さな、彼女の足を。

「悠理、僕は・・・・!」

 

 

「「「「何してる(んです)の?!」」」」

 

清四郎は言いかけた言葉を飲み込んだ。

ここは、仲間皆で来るはずだった神社。

その鳥居の真横。思いっきり目立つ場所。

悠理の片足をつかんだまま、清四郎の背中に冷たい汗が流れ落ちた。

 

「あ、みんな!」

悠理が腰を浮かせるが、それ以上動くことはできなかった。清四郎が足を握ったままだったから。

そして、清四郎も動くことができなかった。

盛り上がるだけ盛り上がった男のサガ。

いくら、ゆったりした着物姿だとはいっても、もう少し時間の猶予が必要だ。

近づく仲間たちの足音を背後に聞きながら、清四郎は前のめりでうずくまっていた。

 

昨夜、除夜の鐘を聴きながら、煩悩を捨て去る必要を感じなかった暢気な自分が懐かしい。

わずか一日。

しかし、昨日と今日では、別の年だ。

新しい年を迎え。

清四郎ははっきりと悟っていた。

こんな今年の干支そのものなドーブツ悠理に、あろうことかこの菊正宗清四郎が――――もう、恋をしていることは、確実だということを。

 

一年の計は元旦にあり。

迎える年は、どんな年?

 

 

 

A HAPPY  NEW  YEAR!

 

 


 

初お馬鹿です。突発的に書きたくなった、昨年の「迎春」の一年ぶりの続き〜♪

今回、姫始め妄想はありません。たぶん。ええ。探さないでください!(笑)

 

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