エロティカ・セブン 〜真夏の果実〜




海はあの日と同じ色。
皆で来た去年の海。

口に出して呼べない名前を、砂に書いては消した。波に洗われて消える前に。
名を呼べば、振り向いてくれるだろうに。
親しい友人に見せる、いつもの笑顔で。

どうして、口に出せないかも、わからなかった。
ただ、何度も名前だけを砂に書いた。
消しても消しても、胸の中から消えない名前を。

それは、まだ自分の気持ちにも気づいていなかった頃。
切ない色をした、去年の海。



*******




「・・・・っ痛ぅ」
彼が顔を歪めた。
汗が首筋をつたい落ち、胸元を濡らす。

「痛いですよ、悠理」
非難されて清四郎の背に回していた手を思わず放してしまったけれど、それほど爪を立てた覚えはない。
「・・・痛くしてないよ」
抗議して、逞しい肩を指先で辿った。筋肉の流れにそって指を進める。
撫でるようなその指の動きにさえ、清四郎は首をすくめた。
「痛っ・・・日焼けして痛いんですよ」
言われてみれば、肩から首にかけて腫れたように真っ赤に染まっている。
悠理はケラケラ笑い出した。
「バッカだ〜〜!だから、あたいがオイル塗ってやるって言ったのにさ」
清四郎はむっと口を尖らせ、鼻に皺を寄せた。
「僕に”バカ”とは、この口が言うんですか?」
すぐに、悠理の笑いは封じられる。噛みつくようなキスで。
同時に、止まっていた腰の動きが再開された。

「ん・・・んんっ」
ゆっくり突き上げられ、触れ合った部分で汗と体液が湿った音を立てる。
それは、嬌声を吸い込まれる唇だけでなく。
透明な糸を引いて触れ合った唇は離れた。けれど、深く差し込まれた体の奥の愛しい楔は、まだより奥を穿とうとする。
ゆるい腰の動き。
奥を探ったあと、清四郎は腰を浮かせる。それでも抜けないのは悠理の体が収縮し、離すまいときつく締め付けてしまうから。
清四郎を奥深くで感じるたびに眩む目を、必死で悠理は閉じまいと開いた。

だって、見ていたかったから。
常はクールで意地悪な黒い瞳が、少し苦しげに寄せられた眉の下で、悠理を求めて熱く潤む。
白い清潔な歯の奥で、赤い淫靡な舌がもの言いたげに蠢く。
「・・・ふ・・・」
愛の言葉の代わりに、濡れた唇は満足げな吐息を吐く。

「せいしろ・・・清四郎」
この男は自分のものだと、激しい欲望が悠理の内部を焼いた。
「・・・痛っ・・・締め付け過ぎですよ」
それはそのまま、繋がったままの下肢から清四郎に伝わるのだろう。
もう背にも肩にも触れてはいないのに、清四郎は顔を歪めた。欲望と喜びの痛みに抗議の声は甘い。
「悠理・・・あぁ、すごいぞ・・・お前」
その声に、清四郎の腰を挟んだ悠理の足は震えた。

清四郎の目に映っている熱。それが体の欲望だけじゃなく、心の欲望だといいと思う。
悠理が清四郎をもとめるその強さほどの。

愛しくて愛しくて、苦しくて。

ずっと片思いだった。手に入るなんて思わなかった。
もう何度も何度も抱き合ったのに、この痛みには慣れることができない。
幸せすぎて、胸がつぶれそうになる、痛み。

「オイルは塗られるよりも、塗る方が楽しすぎてねぇ・・・」
ゆるく腰は悠理を責めながら、清四郎は思い出し笑い。
悠理の胸の痛みなど知らぬ気に、その胸の先に顔を埋める。
一番敏感な胸の先を唇の先でついばまれて、悠理の体に電流が走った。
尖りきって赤く充血した部分に、舌が絡みつく。意地悪な唇と歯が、こすり潰すように乳首をもてあそぶ。
吸い上げられ、同時に根元から大きな熱い手に揉み上げられた。
「あ・・・あふ・・・やぁっ」
一糸まとわぬ体がビクビク痙攣する。
痛むのは胸の内側。感じすぎて苦しい。
オイルを塗りこまれ、水着の下に忍び込んだ手に翻弄されたときのように。



*******




終わろうとする夏を惜しんで、訪れた海。
昨年、仲間達と訪れた同じ場所だったけれど、今年はふたりきりで。
水着を選ぶところから、一緒に始めた。
もちろん、悠理は水着をたくさん持っているのだけど、清四郎がどうしてもプレゼントすると言い張ったのだ。

「泳いだら脱げそうな布の少ないのなんか、ヤだからな」
ふたりきりになるととんでもなくエッチになる恋人を牽制する。
「だいたい、どんなの着たって、色気なんかでないじょ」
なにしろ、ほとんどなきがごとしの胸。少年のような細い手足。女らしさのない体は、悠理のコンプレックスだ。
清四郎に恋するまでは、気にしたこともなかったのだけど。

「おまえは、自分を知りませんねぇ」
恋人はニヤニヤ笑う。
「僕以外の男の目から隠してしまいたいくらい・・・扇情的なのに」
着衣の上から、さわりと撫で上げられ、悠理は震えた。
かすかな感触でさえ、感じてしまう。
「ほら、こんなに敏感だ」
「あ・・・」
清四郎の選んだ水着は、白い肌に映えるように、と朱色のセパレート。
試着室で、首の後ろの紐を結んでくれた清四郎の指にさえ、感じて。
弄ばれたわけではない。
試着室では、背後から軽く抱き寄せられただけ。
それなのに、姿見に映った自分は、ひどく淫らな顔をしていた。
清四郎に愛されるまでは、知らなかった。こんな自分を。



海水浴場を避けてひと気のない海岸を選んだのは、そういうつもりではなかったのだろうけど。
オイルを手に、清四郎は悠理の肌を隅々まで撫で上げた。
日には焼けない、水着の内側にまでぬるりと手は侵入する。
ぬめる指先は胸の先のしこりを弄り、薄い水着の生地を持ち上げるほど尖らせる。
「や・・・こんな、見えちゃう・・・」
「僕しか、いませんよ」
楽しげに、水着の上から尖った先を咥えて引っ張る清四郎に、翻弄されて。
オイルの助けがいらないほどぬめる部分に、指を埋められ。
ぐちゅぐちゅに掻き回され、意識は混濁する。
清四郎が、欲しくて、欲しくて。

清四郎の水着は、悠理の選んだ膝丈のサーフパンツ。ゆったりとしたデザインに清四郎の昂ぶりは隠されていたけれど、 押し付けられ隙間から侵入してきた彼自身は、二本に増えていた指などよりも、固く太い。
岩陰で、激しく突き上げられた。
立ったまま、水着を着けたまま、太陽に照り付けられたまま。

寄せては返し、激しく叩きつける。
白く泡立つのは、波の飛沫。
彼の飛沫。

恥ずかしさよりも、快感と喜びに、泣きたくなった。
清四郎に求められるたびに、それよりももっと彼を求めている自分を思い知らされる。
心も、体も。

太陽から隠れるように、海中に身を沈め。
抱き合ったまま海中を漂い、体を重ねた。

青く広がる海の中で。
このまま、海に溶けてしまうかと思った。ふたり、繋がったまま死んでしまうかと。
――――それでも、いいとさえ思った。
愛しくて愛しくて、苦しくて。
幸せすぎて。

息苦しさか、激しすぎる快感のせいか、気を失っていた。
浜辺で意識を取り戻したとき、まだふたりは繋がったままだった。
いつの間にか、空は茜色に染まっている。
満ちてゆく潮に体を濡らしながら、飽かずに彼は悠理の中から去らない。
体の下の砂が波に削られ、浮遊感を与える。
意識も、波のように寄せては返す。

夢の中に行ってしまいそうになるけれど、彼に無理やり地上に繋ぎとめられる。
ふたり馬鹿みたいに、潮にまみれ、砂にまみれ。

「清四郎・・・キスして」
隙間なく体を重ねながらも、口付けを求めた。
「しょぱいですよ?」
清四郎は悪戯っぽく笑いながらも、望むものを与えてくれた。



*******




その海辺のホテルに駆け込んだのは、砂だらけの体を清めるためのはずだった。
一流のリゾートホテル。剣菱系列のホテルだったため、水着の上にパーカーを羽織っただけの突然の客も最上階のスイートに通された。

広い風呂場で、お互いを清めあう。

砂まみれになっていた清四郎の髪を指で梳いた。黒く艶やかな真直ぐな髪。
火照った体を冷やそうとシャワーは冷水。
流れる真水が均整の取れた逞しい体を流れ落ちる。

意地悪な笑みを浮かべていても、全裸の清四郎は彫像のように綺麗だった。
そして、彫像とは違って、熱く脈打っている。
「こんなところにまで、砂が。困りましたね」
「だ、誰のせいだよっ」
ザリザリとした砂の感触を楽しむように、指は肌を擦りあげる。
清めるはずの指の持ち主は、意地悪な恋人。
痛痒い感触は、すぐに官能に変わった。

体の中に留まって痛みを与える砂。
彼の指が掻き出してくれる砂も潮も、去年の海のものだといい。
彼の名を書いては消した、あの日の浜の。

「ほら、甘くなった」
塩水を流し清めた体を、指だけでなく舌と唇が這い回った。
「しょっぱいのは、ここだけか?」
清四郎は悠理の体を探りつづける。ぴちゃり、と舌を鳴らして舐め上げる。
「・・・いや、どこもかしこも甘いな、お前は」
体を湿らす恋の蜜。溢れだし滴る、甘い涙。



そうして、ベッドの上でまた求め合った。
「ああっ、ああん、ああ・・・!」
リズミカルな腰の動きが、速まる。悠理の弱いところを知り尽くし、内壁を擦り突く。
今は海中ではないのに、悠理は空気をもとめるように喘いだ。
「あ・・・・う・・・んん・・・」
激しすぎる律動に揺らされて、頬から涙が零れ落ちた。
「どうして、いつも泣くんですか?」
責め立てながら、清四郎は問う。

きっと彼には、一生わからない。
幸せすぎて、苦しいなんて。

「好き・・・好きって、言って」
これほど求められ、四六時中触れ合って。
それでも足りないと心が叫ぶ。

繋がった部分に彼が指を這わす。
親指で敏感な芽を転がされた。
「あーーー!」
悲鳴は、快感のために。
清四郎は胸の先を甘く噛んだ。
「好きですよ・・・甘い果実だ」
音を立てて舌を使い、なぶり味わう。
それは、赤く熟れた部分に対してなのだろうけど。

激しすぎる律動。
もう、息もできない。
体の最奥に届き肉を割る楔が彼の絶頂が近づいていることを、教えてくれる。
寄せられた眉が。潤んだ瞳が。滴る汗が。
「・・・くっ」
清四郎の詰まった声に、悠理が先に達しそうになる。
一緒に、連れて行って欲しいのに。
溢れ出すのは、甘い涙。涙の果実。



いつの日か、この夏を思い出すのだろうか。
胸に迫る熱い面影とともに。
それとも、いつか忘れてしまうのだろうか。
痛いほど愛した記憶を。



幸せすぎて、胸が痛む。
欲張りな心は叫ぶ。

――――四六時中、好きと言って。





by たむらん様




END





最初から最後までヤリまくっております。ええ、念願の(爆)浜辺エッチ。踏んだり蹴ったりだった今年の帰省から戻ってきて 発熱した際に書きなぐりました。詳細に体位を書いていないのが、なけなしの良心だと思ってください。(誰も思ってくれんだろうが・・・)
よく似たタイトルのお話を表のお部屋に陳列しておりますが、あっちでエロ妄想はまずいでしょう。だって、清四郎くんが鬼畜ですからね。
とゆーわけで、エロといえば、やはりこのふたり、ケダモノカプ。タイトルはもちろんサザンのお歌です。エロチカのくせに、そこはかとなくシリアス調なのはお歌のせいかな?
悠理ちゃん視点だと、エロチカも結構純愛物なんですよ。傍から見たら、タガの外れまくったエロカップルなんですが。
たむらん様の爽やかでラブラブなイラストをこの話に付けるのはもったいない!と苦悩いたしましたが、 画伯いわく、水面下ではしっかりヤッてるそうです、この人たち。(笑)

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