エロティカ・セブン




〜番外編 「20万回のKISS」 その1〜



さわやかな初夏の午後。
「明日の土曜日、皆で久しぶりにどこかに行かない?」
部室での可憐の提案に、仲間達は応諾した。

「横浜に行っておきたい素敵なお店がオープンしたんだよね」
「そういえば、上野でいい展示会があるんですよ。たまには博物館めぐりはどうですか」
「美術館でもいいですわね」
「冗談、あたいはだんぜんアスレチック!」
「俺も美術館はパスしてーな」
「いい季節だから、自然公園でピクニックなんてどう?」

「弁当持って!!」
悠理が顔を輝かせた。
その一言で、行き先は決定する。

六人が揃ってどこかへ遊びに行くのは、数ヶ月ぶりだった。テーブルに集った誰の顔にも笑みが浮かんでいる。
「本当に久しぶりよねぇ・・・あんたたち、付き合い始めてどのくらい経つ?」
可憐は悠理と清四郎に顔を向けた。
「ええと・・・2ヶ月?3ヶ月だっけ?」
「2ヶ月と22日です」
恋人達の言葉に、残る四人は目線を交し合った。
実のところ、清四郎と悠理が付き合い始めてから、仲間達は彼らと一緒に行動することを意識的に控えていたのだ。
それは、遠慮などという理由ではなく。

「そういえば、付き合いだしてから、一緒にどこかへ出かけるのは初めてですね」
清四郎が笑顔でそう言った。それに頷きかけた仲間達は、おや?と首を傾げる。清四郎は仲間達ではなく、 真っ直ぐ恋人を見つめていたから。
「うん。そーいやそーだな」
悠理も清四郎に頷き返している。
「じゃあ、これが初めてのデートだぁ!」
悠理は薔薇色の頬で全開の笑みを浮かべた。

「「「「えーーーーっ?!」」」」

仲間達の驚愕の叫びが重なる。
「あんたたち、あんなに四六時中一緒にいて、デートもしてないのー?!」
「四六時中、一緒にいるから、デートする必要もないんじゃありませんの?」
「バカね、野梨子、それとこれとは別よお!一体、あんたたち何してんのよ??」

「「・・・・・。」」
可憐の呆れ声に、恋人達は押し黙った。

(何って、「ナニ」ばっかしてたんだろうなぁ)
美童は魅録にこっそり囁く。
魅録は髪の色と同じ色に顔面の色を変えた。



********




「え、えっとぉ、それで、分担決めましょうよ」
コホンと咳きつき、可憐が再び提案した。
「魅録は皆で乗れる車の調達と運転をお願い。美童はおば様のあの素敵なピクニックセットを借りられるかしら?」
「了解」
「オッケー。バスケットとシート、食器のセットだね?ワインも準備しようか」
「いいわね。お弁当のおかずは私が腕をふるうわ。朝、ちょっと早めに家に来て詰めるの手伝ってちょうだい」
「私も行きましょうか?可憐一人に作らせるのは申し訳ないですわ」
「それもいいけど、それだと今日から泊まりに来なきゃよ?10人前(5人+悠理分)は作るから、朝早いもの。 それより、あんたには、おむすびをお願いしたいのよね」
「ああ、それがいいですわね。私は家でおむすびを準備いたしますわ」
「野梨子一人で、10人分を握るんですか?そうだ、僕も手伝いますよ。隣なんだし」
幼馴染の申し出に、野梨子は嬉しそうに手を合わせた。
「それは助かりますわ!清四郎は手が大きいから、おむすび作りも得意ですものね。ちょっと強く握りすぎるのがなんですけど」
「ちょうど、旨い佃煮が家にあるので、朝持って行きますよ」
清四郎と野梨子は顔を見合わせる。そして微笑した。
「「そういえば、昔一緒に作った、あのびっくりおにぎり・・・」」
子供の頃の思い出話に、二人の声が重なったとき。

「・・・あたいはぁ?」
清四郎の背後から発せられたのは、悠理の小さな声。
野梨子の笑顔が強張った。自分に集中する仲間達の視線に気づいたのだ。
可憐も美童も、魅録でさえ、じと〜んと、野梨子に非難の目を向けていた。

(ま、まずいですわ!無神経だったかしら・・・)
当の悠理は、俯いて足先で床にのの字を書いている。
「あたいは・・・なんも分担しないの〜?」
淋しそうに呟かれた言葉に、野梨子の胸が締め付けられた。
「あ、あの悠理・・・」
悠理の元に野梨子が駆け寄ろうとしたその寸前。
清四郎がクルリと悠理に振り返った。
「おや、手伝わない気なんですか?」
「え?」
「明日の朝野梨子の家に行くんだから、僕は今日は家に帰りますよ。おまえも当然一緒に帰るでしょう?」
「・・・そっか。そうだよな」
当然、というかなんというか。
付き合いだしてからふたりは互いの家を行ったりきたりの毎日。ここのところは清四郎が剣菱邸に住みついているも同然の状態だった。
四六時中一緒、というのは冗談ではないのだ。

「じゃあね、じゃあね、あたい前から作りたかったおむすびに挑戦していいかなぁ?!」
「ほう、なんですか?」
「実物大サッカーボールおむすびーー!」
「・・・ふむ。お前らしいですな」
「中にから揚げとか鮭の切り身とかいっぱい入れたら、旨いじょー!」
「おかずは可憐担当ですよ。野梨子に朝からから揚げを作らせるのは気の毒です」
「それもそうだな。だったら、中は何も入ってなくていいや」
悠理はきらきら輝く瞳で、舌なめずり。仲間たちは苦笑する。
清四郎はそんないつも通りの悠理の様子に、目を細めて口の端を上げた。
「実物大はいいとしても。足で蹴ったりはしないで下さいよ」
「ま、まさか食い物蹴ったりはしないよぉっ」
言いながら、悠理は上目遣い。
「でも、サッカーボールだから、手を使えば反則だよな。足で食べちゃ、ダメ?」
「馬鹿者」
清四郎はふぅ、とため息。
「ちゃんと綺麗に足洗えばいいだろ?」
「そういう問題じゃありません!」

さっさと清四郎が悠理の飼い主に収まってくれて良かった、と思いながらも、こんな女に捕まった清四郎に仲間たちは同情を 禁じえない。しかし彼らの会話に混ざる気もなく、苦笑していた。
次の悠理の発言までは。

「おまえいつも、あたいの足の指、平気で舐めたりしゃぶったりするじゃんかー!」
「ゆ、悠理!!」

清四郎が悠理の口をふさいだときには、仲間たちはゴチンとテーブルに頭突きをかました後だった。
この2ヶ月と22日でかなり慣らされ免疫ができていなければ、野梨子のビンタが清四郎の頬に飛んだことだろう。往復で。



********




翌朝。
山ほど作り上げたおむすびを持参した三人が、白鹿家の前で魅録のバンに乗り込む。
既に乗り込んでいた可憐は、憤慨した表情の野梨子に、同情の笑みを向けた。
「・・・あいつらと一緒におむすび作りなんて、酷だったかしら?どうせ、朝からイチャつきまくってたんじゃないの」
ボール状の風呂敷を大事そうに抱えたご機嫌の悠理と、その隣に乗り込んだ笑顔の清四郎。7人乗りのバンの最後尾は三人掛けだが、 彼らの隣に乗り込もうとするツワモノは誰もいない。
「そういうんじゃないんですのよ」
野梨子は不満顔で首を振る。
「最初は良かったんですの。悠理のサッカーボールをふたりで作っている様子は、微笑ましいくらいでしたわ。だけど、その後 普通のおむすびを作っているときに・・・」
野梨子の話はこうだった。
やはり、というか当然、というか。悠理はおむすび作りが、非常にものすごくあり得ないほど、ヘタクソだった。
悠理には悪いが、もとより、野梨子も彼女をアテにはしていない。ご飯粒を散布させているも同然の状態を見かねた清四郎が制止したときは 安堵したものだ。
清四郎は10人前おむすび作りの主戦力。早く手際よく作り上げる技量は知っていたので、野梨子としてはこちらは当然アテにしていた。
しかし。
悠理の散らかしたご飯粒を片付けて後、いざおむすびを作り始めた清四郎に、手持ち無沙汰の悠理がまとわり付きだした。
というより、悠理も手伝おうとしたのだろう。清四郎の手に付いたご飯粒を取ってやろうと舐め取ったのだ。
まるで、邪気のない仔犬のような仕草ではあったが、おむすび作りの最中に指を舐められれば、一々洗いに立つしかない。
「清四郎も困ったようで、お手洗いに立つたびに悠理を抱えて連れて行って叱り付けてはいるようなんですけど。 そのたび中座するものですから、一向におむすび作りが進まなくって。結局、サッカーボール以外はほとんど私一人で作ったようなものですわ」
野梨子は不満顔でため息をついた。
「まぁ、それは大変だったわね。10人分ですものねー」
「中座するたびに悠理を連れて?手洗いに?」
普通に同情する可憐の前方から、助手席に座る美童が口を挟んだ。
「ええ。清四郎が悠理に小言を言い出すと長いのはご存知でしょう。なかなか戻って来ませんでしたわ」
美童はプッと吹き出す。
「・・・指舐められて、お手洗いかぁ。野梨子のところのトイレは畳敷きで広いものなぁ」
(絶対、あいつら、朝から何回かヤッちゃってるよ)
美童の小声は、隣の運転席の魅録の耳にしか入らなかったが。
いきなり手が滑ってハンドル操作を誤った魅録に、車中の仲間たちはつんのめる。
頭と同じ色に顔を染めた魅録が、美童を睨みつけたのは当然だった。
「危ないですねぇ、魅録らしくありませんな」
「ヘタクソーー!!」
最後尾のバカップルからはお気楽なブーイング。
一瞬、車中に走った魅録の無言の殺気に、清四郎ともあろうものが気づいたのか気づかなかったのか。

そうして、一行の楽しい(?)ピクニックは始まった。










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ゴンタ様にリクいただきましたゆえ、もーええかげんにせぇ、という心の声(良識)をシカトして「エロティカ」番外編です。 しかしシカトしたはずの、なけなしの良識が邪魔をしたのか、エロと下品が身上の同シリーズにあるまじき健全な展開になってしまいそう・・・。(か?)
もちろんゴンタ様のリクは「エロティカのふたりで、ほのぼの純情グループデート♪」なんてもんじゃござんせん。(笑)

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