ラブレター 〜君に薔薇の花束を〜

 

いけ好かない奴。

それが、第一印象。 

 

きみは、ぼくを見るとそっぽを向くね。

 

 

だって。

あまりにも正反対で、違いすぎて。優等生然とした真っ直ぐな瞳さえ、腹立たしかった。

馬鹿にされている気がして。

 

ぼくときみは、好きなものも得意なものもちがうから?

 

 

気に触る、いけ好かない奴。

そして、その印象は間違っていなかった。

仲間になってからも、ずっと。

 

それでも、正反対だったからこそ、ピンチも乗り越えられた。

一緒に、笑いあえた。

それは、初めて出逢った幼い日には、予想もつかなかった未来かもしれない。

 

友達に、なろう。

 

 

仲間たちと過ごした日々。冒険の数々。

あれから、たくさんの月日を共に過ごしたけれど。

 

それでも。

やっぱり、こんな日が来るなんて、想像すらしたことがなかったのだ。

 

  

 

**********

 

 

 

 甘い香りに誘われ、悠理はゆっくりと心地良い眠りから覚めた。

肌触りの良いシーツ上で伸びをし、仰向けに寝転んだまま目を開ける。

レースのカーテン越しに、優しい日差しが室内を明るく照らしていた。

花の香りは、開けられた窓の外からのものらしい。

漂う芳香に、また母親が乙女チックレースと共に花でも飾ったのかと思ったが、見慣れた自室は昨夜と変わってはいなかった。

 

そう、昨夜――――。

 

ふいに、記憶が蘇り、悠理は天蓋つきベッドの上に飛び起きた。

キングサイズのベッドの中をきょろきょろ見回す。

「・・・・まさか、夢?」

寝乱れた布団の中に、悠理は一人。

いつもの朝となんら変わったところはない。

 

悠理はそろりとベッドから足を下ろした。

床を踏んだ途端、鈍い痛みを感じた。

体の節々やらあらぬところが、ズキズキ痛む。

 

「・・・夢、じゃないよな?」

誰に問うわけでもなく、悠理は呟いた。

本当は問いかけたかったのだけど、部屋には悠理しかいないのだから、仕方がない。

 

悠理はパジャマで裸足のまま、部屋を出た。

人の気配を探して、てとてと歩く。

休日とはいえ、剣菱家の朝は早く、使用人たちは忙しく立ち働いている。

廊下を掃除しているメイドに、悠理は声を掛けた。

「あのさぁ・・・・」

「あ、お嬢様、お早うございます!お起きになられましたら、食堂にいらしてくださいと、五代さんがおっしゃっていましたわ。」

「食堂?」

「ご主人様と奥様が、早朝の便でご帰国なさいましたの。お嬢様と一緒に朝食をおとりになりたいと待っておられるようです。」

「ふーん。なら、起こしてくれても良かったのに。」

悠理の寝起きの悪さを知るメイドは、引き攣った笑みを浮かべた。

 

悠理は両親と朝食をとるべく、食堂に向った。

いつもの通りのいつもの我が家。

てとてと歩いている内に、昨夜のコトはやはり夢だったのだと思えて来た。

「・・・・いくらなんでも、恥ずい夢だじょ・・・・・。」

自分の顔が赤らむのを自覚する。

夢は、願望の表出だと、誰かに聞いたことがなかったっけか?

 

 

昨夜は、仲間達とパーティで飲んで騒いで楽しんだ。

たしかに、少々飲みすぎたかもしれないが、それほど悪酔いした覚えはない。

深夜、友人に送ってもらって帰宅した際は、悠理は上機嫌の鼻歌気分だったはずだ。

「どこからが、夢なんだ・・・?」

帰ろうとする友人を引きとめ、自室でなおも酒を空けたことは憶えている。

芳醇な酒。楽しい会話。

そして――――。

 

 

「・・・・うあーーーーっっ!!」

悠理は頭を抱えてしゃがみこんだ。

脳みそは沸騰し、心臓はバクバク故障。

昨夜の記憶が夢ならば、あまりの恥ずかしさに憤死しそうだ。

そしてもしも現実であるなら――――と考えると、思考は停止。

 

「なに叫んでるだ、悠理。」

食堂の入口で身悶えている悠理に声を掛けたのは、父親だった。

時差ボケが酷いのか、万作はいつになく気鬱そうな顔で、テーブルに片肘をついて座っている。

「と、父ちゃん・・・おかえり。」

悠理は真っ赤な顔を父親に向けた。

父親の横の母の席は空席。その隣では、兄がにこやかな笑顔を悠理に向けている。

「おはよう、悠理。」

いつも口うるさい兄が、パジャマ姿の悠理を咎めもせず上機嫌だ。

反対に父親の元気のない表情が気にかかった。

「父ちゃん、母ちゃんは?」

もしや、またケンカでもして家出されたのだろうか。万作の情けなく脱力した表情から、悠理はそう推し量った。

「・・・・。」

万作は答えず、泣き出しそうな顔でへらっと崩れた笑顔を悠理に向けた。

「??」

笑っているのか泣いているのか、とにかく妙な顔だ。首を傾げた悠理に、意気揚々答えたのは、豊作だった。

 

「母さんなら、清四郎くんと庭の薔薇園に行ったぞ。」

「ふーん・・・・・・・・・・えっ?!

 

悠理の顔から血の気が引いた。

そして数秒後、ふたたび顔面に血が逆流し、熱を持つ。

乱高下する血圧に、くらくら眩暈。

 

「せ、せぇしろぉ・・・が、どしたって・・・・」

動揺して舌を噛みそうになる。

清四郎がこんな朝から、どうして剣菱家に居るのか。

 

「嬢ちゃま、庭に行ってみなされ。」

五代が年老いた顔を輝かせ、花瓶を持って現れた。大きな花瓶は空のまま、テーブルの中央に置かれた。

豊作の向かいの悠理の席に、テキパキとメイドが皿を並べる。そして、その隣にもう一席、朝食の支度が整えてあった。

「奥様がお留守の間も、我ら一同、丹精込めて花の世話はさせていただいておりましたからな。ちょうど薔薇が美しい盛りじゃ。」

 

五代の言葉に背を押され、悠理はふらふらと庭に向って歩き出した。

本当は駆け出したかったのだけど、足腰は痛むし体が重い。

 

やはり、夢ではなかったのだ。

これまで考えたこともなかったような一夜を、清四郎と共に過ごしてしまったことは。

 

 

**********

 

 

いけ好かない奴。

そんな印象は、仲間になってからも変わらない。

 

 苛めっ子の清四郎にとっては、悠理は絶好のおもちゃでペット。

ふたりの関係は、孫悟空とお釈迦様。

それでも、清四郎はもっとも頼りになる男で、かけがえのない仲間だ。

趣味も性格も違うけれど、今では、だからこそ友達になれたのだと思う。

一緒にいるだけで、わくわくする。なんだってできそうな気がする。

だから、昨夜も。

楽しい時間を終わらせたくなくて、引き止めたのは悠理だった。

 

お互い、飲みすぎていたんだと思う。

いつものように、はしゃいで、じゃれあって。

広い胸にもたれて、温もりに包まれて。

彼といると感じるのは、絶対的な安心感。

半分眠りながら、笑いながら、気づくと小さなキスを交していた。

クスクス笑いながら、何度も、何度も。

 

ふわふわと、現実感のない記憶。

どこまでが現実で、どこまでが夢なのか。

笑い上戸ではないはずなのに、悠理は最中、ずっと笑っていたように思う。

 

ついばむようなキスは、やがて深く甘い口づけに。

トロトロになるほど、優しく溶け合った。

生まれて初めて重ねる、裸の肌の心地良さ。

清四郎の逞しい胸に、頬をすり寄せたのは悠理の方だ。

信じられないほどの快感にあられもない声を上げ、絶頂感に何度も意識を飛ばした。

お互い、言葉はろくに交わさず。

ただ夢うつつのまま、幸福感に包まれていた。

彼の与える痛みにさえ、一分の隙もなく重なり交わることができた喜びを感じた。

どこから夢で、どこから現実だったのか、今でもまだ曖昧だ。 

 

夢は、無意識の願望だというけれど。

まさか、清四郎とそんなことになるとは、悠理は想像すらしたことがなかったのだ。

ただ、切ないほどの幸福感だけが、まだ胸の中に残っている。

 

 

  

 

**********

 

 

 

 剣菱家の広大な庭園の一角に、百合子自慢の花園がある。

温室と、薔薇園。この季節だと、アーチを飾る薔薇のトンネルが見事だ。

 

爽やかな青空の下。

日頃足を踏み入れることのほとんどない薔薇園に、悠理はやって来た。

目に飛び込んできたのは、赤・黄、薄紅、色とりどりの花々。

そして、端整な面差しの長身の若者が、美貌の人妻と寄り添い談笑している姿だった。

 

数秒間。

思考停止のまま、悠理はぼんやり見惚れてしまった。

百合子の好みは美童のような少女漫画的美形だけど、清四郎も息を飲むほど美しい青年なのだと、初めて気づく。

 

「なんか、マダムとツバメ・・・。」

思わず、悠理は吹き出してしまった。

 

「何を、馬鹿言ってるんです。」

地獄耳。

清四郎は悠理に振り返って、苦笑を向けた。

ゆったりとした白い開襟シャツと下ろされた前髪のせいか、いつもよりも印象が柔らかだ。

その腕には、薔薇が一抱え。

清四郎は百合子の指南で、薔薇を摘んでいたようだ。

 

「お寝坊さん、まだパジャマなんですね。」

清四郎は悪戯っぽく目を細めた。

「もうすぐ僕も朝食をとりに戻るので、着替えて来てください。」

なんだか、清四郎の顔が眩しくて。

悠理は手をかざして朝の光を避ける。

「そーゆーおまえも、よく見りゃ、ヘンチクリンな格好じゃん。」

「仕方ないでしょう。泊まるつもりはなかったから、着替えを持って来なかったんだ。」

清四郎のシャツはふんわりとしたドレスシャツ。ヒラヒラレースではないものの、明らかに百合子の見立てだ。

「本当は、家に帰って着替えたかったんですがね。昨夜の服はぐしゃぐしゃで着られないし。」

清四郎は苦笑しながら、前髪をかき上げた。

 

なにげない仕草に、チクンと胸が疼いた。

癖のない黒髪。

昨夜指を絡ませたその感触を、悠理は憶えている。剥ぎ取るように自ら服を脱ぎ捨てた、清四郎の情熱的な瞳も。

 

「・・・・起きたらおまえがいなかったから、びびって逃げたかと思ったよ。」

悠理は照れ隠しで挑発的な笑みを作る。

「なんで僕がびびるんですか。怖気づいているのは、悠理の方でしょう。」

清四郎も口角を上げた。

しばし、無言で見つめあう。

もちろんそこに甘さは欠片もなく。

笑みを浮かべていても、にらみ合いも同然だった。

 

「・・・私は、先に戻っているわ。朝食を食べにあなた方もいらっしゃいな。」

百合子が雄弁な笑みを浮かべながら、手を振ってふたりに背を向けた。

母親が何を考えているのかは一目瞭然だけど、彼女の考えは間違いだ。

 

 

天地がひっくり返る気分だった先ほどまでと違い、悠理の心は落ち着きを取り戻していた。

 

どんな顔して会えばいいのかわからないまま、思考停止で来てしまったが。

清四郎の落ち着いた顔を見ると、悠理の頭も冷えてきた。

昨夜は、お互い魔がさしたのだ。

こんなふうに、いつも通りの会話ができるなら、心配することはない。

これまで通り、友人でいられる。

馬鹿なことしちゃったな、と笑い飛ばして忘れてしまえる。

これがきっかけで、長年の友情がおかしくなるのは、耐え難かった。

 

胸苦しくなるほど、大きな安堵感。同時に感じた小さな痛みからは、悠理は目を逸らした。

 

 

「腹減ったじょ。飯、食いに行こうぜ。」

母親の後を追おうと、悠理は踵を返した。

 

「・・・・悠理。」

しかし、背中にかけられた声に、悠理の足は止まる。

思いもかけず、硬く低い声。いつも穏やかな声音の彼らしくなく。

まるで、怒っているような声だった。

「?」

振り返ると、清四郎が強い瞳で悠理を見つめていた。

そこに映っているのは、怒りではない。

熱情を宿した、澄んだ黒い瞳。

昨夜の、あの目だ。

 

ドキンと、悠理の胸が鳴った。

 

「悠理・・・・覚悟してください。」

清四郎は低く告げ、手に持った花を悠理に差し出した。

「僕にしても、こんなに突然のつもりはなかったんですけれど。どうか、受け取ってください。」

 目の前に差し出された花と清四郎の顔を、悠理はポカンと見比べる。

「受け取るって・・・この薔薇?これってウチのじゃん。」

悠理の突っ込みに、清四郎はわずかに顔を朱に染めた。

 

そうして初めて、悠理は気づいた。

清四郎の硬い態度は、緊張ゆえのものなのだと。

 

「プロポーズに、花はつきものでしょう?」

清四郎はぎこちない笑みを浮かべながらも、照れを隠すように肩をすくめる。

 

「はぁ?!」

悠理の声が裏返った。

 

「これだけ言ってわからないんですか?相変わらず、不自由な頭ですな。だから、はっきり言うとですね・・・・」

清四郎は開き直ったのか、ふん、と胸をそらせた。

「求婚しているんですよ!僕が、おまえに、たった今!」

 

どうだ、とばかりに鼻息も荒く告げられても、悠理は目が点。

球根・・・もとい、求婚。プロポーズ。

悠理は薔薇を抱えた清四郎の顔を、まじまじと見つめた。

昨夜まで、友人だった男の顔を。

 

「・・・・・・ひょっとして、おまえ・・・・・・」

悠理のめぐりの悪い頭が、やっと動き出す。

「まさか、昨夜の・・・・で、責任取らないと、とか考えてるのか?!」

清四郎の片眉が上がった。

「責任?なんで僕が。おまえだって、楽しんだでしょうが。」

悠理の顔が、カッと熱を持つ。

 

昨夜の狂態。

初めてだったのに、悠理は彼にしがみつき、甘えねだった。

気持ち良かったし、楽しかった。ふざけあっているかのように、ずっと笑っていた。

 

「じゃあ、突然、なんでだよ!」

悠理は赤面したまま清四郎を怒鳴りつけた。

「僕としては、唐突のつもりはないんですけどね。」

悠理の激昂にも、清四郎は平然と笑みを向けた。

 

「だって、僕はおまえに相応しいでしょう?」

 

傲岸な言葉に、悠理は一瞬、絶句した。

 

いけ好かない奴だけど、今もう、かけがえのない存在。

性格は正反対だけど、一緒にいるのは楽しい。

体の相性もすこぶる良いらしいことは、昨夜立証済み。

 

でも、だって。だから、といって。

 

「一回寝ただけで、恋人気取りかよ!」

 

さすがの清四郎も、悠理のこの言葉には顔を顰めた。

「・・・・それが、答えですか?」

「答え?」

「・・・・プロポーズの、です。」

清四郎は視線を落とした。

先ほどまで傲慢そのものだった強気な表情が隠れる。

心なしか、抱えた薔薇さえ、力なく萎れはじめたようだ。

 

「いや、えと、あの、」

意味もなく悠理は焦った。

「あんまりおまえが、突拍子もないこと言い出すから・・・」

 

清四郎は俯いたまま、上目遣いで悠理に視線を向ける。

拗ねた子供のような表情に、悠理は胸をつかれた。

 

しかし、やはり清四郎は子供と違い、可愛くはなかった。

 

「突然、突然って、言いますけどね。さっき、おばさんから聞いたんですが、僕とおまえはすでに婚約中なんですよ。もう数年来。」

 

「げえっ?!」

悠理は自分の耳を疑った。

「以前の婚約は、公式には解消ってことにはなっていなかったようです。そういえば、盛大に婚約式をして結納も取り交わしましたが、両家共、返納しなかったようなんですよね。それぞれ思惑づくだったんでしょうが。」

「げげげえっ?!」

 

悠理は頭を抱えて唸った。

「・・・そうか、そーいうことかっ!」

母親の満面の笑みが脳裏を過ぎる。仲睦まじく、清四郎と薔薇を摘んでいた様子に合点がいった。

 

「またおまえ、剣菱の実権を狙ってるんだなっ!」

 

悠理の指摘に、清四郎はふう、とため息をついた。

「そう言うと、思ってはいたんですけどね。」

上目遣いで悠理を見つめる瞳が、揺れた。苦しげに、惑うように。

「僕は前科持ちですから、そう取られても仕方がないか。」

それでも、ゆっくりと顔を上げた清四郎の顔には笑みが戻る。

 

「おまえがいまさら変わるわけもないし。僕らの関係は、ずっとこんなもんですかね・・・。」

清四郎は独り言のように、呟いた。

「それでも、まぁ、やっとここまで来たし。」

清四郎の笑みは、不思議に澄んでいた。

 

バサリ。

 悠理の手に、薔薇の花束が渡される。

清四郎は悠理に花束を押し付け、歩き始めた。

「朝食を食べに行きましょう。」

「あ、おい、これ!」

思わず受け取ってしまった花に戸惑い、悠理は清四郎を見送る。

「とりあえず、受け取ってください。プロポーズの記念に。」

清四郎は振り返り、悠理に手を差し出した。

「待ち続けるのには慣れていますが、このくらい、いいでしょう?」

 

悠理は差し出された清四郎の大きな手を見つめた。

思えば。

いつだって、この手は悠理のそばにあったのだ。

必要とするときに、必ず。

この手に支えられ引っ張られ。

悠理が清四郎の手を取ることに躊躇したことはない。

いつだって。

 

だから、悠理はこの時もまた、その手を取った。

片手に花束を抱いたまま。

 

そうして、ふたり手を繋いで食堂に向かいながら。

「・・・・・もしかして、ひょっとして・・・・・いや、まさか、そんなことあるわけねぇよな・・・・」

悠理がぶつぶつ呟くのを、清四郎は聞きとがめた。

「なんです?」

悠理は傍らの清四郎を見上げる。

 

「まさか、おまえ、あたいのこと、好き・・・だったりして?」

 

口に出してから、しまった、馬鹿なことを言った、と、悠理は思ったのだけど。

 

「なにを、いまさら。」

 

 清四郎は平然と答え、歩みも止めない。

 

「え・・・え?え?!」

 

悠理の顔面に、また熱が戻って来た。今度は、怒りのためでなく。

見上げた清四郎の鋭角の頬のライン。

わずかに染まって見えるのは、気のせいではないだろう。

 

「言っときますが、プロポーズもしたんだし、これ以上何も言いたくはありませんよ。僕の気持ちは、とっくの昔に告白しているんですからね。」

 

「え、えっえっ?!」

 

顔に上がった熱が、全身に回る。清四郎と繋いだ手には、余計に。

彼の熱も感じる。

ドキドキ脈打つ鼓動さえ、伝わりそうなくらいに。

 

「忘れたとは言わせませんよ。」

「な、何をだよっ、あたい、知らねーよっ」

 

本当に、悠理には心当たりなどなかったのだ。

とても、信じられない。さっきのプロポーズも、いまの言葉も。

昨夜からのことがすべて。

 

「10数年前に手紙でね。」

  

そう言って、そっぽを向いた彼の顔が赤らんでいることも。

  

 

**********

 

こんにちは、って、ほんとはずっと言いたかった。
ぼくから話しかければ、きみは答えてくれますか?

 

 

 まだ友人ですらなかった、遠い昔。

予想できない未来に望みを託し、幼い想いを綴った手紙。

 

ずっとぼくはきみと友達になりたかった。

 

それは、初めてのラブレター。

 

 

ぼくは、きみが好きです。
とても、好きです。

 

 

生涯、最初で最後の、愛の告白。

変わることのない、想い。

 

たぶん――――ずっと、ずっと。

 

 

 

おしまい(2007.10.1)


「ラブレター〜きみとぼく〜」と「君に薔薇の花束を」の完結編(たぶん)です。

って、清四郎ちゃん、告白は小3の時出したラブレターが最初で最後かよ?!

なんでこんなことに???(←殴)

番外878787キリリクは、できればお花にちなんで、君に薔薇の花束を近い将来、遠くない未来をお願いしたいのですが清四郎が照れながら薔薇の花束を悠理に渡す所が読みたいです!』で、ございました。

いやまぁ、確かに花束を渡しているにはいますが・・・たぶん、期待されていたのは、これでなかったはず。(汗)
 
朋友麗さんは「だじょ女の呪い」にかかっているが、私は「ひねくれ男の祟り」に悩まされている・・・

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素材:AbundantShine