ふられ気分でRock'nRoll  2

                       〜悠理編〜

 

 

二度目は、キス(とそれ以上)が耐えられないと、悠理が蹴飛ばし婚約破棄。

三度目は、事件の渦中で清四郎からのプロポーズ。

 

――――おまえみたいな跳ねっかえりのトラブルメーカー、他の誰が面倒見られるっていうんです?

 

悠理と共に騒動に巻き込まれるのは、いつも清四郎。

 

――――どうせ腐れ縁で一生付き合わされるんだ。利害も一致することですし、やはり結婚しましょうか。

 

銃弾飛び交う大騒ぎのドサクサで告げられた言葉は、甘さは微塵もなく、むしろ憎憎しげでさえあった。

 

――――生きて戻れたらな!

 

ロマンチックのカケラもない、約束。

そして、やはりそんな約束は数ヶ月で破綻した。

 

 

**********

 

 

吐く息が白い。

零下の気温に凍ったアスファルト。

悠理は息をつめ、急な坂を一気に駆け上がった。

一緒に走っていたはずのタマもフクも置き去りにした、全力疾走に近いランニングだ。

なにかしていないと、どうにも落ち着かない。

 

――――どうせおまえにとってあたいは女じゃねえんだろ!もういい!おまえなんかと誰が結婚するか!
――――僕だって獣みたいな花嫁なんかごめんですよ。

 

そんなふうに、ふたりの三度目の婚約破棄は、またもや売り言葉に買い言葉だったのだが。

 

思い出すと、むしゃくしゃして胸が苦しい。

 

 

汗まみれになって屋敷に戻って来た時、悠理を迎えたのは、両親の笑顔だった。

「悠理、見てみろ、すごい人数が応募してきただよ!」

「ほほほ、さすが私達の娘ですわね。求婚者は選り取りみどりよ!」

両親に差し出された釣書きの束に、悠理は眉を顰めた。

「・・・・どーせ、剣菱目当ての野郎ばっかじゃないか。」

「あら、それは今さらでしょう。」

 

元婚約者しかり。

あの男こそ、野心のために悠理と婚約したのだと、痛いほどわかっている。

利害は一致していても、性格不一致。

結婚に夢を持っているはずもない悠理だったが、愛してもくれない男に一生馬鹿にされ続けるのは耐え難い。

清四郎にとって悠理は、剣菱の”おまけ”ですらなく、”お荷物”レベル。

”女”どころか、”獣”以下。

長い付き合いの中、今さらとはいえ、腹に据えかねる。

 

「悠理、元気出すだよ!」

「あたいは元気だよ。」

悠理はぶんぶん腕を振り回してアピール。

「おめは可愛いし健康だし、モテねえわけねえだ。」

婚約破棄以来不機嫌な悠理を、両親も彼らなりに心配しているのだろうが。娘の結婚を諦める気はないらしい。

「このリストを御覧なさいな。あたくしのお薦めトップ30よ。」

「母ちゃんのは単に顔の好み順だべ。オラの推薦はこっちの20人だ。」

両親は悠理にそれぞれリストを押し付ける。

「だからぁ、あたいは・・・・」

悠理が呆れ声でリストを押し戻すと、万作はウンウンと頷いた。

「わかってるだ。おめは”強い男”じゃなきゃだめなんだろ?だから、今回は勝ち抜き戦をやるだ!」

「へ?」

「”悠理争奪バトルロイヤル”だべ!全世界から、我こそはという強い男が参戦するだよ!そんで、こっちがその対戦表だ。オラたちの推薦者はもちろん入ってるから、戦いぶりと合わせてチェックすりゃあいい。」

悠理はあっけにとられ、思わず書類を受け取ってしまった。

「そうよ。ただ強ければいいってもんじゃなくてよ。それならまたどこぞの人間国宝が優勝してしまわないともかぎらないでしょう。ただ、同条件下で試合をしてもらえば、あなたの望む実力の有無と、あなたを望む思いの強さを、判断できるわ。」

”悠理争奪バトルロイヤル”なるプロレス興業もそこのけなイベントにお祭り好きの万作は燃えている。

対する百合子がうっとりしているのは、なにやら中世騎士の姫君争奪戦を妄想しているらしい。

 

悠理は手の中の書類に目を落とした。

公募した途端、自薦他薦で溢れかえったという求婚者達。

会ったこともない知らない名前ばかりが並んでいた。

 

「・・・わーったよ!勝ち進んだ奴を、あたいが倒したら、結婚はナシな!」

悠理は名簿を突っ返して、自室のドアを乱暴に閉めた。

すぐにシャワーを浴び、バスタオルのままベッドに飛び込む。

濡れ鼠で枕に顔を押し付けた。

 

――――悠理、風邪を引きますよ。それとも、また熱を出して僕に看病させたいのか?

 

からかうような男の声が、耳元で聴こえた気がした。

もちろん、空耳。

 

「・・・・ちくしょっ」

悠理はサイドテーブルのCDプレイヤーを引き寄せた。

お気に入りのCDをセットし、ヘッドフォンを装着する。

 

ギンギンのロック。

ヘッドフォンをつけたまま、毛布の中にもぐりこんだ。

 

たかが、結婚。

されど、結婚。

プロレス大会で、相手を決めるつもりはないが。

馬鹿な悠理にも、はっきりわかる事実がひとつ。

 

彼の名がなかった。

 

無意識のうちに探していた名。

あれほどたくさんの名が並んだ求婚者のリストの中に、たったひとつの名前がないことだけは悠理も気づいた。

 

清四郎は、エントリーしなかったのだ。

 

理性では、あたりまえだとわかっていた。

清四郎がこんなイベントに参加するはずはない。

つい先日、婚約破棄したばかりなのだ。

 

毛布を被って、ぎゅっと目を閉じる。

 

――――ゆっくり寝なさい。 僕が、そばにいてやる。

 

また、空耳。

 

「・・・嘘つき。」

記憶の中の清四郎に悪態をつき、悠理は目を開けた。

室内の明かりはつけたままなのに、視界が滲んで良く見えない。

 

清四郎は、とうに剣菱家を出て行った。

大学入学と同時に剣菱の事業に参画しだした清四郎の部屋はあいかわらず屋敷内にあるけれど、婚約破棄後荷物をまとめて出て行った。

もっとも、毎日のように学校では顔を合わせる。

大学でも、有閑倶楽部は健在なのだ。

悠理と清四郎にかぎって言えば、まがうことなく、腐れ縁。

 

 

「・・・・あたい、バッカみてえ・・・・!」

悠理はうつぶせた羽根枕を、拳で叩いた。

無体な八つ当たりに、羽根が舞った。

まるで、雪のように。

 

――――みたい、でなくて、馬鹿なんですよ。

 

嫌味な男の声は、まだ脳内から去らない。

悠理はヘッドフォンのボリュームを上げた。

 

リストに名前がないことが、なんだというのか。

清四郎はもう悠理との結婚を望んでいないというだけ。

それに傷つくなんて理不尽だと、さしもの悠理にもわかっている。

 

滲む涙のわけなど、わからない。

こんな状況、笑い飛ばした方が、まだましだ。

 

悠理は声に出して、笑ってみた。

「はっ、また、じっちゃんとこにでも修行に行くかな!」

東村寺で顔を合わせれば、清四郎には思いっきり馬鹿にされるだろうけど。

それもまた、いつものことだ。

 

あはは、と大きく声を出す。

空元気でも、気がまぎれた。

 

曲がバラードに替わった。

悠理は慌てて、もっとアップテンポの曲を探す。

もっと派手なナンバーを。

 

音楽を止めたくなかった。彼の言葉を思い出すから。

聴きたくなかった。心の声を。

 

涙を堪えて、笑ってみた。

そうしているうちに、いつもの自分に戻れる気がした。

 

 

 

 

 

天使の羽根のように、羽毛がひらりと舞い降りた。

雪のようにひそやかに。

だけど、冷たくはなく軽やかに。

まるで、馬鹿ばかり繰り返す、ふたりを笑っているかのように。 

 

 

 

 

2007.6.5 END


タイトルはTOM★CATのお歌です。ああ懐かしい。カラオケで十八番だったわ♪

歌詞のように「心はダイナマイト」な、悠理ちゃんの逆襲も書いてみたい・・・となると、悠理争奪バトルロイヤルのハリケーン悠理を書かねばならないかしら?自分で設定したとはいえ、回想シーン以外じゃ書くのヤダ!(笑)

しかし、清四郎のふられ気分はバカヤロウ状態ですが、悠理ちゃんだとどうしてもカワイソウになっちゃうなぁ・・・。

 

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