ラブ・ファントム 後篇
冷えるのも道理、雪が降り始めていた。 灯かりの消えた中庭に、しんしんと淡雪が舞い降りる。 だけどまだ、石畳を走る悠理のヒールを脱いだ足が濡れるほどではない。
悠理は素早く中庭を横切り、バルコニーから大広間に入った。 電気が消えて一分も経っていないが、大広間は不安げなざわめきで満ちていた。
悠理は闇に慣れ始めた目で、周囲を確認する。 窓際には不審な動きはなかった。 廊下側の扉が開いて、人影が動くのがわかる。 清四郎ではない。早すぎるし、何か装備を持った複数人だ。 人数はわからないが、大きな機材を運び込んでいるようにも見える。
「・・・やば・・・・。」
まさか日本で、それも一般住宅内で、大規模テロなどはないと思いたいが。 政府の要人や外国の賓客が集っているにもかかわらず、警察の警備は剣菱家の門前までとなっていた。 万作時代からのなかば治外法権。 おそらくは清四郎がすでに警察とは連絡を取っているだろうが、下手に突入されたら余計に危険だ。
頼りになる魅録も頼りにならない時宗も、今日のパーティは欠席している。 共に修羅場をくぐってきたとはいえ、可憐にテロリストから武器を奪えと指示するわけにもいかない。 この危機は清四郎と悠理ふたりで、乗り切らなければならないのだ。
壁に沿ってゆっくり移動していると、憶えのある芳香が漂った。 可憐の香水だ。 「可憐、あたい。」 悠理は声を潜めて、可憐の腕を引いた。 「悠理?どうしたのよ、停電・・・」 「シッ、静かに。バルコニーから避難しろ。これから他の客も全員出すから、おまえは通り道に変な奴らがいないか確認してくれ。」 避難経路は知った人間の助けがなければ一般客にはわからない。剣菱家は広大なのだ。 可憐はさすがに事態を察し、悠理の手をきゅっと握って了解を伝えて来た。 しかし、可憐が身を翻した瞬間。
パンッパンッパンッ
甲高い破裂音が大広間に響いた。
「悠理、伏せろっ!!」
そして、清四郎の緊迫した叫び声が。
悠理は頭で理解するよりも早く、可憐を押し倒してテーブルの下に滑り込んだ。 キナ臭い匂い。物の倒れる音と悲鳴。 その正体がわかったのは、消えた時と同じように、唐突に電源が回復してからだった。
シャンデリアが瞬く。 闇に慣れた目にはあまりに眩しく、悠理は瞬間、目を瞑っていた。
パンパンパンッ
再びの破裂音。 ぎょっと目を開けると、ありえない光景が目に入って来た。
金屏風の壇上で、清四郎が細身のサンタクロースを引き倒して取り押さえていた。
『メリークリスマス、だがや〜!!』
そして、耳に飛び込んで来たのは、大音量のマイクでがなれられた父親の能天気な声。 こちらは太目のサンタになって、本物のソリに乗っている。さすがにトナカイはいなかったが、ソリにはプレゼントの包みが満載されていた。 万作の周囲には、五代たち使用人もサンタの扮装でクラッカーを手にしている。 先ほどの銃声はこれだったのかと、皆が納得した時。 やっと、しばしフリーズしていたらしい清四郎がノロノロと身を起こした。 彼が締め上げて武器(クラッカー)を弾き飛ばしたのは、剣菱家の御曹司。 「ひどいよ、清四郎くん・・・。」 眼鏡ははじけ飛び、どこか痛めつけられたらしく顔を歪めてはいたが、豊作その人だった。
『みんなに、サプライズプレゼントだがや〜!!』
ようやく状況を理解した客達は、拍手喝采。 オーケストラも気を利かせて陽気なクリスマスソングを奏でる。 思えば、奇抜な登場も大盤振る舞いも、かつての剣菱家では日常茶飯事だった。 久々に表舞台に現れた剣菱万作氏の変わらない笑顔に、パーティはさらに盛り上がった。 身内客人双方共、珍しくも狼狽する姿を見せた万作氏の元娘婿に、微笑ましい視線を送りながら。
*****
「あれだけのVIPがいたのに、”悠理、伏せろ!”ですもんね〜♪」 可憐の言葉に、清四郎はわずかに頬を染めた。ワインによる酔いのせいだとはいえ。
ここ数年なかったほど盛況のうちに、パーティは散会し。 剣菱家の居間で、酒を囲んでいるのは、身内ばかりだった。 テーブルの上には、もう数本万作秘蔵のワインが空になっている。
「・・・で、豊作さんも五代も知ってて、僕や悠理に黙ってたんですか。」 目の据わっている清四郎に睨まれ、五代はもとより、豊作も身を小さくして割れた眼鏡をいじくっている。 「ぼ、僕は知らなかったよ。清四郎くんと一緒に帰ってきたんだから。廊下で親父に出くわして、無理やりこんな格好させられたんだ。」 豊作と万作はまだサンタの衣装のままだ。 「おう、悠理もサンタの格好してるだか!さすが我が娘!打ち合わせなくても、家族で揃いだがや!」 万作は場の空気を和ませようとしてか、白々しく豪快に笑い、悠理の紅いドレスの背をバンバン叩いた。 「クリスマスなんだから、当然だろ!てか、保安部まで動員してソリなんか持ち込むなよ〜。あたいも清四郎もマジだと思ってたから、下手すりゃケーサツ突入もあり得たんだぞ!」
「・・・まったく、似た者親子ですよ。」 清四郎はワインをなみなみと自分のグラスに注ぎ、一気に飲み干した。 「僕が悠理に伏せろと言ったのは、どうせ悠理のことだから、賊に突進しかねないと思ったからです。僕が予測もしていない行動を取るのが、親子共々得意ですからね。」
可憐は清四郎の空のグラスに、新しい酒を注ぐ。 「その予測のつかないところがいいんでしょ?大勢の前で告白しちゃったからって、照れない照れない♪」 パーティの来客からも同様に『お熱いことv』とハートマーク付きで散々揶揄され、清四郎は疲労困憊の体だ。
「誰が照れてるんですか。恥をかかされて、怒っているんですよ。」 清四郎の苦々しい口調に、悠理は首を竦めた。 確かに、新当主として剣菱家の晩餐会を格式の高い席に変えようとしていた清四郎のここ数年の努力は、一気に無にされた感はある。 ”怪物”と呼ばれるほど、他者と一線を画する存在だった清四郎のイメージも、多少は崩れたかもしれない。
「二度も女房に逃げられているんだから、清四郎くんが悠理に恥をかかされるのもいまさらだがや!」 わはは、と笑う万作に、その場の全員が心中『おまえが言うな!』と突っ込みを入れたが。 清四郎は、ふぅ、と諦めたようなため息をついた。
「・・・ま、その通りですかね。」
ようやく、清四郎の顔にも、笑みが浮かんだ。 いつもの余裕綽々の笑みではなく、疲れたような、諦めの漂う笑みだった。
*****
「・・・お義父さんには、負けますよ。」 ”天才”万作氏に完敗を認めることは、”怪物”清四郎も、やぶさかではない。 初めて悠理と婚約した高校時代に、彼への無駄な対抗意識は克服している。 そして、悠理に対する侮りも。
夜も更け、ふたりの部屋に戻って来てからも、清四郎は杯を重ねていた。 悠理も渋々付き合ってくれている。 ほんのり頬は染めていても、悠理は酔っているようには見えない。 昔から、ザルと称される彼よりも、ワクと言われる悠理の方が、酒は強いのだ。 ふくれっつらを見なくても、悠理が清四郎の言葉を額面通り受け取ったことはわかった。
猪突猛進。 手のかかる跳ねっかえり。 悠理に対するそんな危惧もまた、事実ではある。 銃声を聴いたと思った瞬間、胸を過ぎったのは、彼女を失う恐れだったとはいえ。
ソファに深く沈みこんで、清四郎は苦笑する。 向かいに座る悠理に、いつもの場所に来いと、自分の隣の席を軽く叩いて促した。 悠理は清四郎の誘いに、首を横に振る。 しかたなく、清四郎は重い腰を上げ、自分が悠理の隣に座った。
「・・・来んなよ。」
――――”おまえといると、苦しい”
そう言った言葉通り、清四郎が近づいただけで、悠理は顔を逸らせて身を強張らせている。
清四郎は小さくため息をついた。 隣に座りながら、無理に体ごと清四郎に背を向けている悠理の肩に手を置き引き寄せる。人形のように強張った体は、簡単に清四郎の膝の上に倒れこんだ。
「なにを拗ねているんだ?」 悠理の頭を膝の上に乗せ、清四郎は彼女の前髪を梳いた。 露になった白い額の下で、大きな目が清四郎を見上げている。 不思議に澄んだ瞳。 もう悠理の表情は、勝気なふくれっ面ではなく。恥じらいや怯えの色もなかった。 常に感情豊かな彼女らしからぬ、透明な無表情。 無垢で気高い瞳が、真っ直ぐに清四郎を見上げている。
部屋の外に降り続く雪が音を奪ったかのように、静かな室内。 淡い照明が、悠理の長い睫の影を作っていた。
整いすぎた容貌の彼女が表情を喪失すると、いつも清四郎は落ち着かない気分に陥る。 彼女らしい喜怒哀楽や罵詈雑言を引き出したくて、わざと悪戯を仕掛けたくなる。 確かめたくなる。悠理がまだ彼の手の中にいるのだと。
「いくら、口で拗ねてみせても、いつだっておまえの体は素直なんだからな・・・・」 ソファに横たわった悠理の体に、清四郎は手を這わせた。 ベルベットのドレスを撫で上げ、ホックを見つけ出し器用な指先でひとつずつ外す。 肌蹴させた襟から直に素肌に触れる。酒のせいで熱を持った指は冷たくはないだろうに、悠理は身じろいだ。
「・・・・清四郎、あたいずっとおまえに聞きたかったんだけどさ。」 桃色の唇が震え、ようやく悠理は口を開いた。 「おまえ、あたいのこと・・・・」
――――”愛しているのか”と、問われたら。
”もちろん”と、彼は答える。 清四郎にとっては、あまりにも当然すぎて、口に出す必要性さえ感じない言葉。
悠理は小さく息をついた。 物憂げな吐息。 いつまでも子供のような無垢な瞳が、女の艶を宿す。 彼が与えた、彼女の変化。 それは、清四郎を喜ばせると同時に、戸惑わせた。 変わらないでいて欲しいと思いつつも、変わっていく彼女に彼は魅せられる。
「なんですか?」 問いかけの口を開けたまま言葉を発しない悠理を、清四郎は促した。 白い額に口づけを落としながら。 唇を離すと、悠理の色の薄い瞳が揺れた。
「・・・剣菱の娘じゃなければ、どうしてた?」
悠理の言葉に、清四郎は鼻白んだ。 膝をそっと引いて悠理の体をソファに沈める。 体勢を入れ替えて、彼女の細い体の上に乗り上げた。 「・・・・おまえが剣菱の娘じゃなければ、そもそも出会っていないかもしれないな。」 無意味な”もしも”は、清四郎の好むところではない。 「友達・・・にも、なって、ない?」 それでもなおも問う悠理に、ネクタイを取りながら清四郎は答えた。 「まぁ、でも魅録のケンカ仲間としてでも、高校時代に出逢ってたとすれば、やはり同じように友人になっていたんじゃないですか。」
仮定の”もしも”を問う彼女は、本当にわからないのだろうか。 悠理との幼稚舎での出逢いがなければ、清四郎は今の清四郎には成り得なかった。魅録とも仲間にならず、有閑倶楽部の皆と集うことなどできなかっただろう。 六人の誰が欠けても成り立たなかった、有閑倶楽部。いつだって大騒ぎで、トラブルさえ楽しんだ。 大人になり、六人が揃って顔をあわすことは少なくなったとはいえ、清四郎にとっては、まだ過去形ではない日々だ。悠理が隣にいる限り。
白い肌を隠す邪魔な衣服を、清四郎は剥いだ。 「結局、変わらないと思うがね。」 悠理が剣菱の娘であろうとなかろうと。 「だけど、そしたら・・・あたいと結婚しようなんて、思わなかっただろ?」 彼女と彼の関係は変わらなかっただろうが。 「・・・・そうかも、知れませんね。」 この迷走は、なかったかも知れない。 まだ無自覚だった高校時代の、あの馬鹿な婚約から、始まったのだとすれば。
「・・・だよ、な。」 清四郎の答えをどうとったのか、悠理は痛みを堪えるように目を伏せた。
清四郎はシャツを脱いだ裸身を華奢な体に重ねた。 性急に薄い下着をめくり上げ、彼女の弱いところを探る。 下肢を割るように、奥の奥まで、指を這わせる。
「あ、や・・・っ」
悠理は首を打ち振った。寄せた眉と震える長い睫が艶を放つ。 それなのに、紅く染まった唇は、まだつまらない言葉を吐いた。
「・・・・そしたら、もし・・・・あたいが、みんな捨てたら?」
慣れた体は、とろけて潤んでいるのに。
「捨てるって、剣菱を、ですか?」
指で辿っていた肌を、舌先でくすぐる。気まぐれに、歯を立てる。
「うん・・・・」
息を荒げ頬を紅潮させながら、悠理は閉じていた目を開けた。潤んだ瞳が清四郎を見上げる。
捨てたいのは、親でも名でもなく。 ふたりで過ごした年月。 悠理の目は、逃れたいと告げている。 気づいたばかりの、恋から。
「なにを馬鹿言ってるんだか・・・・」
清四郎は苦笑しながら、悠理の胸の先に歯を立てた。 脚の狭間に指を侵入させる。焦らしながら何度も掻きだす。 彼女が内側から彼を素直に求めるように。
「あ・・・ああ・・・」
悠理は苦しげな息を吐いた。 漏れた甘い声に煽られ。 指の代わりに、清四郎は彼自身を彼女の中にゆっくりと埋めた。
「はぁ・・・くっ」
眉を寄せ首を何度も振りながら、悠理の体は清四郎を受け入れ、締め付ける。 しなやかな脚が清四郎の腰をとらえ、快感にうち震えた。
自分をすべて埋め込んだ快感に、清四郎は息を吐いた。 「・・・苦しいか、悠理?」 そうして、言わずもがなの問いを口にする。
――――”おまえといると、苦しい。” そう何度も悠理は訴えているのに。
深く交わり肩の上に細い足を抱え上げたまま、清四郎は上体を起こした。 荒い呼吸に揺れる胸の先を指先でつまみ苛める。そうして腰を動かして朦朧と視線の定まらない悠理をなおも揺さぶった。 ソファが揺れる。 テーブルに置いてあったワイングラスの中で紅い液体も揺れている。清四郎は片手を伸ばし、グラスを手に取った。
「悠理・・・・・・・・”愛してる”・・・・と、」
小声で囁くと、悠理はわずかに目を開けた。
「”愛してる”と、言ってみろ。」
彼女の口から、その言葉を聞いたことはない。 素直な言葉は、何一つ。
「や・・・やだぁ・・・・」
悠理は顔を歪ませた。頬を涙が溢れ零れる。 涙は彼の汗と混じり、白い肌を濡らした。
清四郎がワイングラスの液体を口に含むと、交わりながらのそんな行為を責めるように、悠理の指が彼の肩に爪を立てた。 苛立たしげに、なおも伸ばされた指は、清四郎の髪に絡む。白い指が短い黒髪を掻きまわした。 乱された前髪が下りて、清四郎の視界をわずかに遮る。彼女の表情がよく見えなくなる。 だけど悠理の手に引き寄せられ、清四郎は正確に悠理の唇に自分の唇を重ねていた。 口内の芳醇な液体を、彼女の喉に注ぎ込む。
「っん・・・」 こくりと白い喉が上下し、悠理はワインを飲み込んだ。 口元からわずかに漏れた雫を、清四郎は親指で拭う。 ワインに濡れた指先で細い喉を辿り、白い肌に刷り込むように擦り付けた。 涙と汗と酒が、悠理の肌を濡らす。 濡れた指は、交わったままの下肢を辿り、紅く熟れた部分を擦った。 酒のせいだけではなく、湿った音が立つ。
「いや、いやっ」
敏感な部分を責められ、悠理はビクビクと震える。 清四郎は細くくびれた腰を両手でつかみ、大きく腰を動かした。 内部を擦り煽り、弱いところを責め続ける。
「・・・っ!」
悠理は喉の奥で悲鳴のような音を鳴らした。 溢れ出るのは、涙だけではない。 ぐしゃぐしゃに濡れた体を重ね、激しく追い上げる。
これほど濡れて絡みつきながら、悠理は彼の腕の中から逃れようとするように身じろいだ。
――――逃げられるものなら、逃げてみろ。
想いの昂ぶりに抑えきれず、清四郎は悠理の体を二つに折るように抱きしめて腰を打ちつけた。
――――どこまでも、追いかけてやる。
「っひ・・・ああっ」
激しすぎる快感に泣きじゃくる悠理を、清四郎は許さない。
――――”おまえのそばにいると、あたい、息ができない。”
そう言った彼女の唇を、清四郎は強引に塞いだ。 貪るように、激しく。本当に、息を止めたいと言わんばかりに。 同時に、決して逃さないと、彼女の内部に楔を大きく打ち込んだ。
――――”おまえがそばにいないと、僕が、息ができない。”
そんな言葉を、口にする代わりに。
口づけは、酒よりも甘く苦く。 ふたり同時に絶頂に達した時は、快感よりも狂おしいほどの感情に煽られ、全身が震えた。激しく、切なく。
溶けて消えるかと思った淡雪は、いつしか窓の外を静かに白く染めていた。
「・・・・・メリークリスマス、悠理。」
彼女の涙に濡れた頬に、清四郎はそっと唇を寄せた。 くったりと目を閉じて眠る悠理の貌は、昔と同じように幼い。 だけど、無垢な白雪の下に隠れるように、情熱的な女が潜む。
――――”もし、あたいが、みんな捨てたら?”
透明な表情で彼に問いかけた悠理。どんな答えを求めているのか。
何度も、彼女は清四郎から逃げ出した。 繰り返された婚約破棄。式場からの逃亡。叩きつけられた離婚届。
「また馬鹿なことを考えているんじゃないでしょうね・・・・。」
100回”愛してる”と繰り返したところで、悠理はどうせ信じない。 誰の目にも、明らかに違いないのに。
清四郎は眠る悠理を腕に抱きながら、苦笑を漏らした。 ひねくれた男に囚われた、女の不幸に。 馬鹿な女を愛した、男の不運に。
*****
そうして。 この年のクリスマス晩餐会に参加した者は、かつてのような楽しいパーティと”怪物”氏の微笑ましい醜態に満足し、剣菱家が近々若夫婦の復縁を発表をするだろうと疑いもしていなかったが。 新年の剣菱家祝賀会に、噂のふたりは、姿を見せなかった。
密やかに流れた噂によると、じゃじゃ馬娘は自分名義の株や資産をすべて処分し、国外逃亡をしてのけたという。 剣菱の名も、腐れ縁の元夫も、すべて捨てて。
もちろんその事実は、彼女が出奔した後まもなく、剣菱の特別機が戦闘機もかくやの勢いで離陸したことも含めて、関係各所において極秘扱いとされている。
相変わらずのふたりは、毎度の追いかけっこを、傍迷惑にも海外でも繰り広げているらしい。
新しい年が明けるのを知りながら。 変わりつつあることに、気づきながら。 きっと、いつものように。
END(2007.12.27)
馬鹿夫婦2回目の離婚中「アジアの純真」の後のお話です。まさか、前篇を突貫で(新幹線内で)書いた時にはこんなんなるとは思いもせず。なんでエロに?もしもし、清四郎ちゃん?(大汗) 次回あたりで馬鹿夫婦も年貢の納め時の決戦にしたいものです。 |
素材:salon de ruby様