〜ありふれたラヴストーリー〜
雪がしんしんと降り積もる。 レンガ作りの重厚なホテルの中は暖かいけれど、北米の針葉樹林が闇の中に静かに広がっていた。 音のない夜。
いつも大騒ぎで、笑って怒って。喧嘩だってしたけれど、離れていれば淋しくなる。 そんな気の置けない友人同士に過ぎなかったはずなのに。
たぶん、調子が狂ってしまったせいだろうけど。 その夜、突然、うっかりと――――あたいは、恋に落ちてしまった。
ラヴストーリーは突然に
どう考えても、ロマンティックなシチュエーションじゃなかった。 もっともこういう分野は、あたいには彼岸の世界に等しいから、どういうシチュでも変わらないかもしれないけれど。
いつものようにいつものごとく、旅先での大騒ぎ事件騒動。 仲間達で力をあわせ解決したものの、あたいは軽症とはいえ、腕を負傷。 せっかく世界最高クラスのスキーリゾートに来ているというのに、極上ゲレンデを目の前にホテル缶詰となり、あたいはふくれっ面。 「ったく、悠理もちょっとはおとなしくしていれば?」 同情するどころか、友人達は呆れ顔。 そんないつものようにいつものごとく、のはずだったのだけど。 お小言の一つもかましてくれるだろうと覚悟していたうるさ型の友人が、なぜか病院から戻ったあたいのところに顔も出さなかった。
なにやら、清四郎がものすごく憔悴消沈しているとあたいが知ったのは、だから仲間達の証言からだった。
*****
証言1
びっくりしちゃったわ。 いったい何があったのか詳しいことはわからないけれど、ものすっっっごく落ち込んでいるのよ、あの男。 顔色は冴えないし発言はネガティヴだし、なにより自分を卑下するような気弱な発言をするの。 ええ、あの傲岸不遜・天上天下唯我独尊が服着て歩いているかのような清四郎が、よ。
原因? あたしたちも、あんたたちが怪我したりバタバタしてたから、よくわかんないのよね。 でも、どうも女が絡んでいるらしいわ。 え?あいつに限ってあり得ないって? いやそれがね、魅録が小耳に挟んだらしいのよ。 ほら、ホテルの部屋が清四郎と魅録は同室でしょ。 清四郎が電話で深刻に話しこんでいるところを見ちゃったって。 どうもその相手が、女らしいって。 信じられない?あたしがなんでも恋愛に絡めすぎって? ええ、あたしもそれを言ったのが美童なら話半分割り引くけど、なんたって魅録よ。 恋愛センサーの鈍さでは、あんたや野梨子といい勝負でしょ。
大きな声では言えないけれど、清四郎の奴、こっぴどく振られたみたい。 ええ、いつも女なんか見下しててクールぶってるあの男が、電話口で女にすがって泣かんばかりだったって。
ん?想像できない?別人じゃないかって? ああ、あんたも会えばわかるわ。確かに、今のあいつはまるで別人よ。 オーラも薄くなっちゃって。
そういやそうよね。 あの男が失恋して落ち込んでる、っていうのより、何か悪いもの食ったとか、悪霊にとりつかれたって方が信じられるわよね。 顔はいいし頭はいいし家柄もいいし武道はできるし、自意識過剰の倣岸男だけど、そう簡単に女に袖にされる奴じゃないものね。 あんた霊感人間なんだから、あいつが妙な霊に憑依されてやしないか見てやってくれない?
やだ、って? 冷たいのねぇ。
証言2
・・・・可憐から訊いたって? ああ、俺だって信じらんねぇけど、間違いねぇよ。 清四郎が自信喪失してるのは確かだ。 女に振られたかどうかなんて、俺にゃわかんねぇよ、美童や可憐じゃあるまいし。
たださ、電話口でやけに深刻そうに話し込んでいるところは見たよ。 なんか必死になだめすかして頼み込んでたのに、こじれちまったみたいだ。 相手は女かって? んなこと俺が知るかよ。話は切れ切れにしか聞こえなかったし。 ・・・・まぁ、確かにそんなふうにも受け取れた。
だけど、俺は正直信じられねぇんだ。あの清四郎を振る女ってどんなのだ? そんで、あそこまで落ち込ませる女って? 絶世の美女でも顔色一つ変えそうにないのによ。 旅先からまで電話して、必死でご機嫌取りしてさ・・・・。
ああ、そうだよ。俺はショックを受けてるよ。 男として、こいつにはかなわねぇと思ってた奴がさ。 たかが女一人のために、あんなふうになるなんてよ・・・・。
俺ら男なんてなぁ、結局弱い生き物なのかもしれねぇよな? あ、ゴメン、おまえにゃわかんないか。
*****
驚きのあまりか興奮している可憐の言葉も、なにやら黄昏ている魅録の言葉も、あたいにはにわかに信じがたかった。
だけど、警報が鳴りまくっていた。 ひとより発達したあたいの野性の本能が告げる。 ”これは、ヤバイ” 清四郎に会うのが怖い。 もちろん、憑依霊とかだったら、ってのもあるけれど。 女に失恋して落ち込んでいる清四郎はもっと怖い、 かも。 だって、そんなあいつなんて、あたいにとっては未知との遭遇じゃん?
――――てなわけで、顔を出さないことをいいことに、清四郎を避けてたんだけど。
片腕が不自由なあたいの世話をせっせと野梨子&可憐が焼いてくれていた。 清四郎の分というわけではないけだろうけど、お小言交じりのおせっかい言動に、あたいはすぐにウンザリしてしまった。 ルームサービスで夕食を済ませた後、同室のふたりの目を盗みあたいは部屋を出た。 男子部屋には寄るつもりはない。美童も熱を出して寝こんでいるし、たそがれた魅録や、悪霊憑き(かもしれない)清四郎なんて、近寄りたくもない。 あたいはひとり、ふかふかの絨毯を踏みしめながら、鼻歌交じりに腕の三角巾を取り去った。 このホテルの最上階には感じのいいバーがある。 せっかくの異国の夜。じっとしているのは性に合わない。 が。 そこで、うっかりやっぱり遭遇してしまったのだ。 それは、まさにあたいにとって、未知との遭遇だった。
*****
「怪我人がアルコールなんて、もってのほかですよ、悠理。」 「げっ」 清四郎は窓際のカウンターでひとりグラスを傾けていたらしい。気障な野郎だ。 「の、飲まねーよ!なんかおヤツになるもんないかなーって、食いに来ただけだい!」 「ナッツ類とか?」 清四郎は苦笑しながら、自分の前のつまみの小皿をあたいの方に押しやった。 仕方なく、あたいは清四郎の隣の椅子に腰を下ろす。本当はヤツの顔を見た瞬間に踵を返したくなったんだけど。 近づくまで気付かなかったのは、清四郎にあの独特の圧迫感がなかったためだ。 可憐の言った通りだ。 あたいにとっては、ヒュ〜ドロドロの効果音付で『おしおきしますよ〜〜〜』と言わんばかりに上から見下ろされてあの感じ。 『オレ様オーラ』『ドSパッション』とでも言い換えてもいい。 アレが消えているのだ。
いつもより数本多めに落ちたすだれ前髪。色の抜けた白い頬。 伏せ目がちなため、その気になったら強烈な威力を発揮する目力も、完全にナリを潜めている。 もともと着やせするタイプで筋骨隆々には見えないやつだけど、いつもより一回り細身に見える。いや、もしかして本当に痩せたのか?
清四郎の隣で、あたいはオレンジジュースをすすりながらナッツを齧った。 「・・・・どしたんだよ、元気ねーな。」 あえて、訊いてみる。清四郎があたいに恋バナをするとは思えないけど。 ――――ちゅーか、本当に失恋が原因なのか? 『清四郎』と『失恋』のあまりのミスマッチに、仲間達の証言を聞き、憔悴した本人を目の前にしてもまだ、あたいは懐疑的だ。 だってたとえば、『美童』と『マッチョ』とか、『魅録』と『ポエム』とか、それくらい隔たりのある単語だろ?
「怪我人の悠理にそう言われるとは、情けないな。」 清四郎は目を伏せたまま、唇に微笑みを浮かべた。 「・・・・・・確かに、少々落ち込んでいますけどね。」 「珍しいな、おまえがそーゆーの認めるの。」 「はは・・・・虚勢を張るのも疲れたんですよ。」 可憐の言った通りだ。 プライドの塊のような男らしからぬ言葉に、あたいはあらためて、マジマジと清四郎の横顔を見つめる。
「・・・・・オンナのせいって、訊いたけど・・・・・マジ?」 「・・・・・そんなことまで・・・・・聞いたんですか?」
あたい得意の、もしくはこれしかできない直接話法。 清四郎は憂いを帯びた瞳を伏せ、ため息と共に答えた。 単刀直入に訊いたものの、清四郎が否定しなかったことに、あたいはショックを受けていた。
「正直、参っています。こんなに自分が弱い男だと思いませんでしたよ。精神的にも、肉体的にも。」 清四郎はあたいの方を見ないまま、杯を重ねた。 「これまでいい気になっていた自分を思い知って・・・・・自己嫌悪で、苦しいくらいです。」 「お、おま・・・何言って・・・・」 あまりにも清四郎らしくない言葉の数々に、あたいの胸まで苦しくなった。 「清四郎らしくねーよ、なんなんだよ、そのざまは!」 思わず、テーブルをドンと叩いてしまった。負傷した腕で。 「痛っっ!!」 「悠理!」 痛みにうずくまったあたいの腕を、清四郎が取った。 心得た手は、痛みを与えない。自分のハンカチとテーブルナフキンで、清四郎は三角巾を作ってくれた。 「ったく、馬鹿ですね・・・・・」 いつもよりは力がないが、聞き慣れたその言葉に、あたいはやっとちょっとホッとしていた。 初めて、清四郎があたいに真っ直ぐ顔を向けたことも。
心配そうな黒い目が覗き込むように、あたいを見つめていた。 潤んだ瞳。蒼ざめた頬。 こんな清四郎の顔は、初めてだった。
”ヤバイ” あたいの野性の本能が警報を鳴らし続けてる。
清四郎はあたいを見つめたまま、ポツリと呟いた。 「・・・・・彼女に、感謝しなければならないかもしれないな。」 「・・・・・え?」 独り言のような小さな呟きだったけれど、あたいはビクリと身を震わせた。 「僕の思い上がりを、教えてくれた。」 あたいを通り越して、清四郎が誰かを見ている。 それが、わかったから。
きゅうと、心臓が締め付けられる。 苦しい。
いつも、清四郎は強くて賢くて。 傲慢で強引な男だった。 そんな清四郎しか知らなかった。 おまえは、すごい男だよって、言ってやりたい。 だけど、清四郎が欲しいのは、そんな言葉じゃない気がした。
清四郎の心が傷ついているなら、癒したい。 だけど、どうしたら良いかわからない。 恋なんてわからないから。 あたいの知らない誰かに、こんなに傷つけられている清四郎に、どうにもしてやれない自分がもどかしかった。
胸がドキドキして、苦しくて。 いつの間にか、あたいは息すら止めて動けなくなっていた。
「・・・・悠理?」 固まってしまったあたいを不審に思ったのか、清四郎の手が、あたいの頬に触れた。 冷たいその感触に、あたいの体が再び震える。 いや、震えているのは心だ。
「すみません、怪我をしているおまえに、つまらない愚痴を聞かせて心配させてしまった。今日の僕は、おまえの友人も失格かもね。」 清四郎の手は冷たいのに、触れた頬が熱い。 黒い瞳が揺れてぼやけ見えるのは、目が回っているからだ。
あたいの頬に触れたまま、清四郎はまた遠い目をした。 「結局、おまえも、守ってやれなかった・・・・・。」 あたいの怪我は自業自得だと、みんな知っている。 なのに、清四郎はつらそうに顔を歪めた。 「これまでどんな状況でも、僕が守ってやれると自負してたんですよ。仲間達みんなを。とんだ自惚れだった。大馬鹿者だ。僕なんか・・・・・」
もう、限界だった。
「馬鹿やろう!!」
あたいは叫んで、清四郎の胸倉をつかんだ。 「おまえがあたいに謝るな!『僕なんか』なんて、言うな!どんな奴か知らないけど、おまえをそんなにさせる女なんて・・・・・」 片手では、上手く清四郎の胸倉をねじ上げれない。もどかしさの余り、あたいは噛み付くように清四郎の胸にしがみついた。
「そんな女のことなんて、忘れちまえ!」
そして、その勢いのまま、あたいは思わず清四郎にぶつけていた。 胸の苦しさを。 やるせない思いを。
「こんなおまえを、これ以上見たくないんだ・・・・・あたいじゃ、ダメか?」
抱きついたあたいを受け止めた清四郎の着やせする体は、やっぱり逞しくて。
「あたいが、おまえを守ってやる!」
その言葉は不適切だったかもしれないけれど。
「あたいが、おまえをもっともっと強くしてやる!だから・・・・あたいにしとけよ!」
守りたかった。 あたいの知っている、大好きな清四郎を。
清四郎は心底驚いたようで、一瞬、黙りこくった。 それはそうだろう。あたいも、自分が信じられない。 ―――――いつの間に、清四郎を好きになってたんだ?
「・・・・・・。」
背中にポンポンと大きな手の感触。 抱きついたままのあたいを支える清四郎の手だ。
「・・・・・・おまえは、いつも僕を驚かせるな。」
清四郎の胸が揺れている。笑っている? あたいは恥ずかしいやら恐いやらで、とても顔を上げられなかったから、見ていないけれど。 自嘲でも皮肉でもない、穏やかな清四郎の声が耳元に心地良かった。 頭はクラクラ胸はキュンキュン。 でも、痛みだけでない胸苦しさも、ほんの少し心地良かった。
「思えば、おまえが僕にとって最初の・・・・・いや、これからもずっと、かなわない女です。」
そして、抱きしめてくれる温かで広い胸の感触も。
「ありがとう、悠理。」
気が遠くなる。 返してくれた言葉も、あんまり心地良すぎたから。
*****
証言3
本当に驚きましたわ。 部屋から悠理の姿が消えているので、可憐と心配していましたら、ぐったりした悠理を、清四郎が連れて戻りましたの。 悠理の怪我はスキーで体勢を崩して腕を捻っただけのはずですのに、清四郎に抱き上げられて帰って来たのですもの。足も痛めたのかと思いましたわ。 発熱してしまったようです、と清四郎が言うので悠理の顔を見てみれば、真っ赤に染まって目はうつろ。 わたくし達が声をかけても聞いていないようで、清四郎にぎゅっとしがみついたままでした。 本当に茹った頭から湯気を出していたので、驚きましたわ。
美童に続いて悠理まで発熱でダウンとは、このカナダの地はわたくし達には鬼門のようです。 まぁ、すでに随分事件には巻き込まれた後ですので、言うに及ばずでしょうけれど。
先ほどまで、すっかり意気消沈していた清四郎といえば、少し持ち直したようで、かいがいしく悠理の世話を焼いておりました。 「もう自己嫌悪はいいんですの?」と、声を掛けましたら、 「悠理にね、”守ってやる”と言われてしまいました。落ち込んでいる場合じゃないですね。」と、愉快そうに笑うのです。 「思い出しましたよ。昔、”女に守られてやんの”と罵倒され、それまでの自負や自信を粉々にされたことで、今の自分になったことをね。その当人の悠理に、またまたガツンとやられた気分です。」 茹蛸のような顔でぐったり寝入っている悠理を、清四郎は目を細めて見つめていました。愛しげにさえ見える目で。
それにしても、どうして悠理は発熱しましたのかしら?ナントカは、風邪をひかないはずですのにね?
証言4
降り続いていた雪が上がった朝。 一晩中発熱のためうなされていた僕は、友人の声で初めて意識を取り戻した。
「忘れられない女、ってわけか?」 「・・・・ええ、彼女のことは、忘れられません。」
清四郎と魅録の会話だった。 ん?この二人で女の話? と、僕の意識は一気に覚醒する。
「だけど、悠理に”あたいにしろよ”と言われてしまい、僕も目が覚めました。」 「え、悠理?!こ、今度は悠理かよ?」
清四郎の穏やかな声に比べて、魅録の声は裏返っていた。 耳をそばだてていた僕の脳裏も『?』マークで満ちる。 ”女の話”どころか、ずばり”恋バナ”じゃないか?しているメンツ(清四郎と魅録)と、出てくる名前(悠理)は、とても信じられないが。
なになに、僕が眠っている間に何が起こったんだ? この数日の騒動以上とんでもないことは早々起こらないと思っていたけれど、僕にとっては、突然のラブストーリーの方が大事件! よりにもよって、清四郎と悠理の間に!
考えてみれば、あまりに正反対なのでなかなか気づかないけれど、清四郎と悠理はお似合いだ。それについ先日までの仲違いで、お互いの大切さを思い知ったばかり。それは僕達仲間みんなだけど。 悠理は、清四郎が死んじゃう、と大泣きしていた。 でも、清四郎は悠理を・・・・・?
「僕はまだまだなのだと、思い知らされました。思えば、悠理にはいつも僕のちっぽけなプライドを蹴散らされてるんですよね。」 苦笑交じりの自嘲するような清四郎の言葉を、僕とおそらくは魅録も息を詰めて聞いていた。 「あいつを守れる男には僕はなれていない・・・・15年経っても、まだ。」 それは、告白に違いなかったから。
胸が、ドキドキする。自分のこと以上に。 動機息切れが苦しくなり、もう寝た振りを続けることができず、僕はガバリとベッドから身を起した。
「清四郎!素晴らしいよ!!」 「え、び、美童?聞いていたのかよ?」 「おや、熱が下がったようですね。でもまだ顔が赤いな。息も荒いし、目もなにか異様に充血してますね・・・・」
興奮している僕を冷静に分析している清四郎は、あまりにもいつも通りだったけれど。 病理診断は清四郎でも、恋愛診断は僕の分野。
「清四郎と悠理が付き合うなんて、灯台下暗しだったけど、僕はふたりを応援するよ!」
僕は握りこぶしで友人に向き直った。 僕の友情溢れる言葉に、清四郎はにっこり笑顔。
「ええ、悠理も自分から手を上げてくれましたからね。修行し直しに、付き合ってもらいますよ。」
「「は?」」 僕と魅録の声が重なり、ふたたび裏返った。
清四郎は遠い目をする。同時に笑みに苦いものが混じった。 「・・・・でも、この屈辱は忘れません。次に、あの女に会った時、僕はもっと・・・・」 独り言のように呟いた清四郎の顔には、決意の色が浮かんでいた。 僕がそう期待する、恋の甘い色でなく。
だけど、今度僕の脳裏をよぎったのは、『?』マークでも『!』マークでもなかった。
「−−−−−−−。」
僕は脱力し、ふたたびバタンとベッドに背中を預けた。 横たわったまま、窓の外に目をやる。 窓から見える銀世界は、煌いて眩しかった。 澄んだ空は青く、世界は美しい。 あんな怖ろしい目にあったことが、嘘のようだ。
「な、なあ?何がどうなってるんだ?」 複雑な男女問題が不得手な魅録はまだ頭に『?』マークを貼り付けているが、僕は完全に理解していた。 清四郎が、簡単には僕の期待に応えてくれる男ではないと、わかっている。 でも、先ほど清四郎の言葉や表情から感じた、胸躍る予感と確信が、いつか真実になるだろうと信じたい。 応援する気持ちも本当だった。 今はまだ、ほど遠い地平にいようとも。
―――――そりゃあ僕だって、モルダビアのことは、簡単には忘れられそうにないけどね。
END 2010.9.24
と、いうわけで、原作「世界横断クイズ」の後日談でした〜。弱ってるオトコに弱いドSな私。落ち込む清四郎を書きたかったんです。タイトルに偽りアリ?いや少なくとも悠理ちゃんは、ちゃんと恋に落ちてますからね!(←殴) で、一応、「ありふれたラヴストーリー」の続き・・・・てわけではないけど、まぁ、同一世界なカンジかな。恋愛要素ゼロな原作の延長上で、うっかり恋に落ちるあたりが。 |
背景:イラそよ様