あんた達二人の関係ってどうよ?
よく聞かれる質問。
恋人同士。そうとしか言い様がないじゃん。お互いの思いは通じ合っている。
少し距離がある?そうかもな。
だけどそれがあるから二人、自分らしくいられる。
こんな関係があったって、いいんじゃないか?
『束縛しない、だけど君が好き。
―Side Y』 BY 麗様
「……せーしろ?」
朝、目覚めてみたらアイツが隣にいない。
シーツを体に巻きつけて、あいつの姿を探した。
どこ?清四郎。もう仕事に行っちゃった?
カチャ…部屋のドアが開く音。流れ込んでくる、芳醇な香り。
「悠理?起きたんですか」
清四郎の手にはペアのマグカップ。中はきっとブラジルとコロンビアのブレンド。
苦味が少なくマイルドな味わいのそのコーヒーは、あたしが泊まった翌朝の定番。
いい香り…ほんの少し、不安を感じた心が凪いでいく。
清四郎がベッド脇のサイドボードにカップを置き、ベッドの縁に腰掛けてあたしの顔をじっと見た。
思わずその首に腕を絡め抱きつき、頬を摺り寄せた。
清四郎の腕があたしの背中に廻される。
ぎゅ、と抱きしめてくれるから、あたしは離れられなくなる。
「どうした?悠理?」
あまりにも長くあたしが抱きついたまま離れなかったからだろうか?
清四郎がそう言いながら、あたしの頬を両手で挟んで顔を上に向けさせる。
「おはよう」
清四郎は首をかしげてにっこり笑いながらそう言うと、口付けてきた。
最初はちゅ、と軽く。二度目はもう少し深く。
「ん……」
このまま放っておくとキスがだんだん深くなって、それ以上のコトに発展しそうだ。
お腹も空いてるし、コーヒーも飲みたい。ちょっとタンマ。
「せーしろ…」
軽く胸を押す。
「なんですか?」
「コーヒー飲みたい」
はあ……わざとらしく溜息なんかついちゃって。
その手にはひっかからない。
だって、ここで仏心を出したら今日一日はベッドの中だ。
せっかく3ヶ月ぶりに会えたんだから、それは嫌。
これから朝ゴハン食べて、どっか行きたい!
どっか……あ、清四郎、仕事かな?
「せーしろ、仕事は?」
差し出されたマグカップを両手で受け取りながら聞いてみた。
「今日は休みですよ。一日空けました」
「うそ!やったぁ!」
嬉しくってしょうがない。
にこにこ緩む頬。コーヒーを一口。うまい!
清四郎もカップに口をつけ、微笑んでいる。あたしの大好きな優しい目をして。
「どこか行きますか?近くに、この間オープンしたサンドイッチのうまいカフェがありますよ」
嬉しくて嬉しくて、カップをサイドボードに置いてまた清四郎に抱きついた。
「せーしろー、すきっ!」
おっと…と、片手であたしを抱きとめ、その手でポンポンと背中を叩いてくれる。
「そう言ってくれるのは嬉しいんですが…」
清四郎は軽く苦笑しながら話し出す。何?
「だったらもう少し頻繁に会えませんかね?3ヶ月も何してたんです?」
ああ、そのこと。
「豊作兄ちゃんに連れられて、ヨーロッパ。来期の水着の試作品の相談とかでさぁ」
*****
大学を卒業してから6年になるか。
卒業した当初、あたしは家事手伝い(別名ゴクツブシ)で、清四郎の留学先に押しかけたりしてふらふらしていた。
けれどそれを2年も続けていたら、さすがのあたしも少し飽きが来た。
清四郎も無事に留学先から戻ってきて、魅録や美童と一緒に会社を作って忙しくしていることだし。
なら、あたしもなんかしてみるかぁって思って豊作兄ちゃんに相談したら、
「お前に出来ることなんてあるかねぇ…」
なんて言われたけど、スポーツ用品の開発を命ぜられた。
だけどいざ、やりだしてみるとこれが結構面白くって、あたしは今も夢中でこの仕事に打ち込んでいる。
自慢じゃないけど、この間のオリンピックの女子競泳の優勝者が着てたのは、あたしが企画開発の指揮を執った水着だ。
あたしが仕事を始めたことで、清四郎と会える時間は格段に減ってしまった。
最初は心配だった。電話やメールだけでは不安で不安で……
だってほら、アイツって凄くモテるし。
あたしが言うのもなんだけど、長身の逞しい身体、精悍さを増した整った顔立ち。
頭は良いし、仕事もバリバリに出来る。
清四郎達の会社はビジネス誌や雑誌なんかにもばんばん載ってるから、芸能人なんかからもお誘いがあるみたいだし。
あたしなんかでいいのかなぁ?って、卑屈になったりもしたけど、
清四郎はいつだってこう言ってくれる。
「悠理が良いんです。僕にはお前だけだ」
「お前は自由にしていたらいい。僕はお前を束縛するつもりはないから。けど……愛してますよ、悠理」
あんなイイ男にさぁ、ここまで言われたら少しくらい舞い上がったってしょうがないだろ?
だから今のあたしには不安はない。
清四郎があたしが自由でいることを望むんなら、とことん自由でいてやろーじゃねーか!
その代わり、あたしだって………愛してるぞ。
*****
少し冷めてしまったコーヒーを飲みながら、あたしは最近の仕事の話をする。
清四郎は時折相槌を打ち、微笑みながら聞いてくれている。
「そうですか、よく頑張りましたね。悠理」
そういって頭をぽんぽんしてくれる。
あたしは、こうやって清四郎に誉めてもらいたくって頑張ってるのかもしれない。
仕事して、世界中あちこち飛び回って疲れ果てても、こいつがいる。
帰ってくれば、いつだって抱きしめてキスしてくれる。
それは極上の安心感。清四郎だけが、あたしに与えてくれるもの。
「ねぇ、会えなくって、寂しかった?」
ちょっと、聞いてみたい。
「当たり前でしょう?悠理のことばかり考えてましたよ」
って、それは嘘だろ?
でも、そんな風に言ってくれるのって凄く嬉しい。
もう、思いっきり抱きついちゃえ!
「ん〜〜〜っ!せーしろー、すきっ!だいすきっ!」
「とっ、悠理!」
清四郎は珍しくあたしを支えかねて、二人してベッドに倒れこむ。
あ……しまった!
不意打ちとはいえ、コイツがあたしの身体くらい支えきれないわけがない。
だけどもう遅い。唇が塞がれた。
「…今日は、ずっとこうしていましょうか?」
あたしの額や頬に口づけを落としながら、清四郎が囁く。
「え〜、おいしいサンドウィッチは?」
「サンドウィッチくらい、僕が作ってあげます」
「そうじゃなくってぇ…。お前だって久しぶりの休みなんだろ?どっか行きたいとかないの?」
「お前の顔を見てるだけで十分です」
またそんなコト言って……そんな熱っぽい目で見るなよ。
でも、まぁ…いいか。
また明日からは忙しい日々が始まる。またしばらく会えないかもしれない。
そんな日々を乗り切るために、少しでもたくさん清四郎に触れておかなきゃ。
「悠理、どうして欲しい?」
「ん〜、なんか食べたい」
「……そうじゃなくって…」
可憐に聞かれた。
「あんたたち、結婚とかするつもり無いの?」
まだわかんない。
今はただ、あたしは清四郎が好きで、清四郎も……あたしを好きで。
いつか、二人の気持ちがごく自然にその方向に向かうのかもしれない。
だけど、その時まではこのままで。
束縛しないのはあたしも同じ。清四郎にも自由でいて欲しい。
だって―――あたしは、お前を誰よりも愛してる。
end
…バカップルっすね。
いつもとは違う二人を書くはずだったのに、結局同じやん。
いつも清四郎よりで書いちゃうので反省して悠理視点も書いてみたんですが、
悠理視点をはじめて書いてみて、結論。
「悠理視点で書くとバカップルにしかならない」
…だから今度はやっぱり清四郎視点で切ないのを書こう〜っと。←ヲイw
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