Anniversary〜二人の記念日〜

     BY 麗様





「悠理、僕はお前が好きです」


やっとのことでそう口にした僕に、あいつは輝くばかりの笑顔を見せてこう答えた。
「そっかぁ〜、そうだと思ってたんだっ!あーすっきりした。じゃな、清四郎。また明日!」
そうして彼女は身を翻して駈けて行ってしまった。
呆然とベンチに座り込む僕を残して…



***




リリリリリリリリ……がしっ!
ベッド脇の目覚まし時計を掴んで耳障りなベルの音を止めた。
時計は7時を指している。
くっ、いつもなら目覚ましが鳴る1時間前には眼を覚ますのに。今日は朝の鍛錬は無しですね。
…ここの所どうも夢見が悪くていけない。
はっきりしない頭を軽く振り、起き上がってパジャマから制服に着替える。
シャツのボタンを留めて蝶ネクタイをつける。
ズボンに足を通してベルトを締め、上着を手にとって部屋を出る。

「はあ……」
溜息が出た。
(ああ、学校に行きたくない…)そんなことを考えた自分に驚く。
学校に行きたくないなんて思ったのは、曜変天目を割った時以来だ。
しかしこの菊正宗清四郎、聖プレジデント学園生徒会長として学校を休むわけには行かない。
…それに今日は数学の小テストだし。


家を出るとちょうど野梨子が隣家から出てきたところだった。
「おはようございます、野梨子」
「おはようございます、清四郎。今日は暑いですわね」
変わり映えのしない挨拶を交わして歩き出す。学園までは歩いて15分。

学校に近くなると毎度おなじみ通学時間の交通渋滞である。
連なった車の中の一台から元気な声が聞こえてくる。
「ここでいいよ!ありがと名輪。行ってきま〜す!」
バンッと車のドアを閉める音がし、こちらに走ってくる足音が聞こえてくる。
どきどきどきどき…高鳴りだした心臓の音と足音が重なる。

「おっはよ〜!清四郎、野梨子!」
「「おはようございます、悠理」」
ぴょんと一跳ねして野梨子の隣に並んで歩き出した悠理と、おなじみの挨拶を交わす。
ちら、と横目で見ると悠理は僕の方を見もしないで野梨子と楽しそうに談笑中だ。
どういうことなんでしょうかね?この態度は。


―――僕がやっとの思いで悠理への気持ちを打ち明けたのは3日前のことだ。
何故自分のことが心配かと尋ねるあいつに僕は正直な気持ちを伝えた。
「悠理、僕はお前が好きです」と。
僕を見つめるあいつの瞳の中に、僕と同じ熱を見たと思ったから。
当然、「ありがとう」とか、「あたいもお前が好きだ」とか言う答えが帰ってくるものと思っていたのに。
返ってきた答えは「そっかぁ、すっきりした。じゃあな!」であった。

正直に言って、一昨日と昨日はまだ期待していた。
もしかして悠理が「清四郎、昨日のことなんだけど…」なんて言って来るかも知れないと。
しかし3日後の今日になっても、悠理の態度は変わらない。
これはやっぱり、今までどおり友人で居ようって言うことなんですかね?
ふぅ…つまり、僕は振られたってわけですか。



授業が終わり放課後、野梨子と共に倶楽部の部室に向かった。
ドアを開けると既に皆が揃っていた。
美童と可憐、魅録は何やら雑誌の話で盛り上がっているようだ。
悠理の前には既に多くの食い散らかした菓子の残骸が散らばっている。全くいつも通り。
なんとなく切ないような気持ちになりながら、ぼくは悠理の前に椅子を引いて座った。
テーブルに肘を着き、頬杖をついて悠理を眺める。またぞろ意地悪を言いたいような気分になった。
「全く、よく食べるなお前は。ほら、菓子屑を散らかすな」
あからさまに不機嫌な声が出てしまった。
「ぐっ……」
…おや?いつもなら「うっさいな!」とか返してくる悠理が何も言い返してこない。
それどころか顔を赤らめて俯いてしまった。

「…ごめん……」
蚊の鳴くような小さな声が聞こえた。な、何?
「…悠理?どうしましたの」
不審に思ったのか隣に座っていた野梨子が悠理の顔を覗き込むと、はっとしたようにその目が大きく見開かれた。
「ごめん、野梨子。あたい、帰る…」
立ち上がってポツリとそう言うと悠理は鞄を取り上げて部室から出て行った。
―――悠理は泣いていた。


「清四郎!悠理に何かしたんですの?」
「僕は何も…と言うか、いつも通りのことを言っただけですよ」
僕を責める野梨子の言葉に、僕は両手を上げて待ったのポーズをとりながら答えた。
「そうよねぇ。あれぐらい、いつものことじゃない?」
「悠理が泣くほどのことじゃないよねぇ。清四郎が悠理にイジワルするのなんていつものことだもん」
「……」
可憐と美童のフォローになっていない言葉に、僕は苦虫を噛み潰した。

「いつも…ってのは違うんじゃねぇか?」
頬杖をついた魅録が斜向かいから僕を軽く睨み付けながら言う。
その口調になんとなく挑発的なものを感じた。
「何がですか?魅録」
「二人の関係が、さ」
「…どういうことですか?」
「とぼけんなって。…付き合ってんだろ?お前ら」

「はぁ?」
「えっ!」
「嘘!」
「まぁ…」
思っても無い魅録の言葉に僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
その声に美童、可憐、野梨子の声がかぶさる。

「はぁ?って…誤魔化すなよ。悠理に告白したんだろ?3日前に。」
え?何で魅録が知ってるんですか。
「まぁ…したと言えばしましたが…」
「悠理がよ、すっげー喜んで俺んとこに報告に来たぞ。「清四郎が好きだって言ってくれたんだ〜。どうしようっ!」って」
喜んで…悠理が?
「お前まさか、そういう意味じゃなかったなんて言うんじゃないだろーな!」


がたんっ!
立ち上がると椅子が倒れた。でもそんなことに気を取られてなどいられない。
鞄を引っつかみ、部室を飛び出し、階段を駆け下りる。
廊下を突っ切って校舎を飛び出し…いた!悠理!!

「悠理っ!」
驚いて振り返るあいつの瞳には、まだ涙の跡。
「悠理……」
無茶苦茶に走ったために乱れた息を整えながら考える。
何と言うべきなんだろう、こんな時は…

「…一緒に帰りましょう」
ようやく口から出た言葉の余りの馬鹿さ加減に、いい加減情けなくなる。
悠理はしばらく呆れたように口をぽかんと開いて僕を見ていた。
だがやがてゆっくりと口の端が上がっていき、僕の大好きな輝く太陽のような笑顔になった。
「うん!!」

ほっと息を吐き出し、僕は悠理の隣に並んで歩き出した。
なんとも言えない暖かい気持ちが胸に込み上げて来る。
今日は僕にとって一生忘れられない記念日になりそうですね。
僕と悠理が、共に歩き出した記念日。

「…交際記念日、ですかね?」
そう呟くと、悠理がうん?と言うように僕の顔を上目使いに見上げた。
「…なんでもないです」
そう言って苦笑すると、悠理の眉根が寄った。

これから二人で、たくさん記念日を作っていこう。
一つ一つの記念日を記したら、カレンダーが真っ黒になる位に。
僕らしくもなくロマンティックなことを考えながら、いつもの通学路を二人で歩く。





…手を繋いでもいいでしょうかね?






END


一応、「伝えたい言葉」(別名「清ちゃん恋の前では愚か者」シリーズ…って、シリーズ化すんのか?)の続編です。
両想いだったんですね〜。この二人。
でね、作中でなぜかミロがえらく不機嫌ですねぇ。どうしてでしょう?悠理に惚れてた?
いえいえ、そんなことはありませんよ。では何故?じゃ〜ん!「清四郎のことが気になってた」からなんですねー。実は。

さぁフロさま、ネタは振りましたわよ。書きたかったんでしょ?「清四郎に告白して玉砕する魅録」!
ほほほほほ〜。書いてくださいねっ!(キリ番取れなかったもんだからこんな姑息な手段に出た私)

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ぎょへへへ〜っ!!れ、麗さん、マジっすか?!書いていいの?魅→清!(って、喜んでどーするよ、自分・・・)
でも両思いにしてしまいそう〜〜!だって、ミロちんってば、かわいくてカッコイイ理想の男の子ですもの〜〜vv
(久しぶりに清×悠の風上にも置けぬ発言)