「ちょっと、早く証拠の品を見せなさいよ!」
悠理の部屋に入るなり、可憐が鼻息も荒くまくし立てた。
「可憐、はしたないですわよ。」
野梨子が、可憐をたしなめた。
「でも、僕も早く見たいなぁ。悠理が生まれて初めて貰ったっていう、男からのラブレター。」
普段の悠理からは考えもつかない話題に、デートを一つキャンセルしてまで付いてきた美童が瞳を輝かせて言った。
「ラブレターっていったて、幼稚園の時の話なんだろ?」
呆れ顔で魅録が言った。
「ま、みんな暇なんですから。」
清四郎が、意地悪な目で悠理を見た。
「本当に、物好きな奴らだな・・・・」
そう言いながら、悠理は奥の寝室へ入っていった。
事の始まりはいつもの可憐と野梨子のやり取りだった。
放課後の部室で、ラブレターをシュレッター(生徒会の備品)にかける野梨子に可憐が文句を言っていた。
「じゃぁ、可憐は全てとっておいてありますの?」
最近は、「時間の無駄」と聞き流している野梨子が、珍しく反撃した。
「う・・・・・・で、でも、最初に貰ったのは今でも持ってるわよ。」
さすがに学校で封も切らずに捨てることはないが、家に帰って読み終われば捨ててしまう可憐が苦し紛れの返答をした。
それがきっかけとなって、男性陣も巻き込んで『初めて貰ったラブレター』談義に花が咲き、悠理が幼稚園の頃に貰ったラブレターを持っている事に驚いたメンバーが、剣菱邸を訪れることになったのだった。
動きやすいルームウェアに着替えた悠理がもどると、すでに5人は車座になっていた。
「ここに座れ」ということなのだろう、可憐と野梨子の間が広かった。
仕方なく悠理はそこに座って、みんなの前に箱をさしだした。
「「早く開けてよ。」」
可憐と美童に催促され(もちろん、残りの3人も目で催促していた)、悠理はふたを開けた。
「何よ、これ」
点になった可憐の目に映っているのは、ビー玉・おはじき・スーパーボールに、お菓子のおまけといったラブレターとは縁のないものたちだった。
「悪かったな。子どもの頃の宝物だよ。」
膨れっ面のまま悠理は、箱の中に手入れると、3枚の封筒とフィルムケースを取り出した。
封筒にも、フィルムケースに貼られたラベルにも、子どもの字で「ゆうりちゃんへ」と書かれてあった。
「開けてもいい?」
可憐の声に悠理が頷くと、それぞれに手が伸びた。
「あら。」
「まぁ・・・・」
「えっ?」
「おっ!」
「ほう・・・・」
3枚の封筒から出てきたのは、パウチされた桜の押し花と真っ赤なもみじの葉と雪だるまの写真だった。そして、フィルムケースに入っていたのはキラキラと輝く小さな貝だった。
「可愛いラブレターですわね。」
野梨子が優しく微笑んだ。
「きっと、自分がキレイだと思ったものを悠理にも見せたかったんだろうね。」
美童が貝を手のひらに載せて呟いた。
「でも、これでどうして差出人が男の子だって分かるのよ。」
可憐が、腑に落ちないといった表情で言った。
「これだけ、いつも園バッグに入ってたから・・・」
そう答えた悠理に向って、可憐が噛み付いた。
「女の子だって入れるかもしれないじゃない。」
自分よりも幼い時期に、悠理が男の子からラブレターを貰ったことにプライドが刺激されているようだった。
「だって、野梨子以外の女の子はみんな手渡しで手紙くれたぞ。それに、雪だるまの帽子が青かったからさ・・・・」
悠理の言葉に、可憐は雪だるまの写真を手に取った。
「桜ともみじ、悠理が自分でパウチしたんですか?」
助け舟のつもりか、清四郎が話題を変えた。
「ボロボロにならないようにって兄ちゃんがやってくれた。」
その言葉に、魅録が不思議に思ったのか悠理に訊ねた。
「なんで、豊作さんが?」
「あたいその頃、まだ字が読めなくてさ。読んでもらってたんだよ!いつもみたいに持ってったら、中に桜が入ってて・・・・それを見た兄ちゃんが『字の読めないお前の為に、一生懸命考えた手紙だと思うよ。大切にしなさい』って」
悠理の頬が、ほんの少しだけ紅く染まった。
「きっとさ、その頃、豊作さんも誰かに恋してたのかもしれないよね。」
美童のその一言で、話題が豊作に移っていった。
白鹿の家の前で、野梨子と清四郎は剣菱の車を降りた。自宅に向う清四郎に野梨子が声をかけた。
「豊作さんに感謝ですわね。」
「何のことです?」
清四郎が足を止めて、振り返った。
「惚けても無駄ですわ。雪だるまのあの帽子って、おば様が和子さんと私たちに色違いで編んでくださったものと同じでしたわね。」
野梨子の目が悪戯っぽく笑った。
「・・・・・・・・・・・」
清四郎の顔が引き攣っていた。
その顔を見て満足したのか、野梨子は門の向こうへ姿を消した。
(野梨子には、かないませんねぇ・・・・)
清四郎は溜息を一つ吐くと、自宅へと歩を進めた。
その夜、清四郎は机の引き出しの奥から取り出した古びた缶の蓋を開けて、中をじっと見つめていた。
「季節外れの桜は、ゴールデンウィークに行った函館の桜。
キラキラ光る貝は、夏休みの沖縄で拾った物だし、真っ赤なもみじは、東村寺の境内の楓。
雪だるまは、初めて行ったスキー場でしたね・・・・・
今度悠理が来たときにでも、見せてみましょうか?一体どんな顔をするんでしょうねぇ・・・・」
中にはいっているのは、夕方悠理の部屋で見せてもらったものと同じ物ばかりだった。
清四郎は缶に手を入れると、一番底から小さくたたんだ紙を取り出した。
『 ゆうりちゃんへ
ぼくは とうそんじというおてらで けんぽうをならいはじめました。
はやくつよくなって ゆうりちゃんがこまったときには ぜったいにたすけにいくからね。
きくまさむね せいしろう 』
それは、渡さなかった最初のラブレター・・・・
そして、幼い清四郎の心の宣誓書でもあった。
〜End〜
****あとがき****
どうも、本人の思惑以上にインパクトのある(お馬鹿)「ネタ」を送りつけてしまい、掲示板を騒がせてしまう癖があるようで・・・(^^;)。
「こういうのも書けるんだぁ」と、思って頂ければ名誉挽回ですね(爆)。
実は、フロ様の「ラブレター〜きみとぼく〜」を読んで、おかあさんといっしょの歌でも二次世界を展開できることに衝撃をうけ、次の瞬間に浮かんだのが「銀ちゃんのラブレター」という歌でした。字の書けない幼い銀ちゃんが、大好きなゆりちゃんに贈る『字のない四季の手紙』が可愛くて切ない歌です。
フロ様が、続編を思いついて下さっているようなので、そちらも楽しみにしていて下さいね。
では、またお馬鹿部屋でお会いしましょう(違うって!!)。
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