Say Friend

後編

  

BY 麗様

 

 

 

目を覚ますと、部屋の中には朝の光が満ち満ちていた。

 

 

眩しさに寝返りを打って、枕に顔を埋めると、清四郎の匂いがした。

ああ、ここは清四郎のうちだったな…と思うと、自然に口元が緩んだ。

顔を横向けて隣を見ても、清四郎の姿はない。

でも、部屋の外から漂ってくるベーコンの焼ける匂いに、清四郎の所在が知れた。

 

 

ずるずる……

部屋の中にあたいの服はなかったから、シーツを身体に巻きつけると、引きずりながら部屋を出た。

広いリビングを覗き込むと、パジャマのズボン姿の清四郎がキッチンに立ち、ベーコンエッグを皿に入れているところだった。

あたいの姿に気付くとちょっと微笑み、脇の椅子にかけてあったパジャマの上衣を放ってよこす。

 

「おはよう。シャワー浴びたらどうです?」

「ん…」

あたいはずるずるとシーツを引きずってソファに近寄り、アレを探す。

 

「パンツなら、服と一緒に畳んで置いてありますよ、そこに」

 

皿をテーブルに置きながら、ソファの上を指差して言った清四郎の言葉に、あたいは眉根を寄せつつ赤面した。

デリカシーのないのは相変わらずだ。まぁ、一番上に乗せられてないだけましか…と思いながら、あたいはパンツを引っ張り出して手の中に隠すと、バスルームに向かった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「ねぇ、わざわざホテル取らなくってもいいよ。おまえんちに行ったらダメ?」

 

 

清四郎からの電話にそう言ってみたのは、昨日のこと。

清四郎との逢瀬は、いつの間にか6度目になっていた。

ただヤる為だけに毎回毎回一流ホテルのスイートを取らせるのには、正直言って気が重かった。

それに…清四郎の家にも行ってみたかったから。

 

 

「僕の家ですか?」

「そう。ダメ?」

「いや、いいですよ。じゃあ、今日は夕方には仕事が終わりますから、どこかで食事しましょうか。何が食べたいですか?」

「和食!」

「わかりました。どこか予約しておきますよ」

くすくす笑いながら、清四郎は電話を切った。

 

 

清四郎は去年、菊正宗病院の近くにマンションを買っていた。

機会がなくて、あたいはまだ行った事がなかったけど、先日魅録と共に遊びに行った可憐は、

「すごく素敵なマンションだったわよ。ああいうとこで、新婚生活を送りたいわぁ」

と言って、「安月給」を自認する魅録をちょっとうろたえさせていたっけ。

 

 

食事を終えて、連れて来られた清四郎のマンションは、確かに素敵だった。

マンションにしては広い玄関と廊下。ベッドルームと清四郎が書斎にしている部屋。

間取り的には2LDKだけど、一つ一つの部屋が広くて、オープンキッチンのあるリビングは20畳位あるだろう。

ベランダに面した一角には北欧製の大きなテーブル・セット。

壁際にはでっかいプラズマテレビとスピーカーがホームシアターを形作っていて、対面にはゆったりとしたソファ。

 

 

「すごいな、お前。金持ち〜」

なんて言ってDVDを漁っていたら、

「それは後ですよ」

と、抱き寄せられて唇を塞がれ、ソファに押し倒された。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

手早くシャワーを浴びて、あたいは清四郎に渡されたパジャマを着た。

ホテルみたいに綺麗な洗面台の、大きな鏡に映る自分の姿を見る。

いくら男物とはいえ、白いパジャマはあたいの腿を隠すくらいの長さしかない。

 

―――これってちょっと、エッチっぽくないか?

って思ったけど、頭をぶんぶんと振ってその考えを否定した。

可憐ならともかく、薄っぺらな胸とやせっぽちのあたいの身体だ。そんなでもないや…って。

 

 

リビングに戻ると、清四郎がコーヒーをカップに注いでいるところだった。

あたいの姿を見ると、ふっと目だけで笑う。なんか、スケベっぽい笑みだ。

あたいはパジャマの裾を引っ張って、なるたけ足を隠すようにしながら、テーブルについた。

 

 

テーブルの上には、淹れたてのコーヒーにベーコンエッグ。こんがり焼けたトーストが乗った皿の脇にはバター、マーマレード、イチゴジャムの壜。食器は全部、白無地のシンプルなもので揃えられている。

男の一人暮らしにしては、こまごまと物が揃った家だ。今はいないとしても、前は時々食事を作りに来るひとでもいたのだろうか。

トーストをかじりながら思ったことを口にすると、清四郎はひょい、と片眉を上げた。

 

 

「姉貴やお袋が、中元歳暮にもらったものを持ってきて置いていくんですよ。食器は引き出物ですしね」

「ふーん。うまいなぁ、このジャム」

「持って帰っていいですよ」

「ほんと?でも、お前だって使うだろ?」

「いつもは、朝はコーヒーだけなんです。今日は、悠理が来ているから特別メニューですよ」

 

 

その台詞が嬉しくて、あたいはにこにこしながらトーストをかじった。

清四郎はそんなあたいに優しく微笑むと、2枚目のトーストに手を伸ばしながら、小さくあくびをした。

 

 

「清四郎、これから仕事?」

「…今日は、夕方からです」

「じゃあさ、食べ終わったらもうちょっと寝たら。…あたいはDVD見てるから」

「そうですねぇ…」

 

 

清四郎がコーヒーを飲み終えるのを待って、あたいは食器をキッチンへと運んだ。

食器を洗い始めると、清四郎が後ろに立って覗きこむ。

 

 

「大丈夫ですか?」

「馬鹿にすんな。最近さ、可憐んちに行くと後片付けを手伝わされんだ。あんたもちょっとはこういうことが出来るようになった方がいいわよって…」

「ありがたい友人ですな。可憐は」

「だからさ、清四郎は寝ろよ。あたいがやっとくから」

 

 

そう言っても、清四郎はあたいの後ろに立ったまま。

食器を割るんじゃないかと心配してるのかな?と思っていたら、急にすっと清四郎の腕があたいの腰に回った。

ぴと、と清四郎の身体があたいの背中にくっつく。あたいの頬に、清四郎の頬が合わせられる。

 

「悠理」

「何?」

「ゆう、り」

「だから、何?」

「悠理……」

 

清四郎が、あたいを抱きしめたまま身体を左右にゆらゆらと揺らす。

揺らされて、あたいは笑い出してしまった。

 

「なんだよ、子供みたいに」

「ああ、本当に…」

 

清四郎の額が、あたいの肩に押し付けられる。

あたいにかかる、清四郎の体の重みが増す。

 

 

「あなたといると、癒される……」

「……」

 

 

あたいは水を止め、右手を清四郎の頭を抱えるように回した。

いつか、あたいの胸に顔を埋めて眠ってしまった清四郎を思い出す。

泣き疲れて眠ってしまった子供のような、清四郎の寝顔。

 

 

「清四郎…疲れてる?仕事、大変なのか?」

「仕事は…まぁ、大変なのは覚悟していましたし、体力は、人一倍ありますから…」

「じゃあ、仕事以外?」

清四郎に向き直り、両手を清四郎の肩に置いた。清四郎は、穏やかな目であたいを見返していた。

「あの世界もね、派閥やしがらみで色々ありましてね。僕はまだまだ新米ですけど、院長の息子でもありますしね…」

 

 

そうか…ずっと前に、和子姉ちゃんが言っていたことを思い出した。

医師仲間の間でも、色々とやっかみやら何やらあるのよねぇ、って。

「そんなことで落ち込むなんて、お前らしくないぞ」と言おうとして、止めた。

 

子供の頃から清四郎は「神童」ともてはやされてきた。

聖プレジデントにいた時だって、「学園始まって以来の秀才」と言われ、生徒会長として常に皆から憧れと羨望の目で見られてきたのだ。

悪意や妬み、そねみの感情を向けてこられるのには、慣れていなかったのかもしれない。

 

 

「清四郎…しんどかったら、あたいにぶつけてもいいぞ。いつでも…」

清四郎の頬に手を伸ばして、そう言ってみた。清四郎の黒い瞳が揺らぐ。

「悠理…」

頬に添えた手を掴まれ、もう片方の手で腰をぐっと抱き寄せられた。首筋に、清四郎の息がかかる…

 

 

「僕の、そばにいてくれるか?ずっと僕を、癒し続けてくれるか?」

あたいの首筋に埋められた清四郎の唇から、くぐもった声が聞こえる。何も考えずに、答えていた。

 

 

「当たり前じゃないか。ずっと、そばにいるよ…」

 

 

抱き寄せられたまま、無言でお互いの暖かさを感じていた。清四郎の広い肩、広い胸。

急に泣きたいくらいの幸福感を感じて、あたいは清四郎の肩に両腕を回してしがみついた。

 

「清四郎…」

 

大好きなその名を呼ぶと、熱くて深い口づけがやってきた。

 

 

 

*****

 

 

 

 ―――僕の、そばにいてくれるか?ずっと僕を、癒し続けてくれるか?

 

 

一人でいると、ついぼーっと清四郎のあの言葉の意味を考えてしまう。

あれは…やっぱり、そのまんまの意味だよな。

 

 

あの後、清四郎に抱き上げられてベッドに運ばれた。

あたいの全身にキスを降らせ、慈しむように抱いた後、清四郎はあたいを抱きしめたまま眠ってしまった。

その寝顔がとても満足気で、幸せそうで、あたいはDVDを見るなんて言っていた事も忘れて、ただ見入っていたんだ。

 

 

幸せな気分だった。すごく。

それで、あたいはようやく自分の気持ちに気付いた。

ああそうか、あたいは清四郎が好きなんだ――って。

「セフレになれ」なんていう馬鹿な提案を受け入れたのも、セックスが気持ちよかったからじゃなく、心のどこかで清四郎への思いを自覚していたから。

……気持ちよかったからっていうのも、ちょっとはあったけど。

 

 

でも、清四郎は、どうなんだろう。

「そばにいてくれ」と言うんだから、あたいと同じ気持ちでいてくれるんだよな、きっと。

最初は、本当に恋愛感情なんてなかったのかもしれないけど、今は、きっと――

 

 

 

*****

 

 

 

野梨子の家に遊びに行ったのは、それから5日後のことだった。

「新作のお菓子がたくさんありますのよ。食べに来ません?」と言われて、ホクホクとして出かけていった。

野梨子と二人だけ出会うのは久しぶりだったから、あれやこれやと話が弾んだ。

可憐はどうやら、魅録との結婚を真剣に考えているらしいとか、美童が最近、野梨子にお茶を習いに来るんだとか。

そして話は当然、隣家の幼馴染のことになった。

 

 

「清四郎は、近頃休みの日もほとんどこちらには帰ってこないようですわ。おばさまが寂しがってらして。そういえば、私もずいぶん会っていませんわね」

野梨子の言葉に、あたいはちょっと罪悪感を感じた。

だって、清四郎が休みの日は、必ずと言っていいほど会っていたから。

 

「でね、和子さんに聞いたのですけど…」

野梨子が、あたいにお茶を注ぎなおしてくれながら言った。

「清四郎はこの間、お見合いをしたそうなんですの。相手はおじさまとも懇意な大学病院の教授のお嬢さんで…」

「え……?」

 

あたいは、口に入れかけていたお菓子をポロリと落とした。

「清四郎は今までお見合いの話は全部断っていたそうですの。でも、そのお見合いは受けたと言うことで…和子さんが、『あいつらしいわよね。結婚相手も、自分にとってのメリット、デメリットで考えるんだから』って」

 

「それ…いつの話?」

自分の声が、どこから出ているのかわからなかった。

「確か、この前の日曜日…悠理、どうしましたの?顔が真っ青ですわよ!」

 

 

目の前の景色が、揺らぐような感じがした。胸がむかむかして、気持ち悪くって。

日曜日…あたいが清四郎に会ったのは、金曜日。

あの言葉を、あたいに言った後で、他の人とお見合いをしていたなんて…

 

 

「ごめん、野梨子。あたい、なんか気分悪い。帰る…」

「大丈夫ですの?食べ過ぎですかしら。待ってくださいな、清四郎が調合した胃薬…」

「いい、いらない!ごめん、野梨子!」

「悠理!?」

 

 

あたいは、逃げるように野梨子の家を飛び出した。

名輪を呼ぶこともせず、タクシーを捕まえることもせずに、家まで駆け続けた。

 

早く、家に帰らなきゃ、涙が零れ落ちてきてしまう―――

 

 

 

*****

 

 

 

家に逃げ帰ったあたいは、その日から毎日自分の部屋に閉じこもって過ごしていた。

どこにも行く気になれなくて、ただ、胸が押しつぶされるように痛くて。

 

 

ベッドにうつ伏せてじっとしていると、いつも浮かんでくるのは清四郎の顔。

疲れて眠っていた時の顔や、あたいといると癒されると言ってくれた時の、温かな笑顔。

思い出す度にまた苦しくなって、あたいは涙で枕を濡らしていた。

 

 

 

清四郎、清四郎…

ずっとそばにいてくれと言ったのは、なんだったの?

 

 

これでも日本有数といわれる財閥の娘だから、「政略結婚」というものの話は人よりも多く耳にしていた。

家の為、会社の為に、好きでもない人と結婚する。自分にとってメリットのある人と。

清四郎も、そうする気なの?結婚は、医師という仕事の上でプラスになる大学病院の教授の娘と?

じゃあ、あたいはなんなの?友人として、セフレとして、そばにいろってか?

そんなの、嫌だよ…ひどいよ、清四郎。

 

 

 

「はぁ…」

3日も泣き続けてたら、泣いているのにも飽きてきた。

あたいはベッドから起き上がり、ソファに腰掛ける。テーブルの上から手鏡を取り、自分の顔を見つめた。

―――ひどい顔。

目は腫れてるし、顔もむくんでる。最悪だ。

 

 

鏡を放り出し、代わりに携帯電話を手に取る。

着信履歴には、ずらっと清四郎の名前が並んでいる。

清四郎、清四郎、清四郎…思わず、この三日間で何回かかってきているのかを数えて、おかしくなった。

何回電話をかけてきたって、あたいは出ないのに。

 

 

コンコン、というノックの音に、あたいはビクッとして携帯を閉じた。まさか、清四郎?

「お嬢ちゃま…」

けれど、入ってきたのは五代だった。…なんだ、五代かと、あたいの体から力が抜けた。

 

「なに?」

五代はなにやら落ち着かない様子だ。

「その…清四郎様がおいでになられましたが…」

「いないって、言って」

清四郎、と聞いただけで、涙が滲んだ。

「それが…」

 

 

「誰がいないんです?」

五代の後ろから、長身の男が顔を覗かせた。

「ありがとう、五代さん。悠理と二人きりで話したい事がありますので」

にこやかに、でも有無を言わせぬ調子で五代を部屋の外に追い払うとバタン、とドアを閉め、清四郎は厳しい顔であたいを見た。

 

 

「…なんだよ、話って。あたいは話す事なんかないぞ」

あたいは顔を背ける。

「悠理、何故電話に出てくれないんです?いったい何回電話をしたと思ってるんだ?」

「……17回」

「ほぉ。よく答えられましたね。まさか、数えていたんですか?」

 

 

清四郎がつかつかと歩いてきて、あたいの前に立つ気配。

「悠理、こちらを向いてください」

「……」

「いったい、どうしたって言うんだ?僕が何か、お前の機嫌を損ねるようなことでもしたか?」

「……」

 

 

清四郎の顔を見たら泣き出してしまいそうで、あたいは唇を噛んだまま明後日の方角を見ていた。

清四郎が手を伸ばして、あたいの顔を自分の方に向かせようとするのを、必死で拒んだ。

「悠理……」

清四郎の声が苛立つ。それでもあたいは顔を背け続け……

 

 

ぼすっ!

ふいに、何かがあたいの頭に振り下ろされるのを感じて、あたいは反射的に手を伸ばしてそれを掴んで止めた。

その拍子に、顔が清四郎の方を向く。苦虫を噛み潰したような清四郎の顔。そして、あたいの手が掴んでいるのは―――

 

 

 

真っ赤な真っ赤な、薔薇の花束。

可憐が男にでも貰いそうな、女なら、一度は貰いたいと憧れるような。

大きな、大きな、薔薇の花束。

 

 

「な、何だよ、これ…」

「花束です」

しれっと答える男の顔を、その花束で殴りたい衝動に駆られる。

「そんなこと、見ればわかるわいっ!どういうつもりだって、聞いてるんだよ!」

 

 

「…そばにいてくれるって、言ったでしょう?」

どこか悲しそうな表情で、清四郎が言う。

「あれは、そういう意味じゃなかったのか?」

 

 

「…だって、お見合いしたんだろ?大学病院の教授の娘と。その人と、結婚するんじゃないの?」

「はぁ?何を言って…まぁ、確かに見合いはしましたよ。会うだけでもと、しつこくてね」

疲れるんですよねぇ、そういうの、と、清四郎は溜息をついた。

「でも、向こうから断ってきましたよ。そうなるように、一芝居したんですけどね」

にやり、と悪魔の笑みを浮かべる。どんな芝居をしたのかは、聞かないほうが良さそうだ…

 

 

「じゃあ…じゃあ…」

あたいは、花束を抱きしめて清四郎を見上げた。

きちんとしたダークスーツに身を包み、真珠のネクタイピンまでつけている彼を。

「本当は、どこかいいレストランででも、プロポーズしたかったんですけどね。あなたが電話に出てくれないから…」

清四郎がすっと膝を落とし、あたいの両頬を手のひらで包んだ。暖かさに、涙が零れた。

清四郎が、口を開く。

 

 

「悠理、僕と、け…」

「ちょ、ちょっと待って!!」

 

 

え?という顔をする清四郎の手を跳ね除けると、あたいはクローゼットへと走りこんだ。

着ていたグレーのスウェットの上下を脱ぎ捨て、服をあさる。

 

 

「何…してるんです?」

「だって、だって…清四郎はちゃんとした格好してるのに、あたいはスウェットの上下でプロポーズ受けるなんてヤダーー!」

「はぁ……」

 

 

清四郎が呆れたように言い、すぐにくっくっと笑い出す。

その声を背中に聞きながら、あたいはあれでもない、これでもないと、次々に服を引っ張り出していた。

何着りゃいいんだろ、こんな時。

どうしても気に入る服が見つからない。涙で目が霞む…

 

 

「悠理」

すぐ後ろで清四郎の声がして、ふわっと抱きしめられた。

「いいですよ、このままで」

抱き上げられ、ベッドに運ばれる。清四郎は、いつの間にかジャケットを脱いでいた。

 

 

「裸でプロポーズっていうのも、僕らには似合いかもしれませんね」

「な…」

くすくす笑いながら、あたいをベッドに横たえると、ブラを外した。

次に自分のシャツのボタンをひとつづつ外すと、大きく前をはだけ、逞しい胸を露にした。

「あ…」

あたいの胸に、清四郎の胸が合わせられる。肌と肌が触れ合う心地よさに、思わず吐息が漏れる。

愛しい愛しい、彼の肌の感触…

 

 

 

「悠理、僕と結婚してください」

 

見上げれば、清四郎の黒い瞳。

見たこともない――ううん、ずっと前から、何度も見ていた、優しい瞳。

 

「はい…」

 

あたいは、夢を見ているような気持ちで、そう答えた。

 

「ああ、悠理。愛しています…」

清四郎が、本当に嬉しそうに笑うから、あたいはまた泣き出してしまった。

清四郎の唇が、涙を吸い取る。何度も、何度も、ちゅ、ちゅ、って。

 

 

 

「あたい、清四郎の奥さんになるの?セフレじゃなくって?」

「セフレだなんて…そう言ったのは悠理でしょう?僕は一度もそんなことを言ったことはありませんよ。僕は、最初から…」

「最初から?」

「いや…正確には、2度目にホテルに行ったときですかね、自覚したのは」

清四郎はキスを下降させながら、話し続けた。

 

 

「悠理から電話を貰うまで、悠理のことが頭から離れなくて、あなたのことばかり考えて…」

清四郎の唇が、胸の膨らみを柔らかく食む。

「電話を貰った時は、嬉しくて」

「あっ…」

先端を咥えられ、強く吸われる。

「もう一度、あなたを抱いた時には、もう手放せない、と思った」

 

 

「あ、あ…えっち、したかっただけじゃなくって?」

「そうじゃない、それだけじゃない。悠理、あなたの全てが…」

清四郎が顔を上げる。

「堪らなく、愛しいと感じたんです」

 

 

清四郎の、熱を帯びた瞳。

あたいはこれまでいったい何を見ていたんだろう?

そう、清四郎はずっとこんな目であたいを見てくれていたのに。

セフレだなんて…そう思っていたのは、あたいだけだったんだ。

 

 

「清四郎、好き、大好き!」

嬉しくて堪らない。あたいは手を伸ばして、彼に抱きついた。

「僕もですよ」

清四郎が、ぎゅって、抱きしめてくれる。

 

 

 

熱いキスを交わしながら、あたいははじめて清四郎に抱かれた日のことを思い出していた。

初めて交わした、口づけを。あの時感じた、胸の高鳴りを。

 

 

 

「これからもずっと、ずっと、そばにいるからねっ!」
誓うように、弾みをつけて言ったあたいの言葉を、清四郎が、極上の笑顔で受け止めてくれる。
あたいは、自分が清四郎を癒していけるということに、例えようも無い幸福感を感じつつ、目を閉じて清四郎の腕に全てをゆだねた。




本当に、大好きだよ。清四郎。

お前の、心も、情熱も、全部、ね。




 

 

end

 

 


単に、「バスローブを脱いで、逞しいカラダを露にさせる清四郎」が書きたかったんです。
で、前半をノリまくって書いた後、後半を書くまでに間が開いてしまった所為で、前後で全く話の雰囲気の違うものになってしまい、穴掘って埋めようとしてたら、フロさんが「清×悠第一」と書いた黄色いヘルメットをかぶってパワーショベルで掘り返しに来ました。(^_^.)
え?何故タイトルが「Say Friend」?
それはねぇ、セイ・フレンド→セィ・フレン→セ・フレ→セフレ!ばんざーい!ばんざ…あうっ!(←蹴られた)
ぐすんぐすん…ありがとう、フロさん。こんな作品を引き取ってくれて…
 

 

 

 

 

作品一覧

背景:Pearl Box様