友を想う男の挽歌・おまけ

  BY カパパ様

 

「そういえばさ、そっちのニュースって何だったの?」

 

 

 

美童の質問に答えるのは、自慢のウェーブに手をやる可憐。

 

 

 

「だから言ったじゃない、女清四郎のハウスマヌカンのことよ。この辺、あまり来てなかったから忘れてたけど、スイスで清四郎の女装を見た時どこかで見覚えがあった気はしていたのよお。で、たまたま思い出したってワケ。」

 

 

 

野梨子と見ていた店が、その『女清四郎のハウスマヌカン』がいるブティックだったのだ。

 

可憐も野梨子もそれは楽しみに入店しようと思ったのだが、残念ながら営業終了後であった。

 

 

 

「・・・それで、二人はしゃいでいたわけですか。『ランジェリーを見るから、ちょっと離れていろ』とそれらしい理由をつけてまで見たかった、と。」

 

「惜しかったですわよね。私たちも悠理たちを待っていれば見られたかもしれませんのに。」

 

「きっとすれ違ってたわよお、あーー、見たかったのにい!」

 

 

 

清四郎の言葉を無視して悔しがる美女二人を前にし、得意げな悠理と美童。魅録は清四郎の目を避けている。

 

 

 

「日ごろの行い、ってヤツかあ?へへへ、トクしちったい!」

 

「そーいう事!ま、これからは僕たちを見習うんだね。」

 

 

 

(・・・頼む!お前らのお気楽さを爪の垢ぐらいで良いからオレに分けてくれ・・・)

 

 

 

有閑倶楽部でも一、二を争う行いの悪い二人の横でうなだれる魅録。能天気な二人はニマニマと笑顔で、美童などウィンクまで決めている。

 

 

 

 

 

「・・・ほー、そんなお門違いな事を言えるのはどの口ですかねえ?『日ごろの行い』ですか、それはそれは。そういえばブラック・ルシアンの歯磨き粉はまだ持っていますか、悠理?」

 

 

 

びくん!と誰が見ても分かるほど緊張した悠理はいそいそと清四郎の傍へ寄り添う。

 

彼の腕を取り縋りつくさまは、まさにペットそのものだ。

 

 

 

「あ、あはっ・・あたいの宝物だからなあ!あの時はホント、清四郎ちゃんにお世話になりましたぁ〜っ。えへ、感謝してま〜す♪」

 

「『あの時は』?へえ、あの時だけですか、僕に感謝しているのは。」

 

「うっ・・い、いや、いつも感謝し放題だよぉ、決まってるじゃんかあ。やだなあもう、知ってるクセに!」

 

 

 

(・・やっぱ、天使でも女神でもねえな。錯覚って怖いよなあ・・・)

 

 

 

顔を青くしながらも変な笑顔で取り繕っている悠理には、先ほどのカリスマ性は微塵もない。いいところで場末のパブのホステスだ。悪いところで猿のオモチャ。

 

 

 

 

 

清四郎の腕を取り、さり気なく他の四人から距離を置いてヒソヒソ声で悠理は抗議した。

 

 

 

「内緒にしてくれる、って言ったじゃんか!スーパーコンピューター買っただろ!?」

 

「僕は『歯磨き粉はまだ持っているか』と尋ねただけでしょ。やましい事をしているから、そんな風に思うんですよ。それでよく『日ごろの行い』なんて言えますね。」

 

 

 

何も言い返せない悠理はグッと下唇を噛むしかない。ジト、と上目遣いに睨む。

 

 

 

「ううう・・・せーしろーのイジワルぅ・・・。」

 

「!」

 

 

 

反射的に顔を逸らした清四郎の表情は悠理には窺えなかった。

 

予想しなかった彼の行動に面食らいつつも、悠理の手は清四郎の腕を離さない。

 

 

 

(ニヤニヤするかと思ったのに・・・、何見てるんだ?)

 

 

 

つられて彼の視線の先へ目を移すと、天津甘栗を売っている。

 

悠理の脳みそは栗の上品な甘さと歯ごたえで占められた。

 

 

 

「な、清四郎もアレ食いたいのか?あたいも食べたいと思ったとこなんだー、一緒に買いに行こう!」

 

 

 

さっきまでの拗ねた表情はどこへやら、一転して満面の笑みを浮かべる悠理。『今泣いたカラスがもう笑った』とはよく言うが、カラスよりも原始的な思考である。

 

この優秀すぎて嫌味な男も同じ考えなのだろう、と思うと妙に嬉しかった。

 

 

 

「へへ〜、甘栗甘栗♪ああ、秋ってなんてシアワセ!」

 

 

 

踊り出さんばかりに上機嫌な悠理にため息をつく清四郎。

 

いつもの二人だけれど、彼の目に宿る優しさの色は普段より強い。

 

仕方なさそうに腕を引っぱられる彼はどことなく楽しげな雰囲気だ。

 

 

 

 

 

外見はカップル、実情は『釈迦と悟空』の二人をよそに他四人は語り合う。

 

 

 

「・・・・やっぱり、悠理を扱わせたら清四郎の右に出るヤツはいないよなあ。」

 

「うんうん。悠理、あれだけ言われても清四郎には懐いているもんね。」

 

 

 

魅録は見事に悠理を手玉に取る清四郎の手腕に感心し、美童も追随する。いかに単純おバカな剣菱悠理とて、あそこまで皮肉を連発されれば普通は嫌悪感を露にするというものだ。

 

 

 

「あら美童。清四郎は悠理の弱みを握っていますのよ、きっと。あの様子は尋常ではありませんでしたもの。」

 

「いえてるわね。人の弱みを握ることについては清四郎の右に出る人なんていないわよお!ホント、敵にはまわしたくないわよね。」

 

 

 

野梨子は幼馴染に対して辛口だ。清四郎の手腕ではなく、裏取引によるものだと直感している。その直感は可憐の言により信憑性を帯びた。

 

彼女の後半のセリフには皆一様に肯定の意を示す。

 

 

 

「そういえばあんた、よくあんな怖いやつにあんなセリフ言えるわね。どんな仕返しされるか分からないじゃない!?」

 

 

 

野梨子を振り返る可憐。先ほどの『低次元な発言』と『みっともない』というセリフを指している。可憐だけではなく魅録も美童も同意を表し、野梨子に注目した。

 

 

 

「あら、大したことありませんわよ。『仕返し』だなんて大げさですわ。ほほ、あの清四郎の言葉はいつかお返ししようと思っていましたもの、これでおあいこですわ。」

 

 

 

独自性を出す為に『見苦しい』を『みっともない』に替えてみましたのよ、と笑う。

 

「オリジナリティが欲しい」というのも清四郎が野梨子に言った皮肉だ。そう、新春強盗騒ぎの時に。

 

 

 

(((こいつも敵にまわしたくない・・・)))

 

 

 

性格も環境も違う3人の思考がまとまった瞬間であった。

 

 

 

 

 

例えば、と魅録は思う。

 

女装した清四郎はパニック映画だ。

 

最初のインパクトこそ凄まじいが、慣れれば平気だろう。嫌な気分はするだろうが、恐怖は覚えないと思う。最終的には女装の誤解も解け、今は悠理とほのぼのハッピーエンドだ。

 

 

 

それに比べて、野梨子の言動は日本のホラー映画。

 

日常の隙間からじわじわと染み出してくる恐怖だ。些細な言葉も一語一句残さず覚えている陰険な記憶力に、とてつもない悪意を感じる。

 

もう水に流しているような外面をしておきながら、「今か今か」と復讐の時機を待っていたのだろう。そして言った本人も忘れた頃になって、鮮やかに切り返すのだ。言葉の刃を心の中で研ぎ澄ましていたのだと思うと、切れ味抜群の嫌味にも納得がいく。

 

 

 

可憐も美童もさっきのショックからもう回復した。

 

可憐は清四郎のペットと化した悠理の買い食いを諌めている。

 

美童は美童で野梨子と談笑だ。

 

基本的に、常春の脳みそを持つ二人である。

 

 

 

 

 

(・・・この中でまともなの、オレだけじゃねえか。・・・悪いな親父、オレ神経の病気で死ぬかもしれねえよ・・・)

 

 

 

松竹梅魅録18歳、本気で親不孝を心配する秋・・・。

 

 

 

 

END

 


清×悠原理主義を唱えるフロ様にお贈りするのに清四郎氏と悠理嬢の絡みがほとんどなかった!と慌てました。しかも意味が分かりづかったので補足の意味も兼ねて「おまけ」です。

 なんだか野梨子が嫌な女ですが、私の中では彼ら6人の中で一番彼女が陰湿なのです(笑)

 「ヨイヨイヨイ♪」のお言葉に縋ってしまいました。押し付け御免!・・・ピューッと逃避。

カパパ拝

 

 

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