愛のチョココーンフレーク

BY ルーン様

 

 

 

放課後の、生徒会室で。
「あ゛?チョコレート?」

悠理は、菓子を食べる手を止められたことに腹を立てたようで、不機嫌そうにそう言った。
ぽろり、と悠理の口からチョココーンフレークが落ちる。

「ええ、チョコレート」
僕は、こんな状況に負けてなるものか、と、思いっきり笑顔を返した。だって僕と悠理は、先月から付き合っているのだから。

「お前さ、チョコレートなんて、自分で好きなの選んで買って、食えば済むじゃん」
悠理は人差し指で、自分の口の端をちょちょいと触り、チョコレートが付いてないかを確かめている。

後ろで、ふごぉっ!という音がした。
野梨子と美童と、魅録と可憐が、同時に茶を噴出した音だろう。
だが、僕は負けない。
「ええ、もちろん僕は、ただチョコレートを食べたいのではありません」
そうだ。仮に、もし今ここで、通りすがりの人から世界一美味しいチョコを貰ったとしても、何の感動もない。

「じゃあなんなんだよ…って、あー!お前、バレンタイン意識してんな!?」

ぎくり。
この猿は時々カンが鋭く、焦らされる。
しかし、相手は悠理。煙に巻く自信がある。
余裕を見せるため、僕は鼻から息を出した。さもおかしい、というように。
「ふん。実在したかどうかすら明らかでなく、今はカトリック典礼暦から取り除かれた聖人の死んだ日に、僕がこだわるように見えますか?」

 

くっくくくく…
目の端で、美童の金髪頭が机に突っ伏して震えているのが分かる。
ふん、全く何がおかしいんでしょうかね?あの万年常春男は。毎日が楽しそうで、うらやましいですよ。

「しかしですよ?世の中の風潮に乗ることも、大事なことです」
ぶん、ぶんっ。
魅録が急に、わざとらしく鼻をかみ出した。そろそろ花粉症ですかね?カバノキ科やスギ科の飛散はもう始まっているし、そろそろイネ科も飛び始める頃ですからね。しかし鼻だけじゃなくて口も押さえてますね。息が出来なくなりますよ。

「どんなにばかばかしく思える習慣でも、見直すことによって、新しい発見に繋がったり自分の認識が変化したりするものなのですよ」
…っきょう…
と、野梨子の声が聞こえた。可憐と一緒に笑っている。
なんでしょうね?ラッキョウ?宗教?一興?お経?あ、それともテンテンがついて、学業?…どれにせよ、笑いの意味が分かりませんよ、野梨子。

(注:ちなみに、野梨子は「説教してますわよ!?」と言って笑っていたのである)

僕は、気を取り直すため、大きく息を吸った。
すると、両手を挙げて、降参のポーズを取る悠理。
「わかった。要するに、世間の波に乗って、チョコレートをお前に渡せばいいんだな?」
ああ、悠理、素晴らしい要約です。
冬休み前の期末テストの平均が、19点だったとはとても思えません。
分かってもらえて、僕は嬉しい。

「ええ、そうです」
僕は大きく頷いた。満足である。どの位かと問われれば、

この世をば わが世とぞおもふ 望月の かけたることも なしとおもへば

なんて唐突に、こんな歌が浮かんでくる位満足である。
そんな僕に、悠理はさわやかな笑顔を向けてくる。
そして…。

「ハイ、やるよっ」

そんな言葉と共に差し出されたのは、先ほどまで悠理が貪っていたチョココーンフレークの袋、当然食べかけ。
袋の中には5分の1程しか残っていない。
追い討ちのように、悠理はひとつ、げっぷをして見せた。
僕は泣きたくなった。
求めていたのは、こんなものじゃない。

「食べ過ぎて、胸焼けしてきちった」

ああ、悠理。
せめて、森○製菓の‘小枝’を大量に湯銭にかけて、ハートの型に流し込む位の芸があったっていいじゃないですか。
例え、ファットブルーム現象の起きた、まっずいチョコでもかまいません。
なんですか、チョココーンフレークって。チョコなのかコーンフレークなのかはっきりしろって話ですよ。
しかもチョココーティングが一旦融けて、その後固まり団子状態になっていて、それをほぐしていると体温で再度融けたチョコが手にべとべとと付くなんていう、呪いのような代物を寄こすとは、あなたの神経どうなっているんですか。

僕はき、と顔を上げた。
いくらなんでも、これはひどい。
目の前では、悠理はきらきらと瞳を輝かせて笑っている。

「うまいだろ?チョココーンフレーク」
う…
「食べたこと、ありません」
「えええ!ないの?食ってみろって、ホラホラ」
促されるまま、悪夢のような形態のそれを、口に運ぶ。
ぽり…
「な?」
ま、まあ。
「美味しい…ですね」
清四郎の横で、にこにこと笑う悠理。

ごんっ
ほぼ同時に、4つの頭がテーブルにぶつかった音がした。

「だ、だめ〜!だってさっき悠理、アレ食べて胸焼けしたって言ってたじゃない」
と、可憐。
「しっ!声が大きいですわよ」
笑いをかみ殺しながら、野梨子。
「丸め込まれてるよ〜!清四郎」
と、美童。
「いらなくなった菓子を渡されただけだよな」
小声で、魅録。

まあ、いいとしますか。
とりあえず、悠理からチョコレートを渡されたわけですし。
自分が美味しいと思っているものをくれるなんて、愛を感じますねぇ。
なんだか後ろがうるさいですが。
そして今日は、まだ13日なんですが。
これを、悠理からの愛だと受け取って、いいんですよね?

 

 


おわり
 


まっとう健全なる清×悠を目指したら、こんな話になりました。一体どこから道を間違えてしまったのか、あれよあれよという間にギャグに転じてしまい、そのまま起き上がれませんでした。もっとラブラブで、かわいいお話を書きたかったのですが。うーむ。 

 

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