空模様なんて 気にもならない
なにしろ 今日は最高の日さ
願いをこめて その火を吹き消してごらんよ
新しい日がまたはじまる
用意はいいかい
Happy
Birthday Happy Birthday
Happy Birthday オメデトウ
Happy Birthday To
You(今日はサイコー)
(〜Happy Birthday〜 Song.By B'z)
「あ、もしもし。あたい。今日ヒマ?―――そっか、判った」
夏休みに入って最初の週末。
あまりにも退屈だったんで、みんなに電話するも、用事があるとかで、ことごとく振られ、
『すみません。今日はちょっと・・・』
最後の綱だった清四郎からも断られたあたいは、思い切り凹んでしまった。
〜Happy Birthday〜
「ちぇっ。つまんないなぁ・・・」
窓際にあるクイーンサイズのベッドに、ひとり寂しく横になる。
窓から見える景色は、まさに夏空だ。
いつもなら、みんなから断られても、こんな天気の良い日は、ひとりで遊びに出掛けるのに、
今日はとてもじゃないが、そんな気分にはなれなかった。
「こんな日に限って、父ちゃん達もいないんだもんなぁ」
昨日、些細なことで喧嘩して家出した母ちゃんを追いかけて、父ちゃんはパリへ。
その皺寄せに、兄ちゃんが父ちゃんの代わりにNYへと旅立った。
まぁ、この年になって盛大なお祝い、なんてことは云わないけど、
せめて今日だけは、家族やみんなには傍にいて、こう云って欲しかった。
悠理、誕生日おめでとう―――
そう。今日は19回目となるあたいの誕生日。
10代最後の誕生日だから、大好きな家族やみんなに祝って貰いたかった。
でも、今年は傍で祝ってくれる人は、誰もいない。
「はぁ・・・」
ため息をついた分だけ幸せが逃げるって云うけど、今のあたいにはため息しか出なかった。
「久し振りにタマとフクを連れて、公園にでも行こうかな」
こうしてても気分が滅入るから、何かをやって、気を紛らわせるに限る。
ベッドから飛び起き、二匹がいるであろう籠の中を覗き込むけど、
「あれ?あいつら何処行ったんだ?」
籠の中は、枕代わりのクッションがあるだけで、もぬけの殻だった。
「何だよ。みんなしてあたいをひとりにしやがって・・・」
こうまでとことん振られると、さすがのあたいも泣きそうになる。
誰もいないのに、泣き顔を見られたくなくて、ベッドに倒れ込み、枕に顔を埋めた。
++++++++
RRRRR〜♪
遠くで何か鳴っている。
聞き覚えのあるこのメロディーは、携帯の着信音。
あたいは音のする方へ向けて、手探りをしたその時、大きくて温かいものに手を包まれた。
「目が覚めましたか?」
その声にびっくりして起き上がると、そこにはベッドの端に腰掛け、微笑んでいる清四郎がいた。
「あれ?あたい・・・」
「随分気持ち良さそうに眠ってましたね」
鳴り続ける携帯を止め、クスクスと笑いながら、清四郎が云う。
そうか。あのまま寝ちゃったんだ・・・
枕に顔を埋めているうちに、そのまま眠ってしまったらしい。
窓から見えていた青空も、いつの間にか、橙色の空へと変化していた。
「目が覚めたなら、これから僕に付き合ってくれませんか?」
「へ?何処行くの?」
「それは行ってからのお楽しみ、ということで」
まだぼんやりしているあたいの髪を梳きながら、清四郎がいたずらっ子のような表情をした。
++++++++
「・・・ここ」
名輪の運転する車で向かった先は、馴染みのある3階建ての洋風な一軒家。
すぐ裏には、何かあれば世話になる大きな病院。
「何だよ。清四郎ん家じゃないか」
あたいと清四郎は『菊正宗』と書かれた表札のある門の前に立っていた。
「行ってからのお楽しみ、って云うから、期待したのにさぁ」
「ほらほら、早く入って下さい」
「判ったよ」
清四郎に促されて、中に入ると、誰もいないのか。家の中は物凄く静かだった。
「おばちゃんや和子姉ちゃんは?」
おっちゃんは医者なので、緊急患者が来ると、病院に行ってしまうから、不在の時が多いけど、
おばちゃんやまだ医大生の和子姉ちゃんは、この時間になれば家にいるはず。
何処かへ出掛けているんだろうか。不思議に思って、清四郎に聞いてみた。
「お袋は昨日から旅行に行ってますし、姉貴は研修でいませんよ」
「ふーん・・・」
清四郎の返答に納得がいった。
家と違って、清四郎ん家にもお手伝いさんはいるけど、仕事が終われば帰ってしまうし、
おまけに、ふたりとも出掛けているのなら、家の中が静かなのは当然だった。
「あ、悠理。そっちじゃありませんよ。こっちです」
「?」
いつものように3階にある清四郎の部屋へ向かおうとしたら、何故か1階へと通された。
さっきまで気付かなかったけど、何処となく清四郎の様子がおかしい。
何かを隠しているような、そんな感じがした。
「お前、何かあたいに隠してないか?」
「・・・何も隠してなんかいませんよ。失礼な」
「あっそ」
清四郎は何事もなかったかのように答えたけど、片方の眉が少しだけ攣り上がった。
普段からポーカーフェイスと云われていても、かれこれ長い付き合いともなれば判ってくる。
片方の眉が少しだけ攣り上がる時は、云いたくないことを聞かれた時の清四郎の癖だ。
清四郎が云いたくないのなら、これ以上聞いても答えは望めない。
何を隠してるのか判らないけど、あたいは敢えて知らない振りをした。
和室のある襖の前で止まった時、清四郎があたいの手を取った。
「ちょっとだけ目を瞑ってくれませんか?」
「目を瞑るって、まさかあたいに変なことするんじゃないだろうな」
「何をするって云うんですか。良いからさっさと目を瞑る。時間がないんですよ」
「何だよ。時間がないって」
「ほら、早く」
「判ったよ。・・・ったく」
あたいは清四郎に云われるがまま、目を閉じた。
「僕が良いと云うまで、目を開けちゃ駄目ですよ」
「う、うん」
からりと襖の開ける音がして、清四郎があたいの手を引き、ゆっくりと歩き出す。
あたいは視界が見えない恐さから、清四郎の手をぎゅっと握った。
10歩程度だろうか。少し歩いたところで、ぴたりと止まった。
「ゆっくり目を開けて下さい」
清四郎に云われるがまま、ゆっくり目を開けてみると―――
パンパンパン!
「「「「Happy
Birthday!」」」」
そこには、クラッカーの鳴り響く音と、大好きなみんなの笑顔があった。
「ごめんなさい、悠理。用事があると嘘をついてしまって」
「何やってんだよ。早く座れよ」
「ほら、あんたの好きなケーキ作ったわよ」
「悠理、誕生日おめでとう」
用があると云っていたのに、何故みんながここにいるのか。そもそも何故ここに連れて来られたのか。
あたいは訳が判らず、助けを求めるように清四郎へと視線を向けた。
「どうしたんです?自分の誕生日を忘れたんですか?」
「え?え?」
何度も何度も清四郎とみんなの顔を交互に見る。
少しずつ視界がぼやけてきた。
「ごめんね、悠理。驚かせて」
「毎年同じだと飽きるだろうと思って、今年はサプライズにしたんだよ」
ケーキにローソクを立てる可憐と、あたいに向かってウインクをする美童。
「お料理もたくさんありますわよ」
「お前が飲みたがっていたワインもあるぜ」
お皿を並べる野梨子と、ワインを持ち上げる魅録。
今日はあたいの誕生日。
誰からも祝って貰えず、ひとり寂しい誕生日を迎えなきゃいけないと思っていた。
なのに―――
「ふえ〜〜ん」
「あ〜あ、泣かせちまった。お前のせいだぞ、清四郎」
「何で僕のせいなんです。それを云うなら、ここにいる全員も同罪じゃないですか」
「あら。でも、最初に云い出したのは清四郎ですのよ」
「ちょっと!ここで云い争いしてどうすんの!」
「ほらほら、悠理。泣かないで」
その場に座り込み、声をあげて泣いてしまった。
びっくりしたけど、大好きなみんなからの祝福が嬉しくて嬉しくて。
いきなり泣き出したあたいを、みんなは必死になって宥めたけど、嬉し涙は止まらなかった。
++++++++
「ちょっと悠理。いい加減に泣き止みなさい。料理が冷めるでしょ」
「だってぇ」
「まったく。ほら、これで顔拭きなさい」
「ぶっ」
ここに来て、どれくらい経つだろう。未だ泣き止まないあたいに痺れを切らせたのか。
可憐がレースのハンカチをポケットから出して、あたいの顔に押し付けた。
「悠理の泣き虫は今に始まったことじゃねぇだろ」
「うるさいな。大体なんだよ、みんなして黙ってるなんてよ」
「悠理が知ってたら、サプライズの意味がないですわ」
ワインの入ったグラスを差し出す魅録に、あたいは文句を云いながら、それを受け取る。
野梨子がお皿に料理を乗せ、あたいの前に置いた。
「美童、部屋の電気を消して下さい」
「OK」
ケーキに刺さる19本のローソクに火を点した清四郎、部屋の電気を消す美童。
目の前には可憐お手製のバースディーケーキ。
真っ暗な部屋には、ローソクの火だけの明かりしかないけど、見ていると何だかとても温かい。
その温かさに、みんなの思いがこもっているように思えて、また涙が出そうになった。
「「「「「悠理、誕生日おめでとう!」」」」」
「・・・ありがとな。みんな」
「ほら、ローソクの火を消して下さい」
「うん!」
清四郎に背中をポンと叩かれ、あたいは大きく息を吸い込み、ローソクの火を一気に吹き消した。
それからのあたい達は、日付が変わる時間まで、大いに飲んで、騒ぎまくった。
ひとりぼっちだと思っていた19回目の誕生日は、こうして幕を閉じたのだった。
++++++++
夜も遅いからと、全員そのまま清四郎の家に泊まることになった。
みんなは騒ぎ疲れて眠ってしまったけど、あたいは昼間寝たせいか。ひとり寝付けなかった。
ちょっと外の空気でも吸って来ようかな・・・
みんなを起こさないよう布団から抜け出し、音を立てないように和室の襖を開けると、
自分の部屋で寝ているはずの清四郎が、縁側に座って、外の庭を眺めていた。
襖を開ける音に気付いたのか。清四郎が振り返った。
「どうしました?」
「何か寝付けなくてさ。お前こそどうしたんだ?」
「僕も一緒ですよ」
あたいは清四郎の隣に座り、同じように庭を眺めた。
暫しの沈黙のあと、月明かりに照らされた清四郎の横顔に話しかけた。
どうしても今日のお礼を云いたくて―――
「清四郎」
「何です?」
「・・・今日はありがとな。びっくりしたけど、嬉しかったぞ」
「どう致しまして。悠理が喜んでくれて良かったですよ」
あたいの頭に手を置いて、清四郎が微笑む。
清四郎の笑顔につられ、あたいもにっこり微笑んだ。
嬉しくて泣いてた時、野梨子が云ってた。
今回のサプライズを考えたのは、他でもない清四郎だったって。
勉強以外でも、何かと迷惑をかけてばかりなのに、
清四郎は嫌な顔ひとつせず、あたいの面倒を見てくれる。
今まで口に出したことないけど、本当に本当に感謝しているんだ。
清四郎だけじゃない。魅録や美童、野梨子に可憐。みんなに感謝してる。
上面だけの付き合いじゃなく、本当のあたいを知っていて、何かあった時は、必ず助けてくれる。
最初の頃は嫌いだったのに、今はかげないのない大切な仲間達。
最高の仲間達と一緒なら、これから先、何があっても恐くない。
みんながいれば、鬼に金棒。どんなことがあっても、乗り越えてみせる。
大好きなみんなの傍で―――
〜end〜 2006.8.1 up
フロさま、サイト2周年おめでとうございます。
即興で大変申し訳ないんですが、お祝いの小ネタを献上致します。
これからも「ふろいらいんの煩悩空間」と、フロさまの活躍を、一ファンとして楽しみにしてます。