イパネマの娘 BY こたん様
すらりとして、日に焼けた 若くて綺麗なイパネマ娘が 歩いていく 歩き方はサンバのリズム クールに揺れて やさしく振れる 好きだと言いたいんだけれど 僕のハートをあげたいんだけれど 彼女は僕に気付きもしない ただ、海を見ているだけ
目を閉じて椅子に座っていると、ラジオからアントニオ・カルロス・ジョビンが歌う「イパネマの娘」が流れてきた。 彼の掠れたテノールが僕を灼熱の太陽の下へ誘う。 どこまでも続く青い海、白い砂浜・・・ もちろんここはブラジルでも南国の島でも、どこでもない。 僕の家の僕の部屋であり、僕の机のポータブルラジオから「イパネマの娘」が聞こえているのである。 ほんの少し前、クロゼットの整理をしていたら、小学生の頃使用していた黒いポータブルラジオが出てきたのだ。 僕は懐かしく思い、早速新しい電池を入れ、アンテナを立て、チューニングした。 何の問題もなくFMからボサ・ノヴァが流れてきた。 ボサ・ノヴァは嫌いでない。 まして「イパネマの娘」は僕にとって夏の定番である。 僕はこの曲を聞くといつもあの人を思い出す。 すらりとして、日に焼けた 若くて綺麗な僕の幼友達 歩き方はリズミカル クールに揺れて やさしく振れる・・・ 彼女は僕の友達以上の想いを知らない。 いつもまっすぐで、目の前にあるものに夢中で、時には腕白で手がかかる。 泣き虫で、甘えん坊で、まるで子供のようだ。 だから僕も、なかなか先には進めない。 好きだと言いたいんだけれど 僕のハートをあげたいんだけれど 彼女は僕に気付きもしない ただ、ただ、今を懸命に生きている ほらほら、玄関から彼女の元気な声が聞こえてきた。 宿題もしないで夏休み中遊び惚けているから、今になって僕を頼ってくる。 トントントン リズミカルに階段を上がってますね。 僕のイパネマ娘は、僕の気持ちに気付きもしないで宿題を終わらせる事だけ考えている。 「おーい、清四郎!あたいだじょー。ドアを開けてくれ。両手にカバンで開けられなーい!」 やれやれやれ。 仕様が無い、と言う感じに首を振る。 ドアのノックは手でするんですよ、足じゃありません。 僕は僕のイパネマ娘の為にドアへと向かう。 小麦色に日に焼けた、元気な姿を迎える為に。 大きくて透き通るような茶色の瞳を見つめる為に。 想いはまだ伝わらなくてもいい。 もうしばらくこのままでいよう。 今の関係だって、悪くない。 僕は彼女を迎え入れる為にドアノブに手をかけた。
おわり
フロ様、60万ヒットおめでとうございます! 駄作ではございますが、お祝いを進呈致します。 これからもずっとずっと、「有閑倶楽部」を愛し、頑張って下さい。 新作、楽しみにしています。 これからも宜しくお願い致します。
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素材:柚莉湖♪風と樹と空と♪様