背中に悠理が貼りついてきた。 「どうしました?」 「んーなんでもない」 「なんでもないってコトないでしょう」 「何となくだから、気にすんな」 「気にすんなと言われましても・・・」 背中に顔を押し付ける悠理が、すん、と鼻をすすった。 泣いているのか? 今日一日あったことを思い出す。誰かが何かを言ったとか、それに傷ついたとかいろいろ思い出してみるが、泣かなきゃいけないほどのことは無かったと思う。 それとも、自分の見えないところで何かあったのだろうか。 肩から腕を廻して、悠理がしがみついてくる。うなじに当たった頬が濡れていないことに安堵した。 「悠理、本当にどうしたんですか?」 「なんでもないよ、止めて欲しい?あたい邪魔?」 「別にいいですけどね」 振り返って悠理の顔を見たかったけれど、悠理はまた真後ろに戻ってしまった。 「清四郎の背中ってさ、時々無性に抱きつきたくなるんだよな」 悠理がくふふと笑う。付き合ってしばらく経つが、悠理からこういう言い方をされたことが無い。 「は?」 「あったかいしさ、好き」 身体に直接響く悠理の声、高めのアルトは普段の声とは少し違った。 「こっちのほうが温かいと思いますけど?」 身体の向きを変えて、悠理の身体に腕を廻す。顔を覗き込むと悠理は膨れっ面。 「お前、わかってないなぁ」 「何をです」 「後ろ姿に抱きつきたい時があんの!」 言った本人も恥ずかしいのか、さっと頬に朱が走る。可愛くて仕方が無いのはこういう処。 「だから、背中向けてて!」 「イヤデス」 悠理に廻した腕に、さらに力を篭めた。
※初々しさ玉砕。
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