「いてて・・・」 悠理が部室に入って来た時、肩を押さえて顔を顰めていた。 聞けば、階段で滑ったらしい。どうやら転ぶことは免れたようだが、手摺で肩を打ちつけたそうだ。 制服の上からの触診では、骨に異常はなさそうだった。 「大丈夫そうですね、後で腫れると大変ですから、湿布でも貼っておきますか」 上着のボタンを外して肩を出すように指示し、湿布を手に悠理の背後に廻った。 途端にふわっと良い香りがした。 見えたところで大した胸でもあるまいに、2つ3つのボタンを外した悠理は、肩だけを出して、前はしっかりと掻き合せていた。俯いて見える白い項や、細い肩に目が釘付けになった。 「清四郎、早くしろ、寒い!」 「あぁ、すみません」 湿布を貼ろうとした手が震えていた。初めて女に触るワケでもあるまいに、何故手が震えるのか説明がつかなかった。 「な〜んか、清四郎にしては雑だな」 今度は振り返って肩に貼った湿布を見ている悠理の、長い睫毛に視線が固定されてしまう。 制服を羽織り直した悠理から、また良い香りがした。 「悠理、香水なんて使ってましたっけ?」 「お前なぁ、相変わらず嫌味ったらしいぞ」 伏せていた睫毛がぱちりと上がって、そこにあったのは不機嫌な瞳。 「香水使ってます?が、何故嫌味になるんです?」 「走ってて階段からコケそうになったんだぞ、「汗くさい」って言いたいんだろ?」 怒ったように、ぷいっと顔を逸らす。
あぁ、そういうことですか。
僕は悠理に引き寄せられているのだ。 花の蜜に吸い寄せられる蜂のように。 甘いものに群がる蟻のように。
この女は危ない。本能はそう告げていたはずなのに ―――。
後年 「まったく、悠理にはやられましたよ」 「だから!なんでそれが「好き」になるんだよ」 何度目かの告白に理由を尋ねられた。 あの日のことを話したが、話の主旨に皆目検討もつかないのだろう。思いっきり不信顔。じろりと睨んでくるその顔すら、愛しくて仕様が無いというのに。 「お前のフェロモンにやられた、と言うのが正しいかも知れませんね」 「フェロモン〜?んなもん出してねーっつーの!」 そんなことはない。悠理の磁力は僕にとってますます強くなるばかりだ。 「僕だけが知っていればいいんです、他に撒き散らさないでくださいよ?」 「美童じゃあるまいに、そんなことするかー!」
※脳内清→悠祭り開催中♪
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