Sweet sweet *6

 

 

 「いてて・・・」
悠理が部室に入って来た時、肩を押さえて顔を顰めていた。
聞けば、階段で滑ったらしい。どうやら転ぶことは免れたようだが、手摺で肩を打ちつけたそうだ。
制服の上からの触診では、骨に異常はなさそうだった。
「大丈夫そうですね、後で腫れると大変ですから、湿布でも貼っておきますか」
上着のボタンを外して肩を出すように指示し、湿布を手に悠理の背後に廻った。
途端にふわっと良い香りがした。
見えたところで大した胸でもあるまいに、2つ3つのボタンを外した悠理は、肩だけを出して、前はしっかりと掻き合せていた。俯いて見える白い項や、細い肩に目が釘付けになった。
「清四郎、早くしろ、寒い!」
「あぁ、すみません」
湿布を貼ろうとした手が震えていた。初めて女に触るワケでもあるまいに、何故手が震えるのか説明がつかなかった。
「な〜んか、清四郎にしては雑だな」
今度は振り返って肩に貼った湿布を見ている悠理の、長い睫毛に視線が固定されてしまう。
制服を羽織り直した悠理から、また良い香りがした。
「悠理、香水なんて使ってましたっけ?」
「お前なぁ、相変わらず嫌味ったらしいぞ」
伏せていた睫毛がぱちりと上がって、そこにあったのは不機嫌な瞳。
「香水使ってます?が、何故嫌味になるんです?」
「走ってて階段からコケそうになったんだぞ、「汗くさい」って言いたいんだろ?」
怒ったように、ぷいっと顔を逸らす。

あぁ、そういうことですか。

僕は悠理に引き寄せられているのだ。
花の蜜に吸い寄せられる蜂のように。
甘いものに群がる蟻のように。

この女は危ない。本能はそう告げていたはずなのに ―――。



後年
「まったく、悠理にはやられましたよ」
「だから!なんでそれが「好き」になるんだよ」
何度目かの告白に理由を尋ねられた。
あの日のことを話したが、話の主旨に皆目検討もつかないのだろう。思いっきり不信顔。じろりと睨んでくるその顔すら、愛しくて仕様が無いというのに。
「お前のフェロモンにやられた、と言うのが正しいかも知れませんね」
「フェロモン〜?んなもん出してねーっつーの!」
そんなことはない。悠理の磁力は僕にとってますます強くなるばかりだ。
「僕だけが知っていればいいんです、他に撒き散らさないでくださいよ?」
「美童じゃあるまいに、そんなことするかー!」

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素材:10minutes