四季シリーズ PART1 

夏、一歩。

   BY hachi様

夏である。

夏休みに入ってから、東村寺では毎日、朝稽古が行われていた。

参加は基本的に自由だ。だが、清四郎は例外である。

清四郎は、雲海和尚のお気に入りで、師範代に次ぐ実力の持ち主だ。そして、何故かは知らないが、後輩の門下生から絶大な支持を受けている。それらの理由が重なった結果、清四郎の朝稽古参加は、完全に義務と化していた。

 

今日も早朝から汗を流し、稽古が一段落した頃には、身体じゅうに重い倦怠感が纏わりついていた。

ここのところ色々と忙しかったせいで、睡眠不足が続いている。そのうえ、連日の朝稽古まで加わったら、いくら若くて健康な男子でも、疲れは溜まる一方だ。

疲弊しきった身体が、僅かな時間でも休息を求めるのは、実に致し方ないことだった。

 

 

道場を併設している東林寺には、いつも門下生の太い声が響いており、仏閣の寂々とした雰囲気は微塵もない。

しかし、庫裏の隣にある小さな座敷は、思いのほか静かである。奥まった場所にあるため、道場の門下生は誰も来ないし、普段は使用しない部屋だから、修行僧も滅多に訪れない。

勝手知ったる他人の家とはよく言ったもので、清四郎はそのことを以前から知っていて、疲れたときは、たまに利用させてもらっていた。

今日も朝稽古が終わったあと、いつものようにこっそりと座敷に忍び込み、畳にごろりと寝転がった。

 

 

瞼を閉じると、すぐに睡魔が忍び寄ってきた。

睡魔に意識を手放す瞬間ほど、心地良いひとときはない。

裏山の雑木林が突然の風に煽られ、大きくざわめく。

聴覚を刺激され、沈みかけていた意識が、僅かに浮上した。

薄く眼を開ける。北向きの、薄暗い座敷。蚊遣りの煙が、吹き込む風にたなびいている。

ふたたび瞼を閉じる。蝉時雨は単調で、道場の怒号は、はるか遠い。

裏山を渡ってきた風も、乾いた畳も、ひんやりとして、心地良い。

この状態で寝るなというのが、無理な話である。

 

鉛よりも重い睡魔。

深い眠りが、大きな口をあけて清四郎を待ち受けている。

 

その穴に意識が吸い込まれようとしたとき、夏草を踏む、微かな足音が聞こえた。

 

うっすらと眼を開ける。

しかし、睡魔には抗いがたく、すぐに瞼が落ちた。

それでも足音のせいで、意識は辛うじて覚醒の縁に引っ掛かっている。

清四郎は、夢うつつの中で、近づく気配を意味もなく追っていた。

 

 

足音は、座敷の前で止まった。

息を潜めて、清四郎の様子を窺っている気配がした。

ややあって、きし、と濡れ縁の床板が軋んだ。

清四郎は、蕩ける意識の中で、相手を探ろうとした。

しかし、睡魔に囚われた瞼は、どうしても開かない。

濡れ縁がふたたび軋む。ややあって、畳を踏む音がした。

四つん這いになったのか、密やかな呼吸音が、低い位置から聞こえる。

井草の織目を擦る、不規則な音。

相手はゆっくり近づいてくる。

それでも清四郎は、まだ半ば眠りの中を漂っていた。

 

 

右肩の下で、畳が僅かに沈んだ。

続けて、左肩でも、畳が沈む。

 

規則的な呼吸音が、胸の上から聞こえる。

誰かが、清四郎に覆い被さって、顔を覗き込んでいるのだ。

ふわりと風が吹く。シトラスの香りが、鼻腔を擽った。

清四郎には、同じ香りのシャンプーを使っている人物に、覚えがあった。

弾ける果実のように、元気いっぱいの、爛漫とした少女。

彼女は、いつまで経っても、知り合った子供の頃のままでいる。

 

まどろみの帳に、向日葵のような笑顔が浮かぶ。

その笑顔が睡魔に呑み込まれようとした、刹那だった。

 

 

「せーしろー!起きろーっ!!」

 

 

突然、顔面に大声が降ってきた。

睡魔も尻を絡げて逃げる大声に仰天して、瞼を開ける。

 

 

目の前にあったのは、予想どおり、悠理の顔だった。

悪戯を企てる、子供の表情。

いつも小言ばかりの清四郎を吃驚させたい。輝きに満ちた顔には、そう書いてあった。

 

 

 

悠理の思惑どおり、確かに清四郎は驚いた。まさに仰天した。

しかし、間近で大声を出されたのが理由ではない。

 

悠理の着ているキャミソールが重力に従って垂れ下がり、胸元が大きく開いている。

 

その無防備な隙間から、裸の胸が覗いていたのだ。

 

 

清四郎の視線の先で、ふたつの可愛い膨らみが、呼吸に合わせて揺れている。

どうして下着をつけていないのだろう、という素朴な疑問は、柔らかな膨らみを目の当たりにして、はるか彼方に吹き飛んでいた。

 

 

まな板並みと言っても、悠理とて立派な女である。

四つん這いになっているせいもあるだろうが、その膨らみは、想像よりもずっと豊かだった。

そして、日に焼けた手足とは違い、そこだけは抜けるように白く、肌理も細やかだった。

それが、新鮮な驚きだったのだろう。

見てはいけないと分かっているのに、どうしても柔らかな膨らみから眼が離せなかった。

 

 

「せーしろ?」

フリーズしたままの清四郎を不審に思ったのか、悠理がさらに顔を近づけてきた。

身体の傾きにあわせて、ふっくらした胸が揺れる。

触れずとも、柔らかな弾力を感じさせる揺れ方。清四郎は思わず息を呑んだ。

そこで、悠理もようやく彼の視線が自分の胸元に注がれていることに気づいたらしい。

慌てて首を曲げ、自分の胸がどういう状態なのかを確かめた。

 

「ぎゃああああっ!」

 

ようやく状況を悟った悠理は、咽喉が裂けんばかりの悲鳴を上げた。

ばね仕掛けのように飛び起き、両手で胸元を隠す。

しかし、気づくのが遅かった。

清四郎の眼には、既に悠理の真っ白な胸が焼きついていたのだから。

 

 

 

「すすすすす、すけべ!!なに見ているんだよ!?」

 

悠理が真っ赤な顔で怒鳴る。

そこで清四郎もようやく我に返り、飛び起きた。

非常に気まずい。そして酷く後ろめたい。しかし、ここで謝ったら、自分が一方的な悪者になる。

だいたい、見たくて見たわけではないのだ。それに、まさか悠理ごときの胸に眼を奪われたなんて知れたら、末代までの恥である。

清四郎は、大袈裟に顔を顰めて、悠理を睨んだ。

 

「見ていたんじゃない!見せられたんです!お前から、問答無用で!」

「どっちにしても、見たのは同じだろ!?このムッツリスケベっ!」

「自主的に見たのと、強制的に見せられたのは、まったく意味が違います!」

 

清四郎の酷い言い分に、悠理は赤い顔をさらに赤くして怒った。

 

「違わないもん!食い入るようにまじまじと見ていたじゃないか!」

 

悠理が半分泣き顔で清四郎を睨みつける。

 

「清四郎の馬鹿!まだ誰にも見せたことなかったのに、よりにもよってお前なんかに見られるなんて、もう死にたいよ!」

 

それを聞いて、清四郎はかっとした。

 

「見せたくなかったなら、ノーブラで男に圧しかかるな!」

 

清四郎の「ノーブラ」発言を聞いた瞬間、悠理の顔が茹蛸よりも赤く染まった。

わなわなと口唇を震わせながら、二本の腕を交差させ、自分の胸を隠す。

 

「・・・そんなところまで、しっかり見たのかよ!?」

 

潤んだ瞳。熟れた頬。怒っているのに、妙に艶めいている。

悠理らしからぬ表情を目の当たりにし、清四郎は、言葉を失った。

 

「・・・まさか・・・丸見え、だったの?」

 

縋るような視線が、清四郎に向けられる。。

朱を引いたように赤く染まった目元。まったく悠理らしくない、女の表情だ。

あまりにも悠理らしからぬ姿に影響され、清四郎も、らしくもなく、しどろもどろになった。

 

「い、い、い、いえ、す、すべて見えたわけでは・・・」

「本当に?本当に見えなかった?」

 

潤んだ瞳が、清四郎を見つめる。

清四郎は腹の奥がざわめくのを感じながら、必死に平静を繕った。

 

「え、ええ、本当です。天地神明に誓って見ていません。ついでに神仏にも誓います。それでも信じられないなら、アッラーの神にも誓いますよ。」

 

そこまで言うと、逆に怪しい。

 

「じゃ、どこまで見えたの?」

 

案の定、悠理が疑りの眼差しを向けてきた。

 

「そこまで言うんですか!?」

 

清四郎は、堪らず情けない声を上げた。

それを聞いて、悠理が顔色を変える。

 

「やっぱり丸見えだったんだ!?」

 

清四郎は慌てて首を横に振った。

 

「いいえ!見えていません!白い肌がちらっと見えただけです!ほんのちらっとです!」

 

嘘である。

本当は、ぜんぶ見えた。

しかし、そんなことは口が裂けても言えない。

言ったら最後、きっと永遠に許してはもらえないはずである。

 

清四郎は、額に浮かんだ汗を拳で拭った。

涼風に心地良く冷えていた肌が、発熱したかのように熱く火照っている。

 

「・・・本当に見ていませんから、安心してください。」

 

呻くように言いながら、赤くなった顔を悠理から逸らす。

同じく、悠理もそっぽを向く。

 

それきり、ふたりは何も喋らなかった。

蝉時雨が降り注ぐ暗い座敷で、ふたりは押し黙ったまま、ずっと明後日のほうを向いていた。

 

 

 

爽やかな涼風が吹く。

しかし、身体から熱は引かない。おかしいほどに火照っている。

清四郎は、視線だけを動かして、悠理を見た。

悠理は口をへのじに曲げて、黒光りする濡れ縁を睨んでいる。

その横顔は、妙に女らしく、華やいで見えた。

 

脳裏に、先ほど見た柔らかな膨らみが甦る。

子供とばかり思っていたのに、悠理も年齢相応に成長しているのだ。

なのに、心は幼いまま。もっと悪いことに、警戒心が丸ごと欠落している。

これでは危なっかしくて仕方ない。

心の中で苦虫を噛み潰す。そのとき、ふっと嫌な考えが湧いた。

 

もしかしたら―― 清四郎にしたのと同じように、他の男にも無防備な格好で密着しているのではないか。

 

ノーブラの薄着で。無邪気に。素肌をくっつけて。

悠理のことだ。絶対にそうだ。

焦燥が胸を焼く。清四郎は、きつく口唇を噛んだ。

理由は分からないが、悠理の長所であるはずの無邪気さが、無性に許せない。

 

顔を上げて、悠理を睨む。

苛立ちを隠しながら、低い声で話しかける。

「悠理。」

しかし、返事はない。

「悠理。」

やはり、答えない。

 

それでも清四郎は、話しかけずにいられなかった。

怒りの理由は不明だったが、悠理にぶつけなければ、どうしても気が済まなかった。

 

「いくら友達だからといって、無防備極まりない格好で男に近づくのは止めたほうが良い。あまりにも危険です。」

 

悠理は黙ったまま、こちらに顔を背けて、濡れ縁を睨んでいる。

 

「確かに悠理は腕っ節も強い。喧嘩にも慣れている。だから、自分だけは大丈夫と思っているでしょう?けれど、油断したところを狙われたり、薬を盛られたりしたら、おしまいですよ。女としての危険を、お前はまったく理解していない。蓼食う虫も好き好きと言うくらいだから、悠理といえども安心してはいられません。」

 

悠理は膝小僧を抱えて、やはりそっぽを向いている。

そんな彼女の姿に、苛立ちが募る。胸が焦げつく。

 

「悠理には分からないかもしれないが、男は誰もが狼になり得るんです。なのに、ブラジャーもつけないで男に圧し掛かるとは、どういうことです?しどけない姿で擦り寄られたら、その気がなくても変身してしまう。男とはそういう生き物なんだと理解して、もっと警戒心を抱いてください。男が狼に変身してからでは、遅いんですよ。」

 

真顔でブラジャーと言っても、可笑しいだけであるが、清四郎はいたって真剣である。

悠理がまた下着もつけずに他の男にじゃれかかるなんて、想像しただけでも胸糞が悪い。

 

「・・・せーしろーも、そうなった?」

 

原因不明の怒りを鎮めるため、呼吸を整えようとした、そのときだった。

悠理のくちびるから、小さな声が漏れた。

 

「は?」

 

質問の意味を理解できず、清四郎は思わず頓狂な声を上げた。

悠理が濡れ縁から視線を上げて、清四郎を見る。

潤んだ瞳には、まだ怒りが宿っていたが、その奥には切なげな翳りが揺れていた。

 

「さっき、清四郎も、変身しそうになった?」

 

今度は、質問の意味が理解できた。

そして、頭が真っ白になった。

清四郎は固まったまま、馬鹿みたいに眼を見開いて、悠理を見つめた。

 

変身―― したとすれば、それは何を意味するのだろうか。

 

 

 

長い、長い沈黙。

どちらも話さない。話し出せない。

清四郎は呆けたまま、悠理を見つめていた。

 

 

「何で黙っているんだよ!?あたいは質問しているんだぞ!」

 

焦れた悠理が叫ぶ。

その怒声を聞き、清四郎はようやく我に返った。

しかし、正気に戻ったところで、答えられるわけもない。

 

友情を大事にして、何も感じなかったといえば、いくら悠理でも傷つくだろう。

かと言って、感じたといえば、長い時間をかけて築いた友情に罅が入る。

 

どちらと答えても、困るのは一緒である。

 

 

悠理は真っ直ぐに清四郎を見つめて、返事を待っている。

清四郎は視線を彷徨わせ、必死に考えた。

だが、このときばかりは優秀な頭脳も役に立たなかった。

 

 

いくら待っても答えない清四郎に、とうとう悠理の怒りが爆発した。

すっくと立ち上がり、凄い形相で清四郎を見下ろす。

 

「だから、どっちだよ!?変身したのかしないのか、男ならはっきりしろ!!」

 

叫んでから、悠理ははっと顔色を変えた。

 

「まさか、本当に変身したのか!?」

「いえ!け、決してそういう訳では―― 」

 

清四郎は、赤い顔のまま、慌てて答えた。

 

「じゃ、何も感じなかった?人様の大事な胸を覗き見しておいて!」

「そんなことはありません!!」

「なら、やっぱり変身したんじゃないか!」

 

悠理が傍にあった座布団を清四郎に投げつけた。

反射的にキャッチして、悠理を見つめる。悠理は真っ赤な顔で清四郎を睨んでいる。

やはり、どう答えても、困るのは一緒である。

清四郎は、ふう、と気の抜けた息を吐いて、座布団を横にやった。

 

「ああもう、勝手にしてください。悠理のご想像にお任せしますよ。」

 

乱れた髪を掻き揚げながら、投げ遣りな口調で言う。

それを聞いて、悠理は赤い顔をさらに赤くして怒鳴った。

 

「なに開き直っているんだよ!?変態のくせに!」

「はいはい、どうせ僕は悠理の胸を見た変態ですよ。」

「だから開き直るな!」

 

開き直るなと言われても、無理な話だ。

ここまで来たら、開き直るしかない。

清四郎はふたたび前髪を乱暴に掻き揚げて、投げ遣りな口調で言った。

 

「変態呼ばわりされたついでに言わせてもらいます。薄着をするときは、ブラジャーくらいつけてください。何かの拍子にまた問答無用で見せられて、変態だと決めつけられるのは、勘弁してほしいですからね。」

 

いくらささやかな膨らみであっても、また無防備に見せられたら、心臓に悪い。第一、悠理ごときに心を乱されるなんて、清四郎のプライドが許さない。

 

そんな清四郎の気持ちなど、悠理が知るはずもなく、彼女は頬を河豚よりも膨らませ、こちらを睨んでいる。

 

「変態のくせに説教するなよ。それに、これはカップつきのキャミソールだから、普通にしていれば平気だぞ。さっきはちょっと油断したけど。」

 

能天気な答えに、清四郎の堪忍袋の緒が、ぶつりと音を立てて切れた。

 

「カップつきでも何でも、ブラジャーくらいしろ!!」

 

 

怒鳴る清四郎に向かって、悠理がくちびるを尖らせた。

「え〜?暑いから嫌だ。」

「ブラジャー一枚で暑さが変わるか!」

「つけたこともないくせに、何で分かるんだよ!?」

「つけたことがあるから分かるんです!」

「やっぱりお前、変態じゃん!」

「話を元に戻すな!」

 

清四郎は、がっくりと肩を落とした。

暖簾に腕押しとは、まさにこのことだ。あまりにも警戒心がなさすぎる。

恐らく、悠理にしてみれば、ノーブラなんて当たり前、それで男にくっつくのも普通のことなのだろう。考えただけでも腹立たしいが、きっと他の男にも同じことをしているはずだ。

 

「お前・・・ノーブラのキャミソール姿で、僕の以外の男に何人くらいじゃれつきました?」

 

ためしに聞いてみる。

すると、悠理は小首を傾げて、指を折りはじめた。

 

「あんまりいないぞ。清四郎の他は父ちゃんと兄ちゃん、それに魅録くらいじゃないかな。あ、でも魅録は暑がりだから、夏は飛び掛らないな。あいつ、肌がくっついてベトベトするのが嫌いなんだ。」

 

「ほう。魅録にはそんなに飛び掛っていたんですか。ノーブラで。」

 

眼を細くして悠理を睨み、低い声で呟く。

それを見て、悠理は顔を赤くしたまま、拳と足を同時に振り上げた。

 

「何を勘違いしているんだ、この変態!」

 

悠理が繰り出した蹴りを、軽く避ける。

しかし、いくら避けても悠理は諦めない。何度も清四郎に襲い掛かってくる。

清四郎は、それを軽く避けながら、喩えようもない感覚を味わっていた。

妙に胸がモヤモヤして、気持ちが悪い。胸の奥で焦燥が燻る。

だが、清四郎には、それが何故なのか、まったく理解できなかった。

 

 

 

悠理の執拗な蹴りをかわしていると、不意に襖が開いた。

二人は同時に動きを止めて、襖のほうを見た。

開いた襖から、和尚が皺だらけの顔を覗かせている。

「何を騒いでいるかと思ったら、嬢ちゃんが来ておったのか。」

「じっちゃん!」

和尚の姿を見た途端、悠理が泣き出しそうに顔を歪めた。

「じっちゃん、聞いてよ!清四郎ったら酷いんだ!」

そう叫びながら、両手を伸ばして、和尚に飛びつこうとする。

 

瞬間、清四郎の脳裏に、キャミソールから覗く白い胸が甦った。

 

 

無意識のうちに、身体が動いていた。

 

気がついたときには、清四郎は悠理を後ろから抱きすくめていた。

 

 

 

「その格好で男に飛びつくな!僕以外の男に密着するなんて、絶対に許しません!」

 

 

 

清四郎は、無意識のうちに、悠理を抱く手に力を籠めた。

ふわふわの髪から、シトラスの香りが仄かに漂う。

少年のようだとばかり思っていた身体は、とても柔らかくて、驚くほど華奢だった。

いくら相手が和尚であっても、許せない。

この特別な感触を、自分以外の誰にも味わわせたくない。与えたくない。

たとえ不可抗力でも、あの可愛らしい胸元を誰かに覗かれるなんて、もってのほかだ。

何故かは分からない。けれど、清四郎は、強くそう思った。

 

 

 

背後から悠理を抱いた清四郎には、見えなかった。

しかし、ふたりの正面にいる和尚には、よく見えた。

悠理の顔がふわっと上気し、嬉しげに緩んだのが。

普段の彼女からは考えられないほど美しく、可愛らしく変化したのが。

 

 

しかし、それも一瞬のこと。

次の瞬間には、少女の華やぎに満ちた表情は、鬼と見紛うばかりの形相に変わっていた。

 

 

 

「放せ!このムッツリスケベ!!」

 

 

悠理が身を捻り、拳を振り上げる。

ばちん、と景気のいい音が、夏の空に響き渡った。

 

 

 

何はともあれ、この夏。

恋愛に程遠い二人の距離は、一歩ばかり、近づいた。

 

 

 

 

 NEXT→秋

 


ビ@ーズブートキャ@プで腕立て伏せをやっているとき、突発的に思いついた話です。手っ取り早く言うなら、自分の胸を見て思いつきました←阿呆。
発想の状況があまりに下らなかったので、お蔵入りが決定していたのですが、ふろ煩100万ヒット祝いに大盤振る舞いのつもりで蔵から引っ張り出してみましたvv
風呂子。お祝いが蔵で埃を被っていた話でゴメンね!
改めて、100万ヒットおめでとう!

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