はつこい3〜雨〜

   BY のりりん様

 

  

 

♪ カゥラ〜ン コゥロ〜ン ♪

時代を感じさせる鐘の音が鳴り響く。

聖プレジデント学園中等部の礼拝堂の鐘の音である。

煉瓦造りの校舎に鳴り渡るそれは本日の授業の終わりを知らせるものだった。

2年生の教室では、この音を心待ちにしながら窓の外を見つめていた少女がいた。

剣菱 悠理である。

天気予報の通り、薄暗くなってきた空は下校時刻を待ってくれずに小雨が降りだしていた。

こんな日はなんだか気分も落ち込みそうだ と思っていたところに追い討ちをかけるような校内アナウンスが流れた。

 

「剣菱 悠理さん、 剣菱 悠理さん、 生徒指導室まできてください。」

 

帰ろうと思って立ち上がっていた足元がこけそうになった。

全く こんな日に。

思い当たることは幾つもある。

あのケンカだろうか それともあのテストだろうか。

ありすぎて分からないくらいだ。

クラスメート達がこちらを見ていた。

「ちぇっ、仕方ないか。」

髪を無造作にかきながら、誰に言うでもなく呟いて教室を出た。

帰り支度をした生徒たちの波に逆らいながらローカを歩く。

何人もの生徒たちに声を掛けられながらも、軽く答えて行きなれた生徒指導室へと歩く。

すれ違っていく生徒達。

それが一層悠理を不機嫌にしていく。

(くっそぉ〜、あたいも早く帰っておやつ食いてぇなぁ〜)

不貞腐れて歩いていたその波の中、視線を感じたような気がしてふと顔を上げた。

その先には、 この学園の生徒会長が

幼馴染と共に立っていた。

こちらに背を向け彼の方を見る黒髪の彼女は悠理には気付いていないようだ。

しかし、黒い瞳は確かにこちらを見ていた。

ただ視線だけをこちらに向けて。

初めて見るわけではないはずの彼の瞳は

何かの色を滲ませながら。

 

何の言葉もないのに

なんだか胸に残るその色

 

声をかけれる距離を

それよりも意味ありげな何かが通る

不思議な感覚

 

誰も知らない

誰にも気付かれない

一人 と 一人

 

重なった視線を反らせたのは悠理だった。

それは瞬時にして戸惑いを持つのに十分な時間。

なぜだか、鼓動が早くなっていく気がした。

それはさっきまでの不機嫌の所為だけではなく。

(な、なんなんだ?!いったい!!)

慌て出す頭の中、格好の理由を見つけた。

そういえば、アイツにはこの間の誰にも見られたくない姿を見られたところだ。

(そうだ、そんでだ!!)

思い出したくない思いに頬が赤くなるのが自分でもわかる。

歩く速さもおのずと早くなる。

それでも、アイツの黒い瞳が気になる。

それは 本当にあの時ドレス姿を見られたからだけだろうか。

今は彼女は 分からない。

本当の訳を。

 

「し、しっつれいしま〜す。」

 

そう言ってドアをあけると先程の校内放送の声の主が待ち構えていた。

呼び出された理由は一昨日のケンカのこと。

(なんだ、そんなことか)

と思う悠理の前では、勢いよくお説教が続いている。

そんなことに耳など貸すはずもなく、悠理は退屈で窓越しに外をぼんやりと見ていた。

そこには、雨の中帰っていく生徒たちの傘の花が見える。

幾つも幾つも咲き誇るそれ。

その中に、並んで歩く赤い傘と紺色の傘。

それは見慣れた光景。

幼稚舎から続くよく知る風景。

傘の下は誰なのかは、見なくても分かる。

まるで初めからそう一対であったかのように咲く2つの傘の花。

よく知っている、しかし何の関係もない相手のはずなのに、胸が勝手にざわついていく。

甲高い教師の声が、一層不機嫌さを煽っていく中 名前のわからない苛立ちだけが募る。

 

その日、窓の向こうに見た景色が悠理の眼から離れなかった。

 

 

 

 

 


フロ様の50万Hitsのお祝いに何か書かせていただきます、とリクを頂いた代物です。

いつもながらの代物ですが快く受け取ってくださったフロ様、最後まで読んでいただいた皆様に感謝いたします。

フロ様、これからも素敵なお話を読ませていただけるのを楽しみにお邪魔させて頂きますね♪ 

 

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