ハロウィンの夜に

       BY いちご様

 

 

ちょっとだけおまけ♪

 

パーティ会場になっている大広間のドアにはハロウィン本来のオレンジ色のカボチャの絵があった。
きっと最後のお菓子は剣菱夫妻自ら子ども達に渡したのであろう。

通りかかったメイドに清四郎が声を掛ける。
「もう、お菓子を配るのは終わりにしていいんですか?」
「え・・・、は、はい。皆様会場でお待ちになってます」
メイドは赤くなりながら小走りに行ってしまった。
「なんだあ?」
「さあ・・・。何も連絡が無かったですよね」
いぶかしみながら二人がドアを開ける。

と、待っていたかのような歓声と拍手があがった。
「な、なに・・・?」
悠理も清四郎も面食らい、お互いの顔を見合った。
どうも会場の視線が二人に集中しているようだ。
窓際に倶楽部のメンバーを見つけ、歩み寄る間にも会場内の視線が二人にまとわりついてくる。
野梨子と魅録は頬を赤く染めて顔をそらし、可憐と美童はニヤニヤと笑っている。
「どうかしたんですか?」
清四郎が訳が分からないという風に美童に尋ねると、美童がフフンと笑いながら持っていた羽付き帽子で広間の中央を指し示した。
清四郎と悠理も後を追うようにそちらを見る。

視線の先には大きなモニターが設置されていた。
9分割された画面には、まるで防犯カメラのように様々な場面が映し出されている。
何がおもしろいのかと思うようなもの。
が、それを見ているうちに清四郎の顔が引き攣った。
その画面の一つに見覚えがあったから。
そこには今しがたまでいた部屋の空飛ぶ絨毯が映っていた。
「あれっ?・・・あれってあれだよね」
悠理も気が付いたようだ。

おそらく、お菓子をもらいに回る子ども達の様子を、親に見せる為に設置されていたのであろう。
部屋全体を映している為、遠目にはなっているが、悠理を抱き締めた場面が放映されたのはこの会場の雰囲気からいって間違い無いようだ。

百合子夫人と万作氏が満面の笑みで二人の元へとやって来た。
「母ちゃん、何だよ、あれは!」
「あれ?
 あれは子ども達の喜ぶ姿を親御さん達にお見せしてたのよ。それよりも、二人ともそれならそうと言ってくれれば良かったのに」
「ほんにそうだがや。清四郎君なら安心して悠理を任せられるだがや」
両親の言葉に悠理が驚く。
「えっ、何がだよ!」
「あら、だってあなた達、お付き合いしているのでしょう?」
「なんでそうなるんだよーー!
 さっきのは、・・・あれはあたいが絨毯から落ちたのを、清四郎が助けてくれただけだからな!」
悠理がモニターを指差しながら赤い顔で弁明する。

「あら、そうなの?でも、それだけじゃなかったでしょ。
 悠理ったら照れなくていいのよ。
 あまり良い雰囲気だったから呼びに行くの躊躇っちゃったのよ」
ちらりと清四郎を見ながら百合子夫人が言う。やわらかな物言いとは対照的にその視線は鋭い。
その顔にはまるで“逃さないわよ!”と書いてあるようだった。
悠理はさっき思考が停止する前に起こった事をなんとなく思い出してきた。
「あ、あれは・・・」
清四郎を見ると困ったような、でも微笑んでいるような表情。
そんな清四郎の顔を見ていたら頬が急に熱くなった。

「いや〜、清四郎もやるね」
美童がウィンクしながら冷やかす。
清四郎は先程から背中にイヤな汗が流れるのを感じている。
悠理への想いに多少の自覚はあるものの、悠理の恋愛指数は未知数。 だが、悠理の染まった頬からすると、全く望みが無い訳ではないらしい。

「実はね、その衣装、アラジンとジャスミン姫の結婚式の時の衣装なのよ。それを選んだのはきっと何か予感があったのね〜。
 せっかくだからこのまま婚約式だけでもしてしまいましょう!」
「おお、母ちゃん、そりゃあ名案だがや!」

手を取り合って盛り上がる剣菱夫妻と、優秀な後継者候補を迎えて湧き上がる剣菱社員とその家族達に見守られ、婚約式をしたとかしなかったとか・・・?

 



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