BY いちご様
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学園を取り戻し、ピーターは哲郎と帰国、ミセスエールのお母さんも元気になって万万歳となった。 コンコン。 ノックの音に、待ってましたと振り返った悠理の目に映ったのは、花束を抱えた五代の姿だった。 「へっ」 五代はてきぱきと花をベッドサイドに置き、その横に剣菱夫妻、タマ・フクの写真を置く。 そして悠理の方を見て、 「嬢ちゃま、おいたわしい・・・。」 と涙を浮かべながら出ていった。 突然の事に悠理はあっけに取られ、口も出せなかった。 「な、何。五代どうしたの?」 「悠理、すまなかった。」 と、今度は清四郎の突然の謝罪。 もう悠理の頭の中は、はてなマークで一杯だった。 (「すまなかった?すまなかったってどういうこと? はっ・・・もしや!」) 「おい、レストランの試食は?食べられないのか?」 こんな状況でも、まだ試食のことが頭から離れない悠理。 「食べられますよ、腎炎が治ったらね。」 「な、何言ってんだよ、腎炎は偽装だったろ?」 清四郎は持っていた伝票のような紙を、悠理の顔の前にかざしてこう言った。 「悠理、これが今の尿検査の結果です。 お前は正真正銘の腎炎だ。 これからしばらく入院治療です。 ・・・だから、塩分の取りすぎは体に毒だと言ったでしょう・・・。」 「うそっ!!」 悠理の脳裏に悪夢がよみがえる。 あの高千穂病院の食事が・・・。 「はっ・・・・、 おーーまーーえーー、レストランの試食なんて言って、 あたいを騙したな! 尿検査までさせやがってーーー。」 悠理は涙目になっている。 「おまけに家にまで連絡済かよお・・・。」 「当たり前でしょ。 正直に言ってても来ましたか? お前が腎臓病の食事を嫌がってるのは承知の上ですからね。」 悠理はがっくりと肩を落とした。 そう、清四郎が悠理を騙すのなんていつものこと・・・。 「悠理、腎炎は侮ってはいけない病気です。 もしも慢性腎炎に移行したら、ずっと病人食ですよ。 お前にそれが耐えられるんですか?」 「・・・・・・。」 「だから、きちんと治しましょうね。 僕にも責任はありますし、できる限りのことはしますから・・・。」 「そうだ! お前が入院なんかさせなければこんな事にならなかったんだ。 お前が悪い!」 悠理は清四郎に指を突き付けて叫んだ。 「あれはしょうがないでしょ。 あの場合、悠理が入院するのが適役だったんですよ。 あのおばさんに相当好かれていましたからね。」 「でも・・・今、責任あるって言ったじゃんか。」 「責任があると言ったのは、お前が暴飲暴食をしている時に、 止められなかったことです。」 「・・・・・・。」 言い合いで清四郎に勝てないのもいつものことだった。 悠理はあきらめの境地でベッドにもぞもぞと潜りこんだ。 布団をかぶり、膝を抱える。 どうせ清四郎には何を言っても適わない。 コンコンとノックの音がして看護婦さんが入ってきた。 「お昼ご飯、お持ちしました。」 「ありがとうございます。」 とにこやかに清四郎が受け取る。 「ほら、悠理。 お昼ご飯ですよ。お腹すいたでしょう。」 テーブルを出しながら話しかけるが、悠理はすねているのか 膝を抱えたまま動こうとしない。 「悠理、決められたものを食べるのも治療の内ですよ。」 その言葉で悠理はのろのろと動き出し、テーブルの上に目をやった。 「えっ、これ食べていいの?」 テーブルの上にはトレーこそプラスチックの物だったが、 ご飯茶碗、小鉢、お皿は瀬戸物、お椀は木彫りのものだった。 そこに綺麗に盛られている食材も、まるで懐石料理のようだ。 量こそ少ないものの、見た目は十分に満足できるものだった。 高千穂病院で出されたものとは全然違う。 「だって、高千穂病院で出されたのは、もっと質素で、もっと美味しくなさそうで、器もこんなんじゃなくて・・・。」 悠理は信じられないと言った表情でつぶやく。 「ええ、ちゃんと腎臓病の病人食ですよ。味は薄味で量も普段の悠理にしてみればおやつくらいの物でしょうが・・・。 入院している人にとって、食べることは何よりの楽しみでしょう? だからうちでは満足してもらえるよう、食事にかなり力を入れてるんです。 食器も味気ない物でなく、できるだけ瀬戸物を使ったり、盛り付けも工夫してね。」 悠理は箸を持ち、おそるおそるおかずを口に運んだ。 「・・・美味しい。 清四郎、薄味だけど美味いぞ、これ。」 清四郎はその様子を見て、ほっと息をつく。 「よく噛んで食べて下さいよ。 その方が満腹感を感じますからね。」 一気に食べてしまいそうな悠理に釘を刺す。 お腹がすいていたこともあって、 悠理はやはりすぐに食べきってしまった。 「ご馳走様でした。」 食べ足りないであろうに、 それでもちゃんと両手を合わせて挨拶をする。 「へへ、量は少なかったけど、美味しかったから満足したよ。」 ちょっと淋しそうに、そう言って笑う悠理がなんだかけなげに見えて、清四郎は悠理の頭に手を置き、優しく撫でてやる。 「そうですか、早く治るといいですね。」 悠理は清四郎に頭を撫でられ、 だんだんと気持ちが落ち着いていった。 大きくて暖かい、大好きな清四郎の手。 「あたい、眠くなってきた。 なあ、あたいが眠るまで、こうしててくんない?」 「どうしたんですか、急に。」 そう言いながら、清四郎も手は止めない。 「んー、なんか清四郎にこうしてもらってると落ち着くんだ。 タマやフクの気持ちが解るなあ・・。」 (「もしかしたら、あたいの前世は猫で、本当にこいつのペットだったのかも・・・。」) 清四郎はトレーを片付けテーブルをどかすと、 悠理をベッドの中に寝かせ、再び頭を撫でてやる。 「昼の面会時間はもう終りですけど、悠理が眠るまでいますよ。 夕方になったらまた来ますね。」 「うん。」 悠理は気持ちよさそうに目を閉じた。
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