自覚

 

            by ましまろさま

 

 

 

 

秋が深まる今日この頃。

 スポーツに芸術にと絶好の季節だ。

 しかし、世間様のそんなノリについていけない者が2名。

 放課後をマッタリ楽しんでいた。

 

 悠理の前には秋の新作お菓子がズラッと並んでいる。

 さっきまで可憐と2人パッケージを次々開けて味を楽しんでいた。

 まあ、可憐はスタイル維持の為1口ずつだけだったが・・・。

 今日は大食を咎める者がいないため相当ゆっくり楽しむことができた。

 いつもとそう変わらない量なのに満足感が違う。

 椅子に凭れ掛けお腹を擦りながら、可憐をぼんやり眺めた。

 今日は他に誰もいない。悠理は可憐だからこその疑問を思い切って口にした。

 

 

「野梨子って魅録のことが好きだよな?」

 

 突然の質問に”ピクン”と可憐の肩が揺れる。

 悠理がこの手の話を振るとは思わなかったらしい。

 雑誌を捲る手を止め、悠理を見て微笑んだ。

 

「あら、あんたが気付くなんて驚きだわ〜。清四郎のおかげかしらね〜?」

 

 可憐に彼の名前を出されて頬が自然と熱を持つ。

 でも・・・そう。悠理は清四郎に恋をして初めて知った。

 恋は簡単には諦められないって事を。

 だから不思議に思ったことがあったのだ。 

 

「最近、魅録と一緒にいると野梨子とやたら眼が合ってさ。」

 

 ギターのセッションをしている時、バイク雑誌を見て笑ってる時、ふと顔を上

げると野梨子がこっちを見ている。

 

「無意識に魅録を見ているのよ。野梨子ってば自分でも気付いてないわよ?魅録

が初恋の相手だってことに。」

 

 可憐も同意見だと知って嬉しくなった。

 悠理も実はそう思っていたのだ。

 

 あたいの勘違いじゃなかったんだ〜!

 野梨子、裕也に会った時(どこかで見た様な・・)って言ってたもんな。

 野梨子みたいなお嬢が、そうそうあんな奴と出会うもんか。

 考えなくても魅録の事じゃんか。

 

「裕也が魅録に似ていたんだよな?」

 

 念には念を入れてみる。何だか謎解きをやってる気分だ。

 

「自覚ないだろうけどね。」

 

 読んでいた雑誌を閉じ、悠理の方に身を乗り出してきた。

 まさかの相手とガールズトークである。

 お姉さんが教えてあげるとばかりの表情が清四郎のしたり顔と重なる。

 

 清四郎は知ってたぞ。初恋の相手を取り違えている事に。

 だから一応釘を刺しておいたって言ってたもん。

 さすが生まれたときから一緒にいるだけあるよな?ムカつくけど。

 

 泣きたくなってきたが中途半端は体に悪い。

 

「裕也に説教垂れたのも・・・」

「魅録だったら絶対しない事をするからでしょ?魅録は無責任じゃないもの。」

 

 サラッと答えられて、ポカンと口を開ける。

 まるで裕也を魅録に仕立てるかのような発言にショックを受けたのだ。

 

 裕也が気付かなかったから良かったけど・・。

 野梨子って結構残酷だよな?

 

「魅録は野梨子の事、どう思ってるのかな?」

 

 可憐がなんと答えるのかが怖い。

 しかし、親友の事だ。

 恋愛マスターに聞いておいた方がいい気がした。

 

「2人そろって馬鹿よね?魅録はチチに野梨子を見てたんだもの。」

 

 やっぱ、そうか。

 あたいは魅録に甘やかされてるって言われるけど弟みたいなもんだもん。

 野梨子にはお姫様みたくしてるよな?

 チチって顔は似てないけど性格がそっくりだったもんな。

 まあ、野梨子ほど怖くはなかったけど・・・。

 

「なんで気がつかないんだ?」

 

 自分より鈍い2人には思えない。

 

「最初に”お友達”として認識したからじゃない?概念に囚われちゃったのね。」

 

 清四郎を弱虫と思っていた悠理だったが、覆す決定的な出来事があった。

 (あの番長のお陰ってか?うげっ!)

 と、思ったが、彼がいなかったら今の状況と違っていたかもしれない。

 

「野梨子と魅録はホントに・・・初恋同志・・なの・・・か?」

 

「当たり前でしょ?本当に好きな相手となら、あんなにあっさり別れないわよ」

 

 目から鱗だった。

 話し始めてからずっと縦に振っていた首はもはやヘッドバンキング状態だ。

 

 そりゃそうだ。

 あたいだったら絶対離れたくないもんな。

 あっさり別れたのは傍に本物がいたせいか。

 じゃなけりゃ、遠距離くらいやるよな〜。

 

「どうにか成らないのかよ?野梨子の視線が切なくって・・・」

「ん〜難しいわね。何かドカンと劇的なことが起こればいいけど。」

 

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

 

 ― カチャ ―

 

「お話はお済みかしら?」

 

 仮眠室から本人登場に空気が凍る。

 

「頭痛がして、仮眠室で休んでおりましたの。」

 

 にこやかな表情は経験上、恐怖の始まりを予感させた。

 

「たった今、自覚をしましたわ。ご心配なく。」

 

 もう、野梨子の事は心配していない。

 人間誰でもわが身が1番可愛い。

 

「お礼を申し上げた方がよろしいかしら?」

 

「「 けっ、結構です〜〜〜!! 」」

 

 

 

 廊下で赤面して固まっている魅録を清四郎と美童が発見したのは、その3分後

のことだった。

 

 

 

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背景:イラそよ様