突撃!ぼたもち!!

 

            by ましまろさま

 

 

 

19歳の誕生日を一生忘れることはないだろう。

 

この日、彼の手に宝石がマッハで飛び込んできた。

 

 

 

「わ〜い!魅録ちゃん愛してる〜!!」

 

生徒会室に入ると見慣れた光景が清四郎の眼に飛び込んできた。

 

― 魅録の腕に悠理が抱きついている ―

 

見慣れた光景にいつまでも慣れない痛みを感じ苦笑する。

 

「何か いいことでもあったんですか?」

 

駄菓子1つでも大喜びする悠理のことだ、大した事ではないかもしれない。

 

それでも彼女の事は全て把握しておきたいという欲求は何なのか?

 

「・・・内緒だもん。みんなも清四郎に言うなよ!」

 

「ふむ、僕にだけ内緒なんですね?」

 

「・・・うん。」

 

「悠理、楽しみに待ってますよ。」

 

「げっ!?まさか、もうバレてる?」

 

悠理をおもちゃにして遊びだした清四郎に呆れた様な視線が集まる。

 

打たれ強い孫悟空とシニカルなお釈迦様の漫才コンビ。

 

彼らに自覚はなかったが、これもメンバーには見慣れた光景だった。

 

 

 

 

つい先日、招待を受けているクラブのパーティと清四郎の誕生日が重なった事を

 

知った有閑倶楽部。嫌がる清四郎を無視して、VIPルームで悪ノリする計画。

 

― 有閑倶楽部結成以来 初の「お誕生パーティ」 ―

 

「なあなあ、何が欲しいの?清四郎ちゃん!」

 

この数日間、喜びそうな物を考えたが全て却下されていた。

 

まあ、ほとんどが自分の欲しい物(主に食品)だったのはご愛敬だ。

 

「じゃあ、満点を取った悠理の答案用紙なんてどうです?」

 

「うっ!意地悪だじょ。あたいが出来ることにしてくれ〜」

 

意地悪を言われても諦めなかったのは野生のカンが何かを告げていたのだろう。

 

「何も要りませんよ。」

 

「またまた〜、何かあんだろ〜?」

 

「しつこいですな。悠理のその気持ちだけで十分ですよ。」

 

「ホントだな?後で文句言うのとかなしだじょ?」

 

この時、菊正宗清四郎18歳、疑り深いお莫迦さんのお馬鹿加減に感謝をする 

 

日が来ようとは夢にも思ってもみなかったに違いない。

 

 

 

 

 

「今日から、放課後バックレるから!」

 

「おや、生徒会の仕事はどうするんですか?」

 

「うっさいな。お前と野梨子と可憐で何とかなるだろ?」

 

悠理と魅録の2人で何か企んでいると思ったが、プラス美童は珍しい。

 

「なんで?僕も今日からなの?」

 

「美童さっきオッケーしたじゃん。もしかして、あたいの実力を甘く見てる?」

 

「・・・悠理、それ使い方が違う。」

 

呆れたように笑い、デートをキャンセルする主旨のメールを送り始めた美童。

 

普段女性に対して紳士的に振舞う彼がドタキャンする程の企みに興味がわく。

 

「早く行きなさいよ。こっちは大丈夫だから。」

 

「そうですわ。頑張ってくださいな。」

 

可憐と野梨子が清四郎の思惑に気付いたかのように3人を急き立てる。

 

バイバイと手を振る悠理が、清四郎にはやけに可愛く見えた。

 

 

 

 

週末の夜、6人はクラブのVIPスペースにいた。

 

「清四郎ちゃん!フーッして?」

 

野梨子と可憐による特製ケーキにロウソクが揺れてる。

 

面白がっている連中を前に躊躇などしたくない彼は一気に吹き消した。

 

クラブに持ち込みとは呆れるが、咎める者はいないため やりたい放題だ。

 

新装パーティのはずが、今やクラブ全体が「おめでとう清四郎君!」状態。

 

クラブのオーナーともう1人を除いて皆楽しんでいるようだ。

 

 

 

「悠理、お腹でも壊したんですか?人並みにしか消費していませんよ?」

 

さっきまでご機嫌だったのにと心配した清四郎だが、ついからかってしまう。

 

自分のために何かの計画があるのを知って以来、密かに心待ちにしていた彼。

 

とはいえ、実行前で緊張気味の悠理には余計なひと言だった。

 

キッと清四郎を睨みつけると無言で席を立つ。魅録が苦笑しながら後を追った。

 

何故、悠理だけを構いたくなるのか。

 

答えは既に出ている。

 

それは婚約騒動の時、剣菱ではなく悠理が欲しかったことに気がついた瞬間に。

 

― 荷物をまとめている時だったんですよね。気が付いたのは。―

 

彼のプライドは執着するのを良しとはしないが、彼女を見るたび心が裏切る。

 

この感情は本物だと痛感した彼はリベンジを誓う。

 

前回の失態は繰り返したくない。

 

剣菱や悠理のことに口出す前に自分自身をもう一度鍛え直す必要がある。

 

全てを受けいれても揺るがないように。

 

悠理が悠理のままでいられる未来のために。

 

 

 

 

物思いに浸っていたため、周りの変化に気づくのが遅れた。

 

聞こえてくるのはギターのチューニング。

 

(・・・チューニング?クラブで生演奏って普通あることなんですかね?)

 

顔を上げるとベースを持った悠理とエレキギターを抱えた魅録が見える。

 

 

 

「剣菱悠理。歌います!」

 

歌を歌ってくれるのか―と脱力しかけたが、悠理が歌いだすまでだった。

 

完璧な英語の発音に美童の役目を理解した。

 

周りの人間は魅録の超絶ギターテクニックに熱狂している。

 

でも、清四郎は悠理を見つめる以外なにも出来なかった。

 

「ちょっとお、なんて歌ってるのよ?」

 

「情熱的ですわよ。あなたは私のことを馬鹿にするけど、理想の女性だと言って

 

 くれる人もいる。どうして彼のように私を見てくれないのかですって」

 

「 Loved not hated.かあ。直球勝負だよね。」

 

         

 

悠理が凄いスピードで飛び込んできたような衝撃に口も利けなかった。

 

DJが再び皿を回し、揉みくちゃにされた彼が清四郎の隣に戻るまで・・・。

 

「悠理・・・」

 

「えへへ。おめでと清四郎。今のが、あたいからのプレゼント。」

 

食欲が復活したようだ。照れ隠しの為か咀嚼を止めようとしない。

 

「ありがとうございます、悠理。でも、歌の内容分かってるんですか?」

 

「うん。」

 

絶句する清四郎に追い打ちがかかる。

 

「だって、清四郎が言ったんじゃん。気持ちでいいって。あたいは清四郎に

 

この歌と同じことを思ってるって言いたかったんだ。」

 

― その気持ちだけで十分ですよ ―

 

プレゼントを遠慮する社交辞令がこのような形で返ってくるとは・・・。

 

まっすぐに自分を見つめてくる悠理に対して心地のいい敗北感を感じる。

 

準備段階だという言い訳など どうでもいいという気持ちになっていた。

 

「悠理。ひと言いいですか?」

 

誠意をもって応えようとしたのだが・・・。

 

「えっ?いいよ。いらないよ?人の好意は黙って受け取れよ。」

 

―思考回路停止―

 

「・・・ごめん、清四郎。やっぱ、嫌だった?」

 

このタイミングでの天然は厳しいが自分達らしいと思った。

 

「同じですよ。僕も同じ気持ちなんです。」

 

清四郎は悠理にも理解できる言葉を選んだ。

 

 

 

「・・・嘘だ。」

 

「えっ?」

 

―再び思考回路停止― 

 

(もしかして純粋に歌いたかっただけなのか?)

 

「あたい英語の意味知ってんだぞ。お前あたいと違って何でも出来るじゃん!」

 

(・・・ああ、確かに何もできないとも歌ってましたね。)

 

悠理は清四郎の予測をいつも綺麗に裏切ってくれる。

 

しかし今の発言は照れ隠し。誰の目にも分るほど真っ赤になっているのだから。

 

嘘つきだと暴れだした悠理を捕まえ、彼女の後頭部に囁く。

 

「嘘で・・・いいんですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・やだ。」

 

清四郎の顎の下で悠理の頭が小さく左右に動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―後日―

 

 

「大変だったんだよ〜。発音完璧にするって言い張ってさ。」

 

「どうせ気付いてないだろうけど、ヘアメイクは完璧に仕上げたわよ。」

 

「眠れないって電話が何度かありましたの。悠理も女の子ですわね。」

 

「まったく、参ったぜ。天才ギタリストの曲を選ぶから腱鞘炎寸前だぞ?」

 

面白がっているだけかと思っていた友人に当分、頭が上がりそうもない。

 

心から感謝をしたい、友人の協力と悠理の国語力のなさに・・・。

 

 

 

珍しく幸せを噛みしめる清四郎の耳に日常が戻ってきた。

 

「えへへ。歌い終わって安心したら、歌詞全部忘れちゃった〜!」

 

「「「「・・・・・あんなに苦労したのに!!!」」」」

 

「大丈夫です。今度は孫悟空の輪を使って頭に叩き込んであげますから!」

 

清四郎は引き攣る悠理と仲間に嫣然と微笑み、お茶をひと口啜った。

 

 

 

 

 

 

―終わり―

 

 

 

 

オリアンティ

 

オーストラリア出身 ボーカル兼ギタリスト                

マイケル・ジャクソン最後のツアーに大抜擢される

 

 

 

 

 

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