by ましまろさま
「清四郎なんか大っ嫌いだ〜〜〜!」
悠理の悲痛な叫びが辺りに響き渡る。 通り過ぎる人々が何事かと振り返るが、彼は平然とした顔。 涙をいっぱいにした瞳を覗き込むとニッコリと笑った。
「気持ちは分りますけど・・・。」
昨日の仕打ちを仲間に訴えたが誰も相手をしてくれない。 それどころか非はこちらにあるとでも言いたげだ。
「毎回毎回あんたも簡単に遊ばれるわよね〜?」
冗談じゃないのだ、死にそうになったのだから。 あれを見るだけで頭が真っ白になって死を覚悟したくなる。 体験した者でないと、この苦しみは分らないのだ! 呆れ顔の友人たちに何を言っても無駄だ。
「・・・孤独だじょ・・・」
悠理はそう呟くと部室を出て行った。
「うわ〜、拗ねちゃったんじゃない?」
一斉に清四郎に視線が集まるが平然とした態度のまま。
「まあ、なんだ。期待が大きかった分ショックが強かったんだろうな。」
そうなのだ。悠理は昨日まで とってもご機嫌だった。 だって生まれて初めての”デート”だったのだ。 ワクワクドキドキは当然であろう。 モルダビアという最強家庭教師の力を借りて挑んだ前回の試験。 結果は過去最高順位を獲得。勿論、追試も補習もなし。 密かに目標としていた100点は無理だったけど清四郎は褒めてくれた。
「ご褒美は何がいいですか?」
とまで言ってくれた。 悠理はその言葉に狂喜した。
「イルカとアシカのショーを見に行きたい!」
清四郎の快諾に更に心が躍る。 テレビでアシカのごんべ君を見たときから絶対会いに行くと決めていたのだ。 2人の様子を仲間も微笑ましく見ていた。 当然今回の水族館は2人で行かせてあげるつもりだ。
「2人の初デートになるね。」 「いやん、ついて行きた〜い。」
美童と可憐の言葉に悠理は目を丸くする。
(おお?ホントだ!初デートだ!!気が付かなかったぞ!)
いつもなら冷やかされて怒るところだが嬉しさが2倍になっただけだ。 可憐と野梨子が洋服を選んでくれた時もお弁当のメニューを決める時も最高に 楽しかった。
「行きたいと言ったのは悠理ですからね。」
楽しそうに笑う清四郎!悔しいけど、その悪魔だけが頼りだなんて!! ― 特設会場に行ってみますか? ― イルカとアシカショーを見て夢見心地だったから何も考えずにOKした。 迂闊だった・・・彼氏となったから油断していたが清四郎は清四郎だったのだ。 特設会場をどう回ったかなんて記憶にない。 清四郎の腕にしがみ付いて、眼をギュッと閉じていたから。 ご褒美のはずだったのに、初デートのはずなのに!
「なんで”世界のウミヘビ展”なんかやってんだよ〜〜!!」
「可笑しかった〜!本人が真剣なだけ笑えるわ〜!!」
悠理のとった行動は容易に想像できる。 可憐はこれでも本人の前では笑わないように気を付けていたのだ。
「おいおい。でも重症だな。クイズの時トラウマを乗り越えたかと思ったけど」 「元はと言えば私の為でしたもの。ちょっと罪悪感を感じますわ」
心配しているような台詞だが、2人とも顔は笑っている。
「清四郎、好きな子をついいじめちゃった?青春だな〜」
メンバーの格好の暇潰し材料にされているのは明白だ。 暇人どもは親友と言えど容赦する気はないらしい。
「あとでフォローは入れておきますよ。暇潰しは他でやってください。」
これ以上何も出てきそうにない気配にメンバーも諦めざるを得ない。 清四郎で遊ぶのは楽しいが、深追いは危険極まりない。 悪魔とダンスするようなものだからだ。 3人は明日以降の展開を期待しながら、それぞれの暇潰し作業に戻った。
パソコンで持ち株のチャートをチェックすることに専念しているふりをしてい たが、内心では連中が追求を諦めた様子に胸を撫で下ろす。 清四郎はプライドが高すぎて誰にも言えなかった。 悠理との初デートでは、自分も十分舞い上がっていたことを・・・。 実は、道中も会場にもちゃんと”ウミヘビ”の宣伝はあったのだが、目に入っ てなかったのだ。
― 悠理しか見えてなかったんですね ―
会場で悠理が硬直した途端、しまったと思ったが、いつもの態度を保つことで 彼女をパニックから守ろうとした。 面白がっていたと取られるのは、心外で多少傷ついた。 でも・・・とニヤリとする。 悠理は特設会場を出てもしがみ付いたままだった。 手をつなぐ段階を一気に飛び越え親密感を増した気がする。
― このまま、距離を慣れてもらいましょうかね ―
思い立ったら、即行動。 さっさとチャート画面を消し、より効果的な場所を次回のデートに備えて検索 し始めた清四郎。 先ほどとは打って変わり、楽しそうにパソコンを操る。
何やら黒いオーラをまとい始めた清四郎にメンバーはワクワクした。
― 頑張れ悠理!骨は拾ってやるぞ!―
悠理にとって生徒会室は蛇さまの祠並みに怖いところなのかもしれない。
END |
背景:イラそよ様