「first」



 

ふたりは清四郎の部屋で映画を見ていた。
部屋のカーテンを閉め切り、明かりも消して。
テレビの発する光だけがふたりを隠さないでいた。
期待はずれの映画。
ふたりは見るともなしに、時折会話をしながらそれを眺めていた。

不意に、肩を並べて座っていたはずの互いの視線が絡む。
互いに互いを盗み見ていた、偶然の結果。
今の自分たちの関係がなんなのか。
こうしてふたりだけで会う機会が増え、それが自然に思える今。
互いに自分の気持ちははっきりしていた。
だが、相手の気持ちには気付かない。

「な、なんだよ・・・」
「悠理こそ、どうしたんですか・・」
沈黙。
「・・・・別に、なにも・・」
「・・僕も、ですよ・・・」
それでも、互いに顔を逸らさない。

清四郎の瞳が揺れ、僅かに悠理に近づく。
悠理は反射的に身をひこうとした。
まるでそれを止めるかのように清四郎の手が、傍にあった悠理の手に触れる。
まだ瞳は逸れない。

また清四郎の瞳が揺れ、近づいた。
眼を伏せ、顎を少しひく悠理。
清四郎はもう片方の手を悠理の頬に添え、自分のほうに向かせた。
悠理の瞳が真っ直ぐに清四郎に向く。
清四郎は手を頬に沿わせたまま親指で唇をなぞった。
薄く開く唇。
唇に落としていた視線をもう一度、その瞳に合わせる。
そしてそのまま、少しだけ顔を傾けた。

一瞬の接触。
瞳が合う。
悠理が清四郎のシャツを掴む。
清四郎の腕が悠理の腰を引き寄せた。

 





 

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