「hug」

 

最近あいつがあたいを抱きしめなくなった。

「お前がどこかへ行ってしまいそうで不安なんだ」
そう言っては、魅録や美童と話をするだけでもぎゅって抱きしめてた。
休みの日、別々の予定で過ごすと次の日絶対に抱きしめてた。
「会いたかった」って。

最初はあたいもビックリしたんだ。
こいつこんなやつだっけ。って。
いつでも自信たっぷりで高慢で、人に弱い所を見せるなんてこと絶対にしないヤツだったから。
それが、あたいとふたりでいるとそうでもなくなるらしい。
でも、嬉しかったんだ。
ぎゅってされるの好きだし。
それが、最近抱きしめてくれなくなった。

もう不安じゃないのか?
あたいがどこかへ行ってしまっても大丈夫なのか?
会えない日があっても平気になったのか?

あたいは会えないと寂しい。
不安になる。
もうあたいは、お前にとって必要じゃないのか?

いつもと変わらない笑顔で話しかけてくる。
いつもと同じように髪を撫でる。
でも、ぎゅってしてくれない。

お前もこんな気持ちだったのか?
今ならあたいにもわかるよ。
「どこかへ行ってしまいそうで不安なんだ」
ずっとぎゅっと抱きしめていて欲しい。
あたいもぎゅって抱きしめるから。
絶対離さないぐらいぎゅうって。

「せいしろ?」
「なんだ?」
あたいの眼を優しく見つめる。
今までと同じ眼なのにな。

「どうした」
何も言わないあたいに不思議そうな顔してる。
「あ、あのさ……」
「ん?」

あたいが何にも言えずにいると、手が差し出された。
「何?」
その手と顔を見比べる。
「イイから、手を出してください」
言われたとおりに、その大きな手に手を乗せてみた。
あ……。

気付いたら腕の中にいた。
ぎゅって抱きしめてくれてた。

「そんな眼をしないでくれ、我慢できなくなる」
え?
「我慢って」
名残惜しかったけど少し身体を離してその顔を見上げた。

「いつもお前を離したくなくって、こうやって抱きしめてたろ?でも、それはお前を縛りつけてるんじゃないかと思ったんだ。だからずっと我慢してた。お前にはいつでも「自由なお前のまま」でいて欲しいから」
きっと今コイツは最大限に照れてるんだろうなって顔してる。
それが可笑しくって思わず笑ってしまった。
笑ってるうちにさっきまでの不安なんか、どっかに行ってしまった。

「何が可笑しいんですか」
ムっとしている。
あたいは自分からぎゅっと抱きついた。
すぐにコイツもぎゅって抱きしめてくれる。

「あたいも不安だった」
「え?」
「最近お前がこうしてくれないから、……あたいなんかもう要らないのかと思った」

「そんなワケないだろ」
優しく髪を撫でてくれる。
「僕には悠理が必要なんです。例え、悠理が僕を要らないと言ってもね」
「あたい、そんなこと言わないぞ!」
「そう願いますよ」


どこにも行くワケないだろ。
ここが一番好きなんだから。

 

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