「希求」

-――帰りたくない。

そんなことを考えてるって知ったら、お前なんて言う?

―――なら、ここにずっといよう。
―――お前らしくないな。

どっちだろ。
どっちも言いそうだよな、お前は。
自分でもそう思う。

元の生活に帰っても、お前は傍にいるし、何よりそこにはみんなもいる。
それって何の不満もないんだけど。
でも、今こうしてお前とふたりだけでいられるこの時間を、
どうしようもないぐらい、手放したくないんだ。
こんな風に、お前の顔に触れて、髪に触れて。
体全体で包まれてるこの時間。
帰っても同じように傍にいられるのに。

いつからだ?
いつから、こんなにお前のコト好きになったんだろ。
今のこの時が永遠に続けばいいなんて。
続かないかもしれない、なんて不安は不思議とないくせに
それでも尚、そう願ってしまう。

ホント"らしく"ないよなぁ。
でも、こんなになったのは、お前の所為なんだぞ。
お前のコト、好きで好きで堪らないんだ。


「悠理」

知らないだろ、
こうやって名前呼ばれるだけで、お前の事また好きになってるの。

「愛してますよ」

あーもう!涙出そうじゃんか。
何度も何度も。
今までに何度も言ってくれた言葉。
それなのに。
いつも初めて聞いたみたいに、
初めて言ってくれた時みたいに、どうしようもなく胸がきゅうってなる。

「ば、バーカ」

それでも、きっとお前はわかってくれてる。
ぎゅって抱きしめてくれて、また名前呼んでくれるんだ。

「悠理」
「う〜っ」

ほんとに。あたいなんでこんな泣き虫になったんだろ。
嬉しくて、嬉しくて、今のこの状況があたいに涙流させる。

「なに泣いてるんですか。お馬鹿さんですな」

からかうような言い方で、鼻をきゅっと摘まれて。

「だって・・・。お前の所為だぞ。清四郎の馬鹿」

あたいはこんな言葉しか返せない。
なのに清四郎は、それでも笑う。
いつもみたいに嫌味な笑い方じゃなく、大好きな優しい目で笑う。

「愛してる」

あたいも。
こんなの全然ガラじゃないけど。
そもそもお前をこんなに好きになったこと自体、ガラじゃないのかもしれないけど。
でも、大好きなんだ。
だから、ずっと、もっと、一緒にいたい。

ずっと、もっと、一緒にいてほしい―――。

 

 

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