耳には静かな波の音と、愛しい女の小さな寝息だけが聞こえていた。
ふたりきりの、南の海。
互いの想いを言葉と汗と吐息で感じた。
開け放したコテージの窓からは銀の月とダークブルーの海が、青く輝く暗闇を作っている。
その光りに照らされる、白い背中をみつめる。
背凭れの上に腕を組み、そこに顔を預けて、跨るように椅子に座った。
喉の渇きを潤す為にキッチンから持ってきたミネラルウォーター入りの瓶を煽る。
口から零れたその水は、鍛え上げられた胸筋へと流れ落ちた。
口元を腕で拭い、その瓶を手放した。
―――ゴトリ。
重い音と転がる音が連なる。
「・・ん・・・」
悠理の手がシーツを彷徨う。
寝ていても自分を求めていることに、清四郎は口端を上げ目を閉じた。
ゆっくり瞼を開き、名を呟く。
「悠理」
名を口にするたび想いが募る。
その姿を見るたび胸が締め付けられる。
そして、その全てを自分で満たしたくなる。
狂おしいほどのこの想いは、悠理と一つに環った今、さらに強くなった。
「今にホントに狂いそうだな・・・」
「・・・・何してんだよ・・・・」
「悠理を見てた」
その言葉でシーツを鼻先まで上げる姿に笑みを零す。
「もっと見せてくださいよ」
「やだ」
「仕方ありませんな」
椅子から離れ、悠理へと近づいた。
ベッドに片手をつき、もう片方の手で、悠理の前髪をかき揚げる。
悠理の手がシーツから腕に絡んだ。
その手に導かれるように、顔が近づいた。
互いに互いを引き寄せ、重なる。
「何処にも行くな」
「行きませんよ」