悠理の右斜め前には愛しい男の背中があった。
そして、右手に大きな温もり。
暑いこの土地でも清四郎の温もりだけは離したくなかった。
他国語の喧騒の中で、色とりどりの野菜や果物、布や宝石、光る魚が所狭しと並べ立てられている。
悠理は負けないぐらいの派手な服装だったが、清四郎は違った。
だが、その事になんとなく落ちつく。
アイボリーのTシャツは、悠理の安心の色だった。
「悠理?」
後ろを振りかえる清四郎に、悠理はにっこり笑って隣に並んだ。
「何か面白いものでもあったんですか?」
ともすれば自分の前を歩く悠理が後ろにいたのが珍しかったらしい。
「面白いってんじゃないけどな」
悠理はフフンと笑うと、清四郎を見上げた。
「じゃぁなんですか」
「まぁいいじゃん」
嬉しそうなその顔に、今はそれ以上追求するつもりもないらしい。
ま、いいでしょ、と呆れ半分に微笑むと、手を離し腰を抱いた。
普段なら絶対しないようなこんな行動。だが、悠理もそれを自然に受け入れる。
いつもの土地じゃないからなのか、ふたりきりだからなのか。
「その代り、後でちゃんと言わせてみせますよ」
この男の吐息はこんなにも熱かっただろうか。
「やれるモンならやってみろよ」
悠理はくすぐったさを感じながらも、自分も清四郎の腰に腕を廻した。
シャツを掴む。
見上げれば優しい笑顔。
―――言ったらどんな顔するかな
お前の背中が好きだって、おっきな手も、その声も並んだ時見上げるその顔も。
あたいが感じるお前の全てが大好きなんだ、って。
「覚悟してろよ」
悠理はニヤリと笑ってみせた。