「あぁっ・・・あっ・・ああぁっ・・・だめぇっ・・あぁ・・」 プルルルルル・・・・、プルルルルルル・・・・・・ 清四郎の腰が悠理に強く打ちつけられた。 ふたりの身体に電流が流れる。 清四郎が悠理の体内へと注ぎ込まれた。
悠理が清四郎の腕の中で余韻に浸っていると、どこかで軽快なメロディーが聞こえる。 聴き慣れたその電子音は暫く鳴った後、プツリとやんだ。 「今のあたいの携帯か?」 「じゃないんですか?・・ふわぁ・・・。」 清四郎は今にも寝てしまいそうな顔をしている。 暫くすると、今度はまた別の電子音が聞こえてきた。 「あれ、今度は僕のみたいですね。」 「だよな。・・てことは。」 ふたりは顔を見合わせる。 「アイツらでしょうね。」 清四郎が溜息をついた。 確か、みんなでどこだかに飲みに行くと言っていた。 ふたりは、別々に用事があるからと断ったのだ。
皆にはまだ秘密の関係。 清四郎は別にバレても構わないのだが、悠理がとにかく嫌がっている。 最初こそむっとしたが、悠理の性格を考えればそれも仕方がないと思いなおしていた。 悠理はこういうことに関してはものすごく恥かしがる。 皆に知れると、激しく冷やかされるのが目に見えるだけに相当嫌らしい。
「アイツら、何の用だ?」 悠理が上半身だけをベッドから降ろし、脱ぎ散らかした洋服の中から携帯を取り出した。 携帯の画面には“着信あり”の表示。 調べてみるとやはり可憐からだった。 清四郎のも見てみる。 こちらは魅録からだった。 「僕達を呼び出すつもりなんじゃないんですか?」 「どうする?」 「どうしたいです?」 清四郎はニヤリと悠理を見る。 「あたいが訊いてんだろ!」 真っ赤になる悠理。 清四郎はそんな悠理にキスをすると、 「アイツらには悪いですけど、今日はふたりきりがいいですよね。」 と言った。 「うん。」 テレて、目を伏せる悠理の顔を自分に向かせ深く口付ける。 そのとき、突然悠理の手の中でまた電子音が鳴った。 初めは無視していたふたりだったが、あまりにしつこく鳴りつづける電話についに顔を離した。 「なんなんだよ、しつこいな。」 悠理は未だ鳴り続ける携帯の通話ボタンを押した。 不機嫌丸出しの声で相手の名を呼ぶ。 「可憐!お前いい加減にしろよ!」 清四郎もその携帯に耳を当てて向こうの声を聞いている。 「やぁーっと出た!!あんた今までなんで出なかったのよぉ!さっきから何回も掛けてたのよ!」 逆に怒鳴り返され、いい訳のできない悠理はたじたじとなる。 「ご、ごめん。ちょっと手が離せなくてさ。」 横でくっくっくと笑っている清四郎を睨みながら応える。 「とにかく、今から皆であんたん家いくからね。待ってなさいよ〜。」 かなりお酒が入っているのか、妙にハイテンションな可憐は一方的にそう言うとあっさり電話を切った。 「あっ、オイ!」 悠理の声はすでに遅くツーッツーッという音だけが聞こえていた。 「どうしよう・・。アイツら今からここに来るって。」 心配そうに清四郎の顔を見るが、清四郎はけろっとした顔をしている。 「いいんじゃないですか?別に。」 「なんでだよー!!あいつら来た時お前がいたら、あたいらのことばれるじゃないかー!!」 「別に僕は構いませんよ。」 にっこり微笑む清四郎。 「あたいはヤなの!!と、とにかくシャワー浴びるぞ。アイツら来る前にちゃんと服着とかなきゃ。ってお前何してんだよ!!」 悠理が一人で焦っていると、清四郎は顔までシーツをかぶって睡眠体制に入っていた。 「あんまり、悠理が頑張るから疲れちゃって。眠いんですよ。アイツらのことは任せましたから、寝かせてください。」 「だーー!!誰が頑張っただよー!お前だろしつこかったのは!!」 「ハイハイ僕です。しつこかったのは。だから寝かせてくださいね。」 「て、違うー!さっさと起きろ!!お前があたいのベッドで裸で寝てるなんて、アイツらにどう説明すんだよ!!」 「だから、正直言えばいいでしょ。」 「まだ、ヤなの!ほらさっさと起きてシャワー浴びるぞ!!」 悠理はシーツを捲って、清四郎の身体を無理やり抱き起こす。 「悠理も諦めが悪いですね。どっちにしろ、用事があると言っていた僕がこんな時間に悠理の部屋にいる時点で不自然でしょうが。」 「う゛〜、それは何とかするから。ほらさっさと行くぞ!!」 悠理は、清四郎と自分の服を抱えると、バスルームに急いだ。 清四郎は後からゆっくりついてくる。
ふたりで一緒にシャワーを浴びていると、今度はバスルーム備え付けの内線電話が鳴った。 「嬢ちゃま!大変ですぞ!!」 執事の五代の慌てふためく声が聞こえる。 「なんだよ!!清四郎が来てる時は呼ぶなって言ってあるだろ!!」 怒鳴られた五代はそれでも、続けた。 「だから、大変だと言っておるのです。たった今、魅録様たちがそちらに向われました!」 清四郎とのことを皆には秘密にしていることを五代を含め剣菱家の住人は知っていた。 「えっ!アイツらもう来たのか!」 先ほど、連絡があったばかりである。 「きっとこの家の前から、電話してたんでしょうね。アイツらのしそうなことですよ。」 ニヤニヤ笑う清四郎を横目で見ながら五代に泣きをいれている。 「なんで、止めないんだよ〜!!」 「申し訳ございません。なにやら皆様酔っておいでの様でして。とてもじいには・・。」 「わ、わかった。もういい」 悠理は急いでシャワーを止めるとガウンを素肌に引っ掛けた。 「清四郎!とにかくお前はこっから出てくんなよ。アイツらはあたいが何とかするから。いいな、絶対出てくんなよ!!」 びしっと指を指し、バスルームから出て行った。 清四郎は「ふわぁ」と欠伸をすると、またシャワーのコックを捻った。
悠理がバスルームから出るのと同時に、魅録達4人が部屋に入ってきた。 「なぁに〜、悠理、あんたびしゃびしゃじゃない。」 「あ、あぁ。今ちょっとシャワー、浴びてたんだ。」 「お前、シャワー出しっぱなしだぞ。止めてコイよ。ついでに頭乾かして、服も来てコイ。俺達先に始めてるから。」 (ア、アイツ。あたいがシャワー止めたのにまた出しやがったな。) 「って言うか。あたいもう眠いから寝たいんだけど。」 「あら、珍しい。まだ12時ですわよ。」 こんなとき普段なら控えめな野梨子まで、酔っている所為か腰を落ちつける。 「そうだよ。とにかく悠理、シャワーを止めて服来ておいでよ。まぁ、僕はその格好でも構わないけどね。」 美童はウインクしながら言った。 悠理はそこで漸く自分の格好に気付き慌てて、バスルームに戻って行った。 だが、そこに着くまでにシャワーの音が突然止まった。 もちろん皆の声が聞こえた清四郎がワザとやっているのであるが。 「あれ?シャワー止まったんじゃない?」 しこたま酔っているクセに、可憐は気付かなくてもいい所に気付いた。 「あぁ。え、えと・・シャ、シャワー壊れてるんだ。うん、そう。ちょっと調子悪くて。」 (せいしろーのヤツーーーー!!!) 焦りまくる悠理にも気付かないのか、魅録が立ちあがった。 「なんだ、早く言えよ。俺見てやるよ。」 つかつかとバスルームに向う魅録。 「あっ!あーーっ!!イイ!イイ!!大丈夫だから。すぐ直るから!!」 悠理はその前に立ちはだかると、慌てて言った。 あまりの剣幕に魅録も「そうかぁ?」と言いながらもとの場所に戻っていく。 悠理はほっと溜息をつくと、根性悪の待つ場所へ戻って行った。
「せーしろー!!お前どーいうつもりだよ!!」 小声で怒鳴る悠理。 「何がですか?」 「シャワーに決まってるだろ!!出したり止めたりしやがって!アイツら変に思うじゃないか!!」 「いいじゃないですか。僕はもっとシャワー浴びたかったんですから。」 しれっとした顔で言い放つ。 「もー!!とにかくアイツらに散々酒煽って潰すからそれまでじっとしてろよ。いいな!」 「悠理も往生際が悪いですね。どうせ、いつかばれるコトなのに。」 「今はヤだって言ってるだろ。」 「ハイハイ、わかりましたよ。じっとしてればいいんでしょ。」 妙におとなしく引き下がる清四郎に悠理は何の疑いも持たなかった。 「じゃぁな。」 バスルームを出ていこうとする悠理。 「あ、悠理。ちょっと。」 清四郎が手招きしている。 「なんだよ。」 悠理が清四郎に近づいた、そのとき。 清四郎は悠理の肩を掴んでさらに引き寄せるとその首筋にきつく吸いついた。 「んぎゃっ」 突然のコトに思わず声をあげてしまう悠理。 清四郎は顔を離すと、イタズラが成功した子供の様に嬉しそうである。 「それじゃ、とっととアイツら潰してきてくださいね〜。」 「潰してきてくださいね〜じゃないだろ!どーすんだよ、こんなところに!!」 悠理の首筋にはばっちり清四郎のつけた跡が残っている。 見せつけようと思ってつけているだけに、タートルネックでも着ない限り隠れる場所ではなかった。 「いいじゃないですか。アイツら酔ってるんでしょ?わかりませんって。それよりさっさと頭乾かして服着て下さい。さっきは仕方なかったけど、これ以上その悩ましい格好でアイツらの前に出ないでくださいよ。」 悠理は真っ赤になると、慌てて洋服を着に行った。
悠理が風呂上りにはかなり不自然なタートルネックの服を着て部屋に戻ると、四人はすでに酒を呷っていた。 「あー!悠理!お前も早くこっちに来いよ〜。今日はお酒沢山持ってきたんだよ〜!」 「あんた、何でそんな服着てんのよ。シャワー浴びたあとでそんなの着て暑くないの?」 「う、うん、あたい今日ちょっと風邪気味でさ。さ、寒くって・・。」 酔っていなければきっとそれが嘘だろうとあからさまにわかるような言い訳も、今の四人にはすんなり受け入れられた。 「だから、今日は・・早く寝た・・いって言ってまし・・たのね。」 一番酒に弱い野梨子は今にも寝そうな様子になっている。 「そんなモン酒呑みゃ治るさ。ほら、呑めよ。」 魅録は手近に合ったグラスになみなみとワインを注ぐと悠理に差し出した。 「あ、あぁ・・。」 少し口をつけながら野梨子の様子を窺う。 グラスを手にしたままうつらうつらしている。 (よし!野梨子はもうすぐだ。ほっといても後五分もすりゃ潰れるな。) 残るはあと三人である。 だが、可憐と美童もさほど強いわけではない。 あと四、五杯呑ませりゃ勝手に潰れるだろう。 悠理はそう考えると、誰よりも一番強い魅録にを潰すことに集中した。 怪しまれない様に自らワインを呷る。 そして、魅録に注がせそのボトルを奪い取って魅録のグラスにも返す。 悠理自身は呑む量を徐々に減らしながら、魅録にどんどん酒を注いでいった。 「ほら、魅録もっと呑めよ。」 「あぁ、お前もな。さっきから全然進んでないぞ。」 散々呑ませているのに、魅録は一向に潰れる気配がない。 逆に控えていたはずの悠理の方が酔いが回ってきた。 可憐と美童はいつのまにか横になって寝息を立てている。 野理子はとうに熟睡していた。 (だ、ダメだ。アイツらの寝顔見てたらあたいの方が眠くなってきたじゃないか。何でコイツ全然潰れないんだよ〜。) 「清四郎のやつ今頃何してんだろうな。」 不意に魅録が呟く。 幸い悠理がビクッとなったことは気付かれてはいない様だった。 (まさか、すぐそばでお前らが潰れるのを待ってるなんて言えないよな・・。) 「アイツにも何度も電話したんだけど、ちっとも繋がらねーんだ。・・・よし、もう一回掛けてみるか。」 魅録は一人で結論を出すと、ポケットから携帯を出した。 悠理はさらに焦った。 今ここで清四郎の携帯を鳴らされては、バスルームに服と一緒に置いてある携帯の音が聞こえてこないとも限らない。 清四郎のことだから、きっと電源を切るなどということはしてくれてないだろう。いや、むしろ誰かが鳴らすことを期待して、音量を最大限に上げているかもしれない。 (アイツはそういうヤツだ…。) 悠理は慌てて魅録から携帯を取り上げる。 「な、なんだよ。返せよ。」 「ほ、ほら!もうこんな時間だし。こいつらも潰れちゃってるし。今からってのは・・。なっ?」 「それもそうか。」 魅録はあっさり納得すると、グラスに残っていたワインを一気に飲み干した。 ――――二時間後。 フラフラになりつつもなんとか魅録を潰すことに成功した悠理。 だが、もう清四郎が待つバスルームまでは行けそうになかった。 四人の傍を離れ、バスルームに着く途中でついに眠りこけてしまった。
静かにバスルームのドアが開く。 中から出てきた清四郎は途中で眠る悠理を抱き起こした。 「悠理、悠理。」 頬を軽く叩く。 まだ完全に寝入ってなかったのかゆっくりと目が開いた。 「あ〜、せーしろ〜。アイツら・・やっと寝たぞ・・。」 「悠理もヤバそうですね。こんなトコで寝ないでちゃんとベッドで寝てください。」 (今日はもうムリそうだな・・。) 「うん。なぁ、運んで。あたいもぅ、動けないじょ・・。」 酔っている所為か甘える様に清四郎の首に腕を回してくる。 清四郎は仕方がないと言うように悠理を抱きかかえた。 ベッドに降ろしても悠理はまだ清四郎の首に腕を巻きつけたままだった。 「なぁ、あたい頑張ったろ?」 随分酒臭い息を吐きながら、ちろりと清四郎の顔を見る。 「ハイ、ハイ。頑張りました。だからもう寝てください。」 悠理の腕を外そうとする。 「え〜、ご褒美のちゅーはぁ?」 清四郎は面食らった。 素面なら絶対に言わないであろうセリフがいとも簡単にその口から発せられたのだ。 清四郎とて正気じゃない悠理にキスとはいえ手を出すのは躊躇われる。 だが、こんな事はもうこの先ないであろう。 そう思うと止められなかった。 悠理の腰を抱き、唇を自分のそれで塞ぐ。 その柔らかさとワインの味を楽しむ様に深く深く口付けた。
「あー――――っ!!!!」 突如、大声が響いた。 慌てて顔を離す。 「なんだ!?」 声のした方に顔を向けると、可憐がこちらを指差して口を大きく開けていた。 「か、可憐…。」 可憐の声でぐっすりと寝ていたはずの三人が眼をこすりながら起き上がる。 「なんですの?今の声・・。」 「可憐どーしたのさ。」 「うおぉ!!」 魅録が可憐の指差す方に目をやり、ふたりの姿を発見する。 その声で野梨子と美童も目をやった。 「まぁ!!」 「な、なんで!!」 「「「「せーしろー―!!!」」」」 四人の声が重なった。 (お前の努力も無駄になったみたいだぞ。) 清四郎は自分の腕の中でいつのまにか眠ってしまった悠理を見ると、天井を仰いだ。 「なんで、清四郎がここにいますの?!」 「て言うか、なんで悠理抱いてんだよ!」 「そんな事より!あんたさっき悠理とキスしてたでしょー!!」 「えーっ!!マジかよ清四郎!!」 「「「「どーいうこと(だよ!!)(なのよ!)(ですの!)」」」」 四人の大声で悠理が身じろぎをして目を覚ました。 「う、うん?なんだぁ、うるさいなぁ・・。」 そう言ってまだ眠そうに清四郎の胸に顔を摺り寄せる。 「悠理、バレてしまいましたよ。」 悠理を抱いたままその顔を覗き込む。 「バレたぁ?何が・・。」 「だから、僕達の事が。」 「バレたって…。」 がばっと悠理が顔を上げる。 漸く目と酔いが覚めたらしい。 恐る恐るといったように、四人の方に顔を向ける。 そこには目の前の光景にポカーンと口をあけたままの四人の姿があった。 「どうしますか?」 「・・・どうしよう・・・・・。」
この夜、結局誰一人眠ることはなかった。 |