ホントの気持ち

「じゃーなー」
「また明日。あ、悠理。寄道するんじゃありませんよ」
「うるせー」

ホントあいつってば、いちいち煩い。
あれすんな、これすんな。
あれしろ、これしろ。
他の奴等にはなんにも言わないくせに。
……ってさぁー、コラ、おい。ちょっとぐらい振り向けっての。
あたいがこうやって見送ってんだぞ。
なんだよ、もう、あたいの事なんて頭にないってか。
フン、だ。

「お嬢様?」
「あ、ゴメン、ゴメン」

そりゃさ、あたいは車だし。あいつは歩きだし。
そもそも方向だって違う。
でもさ、今日はあたいとお前だけだったんだし、車一緒に乗ってきゃイイのに。

『悠理と一緒だと何処連れていかれるかわかりませんからね』

って、人聞き悪いよな、ホント。
ただせっかくだし、どうせ暇なんだろうから飯とか遊びに行くのとか一緒でもいいじゃん、って思っただけなのに。

大体さ、あいつの中でのあたいの位置ってめちゃめちゃ低くそうだな。
本屋とか新聞とか、もしかしたら他の何とかの会とかの知り合いよりも低かったりして。
優先順位最下位ーってか?
……別にいいけど。



「お忘れ物ですか?」
「ううん、別に」

振り返ったってあいつはいないっての。
もうとっくにスタスタ帰っちゃったんだし。
ふふん。でも追っかけてったらどうするかな。
ビックリするだろーなー。
……でも、あいつは絶対嫌味言うんだ。

『寄道するなと言ったでしょう』
『何か用事があったんなら、どうしてさっき言わないんですか』

うわー。言いそー。
なんであいつあんな口煩いんだろ。
絶対あたいらん中じゃ、一番悪い事一番平気でしそうなのに。
人の顔見れば絶対何か言うし。
あいつあれだからモテないんだ。
あいつの事好きになる子なんて男かあいつの本性知らないかどっちかだもん。
あいつの本性知ったらみんなビックリするんだろーなぁ。
すんごい意地悪なんだぞー。

でもあいつ、誰か好きになったらどうするんだろ。
あの性格直すのかな。それとも隠すのか?
直してくれりゃ、あたいも助かるんだけど。
でもきっと隠すんだろうなぁ。
あいつが好きになる人って、たぶん大人しくて綺麗で頭が良くて……あたいは、絶対ダチになれないタイプって感じ。
でもそんな子だったらきっと清四郎の事も好きになるんだろうなー。
お似合いって感じ?
……そんな子には、意地悪なんてしないんだろうしさ・・・。


野梨子にも可憐にも、意地悪なんてしないし。


ダチにはなれなくても、もしあいつに彼女が出来たら一回ぐらいはその子には会ってみたいな。
こいつ、優しい?って訊いてやるんだ。
なんでそんな事訊くんだ、ってビックリするだろうな。
そこでさ、バラしてやるんだ。本当はすんごく意地悪なんだぞって。
でもね、あんたにはきっと優しいから大丈夫だよ、って。

って、あたい……なんか、それじゃ、馬鹿みたいだな。
あいつにだって、きっと怒られて。
なんだよ、それ。ホント馬鹿じゃん。
やーっぱり会うのやめよ。
なんか嫌な気分になりそう。
大体、恋人がいるなんてそんな『普通』なあいつってなんか嫌だしな。
そんなのあいつじゃない、って感じ。

「お嬢様?」
「んー?」
「もう時期、お邸に到着いたしますが、このままご帰宅でよろしゅうございますか」

って、なんで?いいじゃん。別に何処も行かないんだし。
一人だし。

「いいよ。どしたの急に」
「……いえ」

変なの。
帰ったら、久しぶりにタマとフクの奴等を洗ってやるか。
見違えるぐらい真っ白にしてやろーっと。
待ってろよー、お前ら。

「お嬢様」
「ん?」
「携帯が…」

あれ。鳴ってたんだ。
って、清四郎……。

「もしもし?」
『あぁ、悠理。今もう家か?』
「ううん。あ、でももう後ちょっとだけど。どしたんだよ」
『いや、今家から電話があってね。今夜うちの家全員いないみたいで僕一人らしいんですよ。で、悠理さっき暇そうだったでしょ。だから一緒に夕食でもどうかなぁと思いましてね』

なんだよ、それ。
勝手な事、言いやがって。
一人なら、彼女と……って、あれはあたいの想像か。
今はいないんだ。
そだ、今はあいつ、一人なんだ。

『悠理?』
「どーしよっかなー。あたいどっかの口煩いヤツに寄り道するな、って言われたし」
『はいはい。すいませんね。口煩くて。でももう家の近くなんでしょ?一度家に帰ってからで良いですよ。僕も着替えてから迎えに行きますから』
「何処連れてってくれんの?」
『僕の好みなんてハナから無視でしょ』
「そんな事ないぞー。今日はお前の意見をそんちょーしてやるよ」
『おや、そうですか。じゃあ、そっちに行くまでに考えておきますよ』
「早く来いよー。遅かったらあたい勝手に行っちゃうからなー」
『はいはい。それじゃ後で』
「うん。じゃな」

あいつの好きなものかー。何だっけな。
フフーン、楽しみ。って、

「何?」
「いえ」

なんなんだよ、さっきから。
変な顔したり変な事訊いたり、今はなんか笑ってるし。
ま、良いけど。

……あ、そだ。
今『家から電話があった』って言ってたよな。
て事はまだ、外か。

「ね、ね。やっぱさ、清四郎ん家行ってくれる?できるだけ早く」
「はい、畏まりました」

ってだからさ、何?なんで、そんな楽しそうなんだよー。

んー。もうイイや。
んな事より、あいつ驚くかなー。
今からなら先周りできるよな。
あ、でも『着替えておけって言ったでしょ』とか怒るかな。
でもイっか。
あいつが家に入る前に捕まえりゃ、あいつだって制服だしな。
ぃよーっし!

「ね、どんな道でも良いからさ、とにかく急いで!あいつをビックリさせたいんだー」
「お任せください」

きっとあたいだけだろーな、こんな事考えるの。
あいつの彼女になるような子は、ちゃんと家で着替えて待ってるんだろ?
でもさ、そしたらあいつの驚く顔見れないじゃん。
それって好きなら、もったいなくないかな?
色んなあいつ知ってる方が、好きなら嬉し……って、おいっ。
あた、あたいは、違うぞ。うん、違う。別に嬉しいから驚かせたいとか、そんな、あれじゃ・・・。
とにかく、うん、あたいは、違うんだけどっ。



「お嬢様」
「な、なひ?」

ってなにあたい、動揺してるんだよー。

「清四郎様が、前方に」
「うわっ!か、隠れて!」
「……と、仰られましても…」
「何でもいいからーーー!」
「でも清四郎様、もうこちらに向かってこられてます」

うわ、気付かれた。
怒られる…?



「家で待ってろ、と言ったような気がするんですけど?」
「はい。あたいもそう言われた気がします」
「なら、どうしてこんなところに、着替えもせずいるんですかねぇ」
「え〜と、それはー」
「はい、"それは"?」
「……ゴメンナサイ」

手が上がったから頭叩かれるんだと思った。
だけど。

「そんなにお腹空いてたんですか?仕方ありませんね、それじゃ制服でも入れるところにしましょうか」

って。

偶ーに。ホントに偶に、だけど。
こいつってば、こんな風に、ふわって頭撫でてくれて。
あたいのこと、見てくれて。
そう、やさしー目で。


「ん?」
「……んん、なんでもない。うん、お腹空いた」
「変なヤツですな」

お前の所為だっての。
でもさ、

「それじゃ、行きましょうか?」
「おぅっ!」

ね、もっと髪撫でてよ。
意地悪でも良いからさ。
もしお前に彼女が出来ちゃったら、その時は遠慮してやるから。
だから、そうじゃない時は、傍にいる時は、偶にでも良いから、こうして頭撫でてよ。

だって、なんか、今すごく、あたい―――。

  

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