片恋

「何ニヤけてんだよ。またどーせろくでもない事考えてんだろ」
「またってなんですか、失礼な。それより、その問い出来たんですか?」
「・・・まだ」

うっと言葉に詰まるこんな表情すら、愛しいと思うようになるなんて。
まさか自分に恋愛感情があるだなんて、こいつへの想いに気付く前までは――――いや、あいつらに気付かされるまでは、思いもよらなかった。

僕も随分、情けない人間だったものですよね。他人に自分の気持ち、気付かされるだなんて。
あいつ等にはホント、感謝しなければいけないな。
今もこうして、悠理とのふたりの時間を邪魔しないでくれているのだから。

ま、それを遠目で見ながらしっかり楽しんでいる事も知っていますけどね。


「あ〜、清四郎!やっぱりここわかんない」
「だから、そこは―――」

何度も何度も繰り返し同じ事を聞かれても、以前の僕ならうんざりしてただろう。
だけど、今は違う。
自分でもかなり馬鹿な考えだと思うけど、それだけ交わす言葉が多くなる事に喜びを感じている。

本当に、こんな自分が信じられないな。

「あ、また笑った」
「え?」
「絶対お前あたいの事馬鹿にして笑ってんだ」
「馬鹿になんてしてませんよ」

そうなんだ。もう以前のように馬鹿になんて出来ない。
ってそんな目で見なくても・・・。


「もーヤダ!試験なんてどうだっていい!」
「なに言ってんですか。駄目ですよ」

本当は悠理の言う通り試験なんてどうだっていい。
ただ、こうしていられればそれだけでいいんだけれど。
僕が悠理の時間を独占出来るのは、悔しいかな試験勉強という理由ぐらいしか思いつかない。

なんて思っていたところにグッドタイミング。

「大体さぁずーっとこうしてたら、体が鈍る!」

そうか、その手があったな。

「なら、少し体を動かしますか」

いや、だから。どうしてそんな目で見るんですか・・・。

「絶対お前変だ。何企んでんだよ」
「はい?僕が何を企むって言うんですか」

僕はただ、気分転換にふたりでどこかに出かけるのもいいかなぁと・・・。

「だって、いっつもなら何が何でも勉強させるくせに」
「この調子じゃいつまでたっても進まないでしょう。それなら、いっそ一度パーっと騒ぐのも悪くないかなと思ったんですよ」

できればふたりで・・・・・・。

と思ってるのに、こいつは・・・。

「マジで?ホントに?絶対?皆!聞いたか!これから遊びに行こうぜ〜!!」

こうなるんですよねぇ・・・。
まぁもちろん、誰一人として行くヤツはいませんけどね。

皆、やはり口々に用事を作っている。
持つべき物は友人ですよね。素直にそう思いますよ。

「―――だって〜。どうする?清四郎」
「仕方ありませんな。諦めて勉強」

なんて思っちゃいない。
ただこう言えば、こいつは絶対こう返す。

「それは絶対にヤダ!今日はもう勉強なんてしないぞ!こうなったら清四郎、お前だけでも付き合え!!」

だから僕はこう返す。

「ふたりだけでですか?」

なんて言ってて顔が熱くなるな。
本当に、体は正直ですねぇ。今度その因果関係を論文にして・・・。

「・・・だ、だって、みんな用事あるって言うし。ふたりじゃ嫌だとか言う気か?」
「とんでもない」

嫌なわけないでしょう。むしろふたりきりがいいんですから。
そんな、ちょっと不貞腐れた顔が見たかっただけですよ。
それから、すぐに変わる、その笑顔もね。

―――はい、そこの二人。野梨子と魅録、今笑いましたね。後で覚えておくんですな。


「じゃ、イイんだな!何処行く?遊園地?フィールドアスレチック?じっちゃんとこ?」

和尚のトコ・・・。あそこだけは、辞めましょう。
えぇ、あそこだけは・・・。
なに言われるかわかったもんじゃない。

「遊園地にしませんか?」

暗に、その方がデートらしいという気持ちを込めて。
それにフィールドアスレチックじゃ絶対悠理はまた競走しようって言い出すに決まってる。
せっかくのふたりきりなんだし、隣を歩きたいじゃないか。

「オッケ〜」

いそいそと鞄に教科書を放り込む悠理の笑顔が、僕の為じゃないとわかっていても、何だか嬉しい。

「また、笑ってる。なんだよ、なんか言いたい事あるんだったらはっきり言えよな」

今しがたまで御機嫌だったのに。
そんなに僕が、微笑むのって不自然なのか?
なんだか、心外ですな。
でも、ま。
仕方ないのかもしれないな。
僕だって、自分がこうして悠理を見て頬が緩むなんて、最近知ったぐらいなんだから。

「何でもありませんよ」
「うっそだー」

「ちょっと、悠理。今から行くんならさっさとしないと、遊園地で遊ぶ時間少なくなるわよ」

可憐、今後指輪が必要になった時は是非、「ジュエリーアキ」を利用させていただきますよ。
本当に、いい友人を持ったものです。

「あ、そうだよ!清四郎、早く行くぞ!」

僕の笑顔の理由なんてもうすっかり忘れたように、ドアへと向かう。
僕の手を引いて。

美童、余計な事しない。
その口笛、本当に音を出して吹いたら今後一切試験勉強の面倒は見ませんからね。
悠理が気付かなくて良かった。
また、問い詰められるところだ。


確かにこの想いはみんなに気付かされた。
だけど、伝える時まで助けを借りる気はないですからね。

僕は僕なりのタイミングで。
いつか、必ず、悠理に伝えますよ。

「お前が好きなんだ」
とね。
だから今は、もう少しこのまま見守ってて下さい。



「せーしろー。早く!」
「はい、はい」

―――悠理が気付くまで、この手は繋いだままでいよう。
例え気付いても、そんな簡単に離す気はありませんけどね。

 

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