今日もあの子はケンカしている。
隣の野梨子ちゃんが、嫌なものを見るような眼でそれを見ていた。
そりゃそうだよね、野梨子ちゃんもあんなケンカしたんだから。
僕だって、今でも悔しいんだ。
でもね、あの子そんな悪い子じゃないと思うんだ。
だって、今あの子がけんかしている相手はさっき他の子をいじめてたんだよ。
僕は止めに入ることできなかったけど、あの子はそれを止めたんだ。
まぁ、確かに楽しそうでもあるけどね。
あっ、叩かれた。
痛そうだな・・・。でも、泣いてない・・。あんなにほっぺた真っ赤になってるのに・・。
僕は思わずハンカチを濡らしに走った。
戻ってくると相手の男の子の方が泣いてた。
あぁ、やっぱり勝ったんだ。
でも、ほっぺたさっきより赤くなってるな。
「ハイ、これで冷やしなよ」
差し出したハンカチを不思議そうな顔して見ている。
「ほっぺた痛そうだよ」
後ろから野梨子ちゃんの呼ぶ声がしたけど、目の前の女の子の方が気になった。
「要らない」
もっと何かからかわれるようなことを言われるかと思ったけど、たった一言それだけ言うと、ふいっと背を向けて行ってしまった。
「清四郎ちゃん!あんな子の事なんて構うことありませんわ」
傍に来た野梨子ちゃんはそう言ってあの子の行った方を見て怒ってる。
でもね、野梨子ちゃん。僕なんだか、放っておけないんだ。
僕は追いかけてハンカチを出した。
「要らないって言ってるだろ。しつこいぞ、お前」
「だって、君痛そうだよ」
「あたいはお前みたいな弱虫じゃないんだ。だからこんなもんちっとも痛くなんかないんだ」
そっか、見てたんだ。僕がさっきの子がいじめられてるのを見てて何もできずにいたの。
だから、僕の事軽蔑してるんだ・・・。