真夜中の計画

「・・・んっ・・はっ・・・」
「あっ、あっ、あぁ・・!」
清四郎が強く腰を動かしたとき、悠理はこの夜何度目かの絶頂に達した。

清四郎が泊まりに来るといつもこうだった。
ひとしきり燃えあがった後、お互いの温もりを感じる様に寄り添って眠りにつくのだが、
悠理が、途中で起きてシャワーを浴びに行こうとしたり、
喉が乾いたからと言って飲み物を取りに行く為ベッドを離れようとすると必ず清四郎に捕まる。
身体から悠理の重みがなくなるコトに、寝ていても確実に反応するのだった。
そして、引き戻され、自分から離れた「お仕置き」と称して、悠理の身体を貪る。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
ふたりとも肩で大きく息をしている。
「清四郎、お前何回やれば気が済むんだよぉ。あたい、もぅだめだ。」
「悠理が悪いんですよ。僕から離れようとするから。」
「別にイイだろ、シャワー浴びに行くぐらい。」
悠理は憮然とした表情で答える。
「ダメだ。それならふたりで、行きましょう。」
「あのなぁ・・・・。」

―――それが3日前の話。
あの後、結局ふたりでシャワーを浴び(浴びるだけでは済まなかったが)、漸く眠りについたのだった。


(今日こそ、逃げ切ってやる。)
悠理は清四郎が部屋に来た時から、気合を入れていた。
最早、これは悠理にとって戦いであった。
みんなにはまだ二人の関係を話していないので、人前では今までと何ら変わりない態度を取っている。
その反動なのか二人きりになると清四郎は悠理を離そうとしない。
常にどこか触れていようとする。
それはベッドに入ると尚更のことだった。
いつもいつもこれでは体がもたない。

「―――何が『お仕置き』だよ、ただお前ががヤりたいだけじゃないか。」
以前そう言ったことがあった。が、すぐに
「悠理は僕とするのがそんなに嫌なんですか?」
と余裕の笑みで返された。
文句を言いつつも、結局清四郎を受け入れてしまう。
清四郎に愛されるのはもちろん嫌な訳ではない。
だが、モノには限度というがある。
せめて少しの間ベッドから離れることぐらいは、自由にさせて欲しい。
どうせすぐにまた、もとの場所へ戻るのだから。


その夜、コトが終った後、悠理は寝たふりをしていた。
清四郎の胸を枕代わりに、抱きかかえられるようにして横になっている。
背中から肩にかけてがっちりと清四郎の腕が巻き付いていた。
ちらりと、清四郎の顔を見る。
よく眠っている。
肌で感じる清四郎の胸も規則正しく上下している。
(よしっ、完全に寝てるな。)
悠理は計画を実行することに決めた。

悠理は、ここ最近、何度か清四郎の腕の中から逃亡する事を試みていた。
しかし、ことごとく失敗。
寝返りを打つことには無反応なクセに、
何故か少しでもベッドから出ようとする意思があると確実に引き戻される。
だから今日は、「ごく自然に」をテーマに逃亡計画を練った。
まずは、少し身じろぎをして寝返りを打つように仰向けになる。
それでも清四郎の腕は悠理の身体にぴったりくっついたまま。
しかしそこまではまだ計算のうちだ。
腕枕ならまだ、重みを感じているはずだから清四郎が反応することはない。
だが悠理は慎重を期して少しの間、動かずにいた。
10分ほど経った頃、もう一度清四郎の顔を見る。
先ほどと変わらず、深い眠りについているようだ。
(いつもいつも、お前の思い通りになると思うなよっ!!)

顔だけ横に向けると、そこには最後の砦である、清四郎の大きな手があった。
こういう時でなければこの手がとても好きだ。
頭を撫でてくれるとき、抱きしめてくれるとき、頬に触れるとき、快楽の世界に導かれるとき。
そんなことを思いながらも、計画を着実に進める。
身体が離れてしまっている今、清四郎が悠理を感じているのはこの腕と手にかかる息遣いだけのはずである。
手にかかる息は身体の向き次第なのでそれほど反応することはないだろう。
ならば、後は腕の重みだけである。

前回は、ここで失敗した。
清四郎の身体から離れ、腕枕の状態だったので、さっと動けば絶対捕まらないだろうと思っていた。
しかし、あっさりと腕を捕まれ「お仕置き」を受けることになった。
今回はその辺もきっちり計算に入れている。

大きなベッドには3つのこれまた大きな枕が並んでいる。
清四郎は悠理といる以上、両端の枕を使うことはない。
そこで悠理はその枕の下に『あるもの』を隠すことにした。
清四郎の表情を伺いながら、端の枕の下にそっと手を伸ばす。
枕の下から取り出したものを少しずつ引き寄せた。
胸の前で『それ』を両手で持つ。

清四郎はまだ、気付いている様子はない。
悠理は『それ』を顔の前に持ってくると徐々に頭を浮かせ始めた。
一瞬、清四郎の眉間に皺が寄る。
悠理は慌てて『それ』を腕に置いた。
清四郎はまたもとの表情に戻っている。
悠理はほっと息をつくと、そうっと身体をずらしていった。

なんとか気付かれずに悠理はベッドの端までくることに成功した。
降りようと、床に足を下ろしたその瞬間。
手首を捕まれた。
慌てて後を振りかえると、清四郎が腕を枕に横になってコチラを見ていた。
自分と清四郎の間には先程の『悠理の代わりである』"鉄アレイ"が置いてあった。
「こんなもので僕をごまかせると思ったんですか?」
「えっ、い、いや・・・あははは」
「さて、どうなるか。わかってますよね。」
ニヤリと笑う清四郎。
「ヤだ〜!!!!」




「あら、今日は悠理休み?」
朝、生徒会室に顔を出した可憐が、部屋を見渡して言った。
いつも自分より早く来てお菓子を食べている悠理の姿が見えなかったのだ。
「あぁ。今朝早くに電話があってさ。何だか熱っぽいから休むんだと。」
「ふ〜ん、あの健康優良児がねぇ。お腹でも出して寝てたのかしら。」
「結構辛そうな声してたぞ。」
「珍しいね、悠理が風邪ひくなんてさ。」
「放課後、みんなでお見舞いに行きません?
悠理の好きなお菓子でも持って行けばすぐによくなりますわよ。」
「だな。お前も行くだろ、清四郎。」
横で新聞を読んでいた清四郎に問い掛ける。
「えぇ、もちろん行きますよ。」
にっこり笑うとまた新聞に目を移した。


(辛そうな声、ですか。あながち間違ってるわけでもないんですけどね。)
もちろん悠理は風邪などひいていない。
欠席の本当の理由は清四郎である。
余りに清四郎がしつこいので流石の悠理も朝、立ち上がることができなかったのだ。
しかも悠理が魅録に電話をしている時、さらに横から清四郎がちょっかいをかけていたのだから
悠理も声を抑えないわけにはいかなかった。
それが、魅録には「辛そうな声」に聞こえたのだろう。
清四郎は今頃ぐっすりと眠る恋人の寝顔を想い、小さく笑った。

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