悠理が弁当を断った。 それは初めて見る姿―――。
「ごめん。この弁当は受け取れない。せっかく作ってくれたのに、本当にごめんな」 悠理のファンの女生徒達の悲鳴が、離れた僕のところまで聞こえた。 思わず苦笑。 だけど、嬉しいのも事実。
どうしてですか?と詰め寄る彼女たちに、悠理は苦虫を噛み潰したような顔をしている。 きっと考えているのだろう。 どう答えるか。 そんな悠理を見つめる彼女たち。 悠理が手紙ならともかく弁当を断る理由なんて、何も思いつかないに違いない。 たとえ二日酔いでも、風邪でも、悠理は断ったことなどなかったのだから。
僕も気になる。 悠理が、なんと答えるのか。
「えっと・・・・・あの・・・・」 涙目の彼女たちの視線に、しどろもどろになっている。 答えられる訳がない。 僕は、また可笑しくなった。 昨夜の言葉。結構本気にしたらしい、と。
"僕以外から、もう何も受け取るな。 相手が女性だとしても、僕は嫉妬に狂いそうになる"
しかし事実だから仕方ない。
"バカなこと言うな。大体お前が嫉妬だぁ?似合わねー"
そう言って笑った口を、本気だとばかりに激しく塞いだ。 本心だと認めさせるまで、その体を抱き明かした。
「ホントごめんっ。あたい、その・・・。弁当もいつも美味しかったし、すごく嬉しかったんだけど・・・。でも、もっと欲しいものができたんだ。でもそれは、一人の奴しか無理で・・・あたいが嬉しいって思うのも・・・その、そいつしか無理で・・・えっと、だから・・・・ごめん。もう何も貰えない」
訳がわからないですよ、それじゃ。 彼女たちには何も伝わってないじゃないですか。 でも。 ――――僕には十分だ。
「よくできました」 「・・・・・・・な、何がだよ」 泣いて縋り付きそうな勢いの彼女たちと弁当を振り切り、悠理は僕のところに駆け寄ってきた。 逃げてきた、という表現でも間違ってはなさそうだったが。
「仕方ないだろ。あたいがなんか貰って、んで、お前がその・・・ホントに怒って、あの子達になんかしたら・・・・あたい、そんなの嫌だしさ」 頬を紅くして言う言葉がこれ。 「あたいは本当はあの弁当ちゃん達を食いたかったんだぞ?でも、お前がさ」 あぁ、そうだな。確かにあの弁当は魅力的だろう。 でも、お前は僕を選んだ。 あんな非力な子達に何かだなんてするはずがないと知っている、僕を。 「嬉しいですよ」
不貞腐れたまま、にやけるなんて芸当、きっとお前にしかできない。 そんな顔、したいとは思わないが見てるのはなかなか良いものだと、最近気付いた。 勿論、悠理に限っては、だが。
「お詫びといっては何ですが、代わりに何か食べに行きましょうか」 「ホント?!」 「あぁ。何が良いです?何でも良いですよ」 「奢りだぞー。めぇいっぱい食うからな!」 「はいはい、どうぞ。なんでも付き合いますよ」 「じゃぁ、許してやる」
背中に、悠理にフラレた彼女たちの視線が突き刺さる。 だけど、この笑顔で痛みも良心の呵責も感じない。
自分がこんなに独占欲の強い男だとは知らなかった。 だけどそれも悪くない。 むしろ、もっと独占したいと、そんな自分も快く歓迎してしまうほどだ。
「ねぇ、悠理」 「んー?」
「愛してますよ」
「ば、ばっかじゃねーの?」
不貞腐れながら照れる顔。 やっぱり、なかなか―――。
05.08.06
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