「それにしても、すげぇ人出だよな」 「これでも、定員よりは少ないんですよ」 「もうちょっと空いたらなぁ。彼女連れてこれるのに・・・」 いつもの男どもは、プールサイドのデッキチェアーとその下に敷いたビニールシートに荷物と共に陣取り、人込みではしゃぐ、これまたいつもの女三人を呆れたように見ていた。
九月に入っても秋はまだ遠く、剣菱万作が趣味で作った屋内型遊園地の中に有るこの大型プールは大盛況だった。 プール自体も、屋内だが天井は高いドーム状になっている。 人工とはいえ、その光は優しく、日に焼けたくはないが、プールは楽しみたいという女性客を中心にその家族などで水が見えないほど賑わっていた。
有閑倶楽部の面々が、人込みがわかっていて、更に剣菱邸内にも室内プールがあるのにも拘らずこのプールに来たのも女性陣の「賑やかな所で遊びたい!」という意見に逆らえる人間がいなかったからだ。 特に、夏風邪と宿題と、清四郎の妨害により海にもプールにもろくに行く事の出来なかった悠理が「夏休みが終わったんだから絶対空いてるって!」と強引に押し切ったのだ。
清四郎が妨害していたのには訳があった。 「せーしろー!」 プールの中から悠理が零れんばかりの笑顔で手を振っている。 清四郎は微笑みそれに応えるように軽く手を上げた。 しかし、悠理がまた可憐達と水掛をはじめると、途端に苦虫を噛み潰したような顔になった。 「良かったじゃん。悠理楽しそうで。まぁこの人込みじゃ泳ぐ事も出来ないし、眼の届かない処へいく事もないだろ」 そんな清四郎に美童が、笑いをかみ殺しながら言う。 「煩いですな。僕は別に」 フンと鼻を鳴らすと、美童と魅録が顔を見合わせ苦笑した。 清四郎が悠理のプールや海行きを妨害した理由は、彼女の水着姿を誰にも見せたくなかったから、という子供染みた感情からだったのだ。
去年までの悠理は色気も何もなかった。だが今年は違う。 清四郎によって育てられた小振りの桃が赤いビキニの下に収められている。 可憐のように見る者全てを魅了するものではないが、清四郎にとっては世界中の男どもに敵意を抱くのに十分であった。 もちろんそれは暢気に自分の事を笑っている、隣にいる親友達に対しても然りだ。
「む」 清四郎が突然唸り、身を起こした。 「どうした?」 急に殺気だったその様子に、魅録と美童も何事かと起き上がる。 視線の先に、悠理が若い男達に話しかけられているのが見えた。 いつの間にか可憐と野梨子の姿もない。 「うわ・・・」 美童は思わず、その若い男達に同情した。 既に清四郎の姿がその連中に向かっていたのだ。 「わざわざ行かなくても、あいつなら勝手に断るのになぁ」 「とにかく悠理が他の男と話をするだけでも嫌なんだよ」 「あいつ等無事ですむかなぁ・・・」
「―――どうしたの?」 二人が軟派男達に同情していると、姿の見えなかった野梨子と可憐が横から声を掛けた。 「お前ら何処行ってたんだよ?」 「何処って、悠理に付き合ってたら体が持たないから休憩しに来たのよ」 どうやら清四郎と行き違いになってしまったらしい。 「悠理ったらよっぽどプールに来れたのが嬉しいらしいですわ。あんなに楽しそうに」 野梨子が肩からバスタオルを羽織りニコニコ笑いながらプールに顔を向けると、とてもじゃないが楽しそうには見えない悠理と清四郎の姿があった。 「まぁ」 悠理は引きずられるように腕を掴まれプールから出されている。 「何か、あったの?」 二人は事のあらましを話しだした。
「暫く帰ってこないわね」 プールから出された悠理は、清四郎に更衣室の方に引きずられている。きっと着替えさせられるのであろう。 「俺達も暫く更衣室には行かないほうがいいかもな」 魅録がポツリと呟くと、わかっていない野梨子以外はゴホンと咳払いをしながら、それぞれあらぬ方向に視線を漂わせた。
「なにすんだよー!まだもっと遊びたい!」 「もう十分でしょ。さっさと着替えてください。もう、帰りますよ」 「ヤダ!大体あいつ等はまだあそこにいるんだろ!」 「あいつ等には僕から言っておきますよ」 VIP専用の更衣室に入ると、外の喧騒が嘘のように静かになった。 今日のVIPは六人以外いない。六人以外は近寄る事のない場所だった。 清四郎は更衣室の入り口の鍵を閉めると、悠理をその中の個室の一つに放り込んだ。 個室と言っても流石はVIP用である。 一流ホテルのスイートルーム並の部屋には、シャワールームはもちろん、小さな応接セット、更には休憩用のベッドまで用意されてある。
「痛い!なにすんだよ!」 言葉通り、放り込まれた悠理はつんのめって応接セットのテーブルに手を突いた。 体制を整え振り返ると、清四郎が怖い顔で睨んでいる。 「言いましたよね。少しでも他の男が悠理を意識するようなら即刻引き揚げると」 「あいつ等はただ人を探してただけだって言ってるだろうが」 悠理には「連れを探している、見ていませんか」と声を掛けていたらしい。 だがそんなこと嘘に決まっている。その後清四郎が来なければきっと、「一緒に探して欲しい」とでも言って悠理を連れ回そうとしていたのだろう。 「おや、庇うんですか?あんな軽薄そうな奴等を」 「ちーがーう!」 悠理が全く男達の真意にも気付かない事が清四郎の苛立ちを増長させていった。 「とにかく、もうその水着も着るな」 「可憐が選んでくれたんだぞ!」 「見せるのは僕にだけでいいんですよ」 「変態!」 「なっ!」
大体にして、最初からこの水着が清四郎には気に食わなかった。 悠理の白い肌に映える赤いビキニスタイル。 流石に本人の趣味からいっても、そう際どいカットがある訳ではないが、可憐が選んだだけあって悠理の魅力を十分に引き出している。 その姿を自分だけが見る事が出来るのなら、清四郎は可憐に感謝さえしたかもしれないが、こんな風に大勢の人間がいるところでなど、その赤い布は忌々しい布きれでしかなかった。
「あたい脱がないからな」 脱がせようと近付く清四郎に、悠理は体を抱きしめるように水着を隠した。 だがそんな足掻きは清四郎にとって何の障害にもなるはずもない。 「じゃぁ脱ぎたくなるようにしてあげますよ」 清四郎は悠理の細い手首を掴むと、そのまま壁に押し付けた。 怯んだ悠理の唇を自分のそれで吸い上げる。 「んっ・・・」
悠理の動きを封じるのは簡単だった。 その体の全てを知り尽くしている。それは口腔内も同様の事だった。 舌を差し入れ、その中を蹂躙する。 絡めたり、歯列をなぞったり―――。 悠理が大人しくそれに応えるようになるのに、二、三度角度を変える為に一瞬唇を離すだけで十分だった。 「悠理、そんな姿、他の男に見せたくないんだ」 耳朶を噛むように、切なげに囁く。 それでも悠理は頑張った。 「ぬ、脱がないぞ・・・」 キスには応えても、プールは諦めていないようである。 清四郎はそんな悠理に口端を上げると、舌を首筋から胸に降ろしていった。
水着の上から、硬く尖っているであろうその場所に唇を押し当てる。 同時に手を、力が抜けそうになっている膝に這わしていった。 腰を抱き、執拗に胸を責める。 だが無理やり脱がそうとはせず、あくまで厚い水着越しの愛撫を続けた。 手も腰から膝、膝から下腹をなぞってはいたが、悠理が望むところには近付こうとしなかった。
「や・・・・せーしろ・・・」 「なんですか?」 わき腹に唇を這わせながら、悠理を見上げる。 焦れる感覚に、真っ白な首筋を露にして、硬く眼を瞑っている。 「ちゃんと・・・・して・・・」 「ちゃんと?僕も悠理にちゃんと触れたいのは山々なんですけどね。この水着が・・・」 清四郎は臍の周囲をついばむように口付けを繰り返していく。 螺旋を描くように、徐々に上に上がっていき、また水着越しに胸に優しく触れていった。
悠理の指先が清四郎の肩に食い込む。 「せーしろ・・・」 見上げると泪目になって、唇を噛みしめている。 清四郎は立ち上がると、その唇を一度吸い、舌を味わった。 首に巻き付いてくる悠理の腕を少し離し、その瞳を覗きこむ。 「自分で脱ぎますか?それとも僕?」 「せーしろ・・・」 絶対に自分で脱ぐ事はないだろうと知っていた清四郎は満足そうに微笑むと、胸の水着を下からずらしあげた。
形のいい白い膨らみが晒される。 その頂点をいきなり口に含むと、悠理の体が僅かに沈んだ。 左手で腰を抱き、右手で反対を揉みしだきながら、愛撫を加える。 「や、やぁ・・」 そのまま右手を腹から最後の一枚へと移動させた。 手を中に偲ばせ、秘裂をなぞる。 「はぁっ・・・」 途端に悠理の体から力が抜け、清四郎の頭を、しがみつくように抱きしめた。 清四郎は絡み付く悠理の腕を外すと、自分の肩にその手を置いた。 胸から腹へキスの雨を落とし、双丘へと手を這わせると、徐々に先ほど潤いを確かめた場所に唇を移していった。
腰骨に引っかかるようにあった水着の端を両手で掴む。 一気に引き降ろすと、悠理の膝が重なり合うように閉じた。 何度肌を重ね合っても未だに恥ずかしいらしい。 清四郎は口端を上げると、悠理の恥じらいを嘲笑うかのようにその細い片足を自分の肩に担ぎ上げた。 露になったそこは、流れる液体が部屋の明かりを反射している。 太腿にまで流れているそれを、拭うように舐め取った。 「ん・・・ん・・・」 悠理が体を沈めながら、鼻腔を鳴らす。 清四郎が茂みを分け入り、その中の小さな膨らみを見つけると、肩に担いでいた足が大きく跳ねた。 指で周りを広げ、舌を這わせていく。 悠理の体が小刻みに震えだすと、清四郎は立ちがりその体を抱きしめた。
「は・・やく・・・・」 耳元で悠理が熱く声を漏らす。 「どうしましょうかねぇ」 「いや・・・せ・・しろぉ・・・・」 しがみつく悠理の腕に力が入り、清四郎は愛しそうに自分も抱く腕に力を込めた。 悠理の片脚を自分の腰に絡めさせ、熱い塊を泉に還す。 元々一体だったかのように密着し、締め付けるそこは少し体を動かすだけで、互いに甘くて鋭い刺激を与えた。
「清四郎のバカ。変態」 逞しい腕の中で、悠理は悪態をつきまくっていた。 「誰が変態なんですか。悠理が素直に言う事を聞かないからでしょ」 既に時計の長針はこの部屋に入ってから二週ほどしている。 「だって・・・せっかく新しい水着・・・」 「僕とふたりで出かける時に着ればいいでしょ」 「なに言ってんだよぉ。夏休みの間、散々行こうって言ったのに嫌がったくせに」 「夏休みはどこも人が多いですからね。・・・だから今度の試験休みにでもふたりで南の島にでも行かないか」 驚いたように顔を上げる悠理に優しく微笑む。 「ふたりだけでいられる場所に」 「そこでなら水着着て良いのか?」 途端に笑顔になった悠理に、清四郎はニヤリと笑った。 「あんまり意味はないと思いますけどね」 「バ、バカたれー!」 真っ赤になって離れる悠理は清四郎の胸をめいいっぱい、ひっぱたいた。 おかげで皆の元へ戻る時、清四郎も胸に付いた真っ赤な手形を隠すため、着替えて行かなければならない羽目になった。
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