「あっ、そうだ!パパ!!」 悠理の頬に口付けた僕は髪を突然引っ張られた。 「なんですか!こんなコトしたら痛いじゃないですか」 ちっ、こいつあくまで邪魔をする気だな。 さっきまではあんなに可愛かったのに。 「パパはママにちゃんと謝ったの?!」 「悠理にですか?僕何かしましたっけ?」 悠理も不思議そうな顔をしている。 「だって僕聞いたもん」 「何をですか?」 「昨日も、その前も、その前も!毎日ママずっと泣いてたもん!!」 「本当ですか!悠理!」 僕が仕事から戻ってくるまでの間、悠理はずっと泣いていたと言うのか・・・。 何がそんなに悠理を悲しませていると言うんだ。 「悠理・・、何があったんですか。僕には言えないことですか?」 腕の中の子供を降ろし悠理の肩を掴む。 「な、何って・・・。あたい泣いてなんかないぞ!お前、何言ってんだよ」 「本当ですか?」 「当たり前だろ、なんであたいが泣かなきゃいけないんだよ」 僕は小さな存在に視線を合わせた。 「さっき言ったこともう忘れたんですか?嘘はいけないことだとあれほど言ったのに」 「嘘じゃないもん!!僕聞いたもん!!パパだってそのときママと一緒にいたじゃないか!!」 「「へ?」」 なんのことだ・・・? ここ暫く悠理を泣かせるようなことなんかしていないはずですけどねぇ。 「ママがすごく辛そうに嫌だって言ってるのに、パパやめなかったんでしょ」 「な、何をですか・・?」 嫌な予感がする。 「わかんないよ。でも僕ママを助けてあげようと思ってドアを開けようとしたのに、開かないんだあのドア」 僕達の寝室のドアを指差す。 「ママ、ダメだって言ってるのにパパはなにかしたんだ。ずっとママはやめてってお願いしてるのにーー!!」 ふと悠理を見上げると、こちらもわかったようだ。 顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせている。 まさか、聞かれていたとはね・・・。 止めてと言ってお願いしていたと言うよりは・・。 僕の甘美な思考を遮る。 「それに僕聞いたことあるんだ」 この上、更に何を聞いたと言うんだ。 「前に、可憐おば・・お姉ちゃんに聞いたんだけど・・」 可憐ですか・・またなんか余計なこと言ったんでしょうね。 「パパはママのこといじめるのだーっい好きなんだよって」 やっぱり・・。 「それは、違いますよ」 「嘘だ」 その言葉は正面からでなく上から降ってきた。 「悠理」 小さく睨むと、ふいっと顔を背けられた。 今までのことまだ根に持ってるんですね。 あれだけ、愛情の裏返しですよと言っているのに。 「とにかく」 正面に向直る。 「僕は悠理を愛してるんですよ」 「お前、子供相手に何言ってんだよ!」 「イイでしょ、別に。本当のことを教えてるんだから」 「あいしてる?」 「そう。とってもとっても大好きってことです。そんな悠理のこといじめるわけないでしょ?」 「ホントに?」 「お前が夜聞いた声は僕が悠理にマッサージしてたときのものなんだ」 頭をはたかれた。 間違ってはないでしょう。 「僕が悠理に時々してもらってるの見たことがあるでしょ?」 「うん」 「僕がすると少し力が入ってしまうみたいで、悠理が逃げるんですよ。でも、やらないと嫌だって言うし」 「ちょっと待て!あたいがいつそんなこと言った!!」 そんな悠理を無視して続ける。 「だから、心配する事ないんですよ。いいですね」 納得はしてなさそうだが、これ以上何か言うつもりもないらしい。 当然ですね、今までそう教育してきているんですから。 『パパの言うことは正しい』 やっぱり、こう教えておいて良かった。 それにしても・・・。 部屋の壁を何とかしなければいけませんね。 早速業者に連絡して今日にでも仕上げてもらいますか。 そうじゃないと、悠理が気にしてオアズケ食らいそうですからね・・・。 僕は電話へと向った。
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