―――お父さん・・・・パパ・・・とーちゃん・・・。 んー・・・お前はやっぱり「お父さん」かな。
―――お父さん・・・ですか。じゃぁ、悠理は「お母さん」ですね。
―――あたいが「お母さん」?んー・・あたいって、「かーちゃん」って感じじゃないか?
―――僕が「お父さん」で悠理が「かーちゃん」ですか?それも変でしょう。
これって僕が生まれる少し前の話なんだって。 あいつと悠理が、こんな話してたって。 僕が悠理のお腹の中にいるってわかった時(未だに僕この辺が良くわからない。僕、どうやって悠理のお腹の中に入ったんだろう?)、悠理とあいつは「パパとママだよ」って言ったって言ってた。 だから僕はずっと「パパ」と「ママ」なんだと思ってた。 でも呼ばせ方を変えようとしてた事があるって。
「なんで?パパとママはパパとママでしょ?」 「さぁ・・?でも照れくさかったんじゃないかしら。あなたのパパとママはとっても照れ屋さんですからね」
野梨子ちゃんがクスクス笑う。 でも確かに、と思う。 悠理なんて特にすぐに真っ赤になるもん。 あいつは・・・あんまりだけど、でも悠理がいっつも言ってる。 ―――あいつあー見えて結構子供なんだぞ って。 ん?あれ?照れ屋さんとは違うかな?
「じゃぁじゃぁ、どしてやっぱりパパとママになったの?」 「ね?どうしてなのかしらって、今あなたが"パパへ"って書くのを見て思い出しましたのよ」
僕からあいつへのプレゼント。ちょっと上手くできた自信がある。 あいつにはもったいないかなって思うんだけど。
「ねぇ、可憐は知ってます?清四郎と悠理がパパとママになった理由」 「あたしも知らないのよね〜。あいつらそれで暫く色んな呼び方してたみたいだけど」 可憐ちゃんは僕のプレゼントを眺めると、白い封筒に入れてくれた。 赤いリボンをしてくれる。
「はい、できたわよ。清四郎、喜ぶわよ。あんたにこんなプレゼントもらって」 「ホント?喜んでくれる?」
あげるのもったいないけど、喜んでくれるんならまぁ・・・・・いっかな。
「どんな流れで呼び方が今みたいになったのかは知らないけどね。でも、あんたのパパとママがずっと笑ってたのは覚えてる」 「笑ってたの?わっはっはっ、て?」 「そうじゃありませんわ。あなたのパパとママはね、あなたが生まれてくるってわかって本当に嬉しかったんですのよ。だからずっとずっと、嬉しくて仕方ないって顔で笑ってましたの」
・・・・フーン。 ・・・・・そうなんだ・・・フーン。
「あら、何よ。照れてんの?嬉しそうな顔しちゃって」 べ、別にそんなんじゃないもん。
でも・・・でも・・・。 あい・・パパ、嬉しかったんだ。 僕が生まれてくるってわかって嬉しかったんだ。 へへ。 へへへへ。
「やーねー。嬉しいなら嬉しいって素直になんなさいよ。ホントそういうトコは悠理にそっくりね」 ち、違うもん。違うもん。 全然違うもん。
**********
「はい、パパ」 「ん?」 「プレゼント」 「可憐と野梨子に手伝ってもらって、なんか作ったらしいぞ〜」 「あー!ダメだよ、ママ!それって秘密って言ったでしょー!」 んもう、悠理ってば。すーぐ言っちゃうんだから。 「でもでも。手伝ってもらったのはちょこっとだけなんだよ?ちゃんと僕が作ったんだよ?」 あんまりにも上手に出来ちゃったから、パパってば信用してくれないかもしれない・・・。 もう、悠理ってば・・。 あ。でも、パパ喜んで・・・くれてる? お眼めが笑ってる〜。
「ありがとう。嬉しいよ」 ・・・・・・・・・うん。
いっつもはさ。悠理の事、僕から取っちゃうやなヤツだけど。 でも、まあね。 男の余裕ってヤツ? 偶にはこうやってさ。ね。
「じゃぁ早速使わせていただきますか」 「え?」 も、もう? 「悠理。ちょっとこっちに来てくれませんか」 「ん〜?」 「ま、ママ!五代のおじいちゃんが呼んでたよ?」 「五代が?さっきは何にも言ってなかったぞ?」 「コラ。この"券"はいつでも使えるんでしょ?」 うっ。だ、だけど。だって、今ちょっといい雰囲気だったじゃないの? こう、男と男のさぁ・・なんていうか、ほら。 「なんだよ、清四郎。券て?なに貰ったんだ?お前」 あー、悠理。そいつの隣に座るんじゃなーい! だって、確かに"そう"書いたけど、普通さぁ父親ってこういう子供からのプレゼントとかって大事に取ってて使わないもんじゃないの? 可憐ちゃんも野梨子ちゃんも・・・そう・・・・言ってたのにぃ・・・・・。
「わっ!コラ!お前子供の前でなにすんだ!!」 「今日はイイんですよ。許可付ですから」 ・・・・・・別に僕の前でちゅーしてイイなんて書いてないぞ。 ただ、僕は男の余裕ってヤツを見せようと・・・。 「何が許可だ。だったらなんでこいつの目つきこんなに悪いんだよ!」 「往生際が悪いですよ。これを作ったのも、これを僕にくれたのも・・・・」 わかってるよ。僕だよ。 だって、本当に使うなんて思わなかったんだもん。 しかも僕の前で・・・。 「お前、こいつになにやったんだよ!」 悠理だって・・そんな怒んなくてもいいじゃないか・・・。 「ッはぁーーー?!なんだ、これ!!」 「こいつもいいトコありますねぇ。親孝行な息子を持って、僕は幸せですよ。おや、悠理、破るんですか?こいつが僕の為に一生懸命、頑張って作ってくれた"ママとデートできます券"を」
やっぱりこんなもの作るんじゃなかった。 こいつの一番喜ぶもの、なんてあの二人に聞きに行くんじゃなかった。 可憐ちゃんも野梨子ちゃんも、嘘つき〜。 そりゃ確かに、パパは喜んだよ? でも、しっかり使ってるじゃないか。 使わないって言ったくせに〜。
「こら。男の子が簡単に泣くんじゃない」 だって・・・だって・・・。 パパ、やっぱり僕のことなんて・・・。 「泣かしたのお前だろ?」 だよね?そうだよね? きっと僕、「もう寝なさい」ってお部屋に戻されちゃうんだ。 いっつもそうだもん。今日もそうなんだ。 そんでパパはママとふたりで"らぶらぶ"になるんだ。 「う〜・・・・」 「おバカですな。また変な事考えたんだろ。・・・・・・今日はみんな一緒ですよ」 え? 「これからみんなで食事に行って。寝るのも一緒に。なんせ今日は記念日ですからね。特別ですよ」 「記念日?」 「そう、お前が僕にプレゼントをくれた日。記念日でしょ?」 じゃぁ・・・。 「お前も今日はずっと一緒だぞ。部屋に戻らなくていいってさ」 「ホントにいいの?」 だって、パパが一緒に寝てくれるのなんてすっごく久しぶりだもん。 悠理がお家にいない時とか、お熱が出た時とか・・・。 あと、あと、旅行に行った時。 川の字って言うんだって。そう言うので寝るの。 えへへ〜。 僕も一緒。僕も一緒。
「あ。でも今日だけですからね。この券は今後、有効に使わせて貰いますから♪」
・・・・・・。 ま。そんなことだろうとは思ったけどさっ!っけっ!
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