hello baby

 

最近よく寝ますね。
部屋に入ると、悠理はソファの手摺に持たれて気持ち良さそうに眠っていた。
「悠理、起きてください。風邪ひくぞ」
肩をそっと揺すると、ゆっくりと目が開いた。
「あぁ、清四郎。お帰り・・」
「最近妙に眠そうですね。夜中寝れないんですか?」
悠理はまだ眠そうだ。
「ううん。寝てる。・・・なんかさぁ、体だるくって」
悠理の額に手をやった。
「少し熱っぽくないですか?」
「・・かもしれない」
「とにかく、こんなところじゃなくてちゃんとベッドに行ってください」
「・・うん・・」
悠理をベッドに連れて行き肩までシーツを掛ける。
ウトウトしている悠理が僕のシャツを掴んだ。
「なぁ、最近飯もあんまり美味くないんだ。――あたい何か病気なのか?」
「そんなワケないでしょ。ゆっくり休めば治りますよ」
不安そうな悠理の髪を撫で付けると、静かに手を離す。
着替る為にベッドを離れようとした。
そこで、あるコトが頭に引っかかった。
「・・・悠理、前回はいつでしたっけ?」
「・・うん?何が・・?」
「だから・・・」
そう言いながら自分でも考える。
このところ、そういえばなかった気がする。
「ちゃんと来てるのか?」
「だから、何がだよ」
「生理ですよ」
途端に悠理の顔が真っ赤になった。
「な、な、お前なに言ってんだよ」
「大事なことなんですよ、どうなんですか?」
悠理はぶつぶつ言いながら考えている。
「・・・・ない」
「どれぐらい?」
「今月と先月・・・」
やっぱり。
やっぱり?
やっぱり?!
「悠理!!!」
僕は悠理の肩を掴んで身体を起こした。
少し乱暴だったかもしれない。
だけど抱きしめられずにはいられなかった。
「な、何!?」
落ちつかなくては。
「と、とにかく姉貴の所に行きましょう」
そうだ、他の医者なんかに見せられるか。姉貴んとこだ。

診察室の外で祈るような気持ちでその扉を睨みつけていた。
姉貴が診察室から出てくる。
「やったわね。7週目よ。大事にしなさい」
「悠理は?」
「あんたの事待ってるわよ。私はまだは何も言ってないから、悠理ちゃんにはあんたから言ってやりなさい。」
片目を瞑ってニヤリと笑う姉貴。
僕は急いで診察室に入った。
悠理が不安げにコチラを見つめている。
「なんだよ、あたいやっぱなんか悪い病気なのか?」
「違いますよ!その反対です」
悠理は首をかしげている。
なんでわかんないんですか。
「赤ちゃんですよ。僕達の赤ちゃんです!!」
「あか・・ちゃん?」
「そう!!僕達の子供です。妊娠したんですよ!!」
気を利かせてくれたのか、診察室には僕達だけしかいない。
僕は誰にも遠慮なく悠理を抱きしめた。
「赤ちゃん?あたい、赤ちゃんができたのか?」
「そうですよ、僕達の子供です」
「ホントに?」
「ホントに!」
悠理が身体を離してそっと、下腹部を触った。
「赤ちゃん・・」
僕はなんだか不安になった。
嬉しく・・ないのか・・・?
「悠理?」
悠理が顔を上げる。
「あたい・・・」
どうしたんだ?なんでそんな顔するんだ?
「せーしろーーー!!!」
悠理が勢いよく抱きついてきた。
「どうしよう・・」
「何が、ですか・・」
一気に不安が膨れ上がる。
「どうしよう・・・、あたい・・あたい、すっげー嬉しい!!!」
・・・・・え?
「どうしよう!どうしよう!あたい赤ちゃんができたんだ!!」
その顔は今までに見たことがないぐらい嬉しそうだった。
僕がプロポーズしたときよりも、結婚式のときよりも数倍嬉しそうだ。
・・・少し、複雑な気分だ。
だけど、嬉しいことには違いない。
首に巻きつく腕を離して悠理の顔を見る。
「悠理、顔をよく見せてください」
悠理の瞳を覗き込む。
ほんのりピンクになった目尻にキスをして、キツク抱きしめた。
「悠理、僕達パパとママですよ」
「あたい、ちゃんとコイツのママになれるかな」
上気した顔で興奮気味に、それでも優しくお腹をさする。
「当たり前でしょ。悠理はきっと素敵なママになれます」
僕は自信を持ってそう断言した。
なのに・・・。
「清四郎がパパかぁ・・」
額と額をくっつけて、クスリと可笑しそうに笑う。
「なんですか?」
「似あわねーな」
「お互い様ですよ」
ふたりしてプっと噴出した。

「悠理」
「ん?」
「ありがとう」
「バーカ。清四郎と、あたい、“ふたりの”子だろ」
「ですね」

姉貴の邪魔が入るまで僕達はずっとキスを交わしていた。
  

 

 rival

 素材:ミルキーウエイ